前戦シュタイヤーマルクGPで「退屈なレース」に持ち込むことに成功したフェルスタッペン。同じ舞台で行われた今回のレースも大差をつけての優勝となった。今回は間にノリスがいた為、メルセデス勢とのペース差の真値がわかりにくかったが、そうした部分も含めて上位争いをグラフを交えて振り返ってみよう。
※レース用語は太字部分で示し、記事末尾に用語解説を加筆した
目次
- 圧倒的なレッドブルのアドバンテージ
- 昔に戻ってしまった(?)ペレスの苦戦
- 用語解説
1. 圧倒的なレッドブルのアドバンテージ
以下にフェルスタッペンとボッタスのレースペースを示す。
Fig.1 フェルスタッペン、ボッタス、ノリスのレースペース
ポールからスタートしたフェルスタッペンだが、メルセデス勢との間にノリスが挟まってくれたことで、メルセデス勢が引っかかっている間に引き離し、楽な展開に持ち込めることが戦前から予想できた。
ハミルトンは序盤からノリスを上回るペースで追い回し、21周目にはハミルトンがノリスをオーバーテイクする。しかしトラックサイドエンジニアリングディレクターのショブリンによれば29周目の終わりにマシンにダメージを負っており、その後のペースに0.6~0.7秒の影響があったとのことだ。
第1スティントのボッタスは、ノリスの後ろにいたが、前半は3秒前後の差からピットストップ前には1.8秒差まで詰めている。これはペースに余裕があっって乱気流の影響を受けない距離でタイヤをマネジメントし、ピットストップ前に近づいてきたということだろうか?
筆者は否と考える。それならばピットストップ前には本来ならDRS圏内、最低でも1.5秒以内には入っているべきだし、第2スティントの流れを見てもボッタスにそれほど大きなペースアドバンテージがあったとは思えない。ノリスのエンジニアの「ハミルトンとのバトルにより左リアを余分に使ってしまっている」との無線からも単純にノリスのデグラデーションが大きく、スティント終盤に落ちてきたところで差が詰まったと見るべきだろう。
一方、ハミルトンのノリスをオーバーテイクしてからダメージを追うまでの9周のペースは、図2に示すようにボッタスより0.3秒ほど速く、ダメージを負ってしまったのは非常に勿体なかった。ハミルトンは2019年にもここで縁石でマシンを傷めており、相性今ひとつといったところにも見える。
Fig.2 ハミルトンとボッタスのレースペース
第2スティント序盤では、フェルスタッペンはタイヤを労っており、2番手のハミルトンのペースに合わせて走行している。しかしハミルトンは29周目に負ったダメージの影響でペースが上がらず53周目にボッタスに道を譲る。そこからはフェルスタッペンもペースを上げ、ボッタス・ノリスとは0.8秒ほどのペース差があった。第1スティントでのボッタス・ノリスらに対するアドバンテージは0.5秒程度だったと読み取れるので、第2スティント序盤に後ろにペースを合わせてタイヤを温存した分、ここでのペース差が開いたと見るべきだろう。
最終的には、後方との差が十分に広がり、タイヤが壊れるリスクを減らすためのピットストップも行うほどの余裕の勝利だった。
一方でボッタス・ノリスに対して0.5秒程度のアドバンテージという事と、ハミルトンは彼らより0.2〜0.3秒速かったであろう事を考えると、万全のハミルトンとの一騎打ちの場合、71周で15〜20秒ほど差になっていたと思われ、前戦とそれほど力関係は変わっていないと考えられる。
ただし、ここは伝統的にレッドブルが得意とするトラックなだけに、次戦メルセデスが得意とするシルバーストーンでどうなるかはレッドブル陣営としては気が抜けない。逆にここでのペースがメルセデスを上回るようだと初戴冠が見えてくるだろう。
2. 昔に戻ってしまった(?)ペレスの苦戦
セルジオ・ペレスのザウバー時代、マクラーレン時代は「スピードがあり、タイヤマネジメントが上手いが、接触が多い」というようなイメージが持たれていた。しかしその後フォースインディアで成長を遂げ、現在の完成されたペレスを目にすることができている。
しかし、今回はまるで昔に戻ってしまったかのような印象を受けた。1周目のノリスとの接触は、過去のレースからああなるリスクがあるのは目に見えていた。たとえ相手が悪かろうとペナルティを貰おうと、接触して後退して損をするのは自分とチームだ。ペレスは先週コース上でノリスを抜いており、フェルスタッペンはノリスを引き離すと思われるので、ノリスがDRSを使う可能性は皆無であることを考えれば、集団が後ろにいるセーフティカー明けに取るべきリスクではなかった。加えていえばメルセデス勢も後ろにいたので何も焦る必要は無かった。3周待ってDRSがオープンになってからで十分だったのだ。
さらに、これはエンジニアが伝えていたかどうかにもよるが、ノリスがあの接触でペナルティを貰った時点で今回のスチュワードの基準が明確になるので、ルクレールに対する2度の押し出しもペナルティになるのは明らかだった。
もしペナルティを伝えられていたなら判断ミスだし、伝えていなかったとしたらエンジニアの情報伝達不足となりチームとして少々課題が見えてしまったレースとなった。
Part2では、フェラーリ勢やマクラーレン、さらにはアロンソとラッセルのバトルなど見どころの多かった中段勢について考察していきたい。
3. 用語解説
退屈なレース:順位の変動が起きない、起きそうな展開でもない、セーフティカーなどの不確定要素もない、などでドラマティックな要素の無いレース。F1においては必ずしも悪い意味ではなく、むしろ勝者側にとってはスムーズで理想的な勝ち方といえる。
オーバーテイク:追い抜き
スティント:ピットストップからピットストップまで。もしくはスタートから最初のピットストップや、最後のストップからチェッカーまで。スタートから最初のストップまでを第1スティント、1回目から2回目を第2スティント・・・と呼ぶ。
DRS:前車と1.000秒以内にいると使えるオーバーテイク促進システム。DRSゾーンのみ使用ができる。通常1箇所か2箇所に設定される。その少し手前に設定された検知ポイントでタイム差を計測するので、後ろのドライバーにとっては例えサーキットの他の部分で離されようともそこで1.000秒以内に入れるようにすることが重要で、そのためにエネルギーマネジメントを調整する(「ターン15で近づきたいからターン1〜7で充電してターン8〜14で放出しよう」など)。前のドライバーはその逆を考え、裏をかいた奇襲なども考えられる。
デグラデーション:タイヤのタレ。1周あたり〜秒という表現が多い。使い方次第でコントロールできる。
タイヤマネジメント:タイヤを労って走ること。現在のピレリタイヤは温度は1度変わるだけでグリップが変わってくる非常にセンシティブなものなので、ドライバーとエンジニアの連携による高度な技術が求められる。基本的にはタイヤマネジメントが上手いドライバーやチームが勝者となりチャンピオンとなることが多く、最も重要な能力と考える人も多いだろう。
スチュワード:審判のような役割を担う人たち。インシデントに対するペナルティやレースでの様々な出来事について審議する。