1. 分析結果と結論
タイヤのデグラデーションや燃料搭載量などを考慮し、全ドライバーのレースペースの力関係を割り出すと表1のようになった。
Table1 レースペースの勢力図
誰の目にも明らかなフェルスタッペンの独創劇が、数字にも表れている。第2スティント以降は、後ろを見ながらペースをコントロールする余裕の展開となった。
予選から高い競争力を見せていたアロンソだったが、レースペースでも中団トップの競争力を示した。通常の展開であれば4位は堅かっただけに、予選でのインシデントは非常に痛かった。
1週間前に同じ場所で開催されたシュタイヤーマルクGPの勢力図と比較すると、フェルスタッペンに対してメルセデス勢が差を広げられる一方で、中団勢からノリス、アロンソらが競争力を大きくゲインした。特にノリスは1週間前のリカルドとの差は0.2秒だったところを、0.5秒に広げており、問題解決能力の高さを示している。
2. 分析内容の詳細
以下に分析の内容を示す。フューエルエフェクトは0.05[s/lap]で計算した。
また、各ドライバーのクリーンエアでの走行時を比較するために、全車の走行状態をこちらの記事にまとめた。
2.1 チーム毎の分析
まずチームメイト比較を行う。
ペレスがクリーンエアを得てからは、フェルスタッペンの第2スティントの0.4秒落ち程度だ。タイヤの差は無いが、ペレスが集団の中でフェルスタッペンと同程度のタイヤの使い方をしていたと仮定するならば、実力的にも0.4秒程度となる。
Fig.2 メルセデス勢のレースペース
ボッタスの第1スティントは余力を残しておらず、ほぼクリーンエアでの全力走行に近かったと見なそう。すると、ハミルトンが0.3秒ほど上回っている。
第2スティントではダメージを負ったハミルトンがボッタスの0.4秒落ちだ。ダメージの影響を0.7秒とし、ボッタスのタイヤが1周古いことは、デグラデーション0.04[s/lap]のため考慮する必要がないため、実力的には0.3秒程度と言える。
Fig.3 マクラーレン勢のレースペース
第1スティント前半、第2スティント前半で、リカルドはベッテルやガスリーをパスしようとプッシュしており、タイヤは比較的使っていたと考えるのが妥当だろう。そして第1スティント終盤では、ノリスのスティント全体より0.5秒ほど遅いペースとなっている。
また第2スティントでは、ノリスとリカルドのクリーンエアのタイミングが重なっている部分が少ないため疑問符付きとなるが、0.3秒程度の差だ。ノリスとボッタスのギャップから考えても、ノリスはあと0.2秒ほど速く走れたと考えても不自然ではなく、そうすると第1スティントの結果とも合致する。ちなみにリカルドのタイヤが1周古いことは、デグラデーション0.03[s/lap]のため考慮する必要はない。
よって今回の2人の差は0.5秒程度だったと結論づけよう。
Fig.4 フェラーリ勢のレースペース
比較可能なデータはなかった。
Fig.5 アルファタウリ勢のレースペース
第3スティントで比較すると、ガスリーが0.2秒ほど上回っている。ガスリーのタイヤが6周古いことを、デグラデーション0.03[s/lap]で考慮すると、実力的には0.4秒程度と言える。
Fig.6 アルピーヌ勢のレースペース
比較可能なデータは無かった。
Fig.7 ウィリアムズ勢のレースペース
第1スティントでは0.3秒程度の差だ。
第2スティント前半で、ラッセルが角田の後ろでタイヤを温存できている前提で考えると、スティント全体を通してラッセルが0.3秒ほど上回っている。ラッセルのタイヤが1周古いことは、デグラデーションが0.02[s/lap]と小さいため考慮する必要がない。
Fig.8 アストンマーティン勢のレースペース
第2スティントでは、ダーティエアでどの程度タイヤを使ったか定かでないため疑問符がつくが、終盤では、ベッテルの方が0.2秒ほど上回っている。ストロールのタイヤが3周古いことを、デグラデーション0.05[s/lap]で考慮すると、実力的には互角と言える。
第3スティントはイーブンペースと考えられる。ストロールのタイヤが3周古いことを、デグラデーション0.05[s/lap]で考慮すると、実力的には0.2秒程ストロールが上回っていたと言える。
第2スティントではベッテルの方がやや上手く前方との距離を保ち、タイヤを持たせていた可能性があるが、両者を平均した0.1秒を今回の差と結論づけよう。
Fig.9 アルファロメオ勢のレースペース
第2スティントで比較すると、ライコネンが0.3秒ほど上回っている。ジョビナッツィのタイヤが8周古いことを、デグラデーション0.02[s/lap]で考慮すると、実力的には0.1秒程度と言える。
Fig.10 ハース勢のレースペース
シューマッハの第2スティントをマゼピンの第2スティント終盤と比べると、0.6秒上回っている。マゼピンのタイヤが7周古いことを、デグラデーション0.05[s/lap]で考慮すると、実力的には0.2秒程度と言える。
マゼピンの第3スティント終盤と比べると、イーブンペースだ。シューマッハのタイヤが11周古いことを、デグラデーション0.03[s/lap]で考慮すると、実力的には0.3秒程度といえる。
データの質という点では前者を採用し、両者の差は0.2秒と結論づけよう。
2.2 チームを跨いだ分析
2.2.1 第1スティントでミディアムを履いたドライバー
ここでは第1スティントに着目する。まず、図11にフェルスタッペン、ボッタス、ノリスの比較を示す。
Fig.11 フェルスタッペン、ボッタス、ノリスのレースペース
ノリスはフェルスタッペンの0.5秒落ち程度だ。またボッタスより0.1秒速い。
続いてラッセル、シューマッハをボッタスと比較してみよう。
Fig.12 フェルスタッペン、ラッセル、シューマッハのレースペース
ラッセルはボッタスの0.9秒落ちだ。
またシューマッハはそこから1.1秒落ちとなっている。
2.2.2 第2スティントでハードを履いたドライバーなど
続いて、第2スティントでハードを履いたドライバーを中心に比較してみよう。
まずは、図1でも比較したフェルスタッペン、ボッタス、ノリスだ。
ボッタスはフェルスタッペンの0.2秒落ちだ。ただし、ボッタスが2番手に上がってからの周回では2人の差は0.7秒となっている。ここからも、フェルスタッペンが、ダメージでペースが上がらないハミルトンに合わせて抑えた走りをしていたことが分かる。ちなみに0.7秒差は、ボッタスのタイヤが2周古いことを、デグラデーション0.04[s/lap]で考慮すると、実力的には0.6秒程度と言え、第1スティントの力関係と一致する。
チーム別分析より、ノリスは0.2秒ほど余力があったと考えられるが、2.2.1でのボッタスとの力関係で言えば、0.1秒ほどの余力となり、大差はなく、どちらもある程度信頼できる数値と言えそうだ。ここではタイヤによる力関係の変化はチームメイト同士の比較の方が少ないであろうことを考慮して、ボッタスより0.2秒速かったと結論づけよう。
次に、サインツは第1スティントでハードを選択しているが、スティント終盤をボッタスの第2スティント序盤のハードと比較してみよう。
Fig.14 ボッタスとサインツのレースペース
サインツがクリーンエアとなる35周目以降のタイミングで、丁度ボッタスがハミルトンに引っかかっているが、本来のボッタスのペースは1:08.9程度だったと思われる。するとサインツはボッタスの0.9秒落ちとなる。サインツのタイヤが30周(うち2周SC)古いことを、デグラデーション0.03[s/lap]で考慮すると、実力的には0.1秒程度と言える。ただし精度には疑問符がつく。
次にガスリーをサインツと比較する。
Fig.15 サインツとガスリーのレースペース
ガスリーの第2スティント終盤は、サインツの第1スティント終盤より0.3秒ほど速い。サインツのタイヤが13周(うち2周SC)古いことをデグラデーション0.03[s/lap]で考慮すると、実力的には互角だったと言える。後にガスリーのレースペースを詳にした上で、これと比較し、サインツのレースペースに関する疑問符を取り除くとしよう。
続いて、ボッタス、ガスリー、アロンソを比較してみよう。
Fig.16 ボッタス、ガスリー、アロンソのレースペース
ガスリーは第2スティント終盤でボッタスの0.6秒落ちだ。ガスリーのタイヤが17周古いことを、デグラデーション0.03[s/lap]で考慮すると、実力的には0.1秒程度と言える。
また第3スティントではガスリーが0.3秒ほど上回っている。ボッタスのタイヤが15周古いことを、デグラデーション0.04[s/lap]で考慮すると、実力的には0.3秒程度と言える。
共に±0.1秒近い誤差があると考えられるため、真値はボッタスが0.2秒上回っていたと結論が妥当だろう。
ここでサインツを振り返ると、ボッタスとの比較でボッタスの0.1落ち、ガスリーとの比較でボッタスの0.2秒落ちを意味していたことになる。後者の方がタイヤの差が小さく信憑性が高いことから、ガスリーと互角、ボッタスの0.2秒落ちを結論とするのが妥当だろう。
次にアロンソだ。ラッセルの後方にいる時間帯が多く、真値を見極めづらいが、スティント後半で1:08.8程度だったと思われ、これはボッタスとイーブンペースだ。ボッタスのタイヤが2周古いことを、デグラデーション0.04[s/lap]で考慮すると、実力的には0.1秒程度と言える。
続いて、ボッタス、ラッセル、シューマッハの比較を行おう。
Fig.17 ボッタス、ラッセル、シューマッハのレースペース
ラッセルはボッタスの0.7秒落ち程度と見て良いだろう。タイヤは同じだ。
シューマッハはボッタスの1.3秒落ちだ。ボッタスのタイヤが4周古いことを、デグラデーション0.04[s/lap]で考慮すると、実力的には1.5秒程度と言える。
Fig.18 ガスリーとベッテルのレースペース
第3スティントで比較すると、ベッテルはガスリーの0.3秒落ち程度のペースだ。ガスリーのタイヤが4周古いことを、デグラデーション0.05[s/lap]で考慮すると、実力的には0.5秒程度と言える。
最後にライコネンを見てみよう。チーム別分析でガスリーとの差が評価できている角田との比較を行いつつ、最終スティントはタイヤが異なるボッタスと比較する。
Fig.19 ボッタス、角田、ライコネンのレースペース
ライコネンの第1スティント終盤は角田の0.2秒落ち程度だ。ライコネンのタイヤが12周(うち2周SC)古いことを、デグラデーション0.02[s/lap]で考慮すると、実力的には互角と言える。
ちなみに、第3スティントではミディアムタイヤでボッタスの0.6秒落ち程度だ。ボッタスのタイヤが7周古いことを、デグラデーション0.04[s/lap]で考慮すると、実力的には0.9秒程度と言える。これは角田の0.3秒落ちとなり、ミディアムタイヤでのペースはハードと比べ0.3秒ほど劣っていたことになる。
2.2.3 各タイヤでの勢力図
2種類のタイヤでの勢力図は以下の通りとなった。
Table2 ハードタイヤでのレースペース
Table3 ミディアムタイヤでのレースペース
これら総合し、表1の結論を得た。