• 2024/4/26 02:37

2021年スペインGP分析

1. 分析結果と結論

 タイヤのデグラデーションや燃料搭載量などを考慮し、全ドライバーのレースペースの力関係を割り出すと表1のようになった。

Table1 レースペースの勢力図

スクリーンショット 2021-11-21 21.02.29を拡大表示

※疑問符がつく部分はオレンジ色で示した

 ルクレールとサインツの比較はフェルスタッペンとの間接的な比較により、ルクレールが0.2秒ほど凌駕していたという結論がかなり妥当な結論となった。

 ハミルトンはミディアムタイヤではフェルスタッペンと互角、ソフトタイヤで0.1秒差だったが、ソフトのレースでの重要度の割合を考慮すると、平均を四捨五入するより切り捨てが相応しく、レース全体での評価は互角とした。
 しかしハミルトンがソフトでペース的に優位に立ったことが、フェルスタッペンに先にピットに入るように仕向けることにつながり、それが第2スティントでのペースアドバンテージとその後の展開に繋がったため、この0.1秒は結果を左右する大きな0.1秒だったと言える。

 ルクレールはソフトではフェルスタッペンと0.5秒差で、非常に競争力があったが、ミディアムでは1.0秒落ちとなった。その他でもソフトとミディアムで競争力が異なる部分は戦略におけるタイヤ選択の重要性なども考慮した上で平均値で最終的な評価を下した。

 今回はペレスとボッタスもエースドライバーに近い競争力を見せている。しかし、予選やスタートの関係で中団勢に引っかかってしまうと、一気にレース離されてしまう。

 またこのレースでも、前戦イモラに続きハースのシューマッハが高い競争力を見せており、ラッセルと互角、アロンソにも迫ろうかという勢いを見せた。

2. 分析内容の詳細

 以下に分析の内容を示す。フューエルエフェクトは0.06[s/lap]で計算した。

 また、各ドライバーのクリーンエアでの走行時を比較するために、全車の走行状態をこちらの記事にまとめた。

各ドライバーの使用タイヤはこちらのピレリ公式より

2.1 チーム毎の分析

 まずチームメイト比較を行う。

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Fig.1 メルセデス勢のレースペース

 ハミルトンの第3スティント序盤とボッタスの第2スティント終盤を比較すると第2スティントで比較すると、約1.2秒程度のペース差で、19周のタイヤ履歴の差を、デグラデーション0.06[s/lap]で考慮すると、実力的にはハミルトンの方が0.1秒ほど速かったと言える。

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Fig.2 レッドブル勢のレースペース

 ペレスはリカルドを抜くまでにタイヤを酷使している可能性もあれば、リカルドの後ろでタイヤを労っていた可能性もあるので、疑問符付きになるが、クリーンエアでのペースはペレスの方が0.1秒ほど速く、3周のタイヤ履歴の差をデグラデーション0.06[s/lap]で考慮すると、0.1秒ほどフェルスタッペンの方が速かったと言える。

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Fig.3 フェラーリ勢のレースペース

 第2スティントでリカルドとペレスのやや後方にいた部分をクリーンエアとみなす。ルクレールとのペース差は約0.3秒で、タイヤ履歴の差6周分をデグラデーション0.06[s/lap]で考慮すると、サインツの方が0.1秒ほど速かったと言える。ただし、ルクレールはスティント終盤にタイムを上げており、これは他チームでもあまり見られない傾向で、かなりタイヤをセーブしてのペースだった可能性が高く現段階では疑問符付きとする。詳しくは全体の勢力図分析でのフェルスタッペンとの比較で真相が見えてくるだろう。

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Fig.4 マクラーレン勢のレースペース

 比較できる部分が少ないのでやや疑問符がつくが、第2スティント後半のノリスをクリーンエアと見做すならば、リカルドの0.2秒落ち程度で、2周のタイヤ履歴の差をデグラデーション0.06[s/lap]で考慮すると、0.1秒落ち程度になる。最終スティントでは両者クリーンエアでノリスの方が0.1秒ほど速いが、5周のタイヤ履歴の差を考慮すると、リカルドの0.2秒落ち程度になる。データの質を鑑みて、0.1秒の方を疑問符付きでこのレースの両者の差としておこう。

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Fig.5 アルピーヌ勢のレースペース

 第2スティントの両者クリーンエアの部分では、オコンの方が0.5秒ほど速く、2周のタイヤ履歴の差を、デグラデーション0.06[s/lap]で考慮するとオコンの方が0.4秒ほど競争力があったと言える。

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Fig.6 アルファタウリ勢のレースペース

 今回のチームメイト比較は不可能だった。

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Fig.7 アストンマーティン勢のレースペース

 両者がクリーンエアで走っている時間帯が異なり、比較するのは不適切と考えられる。

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Fig.8 アルファロメオ勢のレースペース

 22周目前後と30周目過ぎを見れば、このスティントでは2人がイーブンペースで、8周のタイヤ履歴の差を、デグラデーション0.06[s/lap]で考慮すると、ライコネンが0.5秒ほど上回っていたと言える。第3スティントでは、ライコネンが2周古いタイヤで0.1秒ほど速く、デグラデーションを考慮すると、0.2秒ほどの差になる。前半で大きな差がついたのはスタート後8周でついたタイヤの差を過大評価している可能性がある。ここでは第3スティントの0.2秒を今回の2人の差と考えるのが妥当だろう。

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Fig.9 ウィリアムズ勢のレースペース

 第2スティント全体で見るとラッセルに0.2秒ほどアドバンテージがありそうだ。第3スティントはイーブンペースで進むが、ライティフィが無理をしているのか、かなり早くタイヤがタレてしまっており、評価しづらい。

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Fig.10 ハース勢のレースペース

 第3スティントで比較すると、1.0秒程度のペース差で、1周のタイヤ履歴の差をデグラデーション0.09[s/lap]で考慮すると、シューマッハの方が0.9秒ほど速かったと言える。第1スティントと照らし合わせても納得のいく数値と考えられる。

2.2 チームを跨いだ分析

 図11にハミルトン、フェルスタッペン、ルクレールの比較を示す。

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Fig.11 ハミルトン、フェルスタッペン、ルクレールのレースペース

 ハミルトンは第3スティントではフェルスタッペンより1.6秒ほど速いペースだ。18周分のタイヤ履歴の差をデグラデーション0.09[s/lap]で考慮すると、ここでは2人はイーブンペースだったと言える。第1スティントを見る限りハミルトンの方がややペースは上だったと思われるが、第2スティント序盤でもフェルスタッペンより4周新しいタイヤで0.3秒ほど速いタイムを並べており、これは大きなアドバンテージを有してはいない事を示唆している。よって、少なくともミディアムでのレースペースは互角という結論は頷けるものと考えられる。

 ルクレールはソフトではフェルスタッペンの0.5秒落ち程度だ。
 第2スティントではフェルスタッペンの0.5秒落ち程度で、4周のタイヤ履歴の差をデグラデーション0.09[s/lap]で考慮すると、実力的には1.0秒落ちだったと言える。
 このことからも第1スティントでフェルスタッペンがハミルトンに追い立てられたのはソフトでの競争力が足らず、対ルクレールでも0.5秒も失っていたことが大きいと考えられる。

 またハミルトンのソフトでの実力はルクレールとの比較で推し量るしかないが、ハミルトンがフェルスタッペンの後方でタイヤを温存できていたと考えるならルクレールとの差は0.6秒程度、すなわちフェルスタッペンに対して

 続いて、フェルスタッペン、サインツ、リカルド、オコンを比較してみよう。

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Fig.12 フェルスタッペン、サインツ、リカルド、オコンのレースペース

 まず、リカルドは第1スティントではフェルスタッペンの1.2秒落ち程度だ。
 第2スティントでは1.3秒落ち程度だが、リカルドが1周新しいタイヤを履いていることをデグラデーション0.06[s/lap]で考慮すると、実力的には1.4秒ほどの差だったと考えられる。
 ちなみに、フェルスタッペンの第2スティント終盤とリカルドの第3スティント序盤(ソフト)を比較すると、リカルドが0.5秒ほど上回るペースだが、22周のタイヤ履歴の差をデグラデーション0.09[s/lap]で考慮すると、実力的には1.5秒となり、リカルドはソフトでもミディアムと大差ない競争力があった事が伺える。

 次にサインツは第2スティントを見ると、リカルドより0.1秒ほど速いようだが、3周古いタイヤをデグラデーション0.06[s/lap]で考慮すると、実力的には0.3秒ほど上回っていたと言える。

 オコンは第1スティントではリカルドの0.3秒落ち程度だ。
 また、第2スティントでリカルドの0.5秒落ち程度だが、2周古いタイヤをデグラデーション0.06[s/lap]で考慮すると、実力的には0.4秒落ちと言える。

 続いて、リカルド、ガスリー、ストロール、ライコネンを比較してみよう。

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Fig.13 リカルド、ガスリー、ストロール、ライコネンのレースペース

 ガスリーはソフトの第3スティントでリカルドより0.5秒ほど速いペースだが、1周新しいタイヤをデグラデーション0.06[s/lap]で考慮すると、実力的には0.4秒ほどと言える。

 ストロールはソフトの第3スティントでガスリーの1.5秒落ち程度のペースだが、8周古いタイヤをデグラデーション0.06[s/lap]で考慮すると、実力的には1.0秒ほどと言える。

 ライコネンはミディアムの第1スティントでリカルドの1.8秒落ち程度と見て良いだろう。25周古いタイヤ(セーフティカーラン3周)をデグラデーション0.06[s/lap]で考慮すると、実力的にはリカルドの0.3秒落ちと言える。

 続いてはラッセルとシューマッハをフェルスタッペンと比較してみよう。

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Fig.14 フェルスタッペン、ラッセル、シューマッハのレースペース

 ラッセルの第3スティントはフェルスタッペンの第2スティントと比較すると、2.0秒落ち程度と言えるだろう。4周新しいタイヤをデグラデーション0.09[s/lap]で考慮すると、実力的には2.4秒落ちと考えられる。

 シューマッハの第2スティントとラッセルの第3スティントを比較すると、0.5秒落ちと言えるだろう。5周古いタイヤをデグラデーション0.09[s/lap]で考慮すると、実力的には互角だったと考えられる。

 以上を総合し、表1の結論を得た。