• 2024/4/27 20:56

2022年ハンガリーGP レースペース分析

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1. 分析結果と結論

 先に分析結果を示す。分析の過程については次項「2. レースペースの分析」をご覧いただきたい。

表1-1 ソフトタイヤでのレースペース(第1スティント)

表1-2 ソフトタイヤでのレースペース(レース後半)

 通常ならば一つの表にするところだが、レース序盤と後半で比較できる部分が無かったため、2つに分けた。

 第1スティントではメルセデスがマクラーレン勢に対して明確なアドバンテージを有していた。また、レース終盤でソフトを履いた中ではジョウのペースがフェラーリ勢に割って入っており、このことからも今回のフェラーリが如何に本来のパフォーマンスを発揮できていなかったかが分かる。

表2 ミディアムタイヤでのレースペース

 ミディアムタイヤでは表2のような勢力図になった。

 レッドブルが圧倒的なアドバンテージを示し、フェラーリのライバルはメルセデスだった。そのメルセデスもノリスに接近を許しており、その他の中団勢やレッドブルとの力関係を踏まえると、決して好調ではなかったと読み取ることもできる。

 なお、シューマッハは第1スティントでフェルスタッペンの2.3秒落ち、第3スティントで1.3秒落ちだったため、平均ではなく後述のスティントの長さを考慮した比率で トータル1.7秒落ちと結論づけた。

表3 ハードタイヤでのレースペース

 ハードタイヤでは表3のような勢力図になった。

 ハースとアルピーヌが高い競争力を見せ、ソフトで驚異的なペースを見せたアルファロメオのジョウはこちらではそこまでのスピードはなかった。

表4 全体のレースペースの勢力図

 総合すると、レース全体のペースの勢力図はこのように結論づけて良いだろう。

☆注意点

 スティント毎、タイヤ毎で特にチーム間の力関係が大きく変わっている部分があり、注意が必要な点が多々ある。

 まずルクレールのハードタイヤでの競争力は、ソフトでのハミルトンの0.3秒落ちと同程度と考え、そのルクレールを基準にマグヌッセンからジョウまでのペースを評価した。

 またタイヤ毎に差が異なる場合は、単純な平均ではなくスティントの長さを踏まえて比率で算出した。例えば「3倍長いミディアムスティントで互角、短いハードスティントで0.4秒落ち」なら、総合結果は平均の「0.2秒落ち」ではなく1:3の比率の「0.1秒落ち」というような形だ。

 また、ルクレールとサインツの差はミディアムで0.2秒としたが、ルクレールの第2スティントは必要以上に短く、本来のポテンシャルを発揮する前に終わってしまったと考えられ、ルクレール、サインツ共に全力で走行していたソフトスティントでの0.3秒の方が信憑性の高いデータだ。よってミディアムのルクレールの値を0.1秒底上げした上で、前述の計算プロセスを行うという補正を行い、ルクレールとサインツの0.3秒差を総合結果においてもキープすることとした。

☆全体を振り返って

 フェラーリはソフトとハードで相対的に競争力を落としたが、ミディアムでもフェルスタッペンから明確に遅れており、(戦略問題は別として)「今シーズン初めて勝てる車がなかった」というビノットの主張そのものは極めて真っ当だ。

 また苦戦したのはフェラーリだけではない。レッドブルとの差で見ればメルセデスも本来いるべき場所より少し遅れている。また、アルピーヌもハードタイヤの1ストップで遅さが際立ってしまったが、パフォーマンスレベルそのものもあまり良くなかった。アルファタウリやウィリアムズも同様だ。

 一方で、この難しく未知のコンディションで力を発揮できたのが、レッドブル、マクラーレン、アストンマーティンだ。アルファロメオもジョウの最終スティントのパフォーマンスがずば抜けているが、ハードでは2台ともやや振るわない。このことからも決勝のコンディションが如何に特殊でトリッキーなものだったかが読み取れる。

 またアルピーヌ勢は競争力に欠けていた上に、遅いハードタイヤで長く走る1ストップを採用したが、アストンマーティン勢が後方からのスタートになったこと、ボッタスもハードを履いたこと、リカルドがノリスのペースからだいぶ遅れていたことにより、ノリスに次ぐ中団勢の2,3位を確保できた。

 逆に言えばアストンマーティンやアルファロメオ、ハース(マグヌッセン)は好ペースを結果に結びつけることができなかった。これにはグリッドの悪さに加え、シューマッハの第1スティントのペースが極端に悪かったこととの合わせ技が影響している。第3スティントではフェルスタッペン基準で1.3秒落ちの好ペースを見せたシューマッハだったが、第1スティントでは同じミディアムで2.4秒と全くウィンドウに入っていないかのようなペースだった。これによりアルピーヌ勢とその他の中団勢に差が生まれたことが、このような結果に結びついている。

2. レースペースの分析

 以下に分析の内容を示す。フューエルエフェクトは0.06[s/lap]で計算した。

 また、各ドライバーのクリアエアでの走行時を比較するために、全車の走行状態をこちらの記事にまとめた。

各ドライバーの使用タイヤはこちらのピレリ公式より

 また、今回は新品ソフトと中古ソフトの差はバーレーンGPの半分で0.1秒とした。その他については差は無視することとした。

 またスティント前半でダーティエアでも、途中からクリアエアになっており、かつ前半のダーティエア内でもタイヤを労われていて極端なペースダウンでもない場合、スティント全体をクリアエアのように扱ってよく、当サイトではその状態をオープンエンドクリアエア(OEC)と定義している。

2.1 チームメイト比較

 まずは明確に比較可能なチームメイト同士で見ていこう。

Fig.1 フェルスタッペンとペレスのレースペース

 両者ミディアムの第2スティントでは、フェルスタッペンが全力で走っていると思われる部分において0.2秒ほど上回っている。フェルスタッペンのタイヤが2周古いことを、デグラデーション0.09[s/lap]で考慮すると、実力的にはフェルスタッペンが0.4秒ほど上回っていたと言える。

Fig.2 ルクレール、サインツ、ラッセルのレースペース

 ラッセルを交えて文脈を読み解いていこう。

 両者ミディアムの第1スティントでサインツがラッセルに追いついたのは、サインツが抑えて走って終盤ペースを上げたからではなく、ラッセルのタイヤがタレてきたことが主要因だと理解できる。したがってサインツが13周目付近まで自分のペースで走れていたと解釈した上で、補助線を引いてルクレールのスティント終盤と比較すると、ルクレールの方が0.4秒ほど優っていそうだと理解できる。

 また第2スティントでも、サインツがラッセルに追いついたのは、ルクレールとのバトルによってラッセルがペースを落としたことが主要因で、40周目以降のクリアエア部分でも明確にペースアップはしておらず、スティント前半と40周目以降をサインツ本来のペースと解釈して良いだろう。

 その前提だと、両者ミディアムでルクレールが平均0.53秒上回っている。サインツのタイヤが4周古いことを、デグラデーション0.08[s/lap]で考慮すると、実力的にはルクレールが0.2秒ほど上回っていたと言える。

 終盤の両者ソフトのスティントでは、ルクレールが平均1.10秒上回っている。サインツのタイヤが7周古いことを、デグラデーション0.11[s/lap]で考慮すると、実力的にはルクレールが0.3秒ほど上回っていたと言える。

Fig.3 ハミルトンとラッセルのレースペース

 両者ミディアムの第2スティントでは、補助線を引くとハミルトンが0.3秒強上回っていると言えそうだ。ラッセルのタイヤが3周古いことを、デグラデーション0.08[s/lap]で考慮すると、実力的にはハミルトンが0.1秒ほど上回っていたと言える。

Fig.4 ノリスとリカルドのレースペース

 両者ミディアムの第1スティントでは、両者OECと捉えて、ノリスが0.6秒上回っている。

 第2スティントのリカルドはOECと捉えて、平均0.44秒ノリスが上回っている。ノリスのタイヤが1周古いことを、デグラデーション0.14[s/lap]で考慮すると、実力的にはノリスが0.6秒ほど上回っていたと言える。共にミディアムだ。

Fig.5 アロンソとオコンのレースペース

 40周目付近でアロンソがオコンに近づいて行く際、そして前に出てからの数周をアロンソの真のペースと見よう。タイヤは両者ハードで、アロンソがオコンを0.3秒ほど上回っている。アロンソのタイヤが2周古いことを、デグラデーション0.03[s/lap]で考慮すると、実力的にはアロンソが0.4秒ほど上回っていたと言える。

Fig.6 ベッテルとストロールのレースペース

 両者ミディアムの第2スティントでは、2人ともアルピーヌ勢を交わしてからの推移を補助線を引いて見ると、互角と言える。ストロールのタイヤが1周古いことを、デグラデーション0.07[s/lap]で考慮すると、実力的にはストロールが0.1秒ほど上回っていたと言える。

Fig.7 ボッタスとジョウのレースペース

 両者ハードの第2スティントでは、ボッタスが平均0.15秒上回っている。ボッタスのタイヤが1周古いことを、デグラデーション0.05[s/lap]で考慮すると、実力的にはボッタスが0.2秒ほど上回っていたと言える。

Fig.8 アルボンとラティフィのレースペース

 ラティフィの第2スティントとアルボンの第3スティントでは両者ミディアムで、アルボンが平均0.57秒上回っている。ラティフィのタイヤが3周古いことを、デグラデーション0.06[s/lap]で考慮すると、実力的にはアルボンが0.4秒ほど上回っていたと言える。

Fig.9 ガスリーと角田のレースペース

 終盤の両者ソフトのスティントでは、ガスリーが0.3秒ほど上回っている。ガスリーのタイヤが5周古いことを、デグラデーション0.10[s/lap]で考慮し、角田の中古が0.1秒遅かったとすると、実力的にはガスリーが0.7秒ほど上回っていたと言える。

Fig.10 シューマッハとマグヌッセンのレースペース

 第2スティントではハード同士で、シューマッハが平均0.35秒上回っている。マグヌッセンのタイヤが15周古いことを、デグラデーション0.05[s/lap]で考慮すると、実力的にはマグヌッセンが0.4秒ほど上回っていたと言える。

 第3スティントではミディアム同士で、シューマッハが0.4秒ほど上回っている。マグヌッセンのタイヤが6周古いことを、デグラデーション0.10[s/lap]で考慮すると、実力的にはマグヌッセンが0.2秒ほど上回っていたと言える。

2.3. チームを跨いだ比較

 ここからはライバルチーム同士で比較を行っていこう。考察用のグラフを先にまとめて示す。

Fig.11 ルクレールとフェルスタッペンのレースペース
Fig.12 ルクレール、ハミルトン、ボッタスのレースペース
Fig.13 ハミルトン、ノリス、
ガスリーのレースペース
Fig.14 シューマッハ、オコン、ボッタスのレースペース
Fig.15 ルクレール、ストロール、ガスリー、ジョウのレースペース
Fig.16 ハミルトン、アルボン、ストロールのレースペース
Fig.17 ペレスとシューマッハのレースペース

2.3.1. ミディアムでの比較

 まず図11に着目し、ルクレールとフェルスタッペンを比較すると、第2スティントで、フェルスタッペンが全力で走っていると思われる部分では、ルクレールが0.1秒上回っている。フェルスタッペンの5タイヤが周古いことを、デグラデーション0.09[s/lap]で考慮すると、実力的にはフェルスタッペンが0.4秒ほど上回っていたと言える。

 次に図12に着目し、ルクレールとハミルトンを比較すると、第2スティントではルクレールが0.3秒強上回っている。ハミルトンのタイヤが周古いことを、デグラデーション[s/lap]で考慮すると、実力的にはが秒ほど上回っていたと言える。

 続いて図13に着目し、ハミルトンとノリスを比較すると、ハミルトンが平均0.97秒上回っている。ノリスのタイヤが5周古いことを、デグラデーション0.14[s/lap]で考慮すると、実力的にはハミルトンが0.3秒ほど上回っていたと言える。

 またガスリーはハミルトンの平均1.36秒落ちとなっている。ガスリーのタイヤが3周古いことを、デグラデーション0.06[s/lap]で考慮すると、実力的にはハミルトンが1.2秒ほど上回っていたと言える。

 次に図14に着目し、第1スティントでサインツとオコンをクリアラップで比較すると、サインツの方が1.1秒優っていると言える。

 またシューマッハの第1スティントも同様にサインツと比較すると、サインツの方が1.7秒ほど優っていると言える。

 次に図16に着目し、第2スティントでハミルトンとアルボンを比較すると、ハミルトンが平均1.34秒上回っている。ハミルトンのタイヤが2周古いことを、デグラデーション0.06[s/lap]で考慮すると、実力的にはハミルトンが1.5秒ほど上回っていたと言える。

 また第2スティントでハミルトンとストロールを比較すると、ハミルトンが1.1秒ほど上回っている。ストロールのタイヤが5周古いことを、デグラデーション0.07[s/lap]で考慮すると、実力的にはハミルトンが0.7秒ほど上回っていたと言える。

 次に図17に着目し、第3スティントでペレスとシューマッハを比較すると、ペレスが平均0.97秒上回っている。シューマッハのタイヤが1周古いことを、デグラデーション0.11[s/lap]で考慮すると、実力的にはペレスが0.9秒ほど上回っていたと言える。

2.3.2. ソフトタイヤでの比較

 図12に着目し、ルクレールとハミルトンを比較すると、最終スティントでは互角のペースと言って良いだろう。ハミルトンのタイヤが3周古いことを、デグラデーション0.11[s/lap]で考慮すると、実力的にはハミルトンが0.3秒ほど上回っていたと言える。

 続いて図15に着目し、ルクレールとストロールを比較すると、最終スティントではルクレールが1.3秒ほど上回っている。ストロールのタイヤが8周古いことを、デグラデーション0.12[s/lap]で考慮し、ルクレールの中古が0.1秒遅かったとすると、実力的にはルクレールが0.4秒ほど上回っていたと言える。

 また、ルクレールとガスリーを比較すると、最終スティントではルクレールが平均1.59秒上回っている。ガスリーのタイヤが8周古いことを、デグラデーション0.10[s/lap]で考慮し、ルクレールの中古が0.1秒遅かったとすると、実力的にはルクレールが0.9秒ほど上回っていたと言える。

 また、ルクレールとジョウを比較すると、最終スティントではルクレールが平均0.4秒ほど上回っている。ジョウのタイヤが3周古いことを、デグラデーション0.10[s/lap]で考慮し、ルクレールの中古が0.1秒遅かったとすると、実力的にはルクレールが0.2秒ほど上回っていたと言える。

2.3.3. ハードタイヤでの比較

 まず図12に着目し、ルクレールの第3スティントとボッタスの第2スティントを比較すると、ルクレールが平均1.79秒上回っている。ボッタスのタイヤが13周古いことを、デグラデーション0.05[s/lap]で考慮すると、実力的にはルクレールが秒ほど上回っていたと言える。

 続いて図14に着目し、オコンとシューマッハを第2スティントで比較すると、オコンが平均0.14秒上回っている。シューマッハのタイヤが2周古いことを、デグラデーション0.06[s/lap]で考慮すると、実力的には2人は互角だったと言える。

 また、同様に第2スティントでボッタスとオコンを比較すると、ボッタスが平均0.08秒上回っている。オコンのタイヤが3周古いことを、デグラデーション0.03[s/lap]で考慮すると、こちらも実力的には2人は互角だったと言える。

 これらを総合し、表1~3の結論を得た。

Analyst: Takumi