• 2024/12/13 01:30

2021年バーレーンGPレビュー(1) 互角のレースペース ”フェルスタッペン vs ハミルトン明暗を分けたのは”

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 レッドブル優勢の予想の中、F1 2021年シーズンが開幕した。しかし蓋を開けてみれば、メルセデスは苦戦したのは事実ではあるものの結果はハミルトンが優勝を手にした。今回はレースペースを元に彼らが繰り広げた激闘を分析する。

※レース用語は太字部分で示し、記事末尾に用語解説を加筆した

目次

  1. 見た目以上の差はなかった予選
  2. 互角のレースペースと頭脳戦のレース戦略
  3. フェルスタッペンの判断は正しかったか・・・?
  4. 2強のチームメイトは?
  5. 今シーズンは3つ巴か
  6. 用語解説

1. 見た目以上の差はなかった予選

 レースペースを解析する前に、まず予選について軽く触れておきたい。

 予選ではフェルスタッペンがハミルトンに0.388秒の差をつけた。しかし筆者はこれを実力の差と見なすべきではないと考えている。ハミルトンの最終アタックはセクター2でミスをしており、各々のベストセクターを繋げれば2人の差は0.254秒差である。これはQ2までハミルトンがボッタスに0.5秒前後の差をつけていたことと辻褄が合う。

 オンボード映像などから推測すると、今季のメルセデスはテスト時からリアがスナッピーでコントロールが難しそうだ。したがってマクラーレン時代からオーバーステア気味のマシンのコントロール術に長けているハミルトンとボッタスの差が開くのはうなずける。(ちなみにハミルトンの通常時のドライビングスタイルは2014年以降ややマイルドとなっている。これはジョック・クレアの助言によりレースペース重視型にスタイルを変えていった事と関係すると考えられる。)

 よってこの時点でメルセデスに足りないのは絶対的性能(ダウンフォースメカニカルグリップ、エンジンパワーなどの絶対値)よりも限界まで攻める際のドライバビリティの問題(滑る瞬間までドライバーの指先やお尻にインフォメーションが行かない)と考えられ、レースでは限界域で走ることは少ないため予選よりも競争力を増してくることが予想された。

2. 互角のレースペースと頭脳戦のレース戦略

 2人のレースでのラップタイムを以下のグラフに示した。

スクリーンショット 2021-03-29 16.50.12を拡大表示

Fig.1 Hamilton vs Verstappen

 レッドブル側のコメントにもある通りハミルトンの第一スティントはフェルスタッペンよりもデグラデーションが少なく(実はボッタスも少なかった)、2秒以内につけたことからアンダーカットに行くことができた。アンダーカットのメリットは「とりあえず前に立てる」ということだが、今回でいえばハミルトンはフェルスタッペンより4周早く入ることで逆転したものの、今度は第2スティントではずっと4周ぶん古いタイヤで走ることになる。これによりフェルスタッペンは速いラップタイムを並べ続け、再びハミルトンの背後まで忍び寄った。

 ここでフェルスタッペンは1回目のピットストップでハミルトンがやったようにアンダーカットを仕掛けることができる。そこで、その可能性を警戒したメルセデスはタイヤの摩耗状況としては悪くなかったにも関わらず28周目でハミルトンの2回目のタイヤ交換を行う。

 ここでフェルスタッペンが採るべき戦略は、タイヤ交換を後まで引っ張り、最終スティントでハミルトンより新しいタイヤで飛ばして追いつき追い抜く戦略だ。しかし気をつけなくてはいけないのは、ある程度のペース差が無いとF1でのオーバーテイク(追い抜き)は難しいということだ。F1マシンの性能はダウンフォースに依存している。したがって高速で走るマシンの後ろにできる乱気流の中では本来の性能を発揮しきれず、前のマシンにある程度接近すると本来自分の方が速くてもそれ以上近づけなくなる。バーレーンは比較的追い抜きが容易なサーキットではあるが、1周0.7秒程度のアドバンテージが無いと追い抜きは難しい。そして今回のレースペースでミディアム・ハード共にデグラデーションは1周0.1秒程度のためフェルスタッペンはハミルトンより7周以上引っ張る必要がある。

 そこでメルセデスはフェルスタッペンにその戦略を採らせないように先手を打ってきた。ボッタスをピットに入れて早めのタイヤ交換を行ったのである。以下に3者のラップタイムを示す。

スクリーンショット 2021-03-29 17.29.52を拡大表示

Fig. 2 Hamilton vs Verstappen vs Bottas

 結果的にピットストップに時間がかかったことで空振りに終わったが、ボッタスは32周目からフェルスタッペンがピットインする37周目まで1秒以上速いタイムで走っており、本来であればフェルスタッペンはボッタスにアンダーカットされないために遅くとも33周目にはピットインせざるを得なかった。こうなるとタイヤの違いを大きくは生み出せず、ハミルトン攻略はほぼ不可能になってくる。

 ボッタスのタイヤ交換が失敗したことでフェルスタッペンは最終スティントを9周新しいハードタイヤで走ることができ、52周目で射程圏内に捉えることに成功したが、あのタイヤ交換が通常通りだったらそのまま順位変動の気配も無い平凡なレースになっていた可能性が高い。

3. フェルスタッペンの判断は正しかったか・・・?

 戦略の仕事は終わり、コース上でハミルトンとフェルスタッペンが決着をつけるのみとなった。

 フェルスタッペンは52周目のセクター3でハミルトンの背後に迫り、ホームストレートエンドでハミルトンにブロックラインを取らせることに成功する。これによりハミルトンは立ち上がりの加速が鈍り、フェルスタッペンはスピードを乗せ、次のストレートで並びかけて、ターン4でアウトからパスした。これはラップタイム差がオーバーテイクに必要と考えられるギリギリのライン(0.6~7秒程度)という厳しい状況の中で、非常に巧妙にデザインされた動きである。

 しかしこの際ターン4出口でフェルスタッペンは、4輪がコースの外にはみ出していた。単独走行時であれば数回までは多めに見てもらえるコース外走行だが、追い抜きの際にコース外を走ることでアドバンテージを得て順位を上げることは厳しく取り締まられる。したがって、レースコントロールはレッドブルにフェルスタッペンに順位を戻すよう指示した。そしてフェルスタッペンはバックストレート(ターン10と11の間)でアクセルを緩め順位を戻した。

 フェルスタッペンに無線が飛んだのはターン5から10の間だが、筆者はフェルスタッペンの判断には疑問を投げかけざるを得ないと考えている。前提として、フェルスタッペンがオーバーテイクを狙っていたのは52〜53周目と同様に最終コーナーで後ろにつきターン1で勝負、もしくはブロックラインを取らせ立ち上がりで優位に立ちターン4(やや高度だがその流れでターン6でインを取る戦術もこれに含める)で勝負だ。ならば最終コーナー(ターン14)で相手の背後につけられるようその前のいくつかのコーナーでの間合いをデザインする必要がある。

 筆者がフェルスタッペンの立場でターン10付近で無線の指示を受け取ったならば、間違いなく直ぐに譲ったりはしない。迷わずターン12と13の間だ。少なくともターン12より前で譲るなどあり得ない。なぜならばターン12〜13はバーレーンで乱気流の影響をもっとも大きく受けるコーナーの一つだからだ。フェルスタッペンはターン11の手前で譲ってしまったため、ターン12、13の乱気流の影響をモロに受け、13で大きくスライド。離されてしまいホームストレート〜ターン1勝負は叶わず、さらにスライドによってタイヤがオーバーヒートしてしまい、残り周回での闘いに影響を及ぼしてしまった。

 筆者の提案のようにターン12の出口で譲るならば、ターン11すら通常より0.1秒ほどタイムを落として走りタイヤを冷やすこともできる。そしてターン12までハミルトンに乱気流を浴びせた挙句、ターン13手前でイン側から抜かさせて、立ち上がりを厳しくさせてやるのである。その上でターン14までのストレートでは後ろに留まればルール違反にも当たらない。

 ちなみに前述の「ルール違反」について触れておくと、ターン14の手前で譲るのはルール違反ということだ。例えば2005年の日本GPにて、アロンソはクリエンをシケインをショートカットしてオーバーテイク。ここでアロンソは「ショートカットで抜いた場合は順位を戻すこと。戻したらまたレース続行。」というルールにしたがってホームストレート上で一旦譲り、真後ろにつくことでスリップストリームを利用し、ホームストレートエンドで再度オーバーテイクした。この動きは認められず、その後も2008年ベルギーGPのハミルトンvsライコネンなどこの手の「譲った次のコーナーで抜く」パターンは禁止されている。

 最終盤までもつれ込んだ優勝争い、見せ場を作り一時は並びかけたフェルスタッペンのドライビングは実にエキサイティングなものだったが、順位を譲る際の動きには往年のチャンピオンたちに見られた、時に傲慢とも思える計算高さ、しぶとさよりも、彼の好感が持てる性格や若さが出てしまったように思える。レース終盤の極限状態でもアロンソやハミルトンのような良い意味での「いやらしさ」を発揮していけるかどうかが、今後の彼の伸びしろかもしれない。

4. 2強のチームメイトは?

 図2に示した通り、ボッタスのラップタイムは第3スティントのハードではハミルトンと完全に互角であり、昨シーズン見られたようなタイヤマネジメントの差も克服してきている。一方で第1スティントのミディアムではやや遅れをとっており、課題はゼロというわけではなさそうだ。

 レッドブルはどうだろうか?以下にフェルスタッペンとペレスの比較を示す。

スクリーンショット 2021-03-29 16.14.40を拡大表示

Fig. 3 Verstappen vs Perez

 ペレスはトラフィックの中をかき分けて順位を上げてきたためラップタイムにバラツキがあるのは仕方なく、バトルでタイヤへの負荷も上がるため完全に公平な比較は難しいが、レースペースのおおよその差は0.5秒程度と思われる。フリー走行から予選でもそのぐらいの差だったため、妥当な数値と考えられる。デグラデーションはフェルスタッペンより小さく、フェルスタッペンのグラフが右肩下りなのに対し、ペレスはほぼ横ばいとなっている。これはタイヤを使いきれていない事を示唆しており、移籍後のドライバーやルーキーにありがちな傾向だ。シーズンが進んでいくにしたがって改善され、ベースのペースが上がっていく可能性が高い。

5. 今シーズンは3つ巴か?

 大方の予想通りフェルスタッペンとハミルトンの一騎打ちとなった開幕戦。レッドブルは例年シーズン後半に向けて競争力を増していく傾向にあり、メルセデスも今年は開発の余地がある状態での開幕となったため、レッドブルとメルセデスの力関係はこのまま推移していく可能性も高い。さらにFig.2に示した通りボッタスの競争力が高く、これを維持できるようだと決してハミルトンとフェルスタッペンはお互いだけを見ていれば良いという闘いにはならないだろう。シーズン前半は三つ巴、シーズン中盤以降でペレスが習熟を進めてくれば四つ巴となるレースも出てくる可能性が高いと考えられる。

 Part 2では世界的に注目を集めている角田裕毅と中段勢のライバルたちの分析を行う。

 

6. 用語解説

セクター:サーキット1周は3つのセクターに分けられており区間タイムの計測などを行う

オンボード映像:車載映像。音はエンジンやギアボックス付近などにマイクが取り付けられ別ドリ。

スナッピー:リアタイヤが突然滑りオーバーステアが出る現象。ドライバーの予想外の急激な動きのためスピンにつながることが多い。

オーバーステア:曲すぎ。スピンしやすい。

アンダーステア:曲がらなすぎ。

ニュートラルステア:ちょうど良い。これらはドライバーの主観であり、フェルスタッペンのようなオーバーステア好きの人にとってアンダーステアと感じても、そのマシンに他の人が乗るとオーバーステアと感じることもある。

ダウンフォース:F1マシンは高速で当たる空気の力をさまざまな空力パーツによって下向きの力に変える。これにより短時間のブレーキングで減速し、高速でコーナリングし、エンジンパワーを路面に伝えることができる。

メカニカルグリップ:サスペンションやタイヤなど空力以外で得るグリップ。

ドライバビリティ:ドライブしやすさ。ドライバーは視覚・聴覚だけでなくステアリングやお尻で路面から感じとる情報を頼りにマシンやタイヤの限界を見つけ出す。ドライバビリティが低いと限界まで攻めるのが難しくなるので、予選一発やレースでの勝負どころで不利になる。

アンダーカット:前を走るライバルより先に新品タイヤに履き替えることで速いラップタイムを刻み、その間摩耗したタイヤで数周走ったライバルがタイヤを履き替えて出てきた際には自分が前に立つ、という戦略。

オーバーテイク:追い抜き

デグラデーション:タイヤのタレ。1周あたり〜秒という表現が多い。使い方次第でコントロールできる。

ブロックライン:抜かれないためにコーナー侵入時にインを抑えるライン。小回りすることになるため、出口が厳しくなり次のストレートやコーナーで抜かれるリスクもある。

レースコントロール:運営。審判のような役割。

スリップストリーム:真後ろに出来る低気圧の空間は空気抵抗が少なくストレートスピードが伸びる

トラフィック:渋滞。ライバルたちがいて、自分の本来のペースを発揮できない状態を言う。おおよそ前方2秒以内にマシンがいると本来のマシンの空力的性能を発揮できない。