• 2024/4/27 00:23

2021年ポルトガルGPレビュー(1) 大接戦 “ワンミスが勝敗を分ける”

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 レッドブルとメルセデスが僅差の争いを繰り広げた開幕2戦を終え、F1サーカスはヨーロッパラウンドへやって来た。今回もグラフを交えたレースペース分析を元に、各チーム・ドライバーの繰り広げた激闘の軌跡を辿ってみよう。

※レース用語は太字部分で示し、記事末尾に用語解説を加筆した

目次

  1. ミステリアスな予選
  2. 優勝争いの決め手はワンミス
  3. 用語解説

1. ミステリアスな予選

 今回の予選は不思議な結果となった。筆者もこの予選に関して明解な説明をすることは難しい。

 その上で最大限の考察を行うと、多くのドライバーがQ3でQ2よりタイムを大きく落としており、メルセデス勢はQ3の1回目のソフトでのアタックがQ2でのミディアムのタイムより遅く、それをタイヤ選択によるものと考え、Q3の2回目をミディアムで行ったと思われる。しかし実際には各ドライバーのタイムを見ればコンディションによるものだったことが分かり、多くのドライバーがスリッピーなコンディションに苦しんだ。ハミルトンも例に漏れずQ2から0.4秒落とした中で、ボッタスはQ2から0.1秒上げポールを獲得した。ボッタスのポールラップですら、オンボード映像を見ればバランスに苦しんでいるのが見てとれ、通常の「いかにタイヤを作動温度領域に入れるか」ではなく、作動温度領域から外れる中で「いかに近づけるか」の予選になったのではないか?これには昨年再舗装された路面が1年間で殆ど使用されず、依然として滑りやすいままだったことが原因と考えられる。また多くのコーナーで追い風でダウンフォースが少なかった事もタイヤに負荷をかけて行けない原因になった可能性がある。

 リカルドやアロンソの低迷も単なるドライビングの差では説明がつかないほどチームメイトに離されており(両者とも約1秒)、タイヤを機能させられていないことが伺える。前戦イモラのペレスのように、タイヤに熱を入れなければならないコンディションではマシンに自信を持って攻める必要があり、移籍・新人・復帰組には厳しいものになっていると考えられる。

2. 優勝争いの決め手はワンミス

 以下に優勝争い3人のレースペースを示す。

画像1を拡大表示

Fig.1 ハミルトン、フェルスタッペン、ボッタス

 ポールからスタートしたボッタスだったが、今回もハミルトンとのレースペースの差を見せつけられ後退してしまった。F1の難しさは予選アタックで2種類のタイヤ(Q2ミディアムの場合)、レースのロングランで最低2種類のタイヤと合計4種類の状態でマシンとタイヤから最大限を引き出さないと行けないことだ。ハミルトンを始め、これまでのチャンピオン経験者はここが長けている。ミハエル・シューマッハやアロンソのチームメイトも予選やどこかのスティントだけを見ればエースドライバーと対等に走れることもあったが、全ての場面で一貫性を保つことは難しかった。ボッタスに欠けた部分もそこにあると考えられ、今後チャンピオンを目指すならば、全ての状況で完璧なパフォーマンスを引き出す事が必要になってくる。ちなみにハミルトンは苦戦した予選ですらボッタスと0.007秒差に留めている。

 フェルスタッペンは今回も素晴らしいレースペースを見せたが、一歩及ばなかった。第一スティントはずっとボッタスに捕まってしまったが第2スティントではハミルトンと互角のペースで走行している。

 フェルスタッペンの敗因は、10周目のターン14でボッタスに仕掛ける際にできた隙をハミルトンに突かれたことだ。今回のDRS検知ポイントはターン15の侵入であり、ターン14で無理をしてミスをすると前のドライバーとの差が1秒以上になりDRSを使えず、且つ後ろのドライバーにDRSを使われて抜かれてしまう。これがターン14の入り口に検知ゾーンがあればあのようなトライも良いが、今回はリスキーだった。フェルスタッペンの立場でやるべきことは何がなんでもハミルトンの前をキープすることである。あのまま2位キープでハミルトンに3ポイント差をつけるのも1年を考えれば十分美味しい。その上で最小限のリスクでボッタスを抜くことを考えるべきだ。これはハミルトンやアロンソが得意とすることだが、前と距離を置いてタイヤやエネルギーの差を作り完璧に整ってから攻めるのが良かったのではないか?今回はアロンソがこの点でお手本のような仕事をしているのでPart2に記述する。

 一方でハミルトンも本人の弁の通り完璧なレースではなかった。セーフティカー明けでボッタスに遅れを取り、フェルスタッペンに迫られた。これが1つ目のミスだが、筆者は2つ目のミスの方がフェルスタッペンにオーバーテイクされる決定的な要因となったと考えている。ハミルトンはブロックラインを取りボッタスのスリップストリームから自ら外れてしまった。そしてフェルスタッペンが代わりにボッタスのスリップを使い加速。アウトサイドからオーバーテイクとなった。ホームストレートは向かい風であり、スリップの影響はことさらに大きい。もしフェルスタッペンを抜けていなければ、前の段落の出だしは「ハミルトンの敗因はリスタートでの出遅れと判断ミス」となっていただろう。ハミルトンも焦ったのかもしれないが、緻密な計算は得意でも咄嗟の判断に弱点がある可能性があり接戦のチャンピオンシップに向けて彼がどう克服してくるのか楽しみにしたい所だ。

 Part2では、角田の課題、マクラーレン勢のタイヤの使い方、アロンソの緩急をつけたオーバーテイクショーなど見どころ満載の中段勢について分析を行う。

3. 用語解説

オンボード映像:車載映像。音はエンジンやギアボックス付近などにマイクが取り付けられ別ドリ。

ダウンフォース:F1マシンは高速で当たる空気の力をさまざまな空力パーツによって下向きの力に変える。これにより短時間のブレーキングで減速し、高速でコーナリングし、エンジンパワーを路面に伝えることができる。

スティント:ピットストップからピットストップまで。もしくはスタートから最初のピットストップや、最後のストップからチェッカーまで。スタートから最初のストップまでを第1スティント、1回目から2回目を第2スティント・・・と呼ぶ。

オーバーテイク:追い抜き

DRS:前車と1.000秒以内にいると使えるオーバーテイク促進システム。DRSゾーンのみ使用ができる。通常1箇所か2箇所に設定される。その少し手前に設定された検知ポイントでタイム差を計測するので、後ろのドライバーにとっては例えサーキットの他の部分で離されようともそこで1.000秒以内に入れるようにすることが重要で、そのためにエネルギーマネジメントを調整する(「ターン15で近づきたいからターン1〜7で充電してターン8〜14で放出しよう」など)。前のドライバーはその逆を考え、裏をかいた奇襲なども考えられる。

ブロックライン:抜かれないためにコーナー侵入時にインを抑えるライン。小回りすることになるため、出口が厳しくなり次のストレートやコーナーで抜かれるリスクもある。

スリップストリーム:真後ろに出来る低気圧の空間は空気抵抗が少なくストレートスピードが伸びる