こちらでは当サイトで行ってきたドライバー達のチームメイト比較を基に、歴代トップドライバー達の予選の力関係を割り出した。レースペース分析(Ver.1.1)を終え、データの解釈の判断材料が増えたため、より正確な分析を行うために再考察を行った。
1. 結論
先に分析結果を示す。
表1 歴代トップドライバーの予選ペース比較
注意書き
「確からしさ(Certainty)」を1(確かでない)から4(ほぼ確実)で評価し、2以下のものについては黄色でマークした。現役の若手ドライバーに関しては、今後数年で明らかになっていくものが多いだろう。
また、Ver.1.2までは0.05秒を最小単位としたが、こちらではレースペースと同様に0.1秒を最小単位とし、有効数字1桁で示した。予選タイム自体は0.001秒単位まで計測されるが、ドライバーの競争力という概念で見る場合はある程度バラつきがあり、必要以上に細かく見すぎると大局的な視点を失い、本来の傾向を掴みにくくなる。本Ver.2.1ではそうした考えに基づき、より大まかな見方をすることとした。
また、Certantyが3のドライバーの中でも、フェルスタッペン、ルクレール、ノリス、サインツ、ガスリー、リカルド、ベッテル、クビアト、ペレス、ストロールの10名に関しては、その中での各々の力関係はCertanty=4のレベルで確からしいと考えられる。
管理人の所感
レースペースと同様に、この表はあくまでドライバーたちが全体的なパフォーマンスレベルを表しているに過ぎない。各々のチームメイト比較を細かく見ても年単位・レース単位でバラつきがある。やはり、年間を通して力を発揮し続けること、そして予選で前を獲るべき重要な局面で最後の0.001秒を削り取って必要なグリッドを勝ち獲る強さは、この表で上位に位置することと同じくらい重要だと言えるだろう。
また、予選とレースペースを両立することは時として難しく、通常はセットアップ面で妥協点を探る。予選型のドライバー、レース型のドライバーは確実におり、同一ドライバーでも年によってどちらに振るか傾向が異なることもある。そうした部分もF1の面白さの一つであり、先に行ったレースペース分析と合わせてお楽しみいただければ幸いだ。
2. 分析
2.1. アロンソ、ハミルトン、バトン、ライコネンらの比較
2007年:vs ライコネン 6勝3敗(-0.108秒差)
2008年:vs ライコネン 7勝3敗(-0.124秒差)
2009年:vs ライコネン 1勝7敗(+0.283秒差)
2009年はそれまでライコネンが上回っていたレースペースで大きな逆転現象が起こった。レギュレーションが大きく変わった初年度ということもあり、セットアップ面でマッサがレースに振ったかライコネンが予選に振ったかが考えられ、予選と決勝の傾向が逆転したと思われる。ここでは2007,08年の数字を2人の本来の数字と考え、0.1秒速いと解釈しよう。
次にアロンソをマッサと比較する。
2010年:vs マッサ 11勝2敗(-0.306秒差)
2011年:vs マッサ 14勝3敗(-0.373秒差)
2012年:vs マッサ 15勝1敗(-0.335秒差)
2013年:vs マッサ 6勝5敗(-0.173秒差)
2013年はレースペースで差が広がっており、アロンソがレースに振ったかマッサが予選に振ったかが考えられる。ここでは2010~12年の3年間を平均し、0.3秒速いと結論づけよう。
続いてボッタスをマッサと比較する。
2014年:vs マッサ 8勝3敗(-0.192秒差)
2015年:vs マッサ 8勝6敗(-0.029秒差)
2016年:vs マッサ 14勝3敗(-0.188秒差)
3年間を平均して0.1秒速いと見よう。
次にハミルトンをボッタスと比較する。
2017年:vs ボッタス 12勝5敗(-0.239秒差)
2018年:vs ボッタス 12勝5敗(-0.160秒差)
2019年:vs ボッタス 14勝7敗(-0.122秒差)
2020年:vs ボッタス 9勝5敗(-0.119秒差)
アブダビGPを除き 9勝4敗(-0.133秒差)
2021年:vs ボッタス 13勝5敗(-0.157秒差)
2018年以降の安定した傾向と比べると、17年はボッタスが移籍初年度であることを考慮した方が賢明かもしれない。ここでは0.1秒速いと見よう。
2010年:vs バトン 12勝2敗(-0.282秒差)
2011年:vs バトン 12勝5敗(-0.167秒差)
2012年:vs バトン 15勝1敗(-0.272秒差)
平均で0.2秒速い。
続いてアロンソをバトンと比較する。
2016年:vs バトン 13勝2敗(-0.231秒差)
2015年:vs バトン 7勝5敗(-0.056秒差)
こちらも2015年はアロンソの移籍1年目ということで、16年の数字を採用し、0.2秒速いとしよう。
次にアロンソをライコネンと比較する。
2014年:vs ライコネン 11勝1敗(-0.442秒差)
1年のみだが0.4秒速い。
以上をまとめると表2のようになる。
表2 予選ペース比較 1
見事なまでに辻褄が合った。ハミルトンについてはジョック・クレアの助言により2014年以降レースペースを重視するようになったことが知られており、マクラーレン時代と分けて考えた。これにより、バトン、ボッタスとの差が問題なく説明がつくようになっており、この表2の確からしさはかなり高いと考えられる。
2.2. ベッテル、ペレス、オコンらの比較
続いてはベッテルをライコネンと比較する。
2015年:vs ライコネン 9勝2敗(-0.279秒差)
2016年:vs ライコネン 8勝10敗(-0.023秒差)
2017年:vs ライコネン 15勝3敗(-0.295秒差)
2018年:vs ライコネン 14勝2敗(-0.166秒差)
大きく傾向の異なる2016年をどう読むかで判断が分かれそうだ。レースペースを見ても納得のいく説明はつきにくい。ここはひとまず16年を除く3年間の平均を取り、0.2秒速いと見よう。
次はアロンソをオコンと比較する。
2021年:vs オコン 10勝9敗(+0.003秒差)
アゼルバイジャンGP以降 10勝5敗(-0.154秒差)
2022年:vs オコン 5勝5敗(-0.097秒差)
1年目の前半戦を除き、0.1秒速いと見よう。
次はペレスをオコンと比較する。
2017年:vs オコン 13勝6敗(-0.077秒差)
2018年:vs オコン 4勝11敗(+0.121秒差)
2年間で異なる傾向を示した。2017年はオコンにとってF1で2年目、移籍後1年目であることも考慮する必要があるか、2年を平均すべきかは判断が難しい所だ。ここはひとまず後者で「互角」と扱おう。
続いてヒュルケンベルグをペレスと比較する。
2014年:vs ペレス 7勝5敗(-0.087秒差)
2015年:vs ペレス 9勝6敗(-0.083秒差)
2016年:vs ペレス 10勝9敗(+0.012秒差)
平均で0.1秒速い。
ここまでを暫定的にまとめると表3のようになる。
表3 予選ペース比較 2
ベッテルとライコネンの4年間、オコンとペレスの2年間をどう見るべきかの判断において決め手に欠けるため、現段階では暫定的なものと考え、以降の考察で再解釈を行なっていこう。
では、一旦視点を変えてフェルスタッペンやルクレールらの群を見ていこう。
2.3. フェルスタッペン、ルクレールらの比較
まずルクレールをベッテルと比較する。
2019年:vs ベッテル 10勝7敗(-0.114秒差)
フランスGP以降 9勝3敗(-0.242秒差)
2020年:vs ベッテル 12勝2敗(-0.385秒差)
イギリスGPを除き 11勝2敗(-0.345秒差)
2019年の前半戦はルクレールにとってF1で2年目、フェラーリ移籍直後ということもあり、20年はレースペースほど顕著ではないがベッテルが大きく遅れている。これをどう読み解くかは難しい所だが、ひとまずレースペースと同様に19年後半戦の「0.2秒速い」を採用しよう。
次にルクレールをサインツと比較する。
2021年:vs サインツ 8勝8敗(-0.037秒差)
フランスGP以降 4勝7敗(+0.024秒差)
2022年:vs サインツ 11勝2敗(-0.152秒差)
2年でやや傾向が異なるが、ひとまず2年を平均して0.1秒速いと解釈しよう。
次にノリスをサインツと比較する。
2019年:vs サインツ 8勝8敗(+0.004秒差)
2020年:vs サインツ 7勝6敗(-0.050秒差)
2019年はノリスにとってルーキーイヤーであり、2年目の数字を採用してひとまず四捨五入で0.1秒速いとしておこう。
続いてサインツをクビアトと比較する。
2016年:vs クビアト 8勝4敗(-0.216秒差)
ベルギーGP後 4勝4敗(-0.034秒差)
2017年:vs クビアト 8勝5敗(-0.115秒差)
2016年の前半戦を除いた平均で0.1秒速いと解釈して良いだろう。
次にリカルドをクビアトと比較する。
2015年:vs クビアト 8勝6敗(-0.121秒差)
2016年:vs クビアト 4勝0敗(-0.749秒差)
2016年はクビアトのパフォーマンスが悪すぎるため、15年の値を採用して0.1秒速いと考えよう。
続いてリカルドをベッテルと比較する。
2014年:vs ベッテル 6勝4敗(-0.107秒差)
1年のみだが0.1秒速い。
次にサインツをフェルスタッペンと比較する。
2015年:vs フェルスタッペン 7勝4敗(-0.084秒差)
2016年:vs フェルスタッペン 1勝3敗(+0.005秒差)
2016年の4サンプルを含めると「互角」と言えるだろう。
続いてヒュルケンベルグをサインツと比較する。サインツがシーズン途中で移籍してきた2017年は除く。
2018年:vs サインツ 13勝6敗(-0.114秒差)
1年のみだが0.1秒速い。
以上をまとめると表4のようになる。なおフェルスタッペンとサインツの比較は互いにルーキーであったことやフェルスタッペンの年齢なども考慮して無視し、フェルスタッペンの競争力は「リカルドの0.1秒落ち」を信頼して採用することとした。
表4 予選ペース比較 3
ヒュルケンベルグとベッテルの0.2秒差は表3と一致しており、一見もっともらしく見える。しかしこの表をそのまま表3に当てはめると「フェルスタッペンはペレスより0.1秒速い」となる。
確認するためにフェルスタッペンをペレスと比較してみよう。
2021年:vs ペレス 17勝1敗(-0.403秒差)
2022年:vs ペレス 13勝3敗(-0.284秒)
この2年間を見る限り、その差は0.3~0.4秒と言えそうだ。
ここで、ここまでの知見に関して疑うべき点が3つある。
1つは前述の通りペレスとオコンを互角と見なしたことだ。ここで2018年の「オコンが0.1秒速い」を採用してみよう。
2つ目として、サインツとヒュルケンベルグの差もやや不自然で、サインツがルノーで力を発揮しきれなかった可能性を考慮した方が賢明かもしれない。
ここで、フェルスタッペンとペレスの差を0.3秒とした上で、ベッテルを基準に表4を表3に組み込むとペレス、ヒュルケンベルグとオコンのタイムが修正され、表5のようになる。
表5 予選ペース比較 4
まだ暫定として扱った方が良いが、ある程度納得の行く結果になった。アロンソとオコンの差が0.1秒開いているが、誤差の範疇ととるかアロンソに衰えが見え始めているととるかは現時点では何とも言えない所だろう。
あるいは、表4に組み込む基準をベッテルではなくペレスとする方法もある。
ここでペレスをバトンと比較する。
2013年:vs バトン 7勝6敗(+0.028秒差)
1年のみになるが「互角」と捉えて良いだろう。
ペレスもバトンもパフォーマンスが安定したドライバーである一方で、ベッテルの比較対象のライコネンはクルサードやジョビナッツィと組んだ際も予選パフォーマンスが上下している。このことからペレスとバトンが互角であることを基準として表3と表4を合わせる方が妥当だという見方があっても良いはずだ。その結果を表6に示す。
表6 予選ペース比較 5
表4のメンバー(ヒュルケンベルグを除く)が0.1秒ずつ上がることとなり、この方が自然だと捉える考え方もあるだろう。当サイトでは現段階ではこちらを採用する。
ちなみに、アロンソとオコンの差も実際の数値と一致しており、こちらではアロンソに衰えが見られないことになる。
また、この場合ベッテルとライコネンの差は0.3秒ということになり、2015,17年が代表的な値だったということになる。15,18年にライコネンがノれていたのかベッテルがノれていなかったのかは、現状では推測できそうにないだろう。
2.4. シューマッハ、ロズベルグらの比較
では、表6のドライバーたちのチームメイト等についても見ていこう。
まずハミルトンをコバライネンと比較する。
2008年:vs コバライネン 4勝3敗(0.00秒差)
2009年:vs コバライネン 7勝6敗(-0.151秒差)
シンガポールGPを除き 6勝6敗(-0.017秒差)
平均で「互角」となっている。
次にハミルトンをロズベルグと比較する。
2013年:vs ロズベルグ 7勝7敗(-0.049秒差)
2014年:vs ロズベルグ 4勝7敗(+0.069秒差)
2015年:vs ロズベルグ 11勝6敗(-0.133秒差)
2016年:vs ロズベルグ 11勝4敗(-0.126秒差)
単純に平均しても2014年を除いても0.1秒差だ。よって0.1秒速いとして問題ないだろう。
次にアロンソをフィジケラと比較する。
2005年:vs フィジケラ 7勝3敗(-0.43秒差)
スペインGP、イギリスGPを除き 5勝3敗(-0.296秒差)
2006年:vs フィジケラ 5勝4敗(-0.17秒差)
平均で0.2秒速い。
続いてベッテルをウェバーと比較する。
2009年:vs ウェバー 11勝2敗 (-0.203秒差)
2010年:vs ウェバー 11勝6敗(-0.074秒差)
2011年:vs ウェバー 14勝3敗(-0.353秒差)
2012年:vs ウェバー 9勝6敗(-0.111秒差)
2013年:vs ウェバー 9勝2敗(-0.175秒差)
2010年はベッテルが苦戦、2011年はウェバーが苦戦したように見えるが、その2年を含むか否かによらず差は0.2秒だ。ここでは0.2秒速いと捉えよう。
次にライコネンをグロージャンと比較する。
2012年:vs グロージャン 5勝9敗(+0.101秒差)
ヨーロッパGP以降 4勝5敗(+0.038秒差)
2013年:vs グロージャン 5勝3敗(-0.123秒差)
バーレーンGPを除き4勝3敗(-0.065秒差)
平均で「互角」となっている。
続いてマグヌッセンをグロージャンと比較する。
2017年:vs グロージャン 6勝7敗(+0.036秒差)
2018年:vs グロージャン 5勝10敗(+0.242秒差)
ドイツGPまで 4勝3敗(+0.031秒差)
2019年:vs グロージャン 10勝6敗(-0.111秒差)
アゼルバイジャンGPを除き 9勝6敗(-0.050秒差)
2020年:vs グロージャン 6勝7敗(+0.020秒差)
平均で「互角」となっている。
次にミハエル・シューマッハをバリチェロと比較する。
2000年:vs バリチェロ 15勝2敗(-0.358秒差)
2001年:vs バリチェロ 15勝1敗(-0.548秒差)
2002年:vs バリチェロ 13勝4敗(-0.227秒差)
2003年:vs バリチェロ 7勝1敗(-0.24秒差)
2004年:vs バリチェロ 11勝0敗(-0.38秒差)
2005年:vs バリチェロ 7勝1敗(-0.36秒差)
平均で0.4秒速い。
続いてシューマッハをマッサと比較する。
2006年:vs マッサ 10勝0敗(-0.49秒差)
1年のみだが0.5秒速い。
次にバトンをバリチェロと比較する。
2006年:vs バリチェロ 2勝8敗(+0.01秒差)
トルコGPを除き 1勝8敗(+0.17秒差)
2007年:vs バリチェロ 8勝8敗(-0.05秒差)
マレーシアGPを除き 7勝8敗(+0.01秒差)
2008年:vs バリチェロ 8勝9敗(-0.10秒差)
ヨーロッパGP、シンガポールGPを除き 5勝9敗(+0.01秒差)
2009年:vs バリチェロ 6勝7敗(-0.007秒差)
2006年はバリチェロが移籍初年度で、予選に振り過ぎておりレースペースが非常に遅い。この年を除けば「互角」と見て良いだろう。
以上をまとめると表7のようになる。
表6 予選ペース比較 5
シューマッハに関しては、バリチェロを介したバトンとの比較とマッサとの比較が表6と辻褄が合っており、ここまでの分析の妥当性を確認できる。
また前述の通り、ライコネンの予選パフォーマンスには浮き沈みがあるため、グロージャンとマグヌッセンの確からしさはやや落ちる。今後ヒュルケンベルグとマグヌッセンのコンビが複数年続けば、新たな知見が得られるかもしれない。
2.5. ラッセル、ガスリー、角田らの比較
あとは現役の若手ドライバーたちをここに当てはめて行けば良い。ただし、多くの場合参照する年数が少ないため確からしさは低く、今後数年のデータ次第で評価が上下する可能性は多分にある点には留意する必要があるだろう。
まずはハミルトンをラッセルと比較する。
2022年:vs ラッセル 8勝3敗(-0.029秒差)
チームの状態を鑑みるとあくまで参考値となり、2022年以降のデータを待ちたい所だが、現状は「互角」としておこう。
次にガスリーをクビアトと比較する。
2020年:vs クビアト 11勝3敗(-0.186秒差)
70周年記念GPを除き 10勝3敗(-0.144秒差)
2019年:vs クビアト 5勝1敗(-0.248秒差)
日本GPを除き4勝1敗(-0.141秒差)
平均で0.1秒速い。
続いてガスリーを角田と比較する。
2021年:vs 角田 12勝0敗(-0.516秒差)
2022年:vs 角田 4勝4敗(-0.086秒差)
角田が適応した2022年で見れば、0.1秒速い。
次にペレスをストロールと比較する。
2019年:vs ストロール 17勝1敗(-0.259秒差)
2020年:vs ストロール 8勝1敗(-0.200秒差)
平均で0.2秒速い。
これらを表6に組み込むと表1が完成する。
分析・執筆:Takumi