• 2024/4/27 16:25

2023年サンパウロGPレビュー Part1 ~アロンソ、驚異のバトルスキル~

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 長いF1シーズンも残り3戦。今回はお馴染みのインテルラゴス・サーキットで行われたサンパウロGPを、データを交えながら分析的な視点で振り返っていこう。コーナー名については下記リンクのサーキットデータをご参照いただきたい。

サーキットデータ

F1公式 レースハイライト

Pirelli公式 各ドライバーのタイヤ戦略

初心者のためのF1用語集

1. 要所を制して勝ちに繋げるフェルスタッペン

 今回もフェルスタッペンがポールから逃げ切り、余裕のポールトゥフィニッシュのように見えた。

 しかしノリスとのラップタイムを比較すると、レースはどちらに転んでもおかしくなかったことがわかる。図1に両者のレースペースを示す。

図1 フェルスタッペンとノリスのレースペース

 第1スティントでは、8周目にノリスがフェルスタッペンに対して仕掛けたが、フェルスタッペンが巧みにブロック。そこからノリスはペースを落としてフェルスタッペンとの間隔を取った。しかしそれ以降の両者のペースはたったの0.1秒であり、その差は第2スティントでも継続している。

 今季のフェルスタッペンは、USGPでも見られたように、絶対的なペース上はそこまで大きなアドバンテージがない時でも、レースの要所要所を押さえて、RB19を勝利に導いてきた。今回のレースでも、スタートと8周目の場面でその強さを発揮したことが勝利へと結びついた。

参考:レースペース分析

2. 応用自在のアロンソのバトルスキル

 今回はアストンマーティンの競争力が戻ったことで、久々にアロンソのバトルスキルの巧さを上位争いで見られることとなった。

2.1. スプリントレースでのクリエイティブな奇襲

 まずスプリントレースでは、14~15周目にかけてのガスリーとのバトルが見事だった。

動画:F1 Sprint Highlights | 2023 Sao Paulo Grand Prix

 動画の4:08からがその模様だ。

 まず、サインツを追っていたリカルドが、ピアストリにその隙を突かれる。ここで速度が落ちたリカルドの煽りを食らったのが後方のガスリーで、アロンソは間合いを見切ってなんとターン12でインに飛び込んだ。

 このコーナーの脱出速度がホームストレートでの速度を決め、それがターン1での攻防の勝敗を決する。したがって、ターン12では各車が立ち上がりを重視したラインを取るのがセオリーであり、バトル関係となれば尚更だ。その裏をかいたのがアロンソの動きで、これは見事としか言いようがない。

 DRSトレイン状態になると、先頭以外の全車がDRSを使っているため、オーバーテイクが極めて難しくなる。したがって、アロンソの位置ではこのような奇襲によって突破口を見出すしかなかったというわけだ。

 そしてアロンソは、リカルドの0.6秒以内にとどまり、DRSを使ってガスリーに応戦。ストレート上でガスリーに一度先行を許すも、ターン1ではインを突く。しかし、ここで前に出るのではなく、小さく回ってターン2でガスリーがイン側から追い抜いていくのを許し、立ち上がりを重視。ターン3でアウトから並びかけると、リカルドのスリップストリームを使いながら加速し、ターン4でアウトから抜き去った。

 ターン12での奇襲から始まったこの一連の流れは、まさにF1をモータースポーツの頂点たらしめる至高のバトルだった。

2.2. 卓越したレースクラフト

 レースではペレスとの白熱したバトルを制し3位に入ったアロンソ。そのレース巧者ぶりは第2スティントから発揮されている。

図2 アロンソとペレスのレースペース

 アロンソは第2スティント序盤でペースを上げないようにしており、少しずつタイムを伸ばしている。そして、ペレスが1.5秒以内に入り始めた33周目付近からはさらにペースを落とし、ペレスにダーティエアを浴びせる走りをしているように見える。そしてその間に自身のタイヤを労っておき、スティント終盤には猛プッシュ。ペレスとの差を3.8秒とし、アンダーカット圏外へと押しやった。

2.3. 白熱のバトル

 ただし、第2スティントのアロンソはペレスより5周新しいタイヤを履いており、これによって0.4秒ほどのアドバンテージがあったことも忘れてはいけない。したがって、タイヤの差が1周分しかない第3スティントではペレスの攻勢が一気に増すことは容易に想像できた。しかし、その中でアロンソは、ターン12をワイドに走る独特のラインで、最終コーナーからホームストレートでの速度を高めつつ、ペレスを抑え込み続けた。

 だが、ペレスも黙ってはいない。図3にペレスの68周目と69周目を比較するテレメトリデータを示す。

図3 ペレスの68周目と69周目の比較(created on F1 Tempo

 ターン9の立ち上がりからターン11にかけて(赤丸で囲った部分)、前周を大幅に凌ぐスピードを見せており、これにより最終コーナーの立ち上がりでアロンソの0.546秒差につけることに成功した。前周まではこれが0.8秒前後の差であったことを考えると、この時点で勝負アリ。アロンソも抵抗したものの、オーバーテイク成功となった。

 しかし、ここからはアロンソの真骨頂が発揮される。

 アロンソの逆転の第一手はターン6の進入でアウトに並びかけ、ペレスにブロックラインを取らせたことだろう。これにより、後ろのドライバーの不利が大きくなる高速コーナーのターン6,7で離されずに済んだ。

 そして低速のインフィールドセクションでは、非常にアグレッシブなスロットルワークでペレスについて行くと、ターン12の立ち上がりでは0.718秒差に。微妙な距離だ。

 ここでペレスは、ターン1でアロンソが飛び込んでくることを警戒。進入でイン側をブロックした。しかしこれにより立ち上がりが厳しくなり、アロンソはターン3の立ち上がりでペレスのスリップストリームへ。DRSを使いバックストレート上でペレスの前に出ることに成功した。

 さらにターン4へのブレーキング直前にペレスの前を横切りイン側をブロック。この辺りの空間認知能力も並外れている。

 これによりアロンソは久々の3位表彰台を獲得した。後半戦では戦闘力の低下が心配されていたアストンマーティンだったが、今回はアロンソのみならずストロールも優れたパフォーマンスを見せ、大躍進を遂げた。新進気鋭のこのチームが残り2戦、そして来年はどこまで成長するのか?そんな楽しみが再燃するブラジルGPだった。

決勝ハイライト動画(5:26より当該バトルシーン)

※明日投稿予定のPart2ではメルセデスの戦略とアルファタウリ角田裕毅の活躍を取り上げる。

Writer: Takumi