• 2024/11/21 15:23

2023年メキシコGPレビュー ~Ifの世界から見えた王者の自信~

  • ホーム
  • 2023年メキシコGPレビュー ~Ifの世界から見えた王者の自信~

 F1は標高の高さによる空気の薄さ、それに伴うダウンフォース不足や冷却不足の問題などが大きなチャレンジとなるメキシコGPへとやってきた。各チームはモナコ並みの分厚いウィングを搭載してきたが、それでもモンツァの90%程度のダウンフォースしか生み出せないという。

 今回は、そんなチャレンジングなメキシコGPのレースを分析的視点で振り返ってみよう。

F1公式 レースハイライト

Pirelli公式 各ドライバーのタイヤ戦略

初心者のためのF1用語集

1. Ifの世界

 スタートを決めて1周目でトップに立ったフェルスタッペン。この時点でほぼ勝利の半分以上は手繰り寄せていたが、そこから2ストップ戦略を選択したのは興味深かった。

 今回はレース半ばで赤旗が出てしまったことで、2ストップのフェルスタッペン vs 1ストップのルクレールという構図が見られなくなってしまった。今回は、仮に赤旗がなかった場合のシミュレーションを行なってみよう。

 図1にフェルスタッペンとルクレールのギャップグラフを示す。ルクレールはフェルスタッペンより0.2秒遅い前提だ。(先に行ったレースペース分析では、レース前半のルクレールはフェルスタッペンの0.2秒落ちだった)

図1 フェルスタッペンとルクレールのギャップシミュレーション

 フェルスタッペンが19周目にピットに入ると、タイヤの差を活かしてあっという間に差を埋めていく。その後ルクレールが入ると、今度はルクレールが差を詰める。そして、45周目にフェルスタッペンが2度目のピットを終えると、再びタイヤの差を活かして追い上げていき、55周目で逆転する計算だ。

 ちなみに、実際のレースで赤旗前にルクレールがピットを終えて戻った位置は、フェルスタッペンの17秒後ろで、このシミュレーショングラフとほぼ一致している。

 したがって、赤旗がなかった場合には、少なくとも残り15周付近までルクレールがトップを走っており、もう少し面白みのある展開になっていたと考えられる。

 ただし、フェルスタッペン陣営が2ストップを選択できたのは、土台となるペースに自信があったからだ。ここで、図2にルクレールが同条件でフェルスタッペンと同等で走れるペースを有していた場合のシミュレーショングラフを示す。

図2 フェルスタッペンとルクレール(-0.2s)のギャップシミュレーション

 逆転は最終ラップとなり、非常にタイトな争いになるという結果が出た。それならば、トラックポジションの優位性を活かしてルクレールと同じ戦略を採用した方が勝率は上がる。

 このように、フェルスタッペンのライバル勢に対する地力のペース差が、変幻自在の戦略を可能にしており、それがレースに存在する様々なリスクから彼らを守っていると言えるだろう。この構図は1990~2000年代のシューマッハ&フェラーリのそれと似ており、チーム全体で勝利を手繰り寄せている状況では、ライバルチームにとっては打つ手なしとなってしまう。

 新記録となるシーズン16勝も、来シーズンには自身の手であっさり更新してしまうのではないか?と思えるほど、現在のフェルスタッペンとレッドブルの組み合わせは手のつけようがない。まさに一つの時代を築いていると言えるだろう。

2. 終盤戦のアルファタウリへの期待

 当サイトではタイヤのデグラデーション、フューエルエフェクト、レースの文脈を考慮した、各車の純粋なパフォーマンスの算出を行なっている。先に行った今回のレースのペース分析の結果を図3に示す。また角田のペース考察用に、ノリスと角田のレースペースを図4に示す。

図3 メキシコGPレースペース分析結果
図4 ノリスと角田のレースペース

 リカルドのペースはラッセルとピアストリを上回っており、サインツとも0.1秒差という驚異的なパフォーマンスだった。

 一方、角田のペースは定量的には算出不可能だったが、定性的にはいくつかの事が言える。

 まず第2スティントでは、スティント前半で同じハードタイヤのノリスについていくことができたが、赤旗前にノリスがペースアップしているのに対し、角田はペースを落としていっている。ちなみに、その他の速いラップはオーバーテイク時のDRS使用の影響もあるが、赤旗前のラップについてはそれがなく、純粋なペースを反映している。

 以上を踏まえると、ノリスの方が2周分(デグラデーションを0.10[s/lap]とすると0.2秒相当)新しいタイヤを履いていたことを考慮しても、流石にノリスと互角とまではいかないことが分かる。

 一方で、第3スティントでは、ハードタイヤの方が有利だったとは言え、ピアストリに対する攻勢は見ての通りだ。よって悪くてもピアストリと互角、あるいはレースペースが上だった可能性もある。

 となると、角田のレースペースもリカルドと近い所(±0.1秒程度?)にいたことになり、2台揃っての素晴らしいペースは非常に勇気づけられるものだっただろう。特にリカルドは予選で4番手を獲得しており、予選とレースを両立するセットアップが課題だったアルファタウリにとっては、明らかに希望が見えてきている。

 コンストラクターズランキングも8位に上がり、残り3戦に向けて最も明るい展望が開けているチームかもしれない。

3. 別れた明暗

 今回は、最後尾から前述の好ペースで追い上げ、赤旗の幸運もあって大チャンスをものにするかと期待された角田。しかし、ピアストリをオーバーテイクする際に接触し、上位争いから脱落してしまった。

 この時角田は、ブレーキングに入った時点で横にピアストリがいる状態にも関わらずステアリングを切って、ターン1のエイペックスを手前に取るようなラインで進入していってしまっている。こうなると接触は避けられない。

 ちなみにこの時、ピアストリが引くことはできない。ピアストリとしては、ラインを変えようと思えば、ブレーキを弱める必要がある。タイヤのグリップが全てブレーキングに使用されている状態で、横方向の曲げる力を加えることはできないからだ。そうなればターン1で止まりきれなかっただろう。

 そのケースは2001年のオーストリアGPで見ることができる。シューマッハがブレーキングでモントーヤを牽制したことで、モントーヤが止まれなくなり、結果的にシューマッハを押し出してしまった案件だ。

動画:Schumacher And Montoya Battle In Austria | 2001 Austrian Grand Prix (1:16~)

 また、接触後も57周目まではクリアエアでの走行だ。図4を見ると、その間もタイムが安定していない。ダメージがあった可能性もあるため、絶対的なペースの良し悪しに関しては言及しないとしても、こうした接触の次の周から何事も無かったかのように安定したラップタイムを刻む能力が必要だ。この点も、今後角田がキャリアを切り拓いていく上での課題となってくるだろう。

 一方で、同じく後方スタートからの追い上げとなったノリスのレースは見事だった。

 特に赤旗後のリスタートの場面は非常に印象的で、ストレートでヒュルケンベルグとアルボンに挟まれそうになった際に、減速して接触を避けた。これによって順位を4つも下げてしまったが、ここで引かなければ5位は無かったことを考えれば、この判断が正解か否かは問うまでもないだろう。

 その後もライバル勢を次々と交わしていったが、アグレッシブでありながら、リスクマネジメントもできており、ドライバーとしての完成度を遺憾なく披露した。

 ちなみに、このノリスとバトルを演じたリカルドも素晴らしかった。ターン4~6にかけてのバトルは非常にクリエイティブで接近していたが、フェアに戦った。そして最終ラップではラッセルとサイドバイサイドまで持ち込んだが、引くところは引き、確実に7位(6ポイント)を持ち帰った。6位が目の前にある状態で冷静な判断ができる点は素晴らしく、明らかに角田にとって良いロールモデルになるだろう。今後3戦、チームメイトとして角田がリカルドから何を学び取るか、楽しみにしたい所だ。

Writer: Takumi