• 2024/4/25 18:02

2021年ハンガリーGPレビュー(1) 【オコン初優勝の8つのカギと驚異のアロンソ】

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 屈指のコーナリングサーキットと言われるハンガロリンク。各チームが最高レベルのダウンフォースで望むGPで勝利を掴むのはレッドブルか?メルセデスか?そんな予想を大きく覆す大荒れの展開となったハンガリーGPをグラフを交えて紐解いていこう。

各ドライバーの使用タイヤはこちらのピレリ公式より
本文中ではソフト=S、ミディアム=M、ハード=H、インターミディエイト=Iと表記する。

目次

  1. オコンの初優勝
  2. アロンソの見事なレース
  3. 用語解説

1. オコンの初優勝

 今回の目玉はなんといってもオコンの初優勝だろう。この勝利にはいくつかの要因がある。

 1つ目は予選でアロンソを上回り8番手につけたこと。これによって結果的ではあるが1周目のアクシデントを避けられる位置につけた。
 そして2つ目はもちろん、そこから1周目の混乱をすり抜けて2位に上がったこと。これは幸運の要素が大きいが、オコン自身も不要なアクシデントを起こさなかった。
 そして3つ目はリスタート時にインターミディエイトからドライのミディアムタイヤに履き替えたことだ。メルセデスのトトウォルフが言うように、後方のドライバーたちがピットに入らなければ好位置を手放すことになる。にも関わらず正しい判断を下せたことは、アルピーヌのチーム力の高さを示唆している。ここでステイアウトを選択したハミルトンが脱落し、トップに立った。
 さらに4つ目はラティフィが3番手に上がったことで、その後ろの集団との差が大きく開いたことだ。ハミルトンを始めとする速いマシンたちが抑え込まれたことは非常に大きかった。

 そして5つ目は第1スティントのペースマネジメントだ。図1にオコンとベッテルのレースペースを示す。

画像1を拡大表示

Fig.1 オコンとベッテルのレースペース

 ここはベッテル視点で見てみよう。ベッテルはオコンに対して終始接近し、オーバーテイクのチャンスを伺っていたように見える。事実、第1スティント前半は基本的にDRS圏内におり攻勢だった。しかし25周目付近で差がつくとオコンのペースアップについて行けずジワジワと広げられピットストップ前に2.7秒の差がついてしまった。対するオコンはスティント前半でタイヤをマネジメントし、26周目付近から一気にペースアップした。ベッテルがやるべきだったのはスティント前半でオコンと距離を置きタイヤを労って、ピットストップ前に可能な限り接近してアンダーカットを狙うことだったのではないだろうか?

 ここでベッテルのアンダーカット圏内から逃げたオコンだったが、これだけでは十分ではなかった。ここで6つ目の要因、ベッテルのピット作業の遅れだ。ベッテルのストップは3.3秒とオコンの2.3秒に対して1.0秒損していた。オコンがピットストップを終えた際の位置関係を考えると、作業時間が同等ならターン1でサイドバイサイドになっていたと思われる。

 さらに7つ目は第2スティントでもベッテルが常に背後にいたことだ。アロンソやハミルトンがしばしば見せるように、オーバーテイクが難しそうなら後ろに下がってタイヤをマネジメントし、相手との差を生み出してから再度仕掛けると言うのも定石だ。結果論のような部分もあるが、ベッテルとしては普段ハミルトンがやっているようなメリハリの効いた攻撃をした方が、レース終盤でのオーバーテイクのチャンスを作れたかもしれない。

 そして最後の8つ目はアロンソのハミルトンに対するブロックだ。図2にオコン、ハミルトン、アロンソのレースペースを示す。

画像2を拡大表示

Fig.2 オコン、ハミルトン、アロンソのレースペース

 グラフより、ハミルトンの本来のペースは1:19台前半だったと考えられる。アロンソもサインツに抑えられており実際のポテンシャルは1:21台前半と考えられるが、サインツのダーティエアの中という難しい条件にも関わらず、10周にわたって2秒速いハミルトンを抑え続けたことになる。サインツのDRSを使って逃げることよりも距離をとってダウンフォースを稼ぎ、最終コーナーのスピードを重視するという考え方も見事だった。アロンソ自身はチームからオコンの状況について何も伝えられていなかったものの、観客用のスクリーンを見て、自身の役割を理解したとのことだ。

 このように8つの要因が重なりオコンに優勝が転がり込んだ。幸運とは言え、1つ目と5つ目の要因はオコンの実力で、3つ目、8つ目はチーム力の勝利だ。F3でフェルスタッペンを破りタイトルを獲得した実力者だけに、F1でも成功街道に乗せたいところで、今回の勝利がそのマイルストーンになるかもしれない。

2. アロンソの見事なレース

 前述の通りアロンソはハミルトンとのバトルでレースを大きく盛り上げた。しかし筆者が着目したいのはアロンソのレース全体でのペースだ。レース分析の方で触れた通り、アロンソのペースはオコンを大きく上回っており、実質的なクリーンエアになった23周目での20.7秒差をサインツに追いつく50周目には7秒差まで詰めており、この27周で14秒も(平均1周0.5秒)ギャップを埋めている。レース前半でタイヤを労っていたこともあるだろうが、少なく見積もっても0.3秒はオコンに対するペースアドバンテージがあったと考えられる。

 またハミルトンとのバトルでは、ターン1でブロックラインを取った後エイペックスで敢えて速度を落とすことで自身は車の向きを変え、ハミルトンにブレーキを踏ませることでクロスラインを取らせないという技を見せるなど、見応えのある走りだった。
 しかしハミルトンとのバトルの前からターン1でのラインのブレが数回気になった場面があった。最終的には65周目にそのターン1でややオーバーシュートした所を突かれてしまったが、開幕戦バーレーンでもバトル中にブレーキングで突っ込みすぎていた事から、高速域からのビッグブレーキングにはまだ伸び代があるかもしれないと感じられた。

 とはいえ、あそこまでのペース差のハミルトンを押さえ込むのは尋常なことではなく、限界ギリギリの走りで縦横無尽にブロックした走りは驚異的だった。2022年の新しいレギュレーションで競争力のあるマシンを手にすれば、一躍チャンピオン候補に躍り出ることが容易に想像できるここ数戦の活躍だ。

 Part2ではラティフィを先頭とする集団を、各チームがどう攻略しライバルと戦ったのか見ていこう。

3. 用語解説

ステイアウト:ピットに入らないこと

オーバーテイク:追い抜き

DRS:前車と1.000秒以内にいると使えるオーバーテイク促進システム。DRSゾーンのみ使用ができる。通常1箇所か2箇所に設定される。その少し手前に設定された検知ポイントでタイム差を計測するので、後ろのドライバーにとっては例えサーキットの他の部分で離されようともそこで1.000秒以内に入れるようにすることが重要で、そのためにエネルギーマネジメントを調整する(「ターン15で近づきたいからターン1〜7で充電してターン8〜14で放出しよう」など)。前のドライバーはその逆を考え、裏をかいた奇襲なども考えられる。

スティント:ピットストップからピットストップまで。もしくはスタートから最初のピットストップや、最後のストップからチェッカーまで。スタートから最初のストップまでを第1スティント、1回目から2回目を第2スティント・・・と呼ぶ。

アンダーカット:前を走るライバルより先に新品タイヤに履き替えることで速いラップタイムを刻み、その間摩耗したタイヤで数周走ったライバルがタイヤを履き替えて出てきた際には自分が前に立つ、という戦略。

クリーンエア:前に誰もいない状態。F1マシンの性能はダウンフォースに依存している。したがって高速で走るマシンの後ろにできる乱気流の中では本来の性能を発揮しきれず、前のマシンにある程度接近すると本来自分の方が速くてもそれ以上近づけなくなる。そうした乱気流の影響を受けている状態をダーティエアという。多くのサーキットでは同等のペースでは2秒以内に近づくことは難しい。0.2~0.3秒のペース差があっても1秒以内に近づくのは至難の技だ。

ブロックライン:抜かれないためにコーナー侵入時にインを抑えるライン。小回りすることになるため、出口が厳しくなり次のストレートやコーナーで抜かれるリスクもある。

クロスライン:コーナーで前方のドライバーがインをブロックした際には、アウトから入り、旋回半径が小さくなって出口が厳しくなった前方のドライバーを、コーナーの立ち上がりでイン側に回り込んで抜くテクニック。

オーバーシュート:コーナー進入時にオーバースピードで膨らんでしまうこと。