• 2024/11/21 15:24

2021年オランダGPレビュー(1) 【フェルスタッペンとハミルトンの一騎打ち再び】

  • ホーム
  • 2021年オランダGPレビュー(1) 【フェルスタッペンとハミルトンの一騎打ち再び】

 夏休みが明け、大雨のベルギーGPを実質ノーレースで終えたF1サーカス。今回はフェルスタッペンの地元GPであり、初開催のオランダ、ザンドフールトでの激しいレースとなった。今回は優勝争いに焦点を当てて振り返っていこう。

各ドライバーの使用タイヤはこちらのピレリ公式より

※レース用語は太字部分で示し、記事末尾に用語解説を加筆した

目次

  1. 僅差でもぎ取った25点!
  2. ハミルトンも最後に1点をもぎ取る
  3. 用語解説

1. 僅差でもぎ取った25点!

 図1にフェルスタッペンとハミルトンのレースペースを示す。

画像1を拡大表示

Fig.1 フェルスタッペンとハミルトンのレースペース

 フェルスタッペンは1回目のピットストップ前にハミルトンとの差を3.5秒まで開いている。この大部分は最初の10周程度でついたもので、3秒近い差がついてからはハミルトンがほぼイーブンペースで付いて来ている。3.5秒後方あたりまでは乱気流の影響があるとのことから、如何に予選でポールポジションを取り、クリーンエアでレースを進めることが重要か分かる。

 1回目のピットストップでアンダーカットを防いだフェルスタッペンは、28周目からボッタスの背後に迫るが、30周目に難なく交わした。戦前からオーバーテイクが難しいとの予想があったが、最終コーナー手前からの全開時間が13秒ほどあり、DRSも7秒ほど開いていられるため、モナコよりはオーバーテイクしやすかった事も効いただろう。
 参考までにモナコのホームストレートは約7秒、トンネルは約8秒の全開時間、ハンガリーのホームストレートは約9秒(DRSは8秒)だ。また、全開区間手前のコーナーの速度域は上記3箇所と比べると高いが、後方乱気流が発生しやすいというデメリットの一方で、より強いスリップが効く&DRSの効果が大きいというメリットもある。

 そしてフェルスタッペンは37周目からペースアップし、4周にわたってプッシュ。ここで差が広がったことで、アンダーカット不可能な差になる前にハミルトンはピットに入らざるを得なかった。そしてトラフィックに悩まされるアウトラップのハミルトンを尻目に、フェルスタッペンがポジションキープ。勝負ありとなった。
 この攻防について詳しく考察してみたい。ハミルトンのピットストップ前の2人のギャップは約3.1秒。そしてハミルトンのアウトラップはフェルスタッペンより1.0秒遅く、フェルスタッペン合流時のタイム差は3.1秒だった。トラフィックなし&ピットストップがフェルスタッペンと同等だったとしても、2.1秒の余裕を持ってフェルスタッペンが制していたことになる。この場合ハミルトンは1.0秒しかゲインできておらず、アンダーカットの有効性がこの時点では小さかった。周回が進みタイヤが性能低下すればするほどアンダーカットの有効性は増す。
 メルセデスはリアルタイムでデータを持っており、それがどの程度の数値なのかは把握していたのではないだろうか?だとすると、あまりにも無謀な賭けで、ハミルトンの「タイヤがまだあった」という無線での主張がより妥当に思える。

2. ハミルトンも最後に1点をもぎ取る

 今回メルセデスはボッタスを67周目に入れた。この時点でのファステストラップはハミルトンが持っていたため、一瞬解せない判断に見えたが、これはボッタスを入れることでハミルトンの後ろにフリーストップできる空間を作ることが目的だった。あのまま走れば第2スティント終盤で好ペースを発揮したフェルスタッペンがファイナルラップでファステストラップ1点を獲得していた可能性が高い。

 こうした戦略もチャンピオンシップゲームの一部であり、勝つためには当然の戦略と言える。シルバーストーンでのレッドブルはペレスにポイントを捨てさせてまで、ハミルトンのファステストポイント1点を奪いに行く戦略を実行しており、そちらと比較するとマイルドなものだ。

 ボッタスやペレスの立場としては、こうした展開にならないためにはシーズン前半でポイントを取りチャンピオン争いに加わっている必要がある。ポイントで振り落とされてしまうと、完全にナンバー2として扱われてしまうことが明確に示された2レースと言えるだろう。

 Part2では、ガスリーの大活躍、そして直近数レースで定番になりつつあるアロンソの巧みなレースクラフトなどに着目していこう。

3. 用語解説

クリーンエア:前に誰もいない状態。F1マシンの性能はダウンフォースに依存している。したがって高速で走るマシンの後ろにできる乱気流の中では本来の性能を発揮しきれず、前のマシンにある程度接近すると本来自分の方が速くてもそれ以上近づけなくなる。そうした乱気流の影響を受けている状態をダーティエアという。多くのサーキットでは同等のペースでは2秒以内に近づくことは難しい。0.2~0.3秒のペース差があっても1秒以内に近づくのは至難の技だ。

アンダーカット:前を走るライバルより先に新品タイヤに履き替えることで速いラップタイムを刻み、その間摩耗したタイヤで数周走ったライバルがタイヤを履き替えて出てきた際には自分が前に立つ、という戦略。

オーバーカット:前を走るライバルより後にタイヤを履き替えて逆転する戦略。頻繁には見られないが、タイヤが温まりにくいコンディションで新品タイヤに履き替えたライバルが1,2周ペースを上げられない場合などに起こりうる。路面の摩擦係数が低い市街地やストレートの多いモンツァなどが代表的なトラックだ。

オーバーテイク:追い抜き

DRS:前車と1.000秒以内にいると使えるオーバーテイク促進システム。DRSゾーンのみ使用ができる。通常1箇所か2箇所に設定される。その少し手前に設定された検知ポイントでタイム差を計測するので、後ろのドライバーにとっては例えサーキットの他の部分で離されようともそこで1.000秒以内に入れるようにすることが重要で、そのためにエネルギーマネジメントを調整する(「ターン15で近づきたいからターン1〜7で充電してターン8〜14で放出しよう」など)。前のドライバーはその逆を考え、裏をかいた奇襲なども考えられる。

トラフィック:渋滞。ライバルたちがいて、自分の本来のペースを発揮できない状態を言う。おおよそ前方2秒以内にマシンがいると本来のマシンの空力的性能を発揮できない。

レースクラフト:レースの組み立てのこと。