• 2025/11/12 16:39

2025年USGPレビュー

 2025年F1世界選手権も終盤戦。今回は、高速S字から低速複合コーナー、ロングストレートに急勾配からバンピーな路面と、非常に豊富な要素を持つCOTAで行われたUSGPを振り返ってみよう。


1. フェルスタッペン脅威の追い上げ

 オランダGP終了時点、ポイントリーダーのピアストリと3番手のフェルスタッペンの間には104ポイントの差があった。それが現在では40ポイント。ノリスまでも26ポイント差と、一気にドライバーズタイトル獲得の可能性が高まってきた。

 今回もスプリント予選、スプリント、予選、決勝と完璧に支配し、圧巻のパフォーマンスであった。図1に上位勢のギャップの推移を示す。

図1 フェルスタッペン、ノリスのレースペース

 フェルスタッペンとしては、ソフトタイヤのルクレールが2番手に来たことで、楽になった。とはいえ、フェルスタッペンは角田のペースを第1スティントで1.0秒、第2スティントでタイヤの差を換算した数値で0.8秒上回っており、まさにスーパードライビングと言える走りを見せた。

 さて、ここで気になるのはノリスの真のペースだ。これをどう評価するかで、残り5戦の展望が変わってくる。ノリスがクリアエアを得た23周目から31周目までを見ると、フェルスタッペンより平均で0.137秒速い。ただし、ノリスはルクレールの遅いペースに付き合わされたことでタイヤへの負荷が低減された、という見方もある。マクラーレンのマシンは後方乱気流に強いとされるため、なおさらだ。この場合は、10周目から31周目までのクリアラップ(バトル周を除外)で比較することになり、フェルスタッペンの方が0.102秒速かったことになる。

 真相はおそらくその中間程度で、フェルスタッペンとノリスはほぼ互角のレースペースを有していた可能性が高いだろう。となると、予選パフォーマンスを含めれば、総合的にややレッドブル&フェルスタッペンが上回るものの、マクラーレン&ノリスも戦えないわけではなく、残り5戦でも競争力の面では、極めて接近したものになる可能性が高い。

 ただし、タイトル争いが可能になってきたからこそ、フェルスタッペン陣営としては、シーズン前半での幾つかの失点が気になってしまう。以下に列挙する。

  • マイアミGP(スプリント):アンセーフリリースでポイント圏外へ。本来3位は堅かったため、6ポイントロス。
  • スペインGP:ラッセルに接触しペナルティ。本来は5位であったが、10位フィニッシュで、9ポイントロス。
  • イギリスGP:SC明けでスピン。順調ならば3位は堅かったが5位フィニッシュ。5ポイントロス。

 このように自分たちの手で20ポイント失っているのも確かで、2021年以降ほぼ完璧に近いレースを続けてきたレッドブル&フェルスタッペンのコンビネーションにしては、今年はやや乱調となってしまっていた。マシンが劣勢であるが故に余裕が無かったことも影響したのかもしれない。だが、特にスペインGPでの接触によるロスは、本来は避けられたものであり、仮にアブダビで9ポイント差でタイトルを逃した場合は、後悔が残るかもしれない。

 いずれにせよ、過去の失敗を取り返すことはできない。逆にそれを糧とするからこそ得られる成長もある。彼らは間違いなくそのようなマインドを持った存在だろう。残り5戦で伝説を作ることができるのか。非常に興味深い展開になってきた。


2. ピアストリの危機

 心配なのがピアストリだ。

 図2にフェルスタッペンとピアストリのレースペースを示す。

図2 フェルスタッペン、ピアストリのレースペース

 ピアストリは、ほぼ終始クリアエアであったが、第1スティントではフェルスタッペンから0.7秒落ちのペースしか発揮できなかった。また、第2スティントでもハミルトンを追う展開でありながら、後ろを見てレースをしていたはずのフェルスタッペンのペースから明確に遅れ、タイヤの差を換算しても0.4秒落ちのペースしかなかった。ノリスがフェルスタッペンと互角のペースを示したことを考えると、これは明らかに物足りない。

 アゼルバイジャンGPではスタートミスからのクラッシュ。シンガポールでもレースペースでフェルスタッペンとノリスのバトルに絡んでいくことができなかった。今回USGPのスプリントのスタートでも、多重クラッシュの責任がピアストリにあるわけではないが、タイトル争いをする者としては、あの場面でのクロスラインはあまりにもリスキーな選択であった。実際に2022年にサインツが同じやり方で痛い目にあっているだけに、本来ならば避けられたはずだ。

 この一連のピアストリの複数の側面での不調から思い起こすのは、2010年のウェバーだ。図3に2010年のタイトル争いのポイントの推移を示す。

図3 2010年のタイトル争い

 ウェバーは第13戦ベルギーGPまでタイトル争いを優位に進めた。しかしその後はシンガポールGPの予選での不調や雨の韓国GPでのクラッシュ、アブダビGP予選でのペース不足を始めとし、ポイントを積み重ねることができず、最終的にはランキング3位でシーズンを終えた。

 そのウェバーがマネジメントを務めるのがピアストリだ。精神性が身近にいる者から伝播することは十分にあり得る。ピアストリがタイトル獲得に向けて最後にクリアすべき試練が、今訪れているのかもしれない。


3. F1レースの世界モデルを獲得せよ

 前戦シンガポールGPでは、トラック上の激しいバトル(アントネッリ、アロンソ、サインツらのオーバーテイクショウなど)を映さずに、関係のない箇所や、あろうことかピットガレージで見守るセレブやドライバーのガールフレンドらを映し続け批判が殺到したFOM。

 今回はそこまで決定的なシーンを逃していたわけではないが、やはりレースの本質を理解していないと思われる場面があった。それは34周目のベアマンのハーフスピンからの一連の流れだ。

 まずはベアマンが角田とのバトルの中でダートに4輪ともはみ出し、そこからハーフスピンを喫する。しかしなんとかヒュルケンベルグの直前で踏みとどまり、最終コーナーを立ち上がったところで、角田とのバトルのリプレイに切り替わる。

 これは長年レースを見ていればあり得ない判断だ。ベアマンは完全にタイヤが汚れている状態で、ヒュルケンベルグにとって、この直後に控えるターン1はオーバーテイクの大チャンスだったからだ。そして案の定、映像が元に戻ると、ヒュルケンベルグがベアマンの前に出ていた。

 国際映像を的確にスイッチングを的確に行うには、次に何が起きるかを予測しなければならない。そして「予測できること」と「理解していること」は機能的に等価だ。国際映像のディレクターには、圧倒的なデータ量(経験)から瞬時に最適解を弾き出せる「レース理解能力」が求められる。それは正にフェルスタッペンやアロンソのようなドライバーが有しているものだ。FOMのディレクターにも是非、経験を積んで、その領域に達してもらいたい。それがあって初めて、我々視聴者はサーキットで繰り広げられる無数の駆け引きを余すことなく享受し、F1というスポーツの奥深さを真に味わうことができるのだ。


4. 次戦への展望

 次戦はメキシコGP、長いストレートと多数の低速コーナーが特徴だが、中高速のS字もある。また、高地ゆえの空気の薄さから、ダウンフォースが極端に少なく、冷却面でも厳しいため追走が難しい。このように極めて特殊なトラックであるため、勢力図は読みづらい。

 しかし、だからこそ単なるマシンの性能と特性だけでは決まらないとも言える。セットアップを合わせこむこと、そしてターン1までの長い先陣争いを制すること。そこには多少の運(コントロール不可能で再現性がない要素)も影響するだろう。フェルスタッペンにとって更なる逆転への足がかりになるのか。それとも、試練の時を迎えているマクラーレン勢が、再度流れを手繰り寄せるのか。タイトル争いの行方を占う上で、極めて重要な一戦となるだろう。

Takumi, ピトゥナ


インタラクティブグラフ

 ご自身の視点でさらにデータを深掘りしたい方向けに、操作可能なグラフを用意した。

 このツールでは、**「ペースグラフ」と「ギャップグラフ」**の二種類が利用でき、ボタン操作で見たいドライバーだけを自由に選んで表示できる。

 特にラップタイムグラフには、レース状況を理解しやすくするための工夫が施されている。

  • 塗りつぶしの点:前が空いている状態(クリアエア)でのラップを示す。
  • 白抜きの点:前のマシンの影響下(ダーティエア:前方2秒以内)にあるラップを示す。

 この色分けによって、各ドライバーがどのような状況でそのタイムを記録したのかが一目で把握できる。

 また、グラフ右上のボタンからは、画像のダウンロードやグラフの拡大・縮小(ズーム)も可能だ。分析の補助として、ぜひご活用いただきたい。

Race Lap Time Interactive Graph

Lap Times

Drivers:

Gap to Leader

Takumi, ピトゥナ