• 2024/4/27 15:16

2023年イタリアGPレビュー 〜フェルスタッペンに見る現象と本質〜

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 超高速サーキットとして知られるモンツァ。今年も晴天の元、1時間13分41秒というあっという間のレースが行われ、2番グリッドからフェルスタッペンが逆転優勝を飾った。

 今回も各車の戦いぶりをデータを交えて振り返っていこう。

1. 二つの視点

 今回のフェルスタッペンのサインツに対する攻めを見て、「変わったな」と思われた視聴者も多いのではないだろうか。

 サインツに対して無理な攻めは決してせず、レース終盤にペレスがパラボリカでラインを変えていたシーンと比べても、フェルスタッペンの攻略は極めて「普通」だった。ターン1でも無理にインサイドにねじ込むようなこともしなかった。

 特筆すべきは、6周目のターン1での攻防だ。アウトから並びかけ、ターン2でインを取ろうとするが、サインツに引く気がないことを察知すると、すぐさま引いて接触を避けた。

 これと似たような形になったのが2021年のイタリアGP、フェルスタッペンvsハミルトンのバトルだ。この時フェルスタッペンは今回とほぼ同じ位置におり、引かずに接触。両者リタイアとなった。

 すなわち、2021年はハミルトンに対して非常に強引なツッコミを行なっていたフェルスタッペンが、現在では非常にコンサバティブなアプローチを採っている。したがってフェルスタッペンは当時とは真逆に変わったと言うことができるだろう。

 しかし一方で、変わっていないと見る視点もある。それは彼が今も昔も大きなピクチャで物事を見ているということだ。今のレッドブル&フェルスタッペンのパッケージは1コーナーを5番手以内でノーダメージで通過すれば、そしてレースを通して彼らの「普通」を発揮すれば、ほぼ勝てる程の出来だ。したがって第1スティントでリアタイヤに苦しむライバルとバトルする際にリスクを負う必要は皆無だ。

 一方、2021年のメルセデス&ハミルトンは非常に競争力が高く、フェルスタッペンにとってはハミルトンと並んだ際に引くことはできなかっただろう。逆にハミルトンに引かせるということを、ポイントランキング上での関係も考慮しつつ、ある程度計算してやっていたのではないだろうか?当時のレースを振り返ると、フェルスタッペンは既にレースの全体像を見渡せるドライバーだった。

 もちろん現在の方がその能力に磨きが掛かっているとは思われるが、今後フェルスタッペンが2021年と同じような状況に立たされた時に、今回のレースのようなアプローチを採るか?と言われれば疑問符が残る。したがって、フェルスタッペンは2年前と大きく変わったとも言えると同時に、本質的には変わっていないとも言えるだろう。

 いずれにせよ、ここまでの競争力の高さと、全体像の把握に基づく適切な判断力が両立されていると、10連勝という記録もまだまだ続いていきそうな予感さえする。

 ちなみに、図1に示す通り、サインツは最初はフェルスタッペンに対抗するべくハイペースで飛ばしていたが、スティント終盤で交わされてからはフェルスタッペンの1秒落ち程度になってしまっており、タイヤがかなりタレていることが伺える。

図1 フェルスタッペンとサインツのレースペース

 ここ数年のレースを見ていても、フェルスタッペンは相手のDRS圏内でプレッシャーを掛けつつも自身のタイヤを労る能力に長けているように見える。筆者は2019年モナコGPからそれを感じ始めており、最近ではベルギーGPの序盤は(やや短いが)それに近かった。

 オーバーテイクに定評のあるフェルスタッペンだが、その本質はタービュランスの中でのドライビングの巧さなのかもしれない。それによってライバルの真後ろでプレッシャーを掛け、自身はタイヤを労りつつ、相手のタイヤを痛めつけることができる、そんな風にフェルスタッペンの強さを別の視点から眺めることも、また興味深いだろう。

2. ディフェンスの名手

 2022年以降のマシンでは追い抜きが容易になった。しかしアルボンを抜くのは非常に難しいようで、カナダGPに続き、ここモンツァでもディフェンス能力で一際輝きを放った。

 確かにウィリアムズはストレートの速いマシンだが、それだけでは後方から迫るライバルを抑えることはできない。パラボリカでライバルを引き離し、高い脱出速度で抜けていってこそ可能なことだ。モントリオールではヘアピンという低速コーナーの立ち上がりが重要だったのに対し、ここモンツァでのパラボリカは中高速コーナーだ。ディフェンスのために求められる要素はかなり異なるが、アルボンとウィリアムズのパッケージはその両方に優れていた。

 さらに、アルボンのもう一つの長所はタイヤマネジメントが非常に上手い点だ。ドライバーとマシンが完璧でも、タイヤが崖に達してしまえば、ポジションをキープすることはできない。しかしアルボンは、カナダでもここモンツァでもロングスティントを走ることができた。

 そしてアルボンの特筆すべき所はミスをしないことだ。今回の上位勢のバトルを見ていれば分かるように、もはや2021年までのF1とは様相が異なる。2022年以降のグランドエフェクトカーでは、ほんの少しのミスで後方のライバルにポジションを奪われてしまうい、ディフェンス側にとってはよりチャレンジングになった。

 今季残りの8戦でも、アルボンのエキサイティングなディフェンスが見られるか、注目していきたい。

Writer: Takumi