• 2024/4/27 02:19

2021年フランスGPレビュー(2) 【今回も接戦の中段争い! ”フェラーリ勢が失速”】

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 毎回のように大接戦が続いている中段争い。今回も予選から激しい戦いが繰り広げられた。

各ドライバーの使用タイヤはこちらのピレリ公式より

※レース用語は太字部分で示し、記事末尾に用語解説を加筆した

目次

  1. 予選が課題も依然トップはマクラーレン
  2. フェラーリ大失速
  3. 角田は経験を積むことを最優先
  4. オーストリア2連戦へ!
  5. 用語解説

1. 予選が課題も依然トップはマクラーレン

 予選ではノリスがフェラーリのサインツやアルファタウリのガスリーに0.4秒差をつけられ、不調かと思われたマクラーレン勢だったが、レースでは見事に復調した。図1にリカルドと順位を争ったガスリー、アロンソのレースペース、図2にノリスとリカルドの比較を示す。

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Fig.1 リカルド、ガスリー、アロンソのレースペース

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Fig.2 リカルドとノリスのレースペース

 ノリスは第1スティントで前が開けてから24周目まで引っ張る効率的な1ストップ、対してリカルドはガスリーをアンダーカットするために16周目に入り、戦略を分けてきた。
 今シーズンの傾向通りノリスの方がペースが良く、タイヤの履歴の差も相まって、コース上でズバズバと集団を交わしていく。

 リカルドは同じような戦略のガスリーやアロンソに対してペースの面で劣勢だったが、どうにか抑え切った格好だ。

 アロンソのハードタイヤでのスティントは非常に競争力が高く、逆にいえばミディアムでは本来の力を出せていなかった。とはいえ、見た目よりは悪くなく、大きなドロップオフが見られたサインツ、その後方でDRS圏内に入れなかったガスリーらと変わらないラップタイムだった。マクラーレン勢やベッテルとバトルする際にタイムを失ったことで、実際よりも離されたように見えていたと考えられる。

2. フェラーリ大失速

 予選ではサインツが5位を獲得し、好調に見えたフェラーリ。しかしレースが始まると目も当てられない内容となった。ルクレール曰く「3〜4周でひどいデグラデーションが起きる」とのことで、ラップタイムにもそれが現れていた。図3にサインツとリカルドの比較を示す。

画像3を拡大表示

Fig.3 リカルドとサインツのレースペース

 第1スティントではサインツが走りはじめは好ペースを見せるものの、その後激しいドロップオフが見られる。第2スティントでは29周目からがクリーンエアだが、リカルドにじわじわ離され、ガスリーやアロンソらに続々とオーバーテイクされていった。ルクレールはさらに悲惨な状況だった。

 フェラーリ勢はモナコやバクーなど市街地での予選で速く、タイヤへの熱入れに優れたマシンだと推測できる。したがってレースではタイヤに厳しいマシンになってしまっており、今回のようにストレートが長くタイヤが冷えたところに負荷の大きなコーナーが待ち構えるトラックでは尚更グレイニングが進んでしまうのかもしれない。

3. 角田は経験を積むことを最優先

 注目が集まるアルファタウリの角田だが、今回は非常に残念な内容となってしまった。

 まず予選でのクラッシュはいただけない。例えば「1回目のアタックが終わって脱落圏内ギリギリだった場合の2回目のアタック」だったら捨て身で行くべきだ。だが、1回目のアタックのターン1でクラッシュしてしまっていては、今彼に最も必要な「経験を積むこと」ができなくなってしまう。

 おそらく前戦のレビューで言及したように、本人としては攻めているつもりではなくても、平常心の乱れなのか、「本人が思っている場所と違う場所で実際のブレーキ、ステアリング、アクセル操作を行っている」という状況だろう。
 こうした事はサーキットではよくあることだが、超人揃いのF1ではこれを極限まで減らさなければならない。このためには、物事の考え方や捉え方に関して成熟した方法論があり、そういった事をマルコ氏やトスト氏、さらにはエンジニアやガスリーらから吸収していくことが有効だというのが筆者の一個人としての意見だ。考え方が成熟すれば、それは精神面に良いフィードバックをもたらし、どのような状況でも正確な操作を行うことができるのではないかと考えている。

 今回はレースペースも良くは無かった。以下に角田とガスリーの比較を示す。

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Fig.4 ガスリーと角田のレースペース

 第1スティントは前にストロールやライコネンがおり参考にはならないが、第2スティントでガスリーと大きな差がついてしまった。スティントの後半でタイヤがタレてしまいタイムが伸びず、ラッセルにオーバーテイクを許してしまった。
 ただしレースを走りきり、こうしたタイヤマネジメントの課題を洗い出せたことは、前述の通り最も重要な「経験」の点でポジティブな要素だったと言える。

4. オーストリア2連戦へ!

 ヨーロッパラウンドに帰ってきたF1サーカスは舞台をフランスからオーストリアに移す。かつては高温の条件でメルセデス勢が失速したが、今季のメルセデス勢はタイヤのウォームアップに課題を抱えているので、逆に「涼しければレッドブル、暑くなればメルセデス」という構図になるかもしれない。

 オーバーテイクもしやすく、タイヤマネジメントも一筋縄ではいかないトラックで何が起きるか。グリーンシグナルが待ちきれない。

5. 用語解説

スティント:ピットストップからピットストップまで。もしくはスタートから最初のピットストップや、最後のストップからチェッカーまで。スタートから最初のストップまでを第1スティント、1回目から2回目を第2スティント・・・と呼ぶ。

アンダーカット:前を走るライバルより先に新品タイヤに履き替えることで速いラップタイムを刻み、その間摩耗したタイヤで数周走ったライバルがタイヤを履き替えて出てきた際には自分が前に立つ、という戦略。

オーバーカット:前を走るライバルより後にタイヤを履き替えて逆転する戦略。頻繁には見られないが、タイヤが温まりにくいコンディションで新品タイヤに履き替えたライバルが1,2周ペースを上げられない場合などに起こりうる。路面の摩擦係数が低い市街地やストレートの多いモンツァなどが代表的なトラックだ。

DRS:前車と1.000秒以内にいると使えるオーバーテイク促進システム。DRSゾーンのみ使用ができる。通常1箇所か2箇所に設定される。その少し手前に設定された検知ポイントでタイム差を計測するので、後ろのドライバーにとっては例えサーキットの他の部分で離されようともそこで1.000秒以内に入れるようにすることが重要で、そのためにエネルギーマネジメントを調整する(「ターン15で近づきたいからターン1〜7で充電してターン8〜14で放出しよう」など)。前のドライバーはその逆を考え、裏をかいた奇襲なども考えられる。

デグラデーション:タイヤのタレ。1周あたり〜秒という表現が多い。使い方次第でコントロールできる。

クリーンエア:前に誰もいない状態。F1マシンの性能はダウンフォースに依存している。したがって高速で走るマシンの後ろにできる乱気流の中では本来の性能を発揮しきれず、前のマシンにある程度接近すると本来自分の方が速くてもそれ以上近づけなくなる。そうした乱気流の影響を受けている状態をダーティエアという。多くのサーキットでは同等のペースでは2秒以内に近づくことは難しい。0.2~0.3秒のペース差があっても1秒以内に近づくのは至難の技だ。

グレイニング:ささくれ摩耗。正常摩耗がタイヤの表面が発熱によって溶けていくのに対し、グレイニングはタイヤが冷えた状態で負荷がかかることで消しゴムのように削り取られてしまう現象を指す。スローペースで走っていると回復してくることもある。

オーバーテイク:追い抜き

タイヤマネジメント:タイヤを労って走ること。現在のピレリタイヤは温度は1度変わるだけでグリップが変わってくる非常にセンシティブなものなので、ドライバーとエンジニアの連携による高度な技術が求められる。基本的にはタイヤマネジメントが上手いドライバーやチームが勝者となりチャンピオンとなることが多く、最も重要な能力と考える人も多いだろう。