• 2024/4/27 18:24

2022年オーストリアGP レビュー(1)〜ルクレールvsフェルスタッペンの頂上決戦再び!〜

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※22:25追記:2.1.最終段落を追記

 ルクレールとフェルスタッペンの一騎打ちで始まるも、フェラーリの信頼性や戦略・戦術の問題によってポイント上ではフェルスタッペンが大量リードを築いて迎えた第11戦オーストリア。ここでは久しぶりに主役の2人がコース上でギリギリのバトルを見せた。今回もグラフを交えて激闘の軌跡を振り返っていこう。

 初心者向けF1用語集はこちら

1. ルクレールの完勝劇を紐解く…

 最終的にはVSCの影響で戦略の旨味が無くなった上に、スロットルのトラブルにまで見舞われ薄氷の勝利となったルクレール。しかしそこまでの内容は完勝だった。

 レースのあらすじの振り返りは他サイトに任せるとして、当サイトでは2人のレース内容を紐解き、考察していくことにフォーカスしよう。まずはフェラーリの2人とフェルスタッペンのレースペースを図1に示す。

図1 ルクレール、フェルスタッペン、サインツのレースペース

 ミディアムタイヤの第1スティントで、ルクレールはフェルスタッペンを交わしてからペースを上げており、しかもラップタイムが横ばいとなっている。これはデグラデーションがフューエルエフェクトと同値の0.05[s/lap]であることを意味し、激しく右肩下がりとなってしまったフェルスタッペンと明確な差があることが読み取れる。

 一方ハードに履き替えてからの力関係は、戦略の差と両者のタイム推移の傾向など諸々の理由により、単純に計算しようとすると精度に問題が出てくる。そこで当サイトでは両者の力が互角とした場合のシミュレーションモデルを作成し、現実との差から2人の実力差を計算した。

 計算内容は別ページ(ルクレールとフェルスタッペンのハードタイヤでの競争力分析)にまとめた。結論としては、ルクレールはハードでもフェルスタッペンより0.2秒上回り、デグラデーションも0.01[s/lap]少ないという素晴らしい出来だった。

 開幕からルクレールは、フェルスタッペンに対し予選で7勝0敗(平均0.257秒差)で来ていたが、今回初めて負けた。赤旗の影響があったにせよ、これまでになく予選で厳しかったのは確かで、もしかするとセットアップの面でレースペースを重視したのかもしれないと筆者は考えている。

 開幕から予選では圧倒していたものの、レースになるとバーレーンやサウジアラビアでは互角、イモラやマイアミでは抜かれてしまっていた。常識的に考えて、マシン性能上で実力が拮抗している時は、セットアップ上で予選を重視しすぎるとレースで苦しくなると思われる。

 しかし、レースを重視しすぎれば予選で相手チームにフロントローを独占され、レースではもう1人に引っ掛かっている間に相手チームのエースドライバーに逃げられてしまう。

 このように、相手との相対的な関係の中で最適なバランス読み切るチェスゲーム、セットアップにはそんな一面もあるのかもしれない。

2. フェラーリの戦略は100点以上

 筆者は今回のフェラーリの戦略は完璧だったと考えている。

2.1. 1回目のピットを引っ張った判断

 フェルスタッペンの13周目のピットストップに対し、フジTVの解説陣からはフェラーリのどちらかがカバーするべきだとの意見が飛んだが、筆者としてはそれは無理があり、フェラーリのスティントを延ばす判断は適切だったと考えている。

 フェルスタッペンのピット直前、ルクレールとの差は僅か1.0秒だった。2人の走りとピット作業次第では、翌周ルクレールが反応したところでアンダーカットを許していた可能性は十分にあったのだ。そうなれば1周しか履歴の差がない状態で第2スティントを戦うことになり、抜けずに終わってしまうリスクすらあるのだ。(実際最近5秒台のストップも散見される…。)

 ここはミディアムでハイペースを保てるのであれば引っ張るべきだ。実際、ルクレールは第1スティント後半でハイペースを保ったことで、フェルスタッペンの7秒後ろで復帰できた。そして、そこから13周のタイヤの履歴差を活かしてあっという間に追いついて抜き去った。

 今のF1はオーバーテイクが容易とは言え、タイヤの差がないとオーバーテイクの難易度は非常に高くなる。アンダーカットされそうな状態ならば、下手に反応して相手と似たような状態のタイヤを履くより、引っ張れるだけ引っ張って次のスティントでのタイヤの差を作ってより確実に抜く、それが戦略の基本だ。

 また例えアンダーカットされず前をキープできたとしても、ハードタイヤでもミディアムほどアドバンテージがあるかは保証がない。そんな中効率の悪い作戦に引きずり込まれ、余裕で勝てるレースを接戦に持ち込ませてしまっては、それこそ相手の思う壺だ。

2.2. SCの可能性を加味しリスクを最小限に

 そしてそこからのレース運びも完璧だった。ルクレールとフェルスタッペンのみのグラフを見ながら振り返ってみよう。

図4 ルクレールとフェルスタッペンのレースペース

 今回ハードタイヤは30周ほど持つと考えられた。したがって仮にルクレールがフェルスタッペンに追いつくのが40周目付近になっていた場合、そこでセーフティカー(以下SC)が出れば2台揃ってピットに飛び込むことになっただろう。そして同じタイヤでチェッカーまでのレースとなり、フェルスタッペンを抜けずに終わってしまう可能性がある。

 だからこそSCウィンドウが開く前に仕留める必要があった。35周目付近でSC出動となってもフェルスタッペンがギャンブルに出るかもしれない。だからこそ、ルクレールは第2スティント序盤で飛ばし気味で追いついていき、33周目に一気に交わした。そしてフェルスタッペンを交わしてからはマネジメント寄りの走りに切り替えた。グラフからはそんな風に読み解くことができるだろう。(図1でサインツと比較しても飛ばしている)

2.3. 堅実なVSCへの対処法

 そして第3スティントでは、ルクレールがフェルスタッペンを交わし、4.8秒まで差を広げたところでVSCとなった。

 VSC下でのピットストップロスは12秒とされているため、ここでルクレールがステイアウトすると17秒後方から9周新しいタイヤのフェルスタッペンが追い上げてくることになる。ルクレールのデグラデーションを0.09[s/lap]とすると、フェルスタッペンのペースは0.8秒ほど速い計算だ。となると12周で追いつかれる確率は低い。

 しかし崖がくるかもしれないし、何があるか分からないのがレースだ。その中で確かなことは、レースのここまでの展開でルクレールのペースがフェルスタッペンより速かったこと。よって地力で勝っている以上、同じタイヤを履いておけば負ける可能性は極めて低い。フェラーリは計算上の最速解よりも最も負ける可能性の低い選択肢を選ぶことができた。筆者はそのように見ている。

 今季ここまで散々フェラーリの戦略・戦術面を問題視してきた当サイトだが、このような素晴らしいレースオペレーションが今後も継続してできれば、一気にポイントリーダーに返り咲くのも時間の問題だろう。ルクレールとフェルスタッペンという非常にレベルの高い2人の戦いのため、チームのオペレーション面でもバトルをスポイルするのではなく、バトルにスパイスを加えるようなファインプレーを期待したい。

3. ”Great Winner”と”Great Loser”

 今回はレースペースでルクレールに及ばなかったフェルスタッペン。しかし随所で光る走りを見せた。

 そもそもグラフから見れば第1スティントはかなり厳しかった。その中で10周目から2周半も粘ったこと自体が素晴らしい。

 ルクレールは通常のオーバーテイクポイントであるターン3ではなく、ターン4でブレーキングを遅らせてフェルスタッペンのインを奪うという凄まじいオーバーテイクを魅せた。

 だがペースに差がある場合、本来はこのような「スーパープレイ」をする必要はない。ルクレールがここまでしなければならなかったのは、フェルスタッペンのディフェンスに隙が無かったからだろう。エネルギーマネジメントの駆け引きや要所となるコーナーでの完璧な走りなどが考えられる。

 また、53周目の攻防では1周1秒以上の差があるにも関わらず最大限抵抗し、少しでもチャンスを作ろうとしており、ここに”Never give up”の精神が見える。それもただ我武者羅に走るのではなく、ターン3へのブレーキングの初期段階では引いて検知ポイントを後ろで通過。DRSを獲得すると、ブレーキング後半の段階で突っ込んでいき、ルクレールの前へ。ターン4までの駆け引きで最大限アドバンテージを得ようとしている。

 ルクレールもこの辺りを読んでおり、トラクションを活かして前に出た後イン側を堅持。自身が12周目に行った動きをフェルスタッペンができないよう、相手がアウト側から並ぶ頑なにインを開けず、並んだ瞬間にアウトに寄せている。この動きからも、ルクレールが13周のタイヤの差に慢心していないことがわかり、一切の甘さがない。

 今回はマシンのロングランパフォーマンスに差があったものの、やはりルクレールとフェルスタッペンという2人が特別なドライバーであることを再確認できる、そんな美しく魅力的なレースだったと言えるだろう。

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Writer: Takumi

 Part2ではメルセデス以降にフォーカスする。大健闘のシューマッハや最後尾から追い上げたアロンソのレースも紐解いていく予定だ。(明日更新予定)