近年稀に見る接戦となった2024年。当サイトでは「シーズンレビュー」と題して、ライバル対決やチームメイト比較、チーム間の競争力分析などを行なっていきたい。
1. 純粋なペースから見るフェルスタッペン、ノリス、ルクレール
まずは、最終的にフェルスタッペン437ポイント、ノリス374ポイント、ルクレール356ポイントで決着したタイトル争いに着目しよう。図1に年間の予選ペース比較(Q3に限定)を、図2にレースペース比較を示す。共にフェルスタッペンを基準とした。
さらに、表1,2に勝敗と平均タイム差を示す。
表1 フェルスタッペンのノリスに対する勝敗と平均タイム差
表2 フェルスタッペンのルクレールに対する勝敗と平均タイム差
※注:ルクレールはカナダ、イギリスGPでQ2落ちを喫しているので、それらを含めると予選での差はより大きくなる。
これらから言えることは、レッドブル&フェルスタッペンは速かったということだ。人の記憶は現在に近いことをより覚え、全体の印象もそちらに引っ張られがちだが、シーズン序盤のレッドブルの速さは別格だった。そして中盤戦以降も、予選では戦える状態がしばらく続き、その後低迷が続いたが、シーズン終盤にはマイアミやイモラあたりの競争力を取り戻した。
また、レッドブル&フェルスタッペンは、相対的にレースよりも予選で強かった。これにより、トラックポジションの面で優位に立てたことも大きかっただろう。イモラはその代表的な例だ。また、USやメキシコGPでノリスに強引なバトルを仕掛け、ノリスから優勝のチャンスを奪ったのも、予選で上位につけたからこそできたことだ。
2. タイトル争いの支配因子
ここからは少し視点を変えて、チャンピオンシップバトルをいくつかの支配因子にブレイクダウンしてみよう。
2.1. スタート
まず、ノリスはスタートが課題となった。ポールポジションからスタートした8戦中5戦で、1周目で順位を落とした。これだけでも、フェルスタッペンに対して、スペインで14ポイント、ハンガリーで7ポイント、オランダでは抜き返してリザルトに影響することを防いだが、イタリアでは3ポイントロスしてしまった。最終的な63ポイント差のうち24ポイントはスタートに起因するものだった。
2.2. ポイントリードがもたらすバトル時の強み
また、フェルスタッペンは、1項で言及したように、シーズン序盤にマシンに競争力があり、ここでポイントを稼いだことが大きい。
時折、ノリスのバトル時の弱さが指摘されることがあるが、これは必ずしも正しくない。フェルスタッペンがポイントリーダーである以上、接触により両者リタイアすることの意味は立場によって真逆になる。すなわち、ポイントを縮めることを目的としてレースをしているノリスにとっては敗北、ポイントを縮められないことを目的としているフェルスタッペンにとっては勝利となるのだ。だからこそ、フェルスタッペンはバトル時に強気に出ることが可能で、ノリスは引かざるを得ない。つまり、これは単にドライバーのバトルスキルの問題ではなく、チームの開発スケジュールの問題でもある。
この「立場の違い」によって、フェルスタッペンは、USGPではノリスのオーバーテイクを阻止し、ノリスに対して6ポイントを、メキシコGPではノリスからサインツに挑戦する権利を奪って5ポイントを稼いだ(参考:5ポイントの根拠はメキシコGPレビューにて言及)。合計11ポイントだ。
2.3. 運
最後に、SC、VSCや赤旗などの運についても見てみよう。ちなみに、当サイトでは、実力を「コントロール可能で再現性があるもの」、運を「コントロール不可能で再現性のないもの」と定義し、両者を完全に区別している。
まず、マイアミGPではノリスに有利に働き、(結果は変わらなかったのでは?という見方もあるが)ノリスが14ポイント得をしたと考えよう。そしてサンパウロGPでの赤旗が無ければ、ノリスが優勝、フェルスタッペンが3位あたりだったと仮定すると、フェルスタッペンが24ポイント(前述の通り、不運だけでなくミスによりラッセルの前でフィニッシュできなかった)得をしたことになる。よって年間のトータルでは、SC、VSC、赤旗はフェルスタッペンに10ポイント分有利に働いたと言える。
ちなみに、カナダGPでもVSCによってフェルスタッペンが14ポイント得をしたが、これは運というよりも、(ノリス自身が認めているように)マクラーレンとノリスの判断ミスと言えるため、含めなかった。
2.4. 総合的な考察
このように、大きな3つの支配因子に着目すると、これらでノリスが45点損をしたことが分かる。運は定義上どうしようもないとしても、スタートの改善、そしてシーズン序盤から主導権を握れるマシン開発スケジュールの方向性が2025年に向けての彼らの課題となってくるだろう。特に後者は、エンジニア目線での最適解と、勝負師目線での最適解が異なる可能性があり、チームとして今季の戦いをどう振り返ることができるかが鍵となるだろう。
Takumi