• 2024/12/13 01:20

2021年トルコGPレビュー(2) 【タイヤマネジメントで差が出た中団勢】

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 長い第1スティントと、グレイニングと上手く付き合わなければならない第2スティント。レースのフェーズごとに異なる能力を求められたトルコGPだったが、実力拮抗の中団勢の中でもタイヤの使い方で差がついた。

各ドライバーの使用タイヤはこちらのピレリ公式より

※レース用語は太字部分で示し、記事末尾に用語解説を加筆した

目次

  1. 完璧だったガスリーと驚異のノリス
  2. 97年以来のノンストップ
  3. 賛否両論の角田
  4. 次戦と今後の展望
  5. 用語解説

1. 完璧だったガスリーと驚異のノリス

 今回は中団トップのルクレールが優勝争いに絡んだが、実質的な中団2番手争いはガスリーとノリスの間で繰り広げられた。興味深いことに、第1スティントでは劣勢で、34周目には12秒後方にいたノリスだが、レース最終盤には真後ろに迫っていた。

 ここでレッドブルのペレスと中団トップ争いの2人を比較してみよう。

画像2を拡大表示

Fig.1 ガスリー、ノリスとペレスのレースペース

 第1スティント序盤ではガスリーと差が開いたノリスだが、その後はしばらくイーブンペースで踏ん張っている。しかしガスリーよりも早くタイヤが終わり、12秒まで差が開いたところで、タイヤ交換を決断した。

 しかし早めの交換は、より早くグレイニングフェーズから回復して、速いペースを刻めるようになることを意味しており、ガスリーより5周速いピットインがまず一つ有利に働いた。今回、ピットストップを引っ張ることのメリットは、ドライタイヤの出番が来た場合にストップを1回減らせることだったと考えられ、ドライにならなかった以上、結果的にノリスのタイミングの方が効率的だった。
 さらに、ノリスの第2スティントは9周目である程度タイムが戻り、10周目にはかなり速いタイムを記録している。これは全体の中でもかなり早い回復で、匹敵するのはアルファロメオのライコネンぐらいである。ライバル勢と比べるとやや控えめなペースで入っているのも印象的だ。
 そして、極め付けはグレイニング回復後のペースで、なんとペレスと同等のペースとなっている。ちなみにペレスはレースペース分析で触れたようにフェルスタッペンをやや上回るペースだ。もちろんガスリーよりも明白に速く、ここで一気に差を詰め、ハミルトンvsガスリーの5位争いに加わることに成功した。
 ノリスは第2スティントのタイヤを非常に上手く使ったと言えるだろう。

2. 97年以来のノンストップ

 今回はオコンが24年ぶりのノンストップ作戦を実現させた。当時のミカ・サロ2時間レースであり、今回のオコンは周回遅れとはいえ、殆どレース距離を走ってのノンストップ完遂だった。

画像1を拡大表示

Fig.2 オコンとルクレール、ハミルトンのレースペース

 スティント前半ではルクレールやハミルトンとのペース差は1.5秒程度だ。しかし後半になるとその差は1秒以内に縮まってきており、少なくともルクレールとの比較ではオコンの方がタイヤを持たせていることが分かる。
 ハミルトンは37周目からクリーンエアだが、40周を過ぎてルクレールやオコンがタイムを落とし始める中で、タイムをキープし尚且つ安定している。このことからもノンストップを視野に入れていた中ではハミルトンが最も上手くタイヤを持たせていたことが伺える。
 オコンはそのハミルトンには劣るものの、なんとか最後までタイヤを持たせ、アルファロメオ勢から逃げ切った。

 オコンは最終的にはストロールから20秒以上離されているが、一時はピットストップを済ませたサインツの前におり、ドライタイヤの出番が来た場合には8位を狙える戦略だった。リスクを冒す価値は十分にあり、結果ドライにならなくても無交換で走り切って10位フィニッシュと何も失わずに済んだのは、見事なレースとしか言いようがない。

3. 賛否両論の角田

 角田のレースペースについては全体の分析で触れた通りで、第1スティントではガスリーから1秒前後のペース差をつけられる展開になってしまった。これには最初の7周でハミルトンへのディフェンスでタイヤを酷使したことも影響しているかもしれないが、その後普通にタイムを上げており、スピンの後でタイムが落ちていっているので、スピンによるタイヤへの影響があったのではないか?と思われる。

 賛否両論となっている序盤のハミルトンへの抵抗だが、角田自身がフェルスタッペンのタイトル争いを意識していた旨をコメントしており、これまでペレスやボッタスがやってきたようにチームプレーヤーとしての役割を全うした。この状態でレッドブルおよびアルファタウリから求められている仕事は、角田自身のリザルトではなく、ハミルトンを苦しめることであり、この走りを批判対象とするのはお門違いと言える。

 ハミルトンとの間合いを見つつ、余裕のあるタイミングでウェットパッチを選んで、タイヤにも気を使っている。よって角田とチームも、このバトルについて議論するよりかは、両スティントでのガスリーとの差に目を向けて、課題の分析と解決に取り組んでいるだろう。

4. 次戦と今後の展望

 次の舞台はCOTA、アメリカGPだ。高速コーナーや低速セクション、ロングストレートとハードブレーキングなど様々な要素が組み合わさったサーキットとなっている。ここは伝統的にハミルトンが非常に得意としており、フェルスタッペンにとってはロシア、トルコに続いてダメージリミテーションのレースになるかもしれない。
 COTAが終わるとメキシコやブラジルとレッドブルが得意なサーキットが待っている。カタールとサウジアラビアは初開催のため未知数、アブダビは昨年こそレッドブルが完勝しているものの、伝統的にメルセデスが強く、ハミルトンに新型コロナの影響があったことも踏まえると、残り6戦のサーキットとの相性はイーブンという所だろう。
 となると、初開催のカタール、サウジアラビアで如何にセットアップを外さないか、シミュレーターなどを含め、両チームのエンジニアリングの質がタイトル争いの流れを大きく左右するかもしれない。

5. 用語解説

スティント:ピットストップからピットストップまで。もしくはスタートから最初のピットストップや、最後のストップからチェッカーまで。スタートから最初のストップまでを第1スティント、1回目から2回目を第2スティント・・・と呼ぶ。

グレイニング:ささくれ摩耗。正常摩耗がタイヤの表面が発熱によって溶けていくのに対し、グレイニングはタイヤが冷えた状態で負荷がかかることで消しゴムのように削り取られてしまう現象を指す。スローペースで走っていると回復してくることもある。