2週間のブレイクを経て、F1はコーナリングサーキットとして名高いハンガロリンクへとやってきた。今回は、昨シーズンを持ってマクラーレンを離脱したダニエル・リカルドの復帰戦としても大きな注目が集まった。
そんなハンガリーGPを今回もデータを交えて振り返っていこう。
1. スタートで決したフェルスタッペンの圧勝
予選ではハミルトンに0.003秒差で敗れたフェルスタッペン。しかしレースではスタートでトップを奪うと、2番手ピアストリをグングンと引き離し、独走での優勝を飾った。
図1にフェルスタッペンとマクラーレン勢のレースペースを、図2に先に行ったレースペース分析の結果を示す。
第1スティントではフェルスタッペンのデグラデーションが極めて小さく、グラフの傾きが目に見えて違う。これによりスティント後半で後続を大きく引き離した。
実は、図2のレースペース分析に着目すると、ノリスは第2スティント以降ではピアストリよりも0.4~0.5秒速かったことがわかる。ほぼフェルスタッペンと互角に近いペースすら持っていたのだ。
ノリスとしては第1スティントでピアストリに蓋をされてしまったことが痛かっただろう。もし、スタートでノリスが前をキープしていれば、もしくはチームが順位を入れ替えていれば、フェルスタッペンにプレッシャーを掛けることができたかもしれない。
とはいえ、フェルスタッペンが全力で走っていたとも思えない。
・レースペース分析ではペレスがフェルスタッペンを0.3秒上回っていたこと
・2番手以下が0.5秒ずつ離れていく展開でこれ以上プッシュする意味がないこと
・前述の通りフェルスタッペンのデグラデーションは非常に小さく、余裕が伺えること
これらを踏まえれば、ノリスが2番手で追ってもフェルスタッペンはさらに速く走って突き放した可能性が高いだろう。
いずれにせよ、レースに重きを置いたレッドブルらしいセットアップでの完璧な勝利となり、昨シーズンからの12連勝、そしてシーズン内での11連勝という圧巻の記録となった。
2. ミツアナグマの帰還
ミツアナグマは英語でハニーバッジャー、アフリカーンス語でラーテルと呼ばれるイタチ科の動物だ。「世界一怖いもの知らずの動物」としても知られ、小型であるにも関わらず、高い防衛能力と攻撃性を持ち、場合によってはライオンにも立ち向かう。知能も高いようだ。そしてリカルドのお気に入りの動物でもある。
今年のアルファタウリは、予選では今ひとつでもレースで中団上位の競争力を発揮することはしばしばあった。しかし予選と決勝の両立となると中々難しい面も確かだった。だが、今回のリカルドは予選でストロールやガスリーを上回っての13位。そしてレースペースでは図2の通りピアストリと同等、サインツにも迫り、アストンマーティン勢を完全に凌駕していた。
すなわち、予選・決勝を高いレベルでバランスできており、今季のアルファタウリのレースでは出色の内容だった。図3に角田とリカルドのレースペースを示す。
リカルドの最終スティントは角田よりも15周古いタイヤ(0.9秒の不利)にも関わらず、角田の0.2秒落ちのペースで走行できている。しかもレースの最後まで全くタイムを落としていない。このタイヤマネジメントは見事だ。
1周目でジョウに追突されていなければ、アストンマーティン勢を逆転し、戦略面やピットストップでロスがあったフェラーリ勢と戦えた可能性もあったかもしれない。いずれにせよ、半年以上のブランクを経てシーズン途中で乗ったドライバーの1戦目とは思えない。
しかし考えようによっては「マクラーレンでの2年間が異常だっただけ」とも解釈できる。
当サイトではドライバー紹介ページに歴代チームメイトとの予選・レースペース比較を載せている。リカルドの戦績は以下の通りである。
レースペース
2022年:vs ノリス 0勝13敗1引き分け(+0.5秒差)
2021年:vs ノリス 1勝12敗3引き分け(+0.3秒差)
2020年:vs オコン 4勝0敗(-0.6秒差)
2019年:vs ヒュルケンベルグ 2勝0敗1引き分け(-0.1秒差)
2018年:vs フェルスタッペン 1勝5敗(+0.1秒差)
2017年:vs フェルスタッペン 0勝3敗1引き分け(+0.1秒差)
2016年:vs フェルスタッペン 3勝5敗3引き分け(0.0秒差)
2016年:vs クビアト 1勝0敗1引き分け(-0.2秒差)
2015年:vs クビアト 6勝1敗3引き分け(-0.2秒差)
2014年:vs ベッテル 6勝2敗2引き分け(-0.2秒差)
予選
2022年:vs ノリス 1勝14敗(+0.309秒差)
2021年:vs ノリス 5勝13敗(+0.163秒差)
2020年:vs オコン 13勝1敗(-0.209秒差)
イタリアGP以降 7勝1敗(-0.118秒差)
2019年:vs ヒュルケンベルグ 13勝6敗(-0.061秒差)
2018年:vs フェルスタッペン 3勝10敗(+0.155秒差)
2017年:vs フェルスタッペン 6勝9敗(+0.135秒差)
2016年:vs フェルスタッペン 8勝6敗(-0.062秒差)
2016年:vs クビアト 4勝0敗(-0.749秒差)
2015年:vs クビアト 8勝6敗(-0.121秒差)
2014年:vs ベッテル 6勝4敗(-0.107秒差)
ベッテルを上回ったこと、そしてフェルスタッペンから予選・レース共に0.1秒落ちのペースを見せたことは非常に印象的だ。
あるいは、ミック・シューマッハを完全に上回ったマグヌッセンはグロージャンと互角で、グロージャンはライコネンと互角だった。そのマグヌッセンに対して今季ここまで優勢に進めているヒュルケンベルグを上回ったのもリカルドだ。
あるいは、クビアトはガスリーの0.1秒落ち程度だったが、リカルドは0.2秒の差をつけた。ガスリーの実力はご存知のとおりだ。
すなわち「本来のリカルド」はグリッド上で最高レベルの実力者の1人だ。マクラーレンのマシンだけがリカルドが適応できないものであっただけで、アルファタウリでのリカルドはフェルスタッペンと大差ない存在だと考えた方が良いかもしれない。
無論、1戦だけで何らかの結論を得てしまうのは早計だ。今後数戦の予選・レースペースを詳細に分析し、現在のリカルドが “どのリカルド” なのか?という問いに対する答えが徐々に見えてくれば良いだろう。
Writer: Takumi