1. 分析結果と結論
先に分析結果を示す。分析の過程については次項「レースペースの分析」をご覧いただきたい。
今回は定量的に、すなわち「誰が何秒速い」という分析が可能なのは第1スティントのみとなる。第2スティントについては定性的、すなわち「グレイニングフェーズでペースを保てた」「グレイニングから早く回復した」「回復後のペースが速かった」など数値化を伴わない評価のみが可能な状況だった。
Table.1 第1スティントで比較可能だったドライバーの勢力図
また、
・ルクレールはフェルスタッペンの上、ハミルトンはその上である事
・ストロールがノリスの上
であった事はほぼ確かだが、定量的な比較は困難だった。
今回はドライの予選でフェルスタッペンがメルセデスに太刀打ちできず、ルクレールやガスリーに肉薄されてしまったが、ウェットでもルクレールに対して劣勢のペースとなった。その中で無理をしてタイヤを傷めず、着実に2位でフィニッシュした点はチャンピオンシップコンテンダーとして賢明な判断だったと言えるだろう。
また、メルセデスはターン8で意図的にスピードを落とし、サーキットの他の部分でタイムを稼いでいたようだ。そのことからも、やはり純粋なスピードがあってこそ、タイヤを労る余裕が生まれてくる事が分かる。
そして、マクラーレンが今一つだった事もドライの予選とウェットの決勝で一貫しており、興味深い所だ。
2. レースペースの分析
以下に分析の内容を示す。フューエルエフェクトは0.05[s/lap]で計算した。
また、各ドライバーのクリーンエアでの走行時を比較するために、全車の走行状態をこちらの記事にまとめた。
2.1 チームメイト同士の比較
最初にチームメイト同士の比較を見ていこう。
ハミルトンは、ペレスの後ろで明らかに攻勢だった際のラップタイムよりも、ペレスがピットに入って前が開けた後のラップタイムの方が遅い。このことからハミルトンはノンストップを視野に入れたタイヤマネジメントに入っていた可能性が考えられ、無線でのチームとの意見の食い違いとも辻褄が合う。従ってここではボッタスとの安易な比較は避けよう。
Fig.2 レッドブル勢のレースペース
第1スティントでは0.5秒ほどフェルスタッペンが速かった。第2スティントではフェルスタッペンも余裕を持っていたかもしれないが、ペレスの方がグレイニングフェーズ初期でのペースが速く、尚且つ同時に回復を迎えている。回復後のペースもペレスの方が0.1秒ほど速い。ペレス本人も第1スティントでは快適でなかったようだが、第2スティントではノれていた旨をコメントしている。
Fig.3 フェラーリ勢のレースペース
第1スティントでのサインツのクリーンエアの部分はルクレールと同等だった。ただし周回数が少なく、スティント全体の評価は困難。第2スティントでは、ルクレールにはグレイニングフェーズから回復するのに十分な周回数が残っておらず、比較は不可能だった。
Fig.4 アルファタウリ勢のレースペース
第1スティントではガスリーが1.0秒ほどペースの面で勝り、尚且つ角田よりもタイヤを持たせている。ただしスピンがタイヤの温度に影響を与えた可能性があり、第1スティント後半のドロップオフの原因を本人の弁の通り「前半に飛ばしすぎたこと」とするのは早計かもしれない。従って、ここでは1.0秒という数字をそのまま両者の第1スティントの差と解釈する。
第2スティントでもグレーニングフェーズでガスリーの方が1.0秒ほど速いタイムをキープしつつ、10周ほどで回復期を迎えている。角田も回復後は同等のタイムを刻んでいる。
Fig.5 マクラーレン勢のレースペース
ピットタイミングが大きく異なり、比較は不可能。
Fig.6 アストンマーティン勢のレースペース
第1スティントはストロールの方が0.5秒ほど速く、タイヤもよく持たせている。第2スティントでは昨年同様ストロールがよりグレイニングに苦しみ、回復までも時間がかかっている。両者回復後のペースはイーブン。
Fig.7 アルピーヌ勢のレースペース
オコンは、97年モナコのサロ以来のノンストップレースを達成した。またチームメイト比較は、アロンソが第1スティント前半をダーティエアで過ごし、その影響もタイヤの劣化の要因となっていると考えられること、さらにストップ回数が違うことを踏まえ、比較は不適切と判断した。
Fig.8 アルファロメオ勢のレースペース
第2スティントではライコネンが9周目でグレイニングを回復させており、ジョビナッツィよりも2周早い。ジョビナッツィは他チームと比べても通常のレベルだったのでライコネンが良い仕事して、15秒以上あった差を瞬く間に詰めて終盤にはテールトゥノーズに持ち込んだ。
Fig.9 ウィリアムズ勢のレースペース
ラッセルの参考になるデータが少なすぎるため、比較不可能。
Fig.10 ハース勢のレースペース
シューマッハは第2スティントの10周目でグレイニングから回復している。これは全体でも比較的速い方で、マゼピンよりもうまく対処した。回復後のペースも1.0秒ほどの差がある。
2.2 ライバルチーム同士の比較
続いて、チームを跨いだ比較を行う。
まず、図11の通り、ボッタスとフェルスタッペンはフェルスタッペンが前半無理してついて行ってき、後半タイムが落ちてしまっているが、ここはペース配分の違いと捉え、全体(差が2秒以上に開いた7周目以降)の平均で計算すると0.2秒程度と言える。
またルクレールは、フェルスタッペンのペースが大きくドロップしてピットインした後、前が開けてから1分34秒代中盤をしばらくキープできている。同じペースで走り続けフェルスタッペンよりタイヤを持たせたという点ではルクレールの方がやや上だったと思われるが、それがどの程度かという定量的な評価は難しい。また同様の理由でハミルトンも数値での比較は難しいが、ルクレールよりさらに上だったと思われる。
Fig.11 ボッタス、フェルスタッペン、ルクレールのレースペース
続いて第1スティントでフェルスタッペンの0.5秒落ちだった事がわかっているペレスと、ガスリー、ノリス、ストロールを比較する。
Fig.12 ペレス、ガスリー、ノリス、ストロールのレースペース
ガスリーはハミルトンに抜かれる際や、いくつかのミスをした周を除いて考えるとペレスと0.2秒差程度だったと言える。
また、ノリスについてはガスリーの0.3秒落ちだった。
ストロールは9周目からノリスとの差が開くが、34周目ドロップしてきたノリスの2秒以内に接近している。その後もペースをキープしていることから、ルクレールと同じ扱いで「ノリス以上」とするのが妥当だろう。
続いて、ジョビナッツィとラティフィ、マゼピンをペレスと比較する。
Fig.13 ペレス、ジョビナッツィ、ラティフィ、マゼピンのレースペース
ジョビナッツィはペレスから0.7秒落ち、ラティフィは1.2秒落ち、マゼピンは3.0秒落ちだった。
これらを総合し、表1の結果を得た。