3連勝で勢いに乗るフェルスタッペンと、後が無くなったハミルトン。予選から新フォーマットなど関係ないかの如く、いつも通り2人が飛び抜けた速さを見せた。まずは2人の争いを振り返ってみよう。
目次
- 予選とスプリントレースの激戦から、まさかの…。
- ルクレールの快進撃
- フェルスタッペンとハミルトンの接触について
- 用語解説
1. 予選とスプリントレースの激戦から、まさかの…。
予選ではハミルトンがQ3の1回目で完璧なアタックを決め、予選レースのポールを獲得する。
しかし予選レースではスタートで出遅れたハミルトンをフェルスタッペンが交わし、トップチェッカー。ポールポジションを確定させた。
図1のように予選レースでも接近したペースを見せた2人が、決勝レースでも極上のバトルを繰り広げるかと思われた矢先、2人は年間でも屈指の高速コーナー”コプス”で接触しフェルスタッペンが激しくクラッシュ。ハミルトンは軽いダメージを負うも赤旗中段中に修復。混乱に乗じてトップに躍り出たルクレールの後ろ2番手からリスタートすることになった。
Fig.1 フェルスタッペンとハミルトンのスプリントレースペース
2. ルクレールの快進撃
図2は予選レースのボッタス、ルクレール、ノリスの比較である。
この時点で、ルクレールはソフトのボッタスと遜色ないペースを発揮し、同じミディアムタイヤのノリスに対して0.4[s]ほど速いペースを示した。ノリスが遅いわけではないこともアロンソとの比較で分かる。
Fig.2 ボッタス、ルクレール、ノリス、アロンソのレースペース
ルクレールは決勝でも圧巻のパフォーマンスを見せた。図3にルクレールと上記ライバルたちのレースペースを示す。
Fig.3 ルクレール、ボッタス、ノリスのレースペース
ルクレールはミディアムのスティントで、ノリスに対してレース序盤から予選レースの時と変わらない差をつける。スティント前半でエンジンカットが起きており、20周目付近からペースを上げていること、ノリスよりスティントが長いことを考えると、実際は予選レース以上に競争力があったかもしれない。
一方ハードのスティントではノリスのデグラデーションがやや大きく0.04[s/lap]だった(フエルエフェクトが0.07[s/lap]の前提)ことから、ピットストップタイミングの8周差は0.04×8≒0.3[s]程度のタイヤの差になっていたと思われ、このスティントでのルクレールとノリスの差はスティントはじめは0.1~0.2[s]程度、後半デグラデーションの違いで0.5[s]程度に広がったと推測できる。
後半スティントではボッタスがクリーンエアになった事で、ハードタイヤでマシンのポテンシャルを解放できるメルセデスとの比較が可能になる。
ボッタスとルクレールのペースは同等だ。ここで、ボッタスのピットストップが7周早く、デグラデーションが0.02[s/lap]とすると0.02×7≒0.1[s]程度のオフセットがあることを踏まえると、ボッタスの方が0.1[s]ほどこのスティントでは速かったと考えられる。
と、全体の中でのルクレールの力が見えてきたところでハミルトンとの比較を行なってみよう。
Fig.4 ハミルトンとルクレールのレースペース
第1スティントではハミルトンはずっとルクレールの背後で自分のペースでは走れていなかったが、コース上で抜けなかったということは終盤に有していたような1秒のアドバンテージは無かったということだ。筆者の感触では0.3[s]程度のペースアドバンテージだったのではないか、と見えた。
ルクレールの方が第1スティントを2周引っ張った事で、第2スティントではその分新しいタイヤを履いているが、2人ともデグラデーションはゼロであり、ペースに明確な違いは生み出さなかったと考えられる。
メルセデスのアンドリュー・ショブリンによれば、メルセデスのマシンはミディアムではオーバーヒートに苦しんだが、ハードでは車のポテンシャルまでプッシュできるようになったとの事だ。今回のメルセデスはタイヤマネジメントには難があり、フェラーリと接近戦を演じてしまったが、フルプッシュできる状態になればトップチームの格の違いを見せつける格好となった。
ルクレールとしては目の前に優勝が見えていただけに悔しいレースだったかもしれないが、「本来は20秒前にいるはずのハミルトンがアクシデントやペナルティで下がって、最後に追いついて抜いていっただけ」とも考えられ、「寧ろボッタスやノリスを抑え、万全のハミルトンの約20秒後ろでフィニッシュする力があった」と捉えれば非常に前向きな内容だったのではないか。
3. フェルスタッペンとハミルトンの接触について
物議を醸した接触に関しては、一応筆者の私見を記しておきたい。
フェルスタッペンは余裕を持ってスペースを残しており、あれ以上できることは無い。「相手が悪かろうと0ポイントを避ける走りをすべきだ」との意見も理解はできるが、その議論が通用するのは「避けられる接触」の場合だ。今回の場合は避けられるものでは無かったように見える。ハミルトンはタイヤ1個分どころか1車身近くイン側を空けており、ハミルトンがオーバースピードかつラインが外側に行ってしまった事で起きた接触である。スチュワードもこの点を評価し、10秒のタイムペナルティとなった。
また、スポーツマンシップ論や、レース後のセレブレーションに関する批判などは人それぞれなので、この記事では言及しない方針をとるが、コプスコーナーでは予選レースでアロンソとノリス、決勝でアロンソとリカルドがサイドバイサイドでバトルを成功させており、過去のレースを振り返っても接触が起きたのは2018年にイン側のグロージャンがスナップオーバーを出し、アウトのサインツを弾き飛ばした大クラッシュぐらいしか記憶にない。グリッド上の多くのドライバーができることをチャンピオンができないというのは一視聴者としては少々残念に思う。バクーやイモラの件といい、ポルトガルやオーストリアでも小さなミスがあり、今年のハミルトンは「可もあり不可もあり」といった出来になっているが、これまでハミルトンを王者たらしめて来た彼の安定した底力を落ち着いて発揮した上で最上級のタイトル争いを見たいと願っている。
また終盤にペレスは入賞争いができたはずにも関わらず、ポイントを捨て、ハミルトンのファステストラップ1ポイントを奪う決断を下す。これは如何にも「2チーム2人のドライバーによる一騎打ちのチャンピオン争い」という感じだが、レッドブルがこの決断を下すのはやや驚きである。その意思決定を可能にしたのは、アクシンデントに対して腹を立てているホーナーの存在もあったのではないか?と推測してしまうが、実際はどうだったのだろうか…。
走るのも、走らせるのも、作るのも、政治を行うのも人間である。良いか悪いかは別として、F1の面白さのそんな側面も今後見えてくるかもしれない。筆者はこの一幕にそんな予感も感じた。
Part2ではリカルド以降の争いに着目する。
4. 用語解説
スティント:ピットストップからピットストップまで。もしくはスタートから最初のピットストップや、最後のストップからチェッカーまで。スタートから最初のストップまでを第1スティント、1回目から2回目を第2スティント・・・と呼ぶ。
デグラデーション:タイヤのタレ。1周あたり〜秒という表現が多い。使い方次第でコントロールできる。
フエルエフェクト:燃料搭載量がラップタイムに及ぼす影響。燃料が重くなることでより大きな慣性力(加速しない、止まれない)が働き、コーナリング時も遠心力が大きくなり曲がれなくなる。それによって落ちるラップタイムへの影響を1周あたりで[s/lap]としたり、単位質量あたりで[s/kg]、あるいは単位体積あたりで[s/l]としたりする。また英語でFuel Effectなので、「フューエルエフェクト」や「フュエルエフェクト」などの表記がある。当サイトでは「フエルエフェクト」と[s/lap]を標準として扱う。
タイヤマネジメント:タイヤを労って走ること。現在のピレリタイヤは温度は1度変わるだけでグリップが変わってくる非常にセンシティブなものなので、ドライバーとエンジニアの連携による高度な技術が求められる。基本的にはタイヤマネジメントが上手いドライバーやチームが勝者となりチャンピオンとなることが多く、最も重要な能力と考える人も多いだろう。
スナッピー(スナップオーバー):リアタイヤが突然滑りオーバーステアが出る現象。ドライバーの予想外の急激な動きのためスピンにつながることが多い。