• 2024/3/29 07:04

2021年オーストリアGPレビュー(2) 【リカルドを中心とした5位争い、アロンソvsラッセル、角田とガスリーの差】

  • ホーム
  • 2021年オーストリアGPレビュー(2) 【リカルドを中心とした5位争い、アロンソvsラッセル、角田とガスリーの差】

 今回はノリスが大活躍しメルセデス勢と互角の争いを繰り広げた。それにより「中団」の意味合いが分かりづらくなるが、リカルドを中心として繰り広げられた5位争いとその下に着目していこう。

各ドライバーの使用タイヤはこちらのピレリ公式より

※レース用語は太字部分で示し、記事末尾に用語解説を加筆した

目次

  1. リバースストラテジーでリカルドを攻略したサインツ
  2. アロンソの激走
  3. 角田はガスリーについていけるか
  4. まとめ
  5. 用語解説

1. リバースストラテジーでリカルドを攻略したサインツ

 図1にペレスとサインツ、リカルドのレースペースを示す。

画像1を拡大表示

Fig.1 ペレス、サインツ、リカルドのレースペース

 ペレスは本来トップのマシンということもあり、リカルドを抜いてからは0.5秒以上のペースアドバンテージを見せつけた。

 ペレスは10秒ペナルティを抱えており、それによって最終的に0.771秒差でタイムレースを制したのがサインツだ。
 サインツはハードタイヤでスタートし、前が開けた35周目付近から本来のペースを発揮すると、第2スティントでも好ペースを発揮。ルクレールに譲ってもらいリカルドをラスト2周で攻略すると、チェッカーまで猛プッシュ。このラスト2周の合計タイムは

ペレス  2:17.797
サインツ 2:16.756

と1.039秒差となっており、このリカルドをパスした70周目とファイナルラップでのプッシュが逆転の決め手となったことが分かる。

 一方でリカルドは13番手スタートながらも堅実なレースで上位まで上がってきた。以下にノリスとリカルドの比較を示す。

画像2を拡大表示

Fig.2 リカルドとノリスのレースペース

 リカルドは17周目にベッテルを抜くまでソフト勢のトレインの中におり、18周目から29周目のピットストップまでのクリーンエアではタイヤを使いすぎたノリスと0.1~0.2秒差程度で走れている。第2スティントは46周目からチェッカーまでクリーンエアだが、ペレスやルクレールらに対するディフェンスに徹し、本来のペースで走れていたとは考えにくい。一方のノリスもボッタスの後ろに捕まっており、筆者としては距離感から察するに0.1秒程度損をしていると考える。するとノリスとリカルドの0.3秒程度のペース差はほぼそのまま実際のペースの差と考えても差し支えないように思える。

 2人の差は予選でも0.3秒程度だった。Q2でソフトを履いた4台、そしてレースより予選パフォーマンスが相対的に優れるウィリアムズのラッセルの存在が、接近した予選でのリカルドのパフォーマンスレベルを悪く見せていたと考えられる。すなわち「予選が課題。レースはOK。」とは一概には言えないのではないか、そう考えさせられる内容だった。

2. アロンソの激走

 予選Q1から中盤で1:04.472という好タイムを出し一発通過と、好調を感じさせたアルピーヌのアロンソ。Q2でベッテルに引っ掛かりタイムを出せず14番手スタートとなってしまうが、レースでは追い上げてポイントを獲得した。以下にバトルを繰り広げたアロンソとラッセル、参考にリカルドのレースペースを示す。

画像3を拡大表示

Fig.2 リカルド、アロンソ、ラッセルのレースペース

 第1スティントのアロンソは終始ラッセル、ライコネンのトレインの後ろにおり、第2スティントでクリーンエアを得るとストロールに引っかかる40周目までラッセルを上回るペースで走行。(リカルドは前述の通り45周目までダーティエアなので注意)ストロールが入ると47周目からラッセルとの差を詰めていった。ラッセルのペースもバトルやラップダウンなどを除くクリアラップではリカルドに匹敵しており、第1スティントと比して競争力は高かった。

 アロンソはラッセルを抜いてから完全なクリーンエアで走れており、終盤でもタイヤに相当余力があることを伺わせるタイムを出している。「最後まで走れるタイヤマネジメント」ではなく「最後にライバルを抜けるタイヤマネジメント」ができており、アロンソらしい内容のレースとなった。

 そしてコース上でのラッセルとアロンソの激闘は見事だった。今回他のドライバー達が接触や押し出し、砂煙、ペナルティが散見された中で、ターン6でサイドバイサイドを演じるなど、正確無比な技術で互いを尊重しつつ非常にハードなレースを繰り広げた。ラッセルはフェルスタッペンやルクレールと並んで次世代のチャンピオン候補とされるが、頷ける内容だった。

3. 角田はガスリーについていけるか

 今回の角田は、2ストップで集団をかき分けていかなければならない難しいレースだった。その中でガスリーとの差を感じさせる場面もあり、今後の課題が見えたレースだったのではないだろうか。図3にアルファタウリ2台のレースペースを示す。

画像4を拡大表示

Fig. 3 ガスリーと角田のレースペース

 トラフィックの影響があるので、慎重に見ていきたい。

 まず第1スティントはガスリーの背後2秒以内に角田がいる状態で進み、スティント終盤では2.5秒と差が開いてしまっている。このことからほぼイーブンペースだったと考えられる。

 第2スティントはガスリーは27周目からクリーンエアを得ている。これはジョビナッツィ、ラティフィをコース上でバッサリ交わしたことによるもので、角田にはこれができなかった。ただし、これはガスリーがラティフィを抜いてからはジョビナッツィもラティフィのDRS圏内にいたことが大きかった。
 もちろんガスリーがラティフィを抜くまでに3周ほどジョビナッツィがDRSを使えていない時があったので、そこで仕留めるべきという点は今後の課題の一つだ。

 その後ガスリーはライコネンの後方に迫り、39周目からチェッカーまでクリーンエア、角田はラティフィがいなくなる33周目以降基本的にクリーンエアとなる。

 ここで、第2スティント後半はガスリーに0.1〜0.2秒ほど見劣りする程度のペースだが、第3スティントでは大きな差がついてしまった。ペースの差は0.2秒程度だが、タイヤの履歴の差が6周あり、デグラデーションを0.03[s/lap]で計算すると0.2秒ほどのオフセットになる。従って実際はこのスティントでは0.4秒ほど遅れをとっていたことになる。

 一方、ペナルティについては結果論で言えば影響は無かった。最後のピットストップを終えてベッテルの8秒後方に復帰しており、5秒ペナルティが無かったとしても順位は変わらなかった。最後もストロールの6.6秒前方でフィニッシュしており、こちらも影響は無かった。
 とはいえ、これは偶然レース展開が味方しただけであり、他のレースで同じことをすれば間に3台マシンがいるかもしれないし、ピットストップ後のトラックポジションが悪く遅い車に引っかかってレースが台無しになるのが最悪の事態だ。

 マシンコントロールやエンジニアとのコミュニケーションなど、問題の本質的な部分には様々な要素が絡み合っていると思われるだけに、今年ルーキーイヤーの間にどうにか改善を期待したいところだ。

4. まとめ

 レッドブルの圧勝、メルセデスに迫る勢いのノリス、アロンソとラッセルの激闘など見どころ満載のオーストリアGPを終え、F1サーカスは超高速シルバーストーンへと向かう。
 空力性能が問われるトラックであるため、今季の残りの戦いを占う上でも非常に注目度の高いサーキットである。スプリント予選含め、実に楽しみな週末となりそうだ。

5. 用語解説

スティント:ピットストップからピットストップまで。もしくはスタートから最初のピットストップや、最後のストップからチェッカーまで。スタートから最初のストップまでを第1スティント、1回目から2回目を第2スティント・・・と呼ぶ。

トレイン:電車のこと。F1ではペースの遅い車の後ろに何台も連なっている様子のことを電車に見立ててこう呼ぶことが多い。「レーシングスクール」などとも呼ばれる。

クリーンエア:前に誰もいない状態。F1マシンの性能はダウンフォースに依存している。したがって高速で走るマシンの後ろにできる乱気流の中では本来の性能を発揮しきれず、前のマシンにある程度接近すると本来自分の方が速くてもそれ以上近づけなくなる。そうした乱気流の影響を受けている状態をダーティエアという。多くのサーキットでは同等のペースでは2秒以内に近づくことは難しい。0.2~0.3秒のペース差があっても1秒以内に近づくのは至難の技だ。

タイヤマネジメント:タイヤを労って走ること。現在のピレリタイヤは温度は1度変わるだけでグリップが変わってくる非常にセンシティブなものなので、ドライバーとエンジニアの連携による高度な技術が求められる。基本的にはタイヤマネジメントが上手いドライバーやチームが勝者となりチャンピオンとなることが多く、最も重要な能力と考える人も多いだろう。

トラフィック:渋滞。ライバルたちがいて、自分の本来のペースを発揮できない状態を言う。おおよそ前方2秒以内にマシンがいると本来のマシンの空力的性能を発揮できない。

DRS:前車と1.000秒以内にいると使えるオーバーテイク促進システム。DRSゾーンのみ使用ができる。通常1箇所か2箇所に設定される。その少し手前に設定された検知ポイントでタイム差を計測するので、後ろのドライバーにとっては例えサーキットの他の部分で離されようともそこで1.000秒以内に入れるようにすることが重要で、そのためにエネルギーマネジメントを調整する(「ターン15で近づきたいからターン1〜7で充電してターン8〜14で放出しよう」など)。前のドライバーはその逆を考え、裏をかいた奇襲なども考えられる。

デグラデーション:タイヤのタレ。1周あたり〜秒という表現が多い。使い方次第でコントロールできる。