• 2024/4/27 20:29

2022年フランスGP レースペース分析

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1. 分析結果と結論

 先に分析結果を示す。分析の過程については次項「2. レースペースの分析」をご覧いただきたい。

表1 ミディアムタイヤでのレースペース

 ミディアムタイヤでは表1のような勢力図になった。

 注釈として、ボッタスは測定誤差の影響が±0.08秒程度あり、そのボッタスを基準に計算したサインツも同様であることは述べておこう。さらにこの2名は、ハミルトンとガスリーの比較で得た「ミディアムがハードよりも0.1秒速い」という知見がサインツにも適用されることを前提として計算したため、そこにも誤差が生じる要因がある。

 ちなみにフェルスタッペンはルクレールに対して攻勢に見えたが、スティント終盤にはルクレールがタイムを上げて突き放していたことから、どちらが上だったとは言い難い。

表2 ハードタイヤでのレースペース

 ハードタイヤでは表2のような勢力図になった。

 殆どがミディアムタイヤと変わらない力関係となっている。またフェルスタッペンはハミルトンより0.3秒ほど速いペースだったが、全力で走っているわけもなく、ミディアムの第1スティントでハミルトンより0.6秒速かったルクレールと良い勝負だったことから、レース後半では0.3秒ほどの余裕を持ちながら走っていたと考えるのが自然だ。

表3 全体のレースペースの勢力図

 総合すると、レース全体のペースの勢力図はこのように結論づけて良いだろう。

 前述の通りフェルスタッペンはルクレールの前後に来るだろう。今回はペレスとの差が非常に大きかったことになる。

 となると、ルクレールとフェルスタッペンが飛び抜け、メルセデスはペレスとサインツならば手が届くという構図と言え、今年を象徴するような内容だ。中団上位にアルピーヌとマクラーレンが来ているのもここ数戦では安定してきた傾向で、アルファロメオに序盤戦の勢いがなくなっているのが心配なところだ。

2. レースペースの分析

 以下に分析の内容を示す。フューエルエフェクトは0.06[s/lap]で計算した。

 また、各ドライバーのクリアエアでの走行時を比較するために、全車の走行状態をこちらの記事にまとめた。

各ドライバーの使用タイヤはこちらのピレリ公式より

 また、今回は新品と中古の差は無視した。

 またスティント前半でダーティエアでも、途中からクリアエアになっており、かつ前半のダーティエア内でもタイヤを労われていて極端なペースダウンでもない場合、スティント全体をクリアエアのように扱ってよく、当サイトではその状態をオープンエンドクリアエア(OEC)と定義している。

2.1 チームメイト比較

 まずは明確に比較可能なチームメイト同士で見ていこう。

Fig.1 アロンソとオコンのレースペース

 トリッキーな駆け引きをしていない第1スティントでは、アロンソが0.4秒ほど上回った。

 また、第2スティントは展開的に定量的な比較がしずらいが、似たような数値になっていたと思われる。

Fig.2 ノリスとリカルドのレースペース

 第1スティント終盤で両者クリアエアの部分ではノリスが0.4秒ほど上回っている。

 また、第2スティントは展開的に定量的な比較がしずらいが、似たような数値になっていたと思われる。

Fig.3 ベッテルとストロールのレースペース

 第2スティント後半のクリアエア部分を比較すると、ベッテルが0.2秒ほど上回っている。タイヤに有意な差はないと考えられる。

Fig.4 シューマッハとマグヌッセンのレースペース

 第2スティントではマグヌッセンが0.4秒ほど上回っている。

2.3. チームを跨いだ比較

 ここからはライバルチーム同士で比較を行っていこう。考察用のグラフを先にまとめて示す。

Fig.5 ルクレール、ハミルトン、ペレス、アロンソ、ノリスのレースペース
Fig.6 ルクレール、ハミルトン、ベッテル、
アルボン、シューマッハのレースペース
Fig.7 ハミルトン、サインツ、ボッタス、ガスリーのレースペース
Fig.8 マグヌッセンとジョウのレースペース

2.3.1. 第1スティント&ミディアム

 まずは第1スティントのミディアム勢についてだ。

 図5に着目すると、ルクレールはハミルトンを0.6秒ほど上回っている。またペレスはハミルトンの0.1秒落ちで、アロンソは0.7秒落ちだ。そしてノリスはそのアロンソの0.3秒落ち程度となっている。

2.3.2. 第2スティント&ハード

 続いては第2スティントでハードを履いたドライバーたちを見てみよう。

 再び図5に着目すると、まずペレスはハミルトンの0.2秒落ちとなっている。

 アロンソは本来のペースで走り始めてからはハミルトン(46周目まで)の0.6秒落ちとなっている。この値が第1スティントと大差ないことから、第2スティントのハミルトンはアロンソの40周目以降と同程度には本来のペースを発揮していたと言えるだろう。また、アロンソがスティントの前半で抑え気味に走ったことはデグラデーションという意味では大きな効果はなく、むしろウェア(特に左フロント)の低減が狙いだったのではないかと推測できそうだ。

 またアロンソとノリスの差も、アロンソがペースアップしてからで比較すれば第1スティントと同じく0.3秒で、この数字も上記考察を裏付けている。

 この知見に確証が得られたため、チームメイト比較で明言を避けたノリスとリカルドの定量的な比較も可能になってくる。結果、ノリスが0.3秒上回り、アロンソとオコンの比較もアロンソが0.4秒上回っていたと言える。

 また図6に着目すると、ベッテルはハミルトンの1.2秒落ち、シューマッハは1.6秒、アルボンは1.7秒落ちだった。

2.3.3. その他

 次に図7に着目する。

 ハードタイヤスタートのガスリーは第1スティントでミディアムのハミルトンから1.6秒落ちのペースだ。そして第2スティントではミディアムを履き、ハードのハミルトンの1.4秒落ちだ。連立方程式を解くとハミルトンの1.5秒落ちでミディアムがハードより0.1秒優れたタイヤだったと言えるだろう。

 また第3スティントでミディアムを履いたボッタスは、ハミルトンの平均0.32秒落ちとなっている。ハミルトンのタイヤが16周古いことを、デグラデーション0.06[s/lap]で考慮すると、実力的にはハミルトンが1.3秒ほど上回っていたと言える。すなわちボッタスはミディアムでガスリーより0.1秒速いということだ。ただし16周のタイヤの差はデグラデーションの精度の関係上±0.08[s]の誤差が出てくることは注釈しておいた方が良いだろう。またボッタスは非常に短いスティントで、マネジメントの必要性がハミルトンと比較して小さかったことは考慮する必要がある。

 そこでサインツに着目する。サインツは第3スティントでボッタスより2.41秒速い。ボッタスのタイヤが6周古いことを、デグラデーション0.10[s/lap]で考慮すると、実力的にはサインツが1.8秒ほど上回っていたと言える。これをボッタスとガスリーの対ハミルトンでの計算結果に当てはめると、サインツがハミルトンを0.4秒上回っていた事になる。

 一方で第2スティントのクリアエアの部分では、(やや比較がしにくいが補助線を引きつつ)サインツはハミルトンを0.2秒ほど上回るペースに見える。ハミルトンとガスリーの比較で出した「ミディアムはハードより0.1秒速い」を適用すると、サインツの実力上のアドバンテージは0.1秒ということになる。

 したがって、サインツはハミルトンの3分の1程度のショートスティントであることによって、0.3秒ほどゲインしていたという計算結果という事になる。常識的に考えても真っ当な値と考えられ、サインツとハミルトンの差については0.1秒を結論に、ボッタスについてはハミルトンの半分程度のスティントなのでショートスティントによるゲインは0.2秒程度と考え、ハミルトンの1.5秒落ち程度と結論づけよう。

 最後に図8に着目し、序盤にハードタイヤに履き替えて、セーフティカー出動までクリアエア走行をしたマグヌッセンとジョウを比較すると、マグヌッセンが平均0.28秒上回っている。マグヌッセンのタイヤが1周古いことを、デグラデーション0.26[s/lap]で考慮すると、実力的にはマグヌッセンが0.5秒ほど上回っていたと言える。

 これらを総合し、表1~3の結論を得た。

Analyst: Takumi