• 2024/11/21 15:24

2006年シーズン総括

 ここまでは、アロンソvsシューマッハの非常にハイレベルなタイトル争いを中心に、2006年シーズンを分析してきた。今回はシーズン全体を俯瞰し、特にシューマッハとアロンソのハイレベルなチャンピオン争いにフォーカスして総括してみよう。

目次

  1. シューマッハvsアロンソの比較
  2. それぞれのチームメイトとの比較

1. シューマッハvsアロンソの比較

 シューマッハとアロンソの予選の比較を表1に、レースペースの比較を表2に示す。
 なお、予選ペースはレースの1回目のピットストップタイミングとフューエルエフェクトから、同等の燃料搭載量での力関係を割り出して示した。また、レースペースはフューエルエフェクトとデグラデーションを考慮し、こちらもイコールコンディションでの力関係を示した。

Table1 シューマッハとアロンソの予選ペースの比較

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Table2 シューマッハとアロンソのレースペースの比較

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 シューマッハは後半戦で予選・レースペースともにアロンソを圧倒し、シーズン平均でも優位に立った。特に後半戦の予選では、ブリヂストンタイヤの一発が効き、全く勝負になっていない。この表だけを見れば、シューマッハが余裕を持ってチャンピオンでも不思議ではないのだが、何故現実はアロンソの2連覇となったのだろうか?

1.1 「手堅いアロンソ」vs「敗北を受け入れないシューマッハ」

 2人にはアプローチ面で大きな違いがある。アロンソはアメリカGPやドイツGPのように競争力が無い週末でも手堅く走り切るのに対し、シューマッハは敗北を受け入れずアグレッシブな走りを見せる。例としては

・オーストラリアGPでコースをはみ出しながらの攻めた走り。結果クラッシュ。
・モナコGP予選でのラスカス駐車により最後尾スタート。
・カナダGPでコースオフやウォールへの接触を繰り返しながらの攻めた走り。結果2位。
・ハンガリーGPで普通に走り切れば5位の状況で、厳しいブロックを繰り返し接触。結果リタイア(完走扱いの8位)
・トルコGPで重い燃料でアロンソに食らいつこうとしてコースオフ。
・ブラジルGP序盤で10番手から猛烈に追い上げ。結果フィジケラと接触してパンク。
・ブラジルGP序盤のパンク後、70秒遅れの最後尾から、時折ラインを乱しながらの激しい追い上げ。結果4位。

 このようにジェットコースターのような展開となっており、オーストラリアGP、ハンガリーGP、トルコGPで13ポイントほど失ったと考えられ、シューマッハのアプローチは「あり得ない勝利」を可能にするものであると同時に、今シーズンにおいてはアロンソに対してポイントを失う形で働いてしまった。

 ただし、シューマッハは攻めるべき場面で攻めており、ここは流石の7度のチャンピオンと評するべきだろう。例えば、マッサはバーレーンでアロンソを追走する中でスピンしているが、これは必要のない攻めだ。対照的に、シューマッハは攻める必要のある時だけ攻めている。その上で「行くと決めた時に行き過ぎてしまう傾向がある」という本質を理解するとミハエル・シューマッハというドライバーの個性や魅力がよりくっきり見えてくるかもしれない。

 対する25歳のアロンソの老練なアプローチは驚くべきものだ。完璧なリスクマネジメントができており、サンマリノGP、ドイツGPや日本GPなどで時折小さなミスは出たものの、結果に影響するほどではなく、シーズンを通してとにかくリスクを避けた走りに徹した。重要なのは本来のアロンソは2005年の鈴鹿のような走りができるということだ。その上でこのような走りをすることで相当余裕を持っていると考えられ、ミスらしいミスが全く無いのも頷ける。

1.2 予選グリッドとレースペースと戦略と…

 今シーズンは、まずタイヤとセットアップの面で、予選とレースのどちらをどれだけ重視するかというバランスが重要になった。ここで、表1と表2を対比していただきたい。

 サンマリノGP、フランスGPや日本GPでは、ルノー&ミシュランはフェラーリ&ブリヂストンの一発に敵わず、予選で後陣を拝してしまったが故に優れたレースペースを活かすことができなかった。

 逆にフェラーリ&ブリヂストンが予選で遅れて、レースペースを活かせなかったのがイギリスGPとカナダGPだ。そして、そこには燃料搭載量も絡んでくる。

 スペインGPのシューマッハは、予選の純粋な実力ではアロンソを上回っていたにも関わらず、燃料を積みすぎて後ろからのスタートになってしまった。レースペースでは0.1秒劣っていたものの、この程度の差ならばポールポジションからスタートしていれば、新品タイヤなども駆使して守り切れた可能性は高い。

 また、カナダGPでも燃料を積み過ぎ、トゥルーリに前に出られてしまったことで、レース前半を棒に振り、勝負権を失ってしまった。

 予選で積む燃料搭載量という観点では、ルノーの方が一枚上手だったとみることができるだろう。

3. レースクラフトはシューマッハ

 一方で、レースクラフトの巧さはシューマッハの腕前が光った。サンマリノGPでは巧みなペースコントロールで燃費を節約しつつ、タイヤをセーブし、ルノー陣営を欺いて勝利を飾った。また中国GPでは変化する路面において、完璧なレース運びを見せたシューマッハに対して、アロンソは序盤で飛ばし過ぎてタイヤを交換する羽目に、これが仇となり勝利を逃してしまった。また高温&柔らかいタイヤという難しい条件となったフランスGPでも、非常にうまくタイヤをマネジメントして勝利を収めている。

 この時点では、アロンソにはまだ若さが見られる一方で、シューマッハのレース巧者ぶりが楽しめるシーズンとなった。ここで幾つかの敗北を味わったアロンソがその後の数年間で成長し、レースクラフトを最大の強みとするようになったのは実に感慨深い。

2. それぞれのチームメイトとの比較

 シーズンを通してシューマッハはマッサに、アロンソはフィジケラに明確な差をつけた。その軌跡を表1,2と同様に、フューエルエフェクトとデグラデーションを考慮した予選ペース比較、レースペース比較で振り返っていこう。

Table3 アロンソとフィジケラの予選ペースの比較

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Table4 アロンソとフィジケラのレースペースの比較

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 意外にもアロンソは予選ではフィジケラと互角や劣勢のレースがあり、トータルで見ると極端に大きな差はない。

 アロンソの真骨頂は何と言ってっもレースペースだろう。フィジケラに対して年間平均で0.4秒と大差をつけており、エースとして圧倒的な力を示した。

Table5 シューマッハとマッサの予選ペースの比較

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Table6 シューマッハとマッサのレースペースの比較

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 シューマッハは、予選の地力パフォーマンスでマッサに全勝することができた。この点は予選で当たり外れがあるアロンソよりも優れた点と言える。また、レースペースでもマッサを0.4秒ほど上回っており、これはアロンソとフィジケラとの力関係と同じものだ。

 このシューマッハの予選でのドライバーアドバンテージは、レース展開に大きな影響を及ぼしている。例えばサンマリノGPはマッサに対して1.00秒のアドバンテージがあったからこそ、ポールポジションを獲得し、優勝につなげることができた。またカナダGPではフェラーリの競争力が危機的な中で5番グリッドを獲得。これもマッサに対する0.94秒のアドバンテージが可能にしたもので、マッサを0.3秒上回る程度のパフォーマンスなら、8番手付近でもおかしくなかった。

 このように、

・予選パフォーマンスはシューマッハ
・レースペースは互角
・レースクラフトはシューマッハ
・手堅くポイントを持ち帰る能力はアロンソ

 と各々の個性・強みが分かれ、単なる接戦ではなく、その背景にヒューマンな部分が見え隠れする非常に面白いシーズンとなった。