今回は2017年スペインGPを振り返ってみよう。逃げるベッテルと逆転を狙うハミルトンの間では、非常に興味深い戦略的な駆け引きが行われていた。
※タイヤはソフト、ミディアム、ハードの3種類が持ち込まれ、
ベッテル:ソフト-ソフト-ミディアム
ハミルトン:ソフト-ミディアム-ソフト
を選択した。
1. ボッタスの存在が鍵に
最初にハミルトン、ベッテル、ボッタスのレースペースを図1に示す。
ポールポジションはハミルトン。しかしスタートはベッテルの出来が良く、先頭に躍り出る。
一方、一時は2秒以上に差を広げられたハミルトンだったが、スティント後半にプッシュを開始。14周目にはベッテルとの差は1.9秒となった。
ベッテル陣営はアンダーカットを防ぐためにこの周でピットストップを行う。タイヤはソフトだ。後の第2スティントのハミルトンのペースからも分かるように、ミディアムはペース的に厳しかった。よって、ソフトを選んだことはアンダーカット防止という目的に対して最適解だったと言えるだろう。
そして、ピットストップ後はリカルドの後方になるものの、ペース差が大きくロスなく交わすことができ、第2スティント前半はクリアエアで進めることができた。そしてその間、ハミルトンは21周目にピットへ。タイヤはミディアム、ベッテルの「逆」だ。
しかし、立ちはだかったのはボッタスだ。フェラーリとしては、ライコネンが1周目の1コーナーで消えており、2対1の戦いに持ち込まれてしまったことが痛かった。図1からも分かるように、この3周でベッテルは本来のペースより大幅に遅いペースとなってしまい、5秒ほどロスしたことが読み取れる。
ここで2人の差は約3秒に縮まった。しかしソフトのベッテルは履歴の新しいミディアムのハミルトンより速く、その差は再び開いていった。
2. VSC時の判断
34周目にはバンドーンとマッサが接触。35周目にはVSCが入る。
しかし35周目にはベッテル、ハミルトン共にステイアウト。そしてハミルトンは36周目にピットへと向かい、ピットレーンの前半部分を通過中にVSCが解除された。
そして翌周ベッテルがピットへ。コースに合流すると、7秒以上あったハミルトンとの差はゼロになっており、サイドバイサイドでターン1へ。ここはベッテルが半ば強引に抑えた。
しかしその後は、ソフトのハミルトンとミディアムのベッテル、ペース差は歴然だ。ハミルトンは44周目のターン1でついにベッテルを仕留め、そのまま逃げ切って逆転優勝を飾った。
ここでのメルセデス陣営の判断は見事だ。35周目に入れば、36周目にベッテルも入ってしまい、その差が変わらず第3スティントを迎えてしまう可能性があった。しかしVSCの終わりが近い段階でピットに入れば、翌周相手が入る時にはグリーンフラッグ下となり、自分だけがVSC時のピットストップロス低減の恩恵を受けることができる。
実際にはピットレーンの途中でVSCが解除されてしまったが、部分的にでもVSCの恩恵を享受できれば、それは十分ゲームチェンジャーになる。ハミルトンがベッテルを抜き、かつ最後までタイヤを持たせたのも、第3スティントの序盤に7秒という差を埋めるためにタイヤを使わずに済んだことが大きく貢献しているだろう。
また、図1の第1スティントを見れば顕著なように、ハミルトンのペースは同条件のボッタスを0.4秒ほど上回っている。勝利の背後に存在した種々の戦略的要因は勿論だが、全ては純粋なペースがあっての話だ。ハミルトンは特に2014年以降、レースペースで非常に優れたパフォーマンスを続けており、ロズベルグは肉薄したものの、ボッタスとなると明確な「エース&ナンバー2体制」となる。こうした幾つかの要因が積み重なって、ハミルトン絶対王政時代が到来しいていたのがこの頃だったと振り返ることができそうだ。
Writer: Takumi