• 2024/4/27 21:16

2016年スペインGPレビュー 〜新時代の幕開け〜

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 F1世界選手権、2016年の開幕戦はオーストラリアGPだ。しかしこのスペインGPは現代F1の開幕戦と表現しても過言ではないだろう。不振が続くダニール・クビアトがトロロッソへ降格、代わってレッドブルのシートに収まったのは当時18歳のマックス・フェルスタッペンだった。今回はそんなフェルスタッペンのレッドブルデビューレースにして初優勝の舞台でもあった2016年スペインGPを振り返っていこう。

1. 四つ巴の優勝争い

 白熱の優勝争いを振り返るため、本項では2つのグラフを用いる。

 まず図1に、レッドブルとフェラーリ4台のギャップグラフを示す。フェルスタッペンを基準とし、フェルスタッペンの前とのギャップをプラスで表した。

 続いて図2にフェルスタッペン、ベッテル、リカルドのレースペースを示す。

図1 リカルド、ベッテル、ライコネンに対するフェルスタッペンの位置関係
図2 フェルスタッペン、ベッテル、リカルドのレースペース

1.1. vsベッテルで生まれたスプリットストラテジー

 スタートではメルセデス2台が同士討ち。これによってレッドブルはリカルド、フェルスタッペンの順で1-2体制を築いた。

 一方のフェラーリ勢は2台揃ってサインツに先行を許し、ベッテルは7周目まで、ライコネンは9周目まで引っかかっていた。ベッテルがサインツを交わした8周目にはフェルスタッペンの3.4秒後方になっており、そこからようやくベッテルの追い上げが始まる。

 序盤で遅れたフェラーリ勢だが、サインツの後方でタイヤを労ったこともあり、第1スティント終盤にはレッドブル勢をじわじわ追い上げている。そして第2スティント中盤の20周目付近ではフェルスタッペンがリカルドに追いつくと共に、ベッテルもフェルスタッペンに追いついていることが分かる。

 ここで問題だったのは、ベッテルがレッドブル2台をアンダーカット射程圏内に入っていたことだ。リカルドがピットに入る28周目の時点でベッテルはリカルドの2.5秒後方。そして図2に示す通り、新品タイヤに履き替えたベッテルは、使い古したタイヤのフェルスタッペンより、30周目過ぎの段階で2.5秒ほど速い。

 これだと仮にベッテルが真っ先に2回目のピットストップを行なっていた場合、レッドブルは2台揃ってアンダーカットを許してしまうこととなる。だからこそ、前を行くリカルドにベッテルの前をキープさせるべく、28周目に先手を打ってピットストップを行なったのは頷ける判断だ。

 一方で翌29周目にフェルスタッペンを入れるという選択肢もあったはずだ。筆者としては、これはフェルスタッペンにリカルドとレースをする権利を与えたと解釈した。第1,2スティントを見れば、フェルスタッペンの方がややペースが良さそうであり、2ストップであわよくば優勝をと狙いを定めるのはかなりアグレッシブではあるが理解できる。

1.2. ベッテルの大胆なアンダーカットが勝敗を分けた?

 さて、再度図1にフォーカスしよう。3ストップを選択したリカルドとベッテルは後方から1周2秒以上の勢いで追い上げてくる。しかしベッテルは35周目にはリカルドに追いついてしまい、ここでたったの8周しかしていないにも関わらずピットに入るという非常に大胆なアンダーカットに出る。

 図2を見れば明らかだが、ここでのデグラデーションはベッテル、リカルド共に非常に大きく、1周あたり0.2秒以上だ。となれば、この少ない周回数でもアンダーカットはかなり有効になってくる。

 だが、このタイミングでのアンダーカットを阻止するためにリカルドが先に動くというのは現実的ではない。第2,3スティントでの展開からして、同条件でのレースペースはベッテルの方がリカルドより速いことが分かっているからだ。

 非効率的な奇策はポテンシャルで上回っているからこそできることであり、逆にリカルドが先手を打って37周目に入ってしまえば、ベッテルはスティントを引っ張り、最終スティントでタイヤの履歴の差を活かしてリカルドを抜き去っていただろう。

 結果的にここでベッテルがアンダーカットしたことがフェルスタッペンの初優勝に結びついた。

 ここで図1のベッテルとリカルドのレース終盤の展開に補助線を加えた図3を示す。それぞれがクリアエアで走った場合を想定し、赤と紫の細線で描き加えた。

図3 リカルド、ベッテル、ライコネンに対するフェルスタッペンの位置関係
(補助線つき)

 最終スティントのベッテルは前半は抑えて3周古いタイヤのフェルスタッペンと同等のペースを刻むが、50周目を過ぎるとペースアップ。ただし、補助線を引っ張ると最終ラップにフェルスタッペンに追いつくかどうかという所で、仮にリカルドとのバトルが無く自分のペースで追い上げていたとしてもライコネンとフェルスタッペン2台をオーバーテイクする所までは至らなかっただろう。

 逆にタイヤが新しいリカルドのペースはすこぶる良く、ベッテルに阻まれていなければラスト2,3周でフェルスタッペンとライコネンを捕まえていた計算になる。抜けていたかは別問題だが、それなりにチャンスはありそうだ。

 こうして振り返ると、3ストップそのものが不味い戦略だったというわけではなかったと言えるだろう。ベッテルが非効率的なスティント割をしたこと、そしてリカルドがそのベッテルを抜けなかったことがフェルスタッペンの初優勝に繋がった一因なのは確かなようだ。

 レッドブルとしては6周のタイヤの差があれば抜けると考えたのだろうが、ベッテルがスティント序盤で抑えて走りタイヤをセーブしたことがこの結果に繋がったとも言えるだろう。そしてこれと全く同じことが2021年USGPのフェルスタッペンvsハミルトンで起き、展開上の立ち位置こそ違えど、このレースの勝者もマックス・フェルスタッペンだった。

2. レースペース分析

 このレースでのレースペースを分析し、燃料、タイヤ、クリア/ダーティエア、などの諸因子を考慮して、同条件での競争力を割り出すと以下のようになった。

表1 トップ4のレースペース分析

 フェラーリの方がやや競争力のあるパッケージで、やはりスタートでのポジション取りがレース展開を大きく左右したと言えるだろう。またフェルスタッペンはリカルドを、ライコネンはベッテルを上回ったが、かなりの僅差で4台が0.3秒以内となっている。

 5年後にチャンピオンになる天才フェルスタッペンの初優勝は、2チーム4人のトップドライバーが持てる力を出し切り、その上での高度な戦略バトルの結果として掴み取ったものだったと総括できるだろう。

Writer: Takumi