フェルスタッペンの強さとアロンソの驚異的なバトルスキルが光ったサンパウロGP。Part1では2人のチャンピオンの走りにフォーカスして振り返りを行った。さて、今回のPart2では、議論を呼んだメルセデス勢のバトルや、スプリントレースから台風の目となったアルファタウリに注目して見ていこう。
1. 議論を呼んだメルセデスの采配
1.1. ハミルトンvsラッセル
今回のレースでは、第2スティントで前を走るハミルトンに対してラッセルが接近。チームは順位の入れ替えをせず、その後ラッセルはペースが落ちて後退していった。この問題を深掘りするため、メルセデス勢のレースペースを図1に示す。
まず、2台ともスティントの序盤にライバル勢とのバトルで遅くなっているラップがある点は注意する必要がある。その上で2人のレースを追っていこう。まず、27周目にストロールに交わされたハミルトンの背後にラッセルがつけ、ここから2台のバトルが始まる。
ハミルトンはクリアエアを得てからは1分16秒台の前半で周回しており、ラッセルはこれにピタリと食らいついていった。この時点ではラッセルの方が速そうに見えたかもしれないが、今日のF1の難しい所は「飛ばせば速く走れる」という点だ。
よりアグレッシブに走れば、ライバルよりも優れたペースを発揮できる。しかしスティントの後半にはタイヤが悲鳴を上げ、その代償を払うことになる。これは短距離走ではない。マラソンなのだ。
今回の例で言えば、ハミルトンも当然スティント後半のことを考えて、タイヤをセーブして走っていたことは間違いない。ならばラッセルの方がその段階で速いからと言って、譲る筋合いはない。仮にそうした所で、飛ばしすぎたラッセルのタイヤがタレてきた際には、今度はラッセルからハミルトンへの順位の入れ替えが生じ、全くもって無駄なタイムロスが生じてしまう。
そして、実際にラッセルはスティント後半ではハミルトンについていけておらず、スティント後半になるほどペース差が大きくなってしまった。テレメトリを見ても、PUの問題はこの時点ではさほど影響していないと考えられ、純粋なペース差と考えるのが自然のようだ。
この時メルセデス勢ができた最善策は、ラッセルにハミルトンとの距離を置くように命じることだったのではないだろうか?レースのこの段階では2台でタイヤをセーブし、スティント後半になってきてハミルトンのタイヤがタレてきた時にラッセルのペースの方が良ければバトルをさせるなり、ラッセルにタイヤのオフセットを与えて最終スティントでバトルさせるなりすれば良い。
同じ論理で、ラッセルとしても、同じ車で1周しか新しくないタイヤを履いてのオーバーテイクは非現実的な中で、スティント前半で無理にハミルトンを抜こうとするよりも一度後ろに下がってマネジメントに徹した方が利口だったかもしれない。或いは、ハイペースで迫ればチームオーダーが発動されると考えての戦略的な動きだったのだろうか?真相は知る由もないが、上記のロジックから考えればやや楽観的に見え、今回の件は、チームとしてもラッセル個人としても良い学びの機会になったかもしれない。
逆に言えば、ハミルトンは上手くタイヤをマネジメントしつつラッセルにダーティエアを浴びせて、チームメイトバトルを有利に運んだ。トラックポジションを活かしてタイヤマネジメントで差をつけるチャンピオンらしい走りだった。
1.2. 一貫性に欠けるメルセデスのペース
ちなみに先に行ったレースペース分析の結果、今回のハミルトンは、第1スティントでフェルスタッペンの1.0秒、第3スティントで1.2秒落ちと、ソフトタイヤでは散々なペースだったが、ミディアムの第2スティントでは0.5秒差(アロンソ以上)だった。
見た目上のペースは、第2スティントでライバル勢に遅れを取っていたように見えるかもしれないが、それはライバルたちより1回目のピットストップが早く、古いタイヤを履いていたからだ。そして1回目を早く入らなければならなかったのは、ソフトでのペースが悪く、オコンにアンダーカットされる恐れがあったからだ。
このように、画面上に顕在化してくる速さと、注意深く計算した際に見えてくる本質的な競争力のバランスが時として異なるのも、このスポーツの楽しさの一部だろう。そしてこの話が後のアルファタウリの戦略考察で重要になってくる。
2. 驚速アルファタウリ
2.1. チームの躍進と角田の成長
前戦メキシコでレッドブル、メルセデス、マクラーレン、フェラーリに次ぐレースペースを見せたアルファタウリ。筆者はメキシコGPのレビュー記事にて、予選とレースペースの両立ができるようになってきた点に触れたが、今回も(金曜予選こそポテンシャルを発揮しきれなかったものの)、一発とレースペースを高い次元で両立することに成功した。
前述のレースペース分析では、今回はレッドブル、マクラーレン、アストンマーティンに続く4番手のレースペースを記録しており、この速さは本物と見て良いだろう。
前戦メキシコでミスを犯した角田も、今回は失敗を土台に着実に成長したように見受けられた。スプリントレースではルクレールの後ろで無理をせずにタイヤを残し、終盤にハミルトンを抜くチャンスが訪れた際にも21周目には一度引いて、次周のホームストレートでより確実に仕留める方を選んだ。
ドライビングミスは、フェルスタッペンやアロンソですら時折犯すものであり、徹底的に無くさなければならないのは前戦のような判断ミスの方だ。その点に関して、この1週間で多くの学びと気づきがあったのだろうか?そう思わせる角田の安心感溢れる走りだった。
2.2. 第2スティントを引っ張った戦略の是非
さて、今回はアルファタウリが角田のスティントを引っ張り、最終スティントでのごぼう抜きを試みたが、角田のマシンに起きたクラッチトラブルによってそれは実現しなかった。図2のレースペースグラフからも好ペースで周回し続けた角田のペースが急激に落ちていることがわかる。
では、トラブルがなければハミルトンに届いたのか?或いは、もう少し早く入っていた方が良かったのではないか?といった疑問は生まれてきて当然だろう。そこで本サイト恒例の「ifの世界」を覗いてみよう。
図2に、ハミルトンと(リタイアしなかった場合の)ラッセル、そしてトラブルがなかった場合の角田(実線)と50周目にピットに入っていた場合の角田(点線)の64周目以降の位置関係を表したギャップグラフを示す。
フューエルエフェクトとデグラデーションは共に各車0.04[s/lap]とした。65周目以降の角田のペースを1:14.3、ハミルトンを1:15.4とし、ラッセルは同条件でハミルトンと互角とする。また角田が50周目に入った場合のラップタイム推移は、55周目の推移にフューエルエフェクト5周分の0.2秒を加えたペースとした。
ラッセルはハミルトンよりも1周古いタイヤであるため、その分少しだけ遅い。そして、ラッセルが走っていれば、角田は68周目付近で捕らえ、1.1秒のペースアドバンテージで軽々オーバーテイクしていただろう。一方でハミルトンには4秒弱届かなかったという計算になっている。チームとしてもこのペースでは届かないことを悟ったからこそ、マシンを労る方向に切り替えたと思われる。
だが、少し早めの50周目にピットに入っていた場合、話は変わってくる。最後にギリギリハミルトンに届いた計算になるのだ。さらにラッセルとのペース差が0.9秒に減じるとは言え、オーバーテイクには十分な数字だ。したがって結果論で言えば、50周目に入れた方が良かった。
しかしここで重要なのは、1.2項で前述した通り、メルセデスの最終スティントは、同じソフトタイヤの第1スティントと比べても0.2秒、ミディアムの第2スティントと比べて0.7秒ほど遅かったということだ。
アルファタウリとしては、単純にオーバーテイクには0.5秒ほどのペース差が必要で、そのためには10周程度のタイヤのオフセットが必要だと考えたのかもしれないが、今回はメルセデスがソフトタイヤで苦戦する一方で、アルファタウリには競争力があった。照準をラッセル1台に絞るにしても、もし競争力がなければ、そもそも追いつくこともできないはずだ。よって、「ダメで元々」少ないタイヤ履歴差でオーバーテイクを仕掛ける大胆さが欲しかった。
一方で、チームとしては、メルセデスが最終スティントで苦戦することを勘定に入れて、まさに図2の展開でレース終盤でラッセルを抜く所までシミュレートできていた可能性もある。この場合は、ラッセルのリタイアにより分かりにくくなってしまったが、「ラッセルを確実に仕留める」という意味で、引っ張ることの正当性を主張できる。しかし、68周目に追いつけるほどの競争力があるなら、50周目に入っていても抜けた(ペース差は0.9秒)ため、終盤のセーフティカーの可能性などを考えれば、やはり少し早めに入れた方が賢明だったように思われる。
普段なら争う機会のない相手との戦いで、判断が鈍ったのかもしれないが、今回は自分たちの素のペースを信じて良かった場面で、トップチームとの差が出てしまった。
第1スティントでの角田のコースオフや、1回目のピットでのもたつきもあり、これがなければガスリーに対するアンダーカットや、引っ張るにしてもタイヤをマネジメントしてより有利な位置から第3スティントをスタートすることが出来たと思われるだけに、チーム全体として勿体無いことをしてしまったように見受けられる。
一方で、リカルドが今回も優れたレースペースを見せており、競争力という観点では、マシン、2人のドライバー全てが良い方向へと進んでいる。次戦は低温のラスベガスとなるが、全く異なる環境で良い車を仕上げていけるか、注目が集まる。
Writer: Takumi