今回から【Race Impression】としてレース翌日の簡単な振り返りを行っていこう。
1. メルセデス完勝
ポールポジションから逃げを図ったラッセルは、同じソフトタイヤ(以下ソフト)のペレス、ミディアムタイヤ(以下ミディアム)のサインツを引き離して行った。ラッセルとペレスのレースペースを図1に示す。
第1スティントでのペレスは暫くラッセルについて行けた。しかしスティント終盤には大きなデグラデーションが見られ、これによって離されてしまった。
第2スティントではミディアム同士で、今度はデグラデーションもそこそこに保つことができたが(終盤の落ちはハミルトンとのバトルによるもの)、絶対的なペースでラッセルに劣ってしまっている。タイヤの履歴を加味しても0.2秒ほど遅い計算だ。
グラフは割愛するが、フェルスタッペンもペレスと同等のペースしかなく、一方でハミルトンはラッセルと互角以上のペースで走れていた。純粋なマシンパフォーマンスの点でメルセデスが明確に上回っていたということだろう。
スプリントレースの週末はセットアップを煮詰められるのがFP1しかない。問題解決能力の高さを強みとするレッドブルにとってはその強さが削がれるフォーマットとも言えるかもしれない。
2. 譲るか譲らないか
(1)フェラーリ
レース終盤にはドライバーズランキング2位を争うルクレールとペレスに対し、各々のチームメイトが順位を譲るか否かが注目の的となった。
入れ替えを提案するルクレールに対してフェラーリは「リスキー」とした。これはルクレールの1.2秒後方にアロンソがいたからだろう。筆者はUSGPでガスリーが角田に譲らなかった件について擁護の立場を採ったが、すぐ後ろにマシンがいる状態でチームメイトだけに譲るのはかなり難しい。
特に今回は背後にいるのがアロンソとフェルスタッペンという非常に手強いドライバーで、最悪の場合2台に抜かれかねない。メルセデスとのコンストラクターズ選手権争いを鑑みても、そのリスクを冒さなかったフェラーリの判断は支持できる。
(2)レッドブル
フェルスタッペンはアロンソの前に出られないならペレスに譲るように指示されていたが、それを無視した。レース後もどうやら揉めている模様だ。
「政治家」としては、ここでペレスに”give”をしておくことが、来年以降のタイトル争いで2021年並みのサポートを受けることに繋がるという打算的な判断をするものだろう。一方で「レーサー」とは本質的にエゴの塊であり獣であり時として愚直さを備えるだろう。
フェルスタッペンにも「理由」があるようだが、今後数年のタイトルを制することと自分が自分らしくあること、どちらを優先するか。そこに矛盾が生じることもあり得ることだ。
これもまた哲学であり、正解はない。
3. 中団争いを制したアロンソ
スプリントレースでオコンと接触して18番手スタートとなったアロンソ。スプリントで見せた圧倒的なペースをレースでどう追い上げに繋げていくか注目が集まった。
ここで、アロンソとオコンのレースペースを図3に示す。
アロンソは3ストップを選択し、混戦状態の中団争いに突破口を見つけた。
第2スティント序盤では、7周の履歴の差があるとは言え、なんとフェルスタッペンより速いペースで周回。4.6秒あった差を23周目には1.3秒まで詰めた。そして、スティント後半になるとボッタス、ベッテル、オコンら2ストップ組がタイヤを履き替えて追い上げを図ったが、10周古いタイヤで彼らとほぼ遜色ないペースで対抗していることがグラフからも分かる。
そして、第3スティントでも集団を交わしながらハイペースを維持。スティント後半でも、ソフトに履き替えたライバル勢より10周以上古いタイヤで互角のペースを発揮した。
最終的にはVSC・SCの導入で、あっさり中団トップを奪取、ペレスを抜き去ってルクレールを攻めつつフェルスタッペンから5位を守り切った。
ただし、VSC・SCが無かったとすると、中団トップをかけた面白いレースが見られたかもしれない。
55周目にピットに入るとして、ボッタスの13秒ほど後ろで戻ると、ペース的にはボッタス、ベッテル、オコンらより1秒前後速かったと考えられる。ペース差が大きいとライバルを抜く際にもそれほど大きくロスしないのは第3スティントのグラフからも明らかで、おそらくラスト数周で中団トップを奪い取る絵は描けていただろう。
4. 好レースが続くベッテル
ここ最近は非常に良い内容のレースが続いているベッテル。今回もVSCまでは中団で先頭のボッタスを追い回す好走が光った。
図3にベッテルとストロールのレースペースを示す。
第2スティントではほぼ両者クリアエアだが、デグラデーションの大きい展開でも3周新しいタイヤのストロールと互角のペースで走っている。今回はベッテルの方にペースがあったのは間違いない。
また2018年以降目立っていたインシデントの多さも、ここ最近はすっかり解消されており、引退間近でかつてのベッテルの姿が戻ってきたように映る。最終戦アブダビでの有終の美に期待したい。
Witer: Takumi