• 2024/4/23 10:49

2022年バーレーンGP レビュー(1)〜ルクレールvsフェルスタッペンの一騎打ち〜

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※3/22 第2スティントのペース考察を修正
※8/6 3回目のピットストップ周回数を各々修正

 3ヶ月強の冬休みが明け、F1はバーレーン・インターナショナル・サーキットにて開幕を迎えた。グランドエフェクトカーの導入や18インチタイヤへの変更など、各チームにとって非常にチャレンジングなゼロからの出発となった。同時に新時代の勢力図がどうなるのか、オフシーズンテストの段階でも謎に包まれた部分が多く、開幕戦の予選・決勝の流れには大きな注目が集まった。今回はそんなバーレーンGPで優勝争いを繰り広げたルクレールとフェルスタッペンにフォーカスして見ていこう。

F1用語の解説集はこちら

各ドライバーの使用タイヤはこちらのピレリ公式より

1. 僅差でポールをもぎ取ったルクレール

 予選ではルクレールがポールポジションを勝ち獲った。予選結果が示す通り、Q2からQ3にかけてフェルスタッペン、サインツ、ペレス、ボッタスあたりは0.1秒程度の改善しか見られず、ハミルトンやマグヌッセンに至っては悪化している。その中でルクレールは0.4秒ほど改善し、見事ポールポジションを獲得した。ルクレールはQ1からQ2にかけての改善幅が他のドライバーより少なく、Q2のアタックはやや控えめだったのかもしれない。

 F1公式YouTubeの比較動画を見ると、明確に差がついたのは最終コーナーだ。ルクレールはここでアウト一杯まで使い切り、タイムを稼いでいることが読み取れる。

 また、ルクレールはターン6と7の間でオーバーステアをねじ伏せており、ターン10の立ち上がりでも一瞬のカウンターを当てているが、タイムをロスしないどころかフェルスタッペンに対してゲインしている。ターン13の侵入でも軽いオーバーステアが出ているが、ラインは乱れずターン14のエイペックスを正確に捉えている。こうしたスーパープレイが見られるのもF1という屈指のトップカテゴリーの魅力と言えるだろう。

※参考:サーキットガイドはこちら

2. レースペースは互角。勝敗を分けたのは…?

 レースはポールポジションのルクレールがスタートを決め、序盤からフェルスタッペンとの一騎打ちの様相を呈した。2人のレースペースを図1に示す。

図1 ルクレールとフェルスタッペンのレースペース

2.1. 第1スティントのペース

 まず第1スティントでの2人のペース差は6周目以降で平均0.24秒だ。ただしルクレールは新品ソフト、フェルスタッペンは中古のソフトだったことは考慮する必要がある。今回はデグラデーションが非常に大きく、この2人の場合は0.15秒もあった。よって、予選でのインラップ+アタック+アウトラップの3周で0.2秒前後の劣化があったことは容易に想像でき、第1スティントを見る限り、イコールコンディションでの2人のペースは予選同様に互角に近かったと考えられる。

 そして、その差が3.8秒となった14周目にフェルスタッペンはピットへ。新品ソフトに履き替える。レッドブル&フェルスタッペン陣営は、当初からここでのアンダーカットを狙って新品ソフトを温存しておいたと思われ、実際に翌周ピットインしたルクレールがコースに戻るとテールトゥノーズの状態になっていた。ルクレールとしては第1スティントで稼いだマージンが効いて、ポジションを守り切ることに成功した形だ。

2.2. 至高のバトル

 そして第2スティント序盤では、抜きつ抜かれつの激しいバトルが繰り広げられる。17周目、フェルスタッペンはターン1のブレーキングでイン側に飛び込むが、ルクレールはアウト側からクロスラインで立ち上がりを重視。これによってDRSも利用しつつターン4でアウトから抜き返してみせた。18周目にも同様の流れとなったが、これは今季の後方乱気流の影響が少ないマシンによって実現できたバトルだと考えられる。昨年までのマシンではターン1でクロスラインを取っても、ターン2,3でフェルスタッペンの後方乱気流の影響を受け、ターン4勝負に持ち込むのは厳しかっただろう。

 19周目のターン1でもフェルスタッペンはトライするが、ここではブレーキングでロック。突っ込みすぎてしまい、あっさりルクレールが抜き返した。

 ルクレールのディフェンスは2019年から一貫して素晴らしく、今回も17,18周目のような接近戦では、ストレートでイン寄りに振りつつ、相手がインに飛び込んで来ると、マシンをアウト一杯に振って立ち上がり重視のラインを取る。そして19周目のようにある程度距離がある時は、無駄にブロックラインを取らない点が素晴らしい。相手が無理をして飛び込んできた時に立ち上がりを重視しつつ、相手との間合いを調整してコーナーにアプローチする。これはかつてミハエル・シューマッハが非常に抜きにくいドライバーであった事のキーポイントの一つだ。2005年日本GPのフィジケラや2021年フランスGPのボッタスのように必要のないブロックラインを取ると、次のストレートで不利になってしまう。この辺りのルクレールの能力は現役の中でもトップクラスと思われる。

2.3. 第2スティントのペース

 では、そこからの第2スティントを見てみよう。ここでは第1スティントと逆で、フェルスタッペンが新品ソフト、ルクレールが中古のソフトとなった。ここでのペースは23周目から28周目の平均でルクレールが0.13秒上回っている。フェルスタッペンのタイヤがレースで1周分古く(デグラデーション0.15秒相当)、ルクレールが予選でも使ったタイヤであったことを踏まえると、純粋なパフォーマンスでは互角か0.1~0.2秒ほどルクレールが上回っていたようにも見える。フェルスタッペンは20周目から3周の間ペースを落としルクレールとのギャップを広げており、その間にタイヤも労われていたと考えられ、実際は0.2秒程度と見た方が良いのかもしれない。フェルスタッペンが第1スティントと比べてペースを失ったように見えるのはスティント序盤でルクレールに対して仕掛けたこと、バトルの中でロックアップしたことも考えられるだろう。

 フェルスタッペンはスティントの最後の2周でタイヤが大きくタレてしまい、これも祟って4.0秒差で30周目のピットストップを迎え、新品のミディアムタイヤに交換することとなった。そしてルクレールは翌周に入り、1.2秒差でコースに復帰した。

2.4. 第3スティントのペース

 ルクレールはアウトラップから飛ばし、1周回ってきた際にはその差は2.2秒まで広がっていた。これは、第2スティント序盤と同様のバトル関係になることを嫌ったためと考えられる。

 そこからのペースは、33周目から41周目までの平均でルクレールが0.21秒上回った。フェルスタッペンのミディアムのデグラデーションはソフトより大きい0.17秒で、この数字でフェルスタッペンのタイヤが1周古いことを考慮すると、素の実力差はほぼ互角だったと考えられる。

2.5. まさかの決着へ…

 フェルスタッペンは43周目にピットへ。しかし無線からはステアリングが重くなる異常を訴える声が聞こえた。

 レースはガスリーのストップによってセーフティカーが入り、ルクレール、フェルスタッペンの順で再スタートを切ったが、フェルスタッペンのペースは上がらず、54周目にはスローダウンを喫し、まさかのリタイアとなってしまった。

 ルクレールは、再スタート時も最終コーナーでアウトから入りつつ加速するという抜け目ない妙技を見せ、その資質を思う存分輝かせトップチェッカーを受けた。

2.6. フェラーリの戦術はあれで良い…?

 一方で、筆者としてはフェラーリの戦術には疑問符が残る。43周目に3回目のピットストップを行ったフェルスタッペンに対し、筆者はルクレールも翌周反応すると思って見ていたが、なんと44,45周目とステイアウト。この時点で27.5秒あった差は、25.4秒まで縮まっていた。ここで、フェラーリの考え方として、あり得るのは2通りだ。

 一つ目はルクレールを46周目に入れる予定だった場合だ。その場合、ピットストップ時のギャップは23秒程度となることが予想され、ピットストップが順調だったとしても1秒強の余裕しかない。引っ張ってタイヤの履歴を作ることの意味も特になく、これは無駄なリスクではないだろうか。

 もう一つは2ストップで走り切る戦略だ。こちらの方が可能性としては高いが、やはりリスキーだ。ミディアムでこの時点で最も長い周回を走ったのが、アルボンとノリスの24周。対してルクレールは26周を走り切ろうとしていたことになり、タイヤが終わって本来勝てたレースを落としかねなかったのではないだろうか?タイヤが持ったとしても、図1のデグラデーションから見れば、フェルスタッペンに1周2秒のペースで追いつかれ非常に危うい展開となっていただろう。

 筆者としては、ここは翌周44周目に反応して確実に前を抑え、1周新しいタイヤでコントロールしてチェッカーまで運ぶのが最も確実に勝利を収める方法だったのではないかと考えている。今回はたまたまセーフティカーとフェルスタッペンのトラブルに助けられたが、昨年改善されたように見えたフェラーリのレース戦略・戦術の弱さが垣間見えたように思えた。

2.7 勝敗を分けたのは予選

 このように、第1,2,3スティントを通してほぼ互角の実力を有していたと考えられるルクレールとフェルスタッペン。その勝敗を分けたのはやはり予選とスタートでルクレールが前を抑えたことだろう。後ろになってしまうとどうしてもダーティエアの影響で最初の数周は実力以上に離される。その後食らいついてもアンダーカットは難しく、1周古いタイヤはデグラデーションの高いコース特性によってペース上の不利を生んでしまう。

 今回は互角の力を有した場合にトラックポジションがモノを言う、良い例のレースとなったと言えるだろう。

3. タイトル争いは昨年以上の激戦か?

 フェルスタッペンとハミルトンが異次元のハイレベルな戦いを見せた2021年シーズン。2022年開幕戦バーレーンのルクレールとフェルスタッペンのハイレベルなレースは、この2人がそんな昨年と同じくらい熱いバトルを見せてくれそうな予感を光らせてくれる名バトルだった。今は出遅れているメルセデス勢もいずれはポテンシャルを発揮してくると思われる。フェルスタッペン、ルクレール、ハミルトンの三つ巴のシーズンとなるのか?あるいはサプライズが起きるのか?次戦サウジアラビアGPも期待に胸が高鳴る高速バトルとなりそうだ。

 明日のレビュー(2)では引き続き、メルセデス勢やハース、その他の中団争いなどに着目していこう。

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Writer: Takumi