波乱含みの展開となった雨のカナダGP。今回もデータを交えながらレースを振り返ってみよう。
1. ノリスの手からこぼれ落ちた1勝
最初のセーフティカー(以下SC)が出動するまで、レースはほぼノリスの手中にあった。図1に上位勢のレースペースを示す。
ノリスは8周目まではフェルスタッペンより明確に遅いペースで走り、じっくりとタイヤを労った。そしてその後ペースを上げると、上位勢ではズバ抜けたペースを見せた。20周目にフェルスタッペン、21周目にはラッセルを交わしてトップへと浮上した。スティント後半でのペースはライバル2人よりも2秒近く速いことがグラフからも読み取れる。ここでフェルスタッペンに対して11秒のギャップを作り、独走態勢を築いた。
しかし、25周目にサージェントがクラッシュ。SCが導入される。この際、ノリスはピットレーン入り口より数秒手前にいたが、判断が間に合わなかったのかステイアウト。その間に後続勢が新品のインターミディエイトタイヤに履き替え、ノリスはセクター1でSCに捕まえられてしまい、1周遅れて入ったものの、フェルスタッペン、ラッセルらの後ろになってしまった。
ここでノリスはステイアウトしても良かったかもしれない。ドライラインを外せばウェットパッチが残る状況下で、オーバーテイクは非常に難しい。ならばトラックポジションをキープするのが得策だ。また、結果論かもしれないが、図1から明らかなように、SC明け後の上位勢のペースは決して速くなく、彼らの新品のインターミディエイトでのペースがノリスのSC前のペースを上回ったのは40周目付近の話だ。さらに言えば、ステイアウトを選択した角田は新品に履き替えたアストンマーティン勢と互角のペースを見せている。
オーバーヒートしたタイヤもSC中に冷やすことができる。そして摩耗したタイヤの方が熱が逃げやすいため、SC明け後のペースについても優位な要素がある。さらに、溝がすり減った状態の方が乾いてきた路面ではグリップしやすい。
これらの要素を考えれば、ノリスとしては、防戦どころかライバル勢を引き離していった可能性も考えられ、SC導入の周にピットタイミングを逃した時点でステイアウトに切り替えた方が良かったのではないか?と推察できる。マクラーレンのタイヤエンジニアは異なる見解を持っているかもしれないが、このような世界線でのシミュレーションは十分に吟味する必要があるだろう。
2. 勝利を手繰り寄せたフェルスタッペンの第2スティント
前述の通り、ノリスは1回目のSCの煽りを食った形になったが、それでも優勝をもぎ獲るべく、2回目のピットストップを遅らせ、オーバーカットを狙った。
ウェットからドライに変わるレースでの典型的なパターンだが、ピットから出たばかりのドライタイヤは非常にグリップが低く、後からピットに入ったほうが一旦は前でコースに戻ることがしばしばある。勿論その際は、前で復帰したドライバーのタイヤが冷えており、後ろのドライバーのタイヤが温まっているため、順位が再逆転することもよくあるが、ここジル・ヴィルヌーヴ・サーキットでのオーバーテイクポイントはセクター3のロングストレートだ。したがって、前で戻りさえすれば、何とかセクター1,2でタイヤを温めて、ヘアピンからの立ち上がり勝負に持ち込めることになる。
実際、フェルスタッペンが45周目にピットに入る直前のノリスとの差は3.6秒だった。そして、48周目のターン2で僅差でノリスの前をキープしたのだ。したがって、第2スティントでラッセル、ノリスを十分に引き離せなかった場合、ノリスのオーバーカットは一旦は成功、フェルスタッペンはバックストレートで抜きに行くしかなかった。前述の通り、ラインを外すと濡れており、ドライタイヤでラインを外してオーバーテイクするのは非常に難しかったため、どちらに転ぶか分からない勝負だったと言える。
フェルスタッペンにとっては、第2スティントでラッセルを明確に上回るペースを見せ、後方のノリスを引き離したことが、勝利を大きく手繰り寄せたと言えるだろう。
3. 高速サーキットバルセロナ
次戦は様々なタイプのコーナーを合わせ持つバルセロナでのレースだ。昨年からセクター3のシケインが除去され、2006年までの超高速コーナーが復活し、「F1がF1らしく走るサーキット」と言えるだろう。そのスピード感は鈴鹿、シルバーストーン、ザンドフールト等と並んで見るものを魅了する。
この総合力が問われるチャレンジングなトラックで、どのチーム・ドライバーが力を見せてくるのか?あるいはどのマシンの欠陥が露呈するのか?今シーズンの残り15戦の展望を占う上で、非常に興味深い1戦となるだろう。
Takumi