• 2024/11/21 15:24

2021年シーズンレビュー(1) データで紐解くフェルスタッペンvsハミルトン

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 激動の2021年シーズンを終え、全レース・全ドライバーのレースペースも分析が完了した。ここで今一度、今季を振り返ってみよう。まずは最後まで目が離せない闘いとなったフェルスタッペンとハミルトンに焦点を当てる。

 これまで行ってきた分析の一覧はこちらより

目次

  1. レースペースから紐解く2人の激戦
  2. 予選ではハミルトン優勢も、その重要性は…?
  3. レースペースで互角、ポイントも互角、しかし…

1. レースペースから紐解く2人の激戦

Table1 フェルスタッペンとハミルトンのレースペース(✅が勝者)

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 まず、表1に今季分析してきたフェルスタッペンとハミルトンのレースペースを示した。タイヤのデグラデーションなども考慮し、同じ条件で走った際に換算した差を示してある。

 この数字からも、最終戦を同ポイントで迎え、最終ラップで決着した事がある意味では当然と思えるほどの接戦だったことが分かる。
 ただし、シーズン終盤までは接戦ながらもフェルスタッペン優勢のゲームだった。メキシコGPまでは、レースペースでフェルスタッペンの6勝1敗4引き分けで、平均タイム差も0.1秒優っていた。ポイント上でも19ポイントのリードだ。しかしその後、ハミルトンのラスト4戦の追い上げは凄まじく、ここではハミルトンがレースペースで4勝0敗、平均0.3秒差と、フェルスタッペンを圧倒した。

 全体を振り返ってみるとバーレーン、スペイン、フランス、アメリカで両者が互角のペースを示しており、バーレーン、スペインはハミルトンの勝利、フランス、アメリカはフェルスタッペンの勝利となった。力が拮抗した際は戦略やドライバーの腕などが鍵となるが、両者はスピード面だけでなく、こうした場面で勝利をもぎ取る力でも互角だったことが読み取れる。事実、この4レースは全て相手と異なるタイヤ戦略を選択することでレース終盤でのバトルに持ち込むという、スリリングな展開になった。

 さて、次に興味深いのは0.1秒差や0.2秒差のレースだ。ここではフェルスタッペンのタイヤがパンクしたアゼルバイジャンGPを除けば、競争力で勝る方が100%勝利を収めている。特にブラジルGPのハミルトンは予選レースを最後尾からスタートしつつも、決勝では逆転優勝を飾っている。
 F1のレースでは、戦略や勝負どころを押さえる走り等によって速い相手を打ち負かすこともしばしばある。しかし今シーズンの2人は「自分がスピードを持っている際には勝ちにつなげる」力を示した。このことからもレッドブルとメルセデスのチーム力、そしてフェルスタッペンとハミルトンのドライバー力の異常なまでの高さが伺える。

 そして、相手に0.3秒以上の差をつけている時には、アブダビGPを除けば両者ともに確実に優勝をもぎ取っている。アブダビにおいても最終盤のSCまでハミルトンがレースを完全に支配していた。ただし、オーストリアGPのハミルトンは縁石でダメージを負ったことで、本来ペースで上回っていたボッタスやノリスに先着されてしまっている。これは今季のハミルトンの取りこぼしの一つと言えるだろう。

 続いては両者のチームメイトに目を向けてみよう。

Table2 フェルスタッペンとペレスのレースペース(✅が勝者)

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Table3 ハミルトンとボッタスのレースペース(✅が勝者)

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 フェルスタッペン、ハミルトン共に、チームメイトを全く相手にせず、全勝&0.4秒差という内容となった。1年間を通してマシンの性能の全て(もしくは+α)を引き出していたこともここから読み取れる。

 ハミルトンの終盤戦での競争力も、メルセデスのマシンというよりかは、ハミルトン自身の力によるものだったことが、このボッタスとの比較でも分かりやすく出ているだろう。

2.予選ではハミルトン優勢も、その重要性は…?

 続いてはレースペース以外の部分を振り返ってみよう。まずは予選だ。

Table4 フェルスタッペンとハミルトンの予選比較(✅が勝者)

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 予選ではハミルトンが勝ち越し、平均でも0.024秒の差をつけた。ただし、ここから予選よりもレースペースと戦略の重要度の方が高いことが伺える。

 バーレーン、イモラ、スペイン、アゼルバイジャン、フランス、US、メキシコ、ブラジル、サウジアラビア、アブダビの11レースは、①予選で遅れてもレースペースに照準を合わせた側が逆転、②或いはスタートで逆転、③或いはスタートで逆転されてもレースペースと戦略で再度逆転、といった展開となった。オーバーテイクが難しい今季のマシンで、予選よりもレースペースの方が重要となったのは、やや不思議に思えるかもしれない。しかし、その背景には3つの要因があったと考えられる。

 一つは中団グループとの差が大きかったことだ。マクラーレンやフェラーリがフェルスタッペンやハミルトンのピットストップウィンドウ外にいると、両者共に2回目のピットストップを行う選択肢を取りやすくなる。これによって例え予選やスタートで2番手になっても、レースペースに自信があれば戦略による違いを生み出して逆転のチャンスを生み出しやすくなるのだ。

 そして二つ目は、ペレスとボッタスのペースが、タイトル争いを演じた2人からある程度離れていたことだ。時にはペレスやボッタスすらもピットストップウィンドウ外にいたこともしばしばあった。また例えピットストップウィンドウ内でも、自力で0.5秒のペースアドバンテージがある状態で新品タイヤを履いていれば、オーバーテイクは容易になる。フランスGPやオランダGPでは、正にそうした展開になった。

 そして三つ目は、フェルスタッペンとハミルトンのオーバーテイクの上手さだ。前述のフランスGPやオランダGPでは、フェルスタッペンがボッタスをあっさり仕留め、タイムロスを最小限に留めている。またハミルトンもポルトガルでペース的に0.1〜0.2秒しかアドバンテージが無いにも関わらず、フェルスタッペンとボッタスをコース上でオーバーテイクしている。歴史的激闘のブラジルGPでも、フェルスタッペンとのペース差は0.5秒程度だった。ハミルトンの強みは、ライバルの後方でタイヤやERSの状態を最適化し、全てが整ったところで一発で仕留めることだ。これを後方乱気流の中で完璧に行い、ペース的なアドバンテージが大きくなくてもオーバーテイクを成功させてきている。

3. レースペースで互角、ポイントも互角、しかし…

 続いては、2人の犯したミスについて見ていきたい。ここでは比較的大きなミスのみに焦点を当ててみよう。

 まずはイモラのハミルトンだ。バックマーカーをパスする際にウェットパッチを踏みコースアウト。この時ハミルトンは9番手まで順位を落としていた。ドライのレースペースを考慮すると、赤旗がなければ6位フィニッシュが精一杯だったと思われ、本来は10ポイント分に相当するミスだった。

 さらにアゼルバイジャンGPでは、ブレーキマジックの誤操作で25ポイントを失っている。

 そしてシルバーストーンでは、フェルスタッペンとのバトル中にターンインのタイミングが遅れ、接触してしまった。これは両者リタイアでもおかしくないハイスピードでのインシデントだったが、フェルスタッペンのみがリタイア、ハミルトンが優勝という結果となった。ミスをした側のドライバーが大量にポイント差を広げており、本来のドライビングのパフォーマンスをポイントが反映していないレースの一つだ。

 またオーストリアGPにて、縁石でダメージを負ってしまったのもミスに含まれるだろう。このレースは本来2位を取れていた筈のところを、4位フィニッシュに甘んじてしまった。

 一方のフェルスタッペンだが、ポイントのロスに繋がるミスらしいミスはほとんど見当たらない。強いて言えば、開幕戦のバーレーンでポジションを戻すタイミングや、ポルトガルでボッタスに仕掛けた結果ハミルトンに交わされたこと、フランスの1周目のオーバーシュート、ブラジルのターン1のブロックラインは必要だったか?など細かい事は挙げられるが、大きなミスは皆無と言っていいだろう。また、細かいことを突けばハミルトンにもさらに出てくることになる。

 このように、純粋なペースの面では互角の争いを演じたフェルスタッペンとハミルトンだったが、ミスの少なさではフェルスタッペンに明確なアドバンテージがあったと言える。ならば本来はポイントでもフェルスタッペンが大きくリードし、サウジアラビアでタイトルを決めていてもおかしく無かったわけだが、運の要素がハミルトンに傾いたことで、接戦へともつれ込んだ。

 ハミルトンは、イモラでのミスは赤旗で帳消しに、シルバーストーンでは自身だけが生き残り、ロシアでは雨が味方した。
 一方のフェルスタッペンはアゼルバイジャンでのパンク(最もパンクがなければハミルトンも3位を獲得していたため、「25ポイント分の不運」とまでは考えるべきではなく「11ポイント分」が正しい見方だろう)、ハンガリーでの多重クラッシュと、不運続きのシーズンとなった。

 最後の最後にアブダビで、レースディレクターの判断ミス(?)という幸運がフェルスタッペンに微笑むわけだが、運の要素が均等であったならば、最終戦を同点で迎えるような内容ではなかったと思われる。今シーズンのフェルスタッペンは、2001年のシューマッハや2012年のアロンソにも匹敵する、完璧なシーズンだったと言えるだろう。

 逆に今季のハミルトンは特に前半戦でかなりのミスを乱発してしまった。シーズン終盤のレースではミスも少なく、圧倒的なスピードもあって、今季全体の印象が良く見えがちになったが、「得点力」という観点では、やや課題が見えてしまった1年だったのではなないだろうか。

 まとめると、①互角のレースペースを持つ2人のタイトル争いは、②ミスの少なさでフェルスタッペンがリードし、③運の要素がややハミルトンに味方したことで、④最終的にポイント上でも接戦になった、そんな1年だったと総括する事ができるだろう。

 最後に、歴史的激戦の目撃者となれたことに感謝し、2人のドライバーと両チームに最大級のリスペクトを示しつつ、今回のレビューにチェッカーフラッグを振るとしよう。

 次回からはフェラーリ以降の中団勢の戦いを振り返っていく。各チームがレッドブルからどれだけ離されていたのか?フェラーリvsマクラーレン、アルピーヌvsアルファタウリなどのライバル対決、そしてドライバー達がどれだけマシンの性能を引き出していたか等について、映像からだけでは見えてこない部分を紐解いていこう。