チャンピオンシップも佳境の第18戦アブダビGP、レース展開は大荒れとなり、終盤にはライコネンとアロンソによる火花散るトップ争いが繰り広げられた。さらにピットレーンからスタートして見事3位表彰台を獲得したベッテルなど、見どころの多いレースを振り返っていこう。
なお、最初に1. レースのあらすじ、次に2. 詳細な分析を記した。
1. レースのあらすじ
予選は結果は以下の通りとなった。
POS | DRIVER | CAR | Q1 | Q2 | Q3 |
---|---|---|---|---|---|
1 | Lewis Hamilton | MCLAREN MERCEDES | 1:41.497 | 1:40.901 | 1:40.630 |
2 | Mark Webber | RED BULL RACING RENAULT | 1:41.933 | 1:41.277 | 1:40.978 |
Sebastian Vettel | RED BULL RACING RENAULT | 1:42.160 | 1:41.511 | 1:41.073 | |
3 | Pastor Maldonado | WILLIAMS RENAULT | 1:41.981 | 1:41.907 | 1:41.226 |
4 | Kimi Räikkönen | LOTUS RENAULT | 1:42.222 | 1:41.532 | 1:41.260 |
5 | Jenson Button | MCLAREN MERCEDES | 1:42.342 | 1:41.873 | 1:41.290 |
6 | Fernando Alonso | FERRARI | 1:41.939 | 1:41.514 | 1:41.582 |
7 | Nico Rosberg | MERCEDES | 1:41.926 | 1:41.698 | 1:41.603 |
8 | Felipe Massa | FERRARI | 1:41.974 | 1:41.846 | 1:41.723 |
9 | Romain Grosjean | LOTUS RENAULT | 1:42.046 | 1:41.620 | 1:41.778 |
10 | Nico Hulkenberg | FORCE INDIA MERCEDES | 1:42.579 | 1:42.019 | |
11 | Sergio Perez | SAUBER FERRARI | 1:42.624 | 1:42.084 | |
12 | Paul di Resta | FORCE INDIA MERCEDES | 1:42.572 | 1:42.218 | |
13 | Michael Schumacher | MERCEDES | 1:42.735 | 1:42.289 | |
14 | Bruno Senna | WILLIAMS RENAULT | 1:43.298 | 1:42.330 | |
15 | Kamui Kobayashi | SAUBER FERRARI | 1:43.582 | 1:42.606 | |
16 | Daniel Ricciardo | STR FERRARI | 1:43.280 | 1:42.765 | |
17 | Jean-Eric Vergne | STR FERRARI | 1:44.058 | ||
18 | Heikki Kovalainen | CATERHAM RENAULT | 1:44.956 | ||
19 | Charles Pic | MARUSSIA COSWORTH | 1:45.089 | ||
20 | Vitaly Petrov | CATERHAM RENAULT | 1:45.151 | ||
21 | Timo Glock | MARUSSIA COSWORTH | 1:45.426 | ||
22 | Pedro de la Rosa | HRT COSWORTH | 1:45.766 | ||
23 | Narain Karthikeyan | HRT COSWORTH | 1:46.382 |
予選で3位を獲得したベッテルだったが、サンプル採取用の燃料が残っていないことが判明。これによりピットスタートとなる。
レースは1周目、アロンソがバックストレートでウェバーを交わし4番手に浮上。ハミルトン、ライコネン、マルドナード、アロンソ、ウェバー、バトン、マッサの順で進む。
ベッテルは下位集団を続々と交わしつつ中団進出を狙うも、序盤でセナと接触してフロントウィングに小さなダメージを追う。
そしてトップが9周目に入る頃、後方ではロズベルグとカーティケヤンがクラッシュ。ここでセーフティカー導入となる。そしてこのセーフティカー中にベッテルはリカルドに追突しそうになってしまい、回避のためコース脇の看板に衝突。フロントウィングのダメージはさらに大きなものとなり、交換へ。再び最後方21番手に沈んでしまう。
レース再会後はハミルトンがライコネンを引き離して行くも、20周目にマシントラブルでストップ。ライコネンが先頭となり、一方で21周目にはアロンソがマルドナードを交わして2番手へと浮上する。
ウェバーは23周目にマルドナードに仕掛けるも、接触してスピン。代わってバトンがマルドナードの後ろに迫るが、こちらは問題なく24周目にオーバーテイク。
上位勢はアロンソ28、バトン29、ライコネン31周目にピットストップを行い、ここでの順位変動は無し。スティント序盤はアロンソが控えめなペースで、バトンが直後につけるがオーバーテイクには至らず、膠着状態が続く。
一方のベッテルは25周目の時点で既に小林の後ろの9番手まで来ており、上位陣がピットインを済ませると、ライコネンの後方の2番手に浮上した。スタート時にプライムタイヤを選択し、ウィング交換時にオプションに履き替えたため、タイヤ交換義務は消化している状態だ。
ベッテルのペースはタイヤ交換を済ませた上位陣と大差なかったが、37周目にピットへ。ライコネン、アロンソ、バトンに続く4番手でコース復帰する。
そして迎えた38周目、ペレス、グロージャン、ウェバーの多重クラッシュが発生。ここでセーフィティカーが導入される。これによりベッテルは、一気に上位3台との差を詰めることになる。
レース再会後はアロンソのペースが控えめで、ライコネンが2番手以下を引き離す展開となる。しかしアロンソもタイヤに熱が入ると、ライコネンを0.2秒上回るペースで周回。ラスト2周でDRS圏内に入るか入らないかのギリギリの攻防となるが、ライコネンが僅差で振り切った。F1復帰後では初優勝となる。
一方のベッテルは、アロンソについて行けないバトンを52周目に料理。ピットスタートから表彰台まで追い上げるという、見事なダメージリミテーションを見せた。
決勝結果は以下の通りとなった。
POS | DRIVER | CAR | LAPS | TIME/RETIRED | PTS |
---|---|---|---|---|---|
1 | Kimi Räikkönen | LOTUS RENAULT | 55 | 1:45:58.667 | 25 |
2 | Fernando Alonso | FERRARI | 55 | +0.852s | 18 |
3 | Sebastian Vettel | RED BULL RACING RENAULT | 55 | +4.163s | 15 |
4 | Jenson Button | MCLAREN MERCEDES | 55 | +7.787s | 12 |
5 | Pastor Maldonado | WILLIAMS RENAULT | 55 | +13.007s | 10 |
6 | Kamui Kobayashi | SAUBER FERRARI | 55 | +20.076s | 8 |
7 | Felipe Massa | FERRARI | 55 | +22.896s | 6 |
8 | Bruno Senna | WILLIAMS RENAULT | 55 | +23.542s | 4 |
9 | Paul di Resta | FORCE INDIA MERCEDES | 55 | +24.160s | 2 |
10 | Daniel Ricciardo | STR FERRARI | 55 | +27.463s | 1 |
11 | Michael Schumacher | MERCEDES | 55 | +28.075s | 0 |
12 | Jean-Eric Vergne | STR FERRARI | 55 | +34.906s | 0 |
13 | Heikki Kovalainen | CATERHAM RENAULT | 55 | +47.764s | 0 |
14 | Timo Glock | MARUSSIA COSWORTH | 55 | +56.473s | 0 |
15 | Sergio Perez | SAUBER FERRARI | 55 | +56.768s | 0 |
16 | Vitaly Petrov | CATERHAM RENAULT | 55 | +64.595s | 0 |
17 | Pedro de la Rosa | HRT COSWORTH | 55 | +71.778s | 0 |
Charles Pic | MARUSSIA COSWORTH | 41 | DNF | 0 | |
Romain Grosjean | LOTUS RENAULT | 37 | DNF | 0 | |
Mark Webber | RED BULL RACING RENAULT | 37 | DNF | 0 | |
Lewis Hamilton | MCLAREN MERCEDES | 19 | DNF | 0 | |
Narain Karthikeyan | HRT COSWORTH | 7 | DNF | 0 | |
Nico Rosberg | MERCEDES | 7 | DNF | 0 | |
Nico Hulkenberg | FORCE INDIA MERCEDES | 0 | DNF | 0 |
2. 詳細なレース分析
まずはライコネンとアロンソのレースペースを見てみよう。
2.1. アロンソの猛烈な追い上げ
オプションタイヤの第1スティントに着目すると、アロンソはクリアエアを得た22周目以降もライコネンのペースには及んでいない。マルドナードの後方でもタイヤを酷使することなく、的を絞って一気に攻めており、オプションタイヤでは両者の間に0.4秒ほどの差があった。
ハードタイヤに履き替えてからもSC前はライコネンのペースが上回っており、SC後も3周はライコネンが明確に上回るペースを見せた。
しかしその後レース終盤ではアロンソのペースがグンと良くなり、ライコネンを追い回している。これは何故だろうか?
一つの仮説としてグレイニングが考えられるのではないだろうか?ライコネンはSC解除後いきなり全開で飛ばしており、対するアロンソはタイヤの熱入れが厳しく(1回目のSC後も最初はマルドナードに離され、ウェバーに追い立てられていた)、そこで無理な負荷をかけなかった事でタイヤを最後まで持たせた、というのはあり得そうだ。
トワイライトレースで、終盤は日が沈んでから時間も経ち、冷えた路面と熱が入りにくいプライムタイヤで、今回のライコネンのように初めから飛ばしてしまうと軽いグレイニングが起きるのは、想像できる話だ。
もう一つの要因は単純にアロンソが死に物狂いで攻めたこともあるだろう。図2にアロンソとマッサのレースペースを示す。
マッサは第2スティントのSC後、バトンの後方にいるが、段々と離されており、実質的にクリアエアと見なして良い。アロンソとの比較はデグラデーションに差があるため、厳密に定量的な話をするのは難しいが、全体で見れば0.8秒前後の差だったように見える。
しかし終盤のSC後では、両者クリアエアで、タイヤの履歴の差を考慮すると1.4秒程度のペース差だ。画面からもアロンソは非常にアグレッシブに攻めており、このモードチェンジもハイペースに影響しているかもしれない。
実際、第1スティントの段階ではベッテルはまだ中団におり、ベッテルを気にする必要はなかった。しかし、SCによって差が詰まり、ベッテルがバトンを挟んで真後ろまで来てしまった以上、ベッテルがバトンとバトルをしている間に可能な限り引き離すことの重要性が生まれてくる。さらに、チャンピオンシップでの局面を考えれば、マシン性能で明確なハンディがある以上、勝利に向かって多少のリスクを負うことの正当性もかなり増すだろう。
このように、タイヤの状態、そしてアロンソ自身が攻めのモードにスイッチを切り替えたことなど、複数の要因があって終盤の猛烈な追い上げにつながったのではないだろうか?
2.2. 逃げ切ったライコネン
しかしライコネンはラスト2周で完璧な走りを見せ、アロンソをDRS圏内に入れなかった。ラスト2周、54周目の検知ポイント付近のミニセクターでは1.153秒差で、かなり際どい差だったことがわかる。
もし54周目でアロンソがDRSを獲得すると、2つのDRSゾーンで差を詰め、最終セクターとラストラップのセクター1で差をキープして、0.5秒程度のギャップでDRSゾーンへと突入、アロンソがオーバーテイク、となる可能性が高くなってくる。アロンソ自身もこの構図を思い描いて、最終スティントを組み立てていただろう。そしてライコネンもその意図を理解していたからこその、最後の最後でのプッシュだったのではないだろうか。
アロンソの鬼神の追い上げと、その狙いを打ち砕いたライコネンのギリギリの走りは非常に魅力的だった。
2.3. ベッテルの追い上げ
ピットスタートから3位表彰台を獲得したベッテルについても掘り下げてみよう。図3にライコネン、バトンとの比較でベッテルのレースペースを示す。
ベッテルはプライムスタートで1度目のSC中にオプションタイヤに履き替えた。SCが明けてからしばらくは、集団の中をかき分けながらのラップタイムであることは考慮しなければならないが、あまりロスなくガンガン仕留めて行っていることがグラフから読み取れる。
一方ペース自体はまぁまぁだ。ライコネンやバトンはスタートから履いているオプションタイヤだが、デグラデーションが0.01[s/lap]程度と非常に小さかったため、0.1秒程度のアドバンテージにしかなっていない。したがって、イコールコンディションでの素の競争力としては、ライコネンには及ばず、バトンと互角程度と見るのが妥当かもしれない。(とはいえウェバーに対しては0.3秒ほど速く、マシンの限界は引き出していた)
よって、このレースはベッテルにとっては塞翁が馬だったと言えるだろう。ピットスタートとなったことによってプライムスタートとなり、そこからフロントウィングを破損し、残りのスティントを有利なオプション2セットで走り切る戦略となった。そして2度目のSCにより、ピットストップロスの不利を補え、尚且つSC明けのコンディションでプライムを履くライバルたちに対して圧倒的優位に立つことができた。
幸運を味方につけたのは確かだが、他の多くのドライバー達のように大きなクラッシュを起こさず、チームメイトを上回るペースでチェッカーまで運んだことは称賛に値するだろう。
大荒れのレースも結局はトップ4をチャンピオンたちが占める結果となった。タイトル獲得のためにはスピードは勿論のこと、堅実にポイントを獲得する能力がいかに問われているかを象徴するリザルトとなったのではないだろうか。
Writer: Takumi