さて、2023年シーズンレビュー(1)では、上位5チームのドライバー達について、予選・レースペースのチームメイト比較を行った。ここからは6位以降のチームについて見ていこう。
※比較の方法については前編にて記述した。ご参照いただければ幸いだ。
1. アルピーヌ
まずはアルピーヌ勢の比較だ。
表1 ガスリーとオコンの予選ペース比較
表2 ガスリーとオコンのレースペース比較
移籍初年度であるにも関わらず、ガスリーが僅差ながらもオコンを上回った。これは当サイトの歴代ドライバーの競争力分析から考えても、極めて妥当な結果で、改めてガスリーの能力の高さを確認することができた。
参考
歴代ドライバーの競争力分析【予選編】
歴代ドライバーの競争力分析【レースペース編】
とはいえ、そのガスリーでも、フェルスタッペンと比べると予選で0.1秒、レースで0.3秒ほど遅れをとっており、アルピーヌが真剣にチャンピオンを目指すのであれば、アロンソやピアストリを逃したのはかなり痛かったのではないだろうか。
2. ウィリアムズ
次はウィリアムズ勢について見てみよう。
表3 アルボンとサージェントの予選ペース比較
表4 アルボンとサージェントのレースペース比較
アルボンは今年も安定した速さを見せた。
一方、ルーキーのサージェントも大したもので、予選でこそ大差をつけられたものの、レースペースではアルボンと0.2秒差と、かなり奮闘した。
3. アルファタウリ
次はアルファタウリ勢について見てみよう。
表5 角田とデ・フリースの予選ペース比較
表6 角田とデ・フリースのレースペース比較
平均値だけを見れば角田の圧勝だが、最後の方ではデ・フリースも角田に迫る走りができるようになってきていた。筆者は、昨年のイタリアGPでの好走は、ウィリアムズの競争力の高さとラティフィがノれていなかったことが原因であったと考えていたため、元よりデ・フリースの起用には懐疑的であったが、デ・フリースがそうした意見に対する反撃を見せ始めたところでの解雇という結果になってしまった。逆に言えば、サンクコスト効果に囚われず、初めから乗せているべきドライバーに変えた素早い判断だったとも言える。
また、デ・フリースがこのような内容であったため、必然的に3年目の角田がどれほど成長したのかも、闇の中になってしまった。
そこでハンガリーGPからリカルドへとスイッチすることになる。
表7 角田とリカルドの予選ペース比較
表8 角田とリカルドのレースペース比較
ラスベガスは特殊な予選であったため、比較に含めるかは賛否の分かれるところかもしれないが、含めなければ、予選の角田とレースペースのリカルド、という構図になる。
サンプル数が少ないため、どこまで信用して良いかは微妙な所だが、角田が昨年から成長していなければ、そしてリカルドが全盛期の力を保持していれば、リカルドが予選で0.1秒、レースペースで0.3秒上回る筈だった。したがって、レッドブル時代のリカルドが戻ってきたと仮定すれば、角田が0.1~0.2秒前後の成長を遂げたことを意味している。もちろん、リカルドの状態やサンプル数の少なさは気になる部分であるため、来年の2人のデータがたっぷり取れることを楽しみに待とう。
また、参考までにローソンとの比較も示しておこう。
表9 角田とローソンの予選ペース比較
表10 角田とローソンのレースペース比較
こちらは共に角田の圧勝となっている。とは言え、ローソンもシーズン途中のデビューであり、この結果から何らかの結論を導くのは適切ではないだろう。
4. アルファロメオ
続いてはアルファロメオだ。
表11 ボッタスとジョウの予選ペース比較
表12 ボッタスとジョウのレースペース比較
予選のボッタス、レースのジョウという分かりやすい構図になった。この結果だけから言えば、ジョウは予選一発ではストロールより上、ペレスより下という程度だが、レースペースはラッセルと互角レベルと言える。下位カテゴリーでもレースの上手さでは際立ったものがあったが、ここまでの速さがあるのは、チームにとっても嬉しい驚きだっただろう。
5. ハース
最後にハース勢について見てみよう。
表13 ヒュルケンベルグとマグヌッセンの予選ペース比較
表14 ヒュルケンベルグとマグヌッセンのレースペース比較
予選・決勝ともに、ヒュルケンベルグが完勝した。
前述の歴代分析では、予選ではヒュルケンベルグが0.3秒差で勝ち、レースでは互角という予想だった。しかし予選の差はそこまで大きくはならなかった代わりに、レースでより大きな差がついた。
これでマグヌッセンが実力を出し切っているとすると、ヒュルケンベルグはフェルスタッペンやアロンソ、ハミルトンと互角ということになるが、これまでのペレスやリカルドとの比較を見れば、そうではないと考えるのが普通だろう。今季はマグヌッセンにとって厳しい1年となったようだが、来年こそは2022年レベルのパフォーマンスに戻すことが重要だろう。
6. ドライバー分析総括
全体を見渡すと、如何に現在のF1ドライバーのレベルが高いかを思い知らされる。
例えば、ストロールはアロンソの0.4秒落ちだが、これはマッサと同程度だ。そしてそのマッサをやや上回ったボッタスだが、最近はジョウがレースペースで凌駕し始めている。そんなストロールやジョウですら、現在の基準では中々トップドライバーとは見做してもらえない状況だ。
科学の発展と共に、ドライバーのレベルも向上している。5、10年後には、我々は想像もつかないスーパープレイを目にしているかもしれない。
しかし、前編で述べたとおり、どれだけ競技者の能力の絶対値が向上しても、彼らの持つ個性の多様性が互いに影響し合い、スポーツをダイナミックで予測不可能なものにするだろう。さまざまな懐疑論があるのも理解できるが、筆者は来年の、そしてそれからずっと続いていく未来のF1を心から楽しみにしている。
Writer: Takumi
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チーム間の比較分析はシーズンレビュー(3)で行う。ドライバーの力量差による競争力への影響を均一化し、純粋なマシン性能の差を導き出すことも試みる。