シーズンも終盤、フェルスタッペンとノリスのタイトル争いは熾烈を極めており、緊迫したレースが続いている。今回はチャンピオン争いを含むメキシコGPの上位争いにフォーカスして、振り返りを行なっていこう。
1. フェルスタッペンのディフェンスは強引すぎたか?
1.1. ペナルティは出たが…
今回も、前回USGPに引き続き、フェルスタッペンがイン側でブレーキを遅らせてノリスを押し出すシーンが見られた。今回はノリスもガイドラインを意識したのか、エイペックスをほぼ横並びの状態で通過し、押し出したフェルスタッペンに10秒ペナルティが課された。さらにターン8でも、コース内に留まれないスピードでノリスのイン側に飛び込み、ノリスを押し出して自らもコース外を走行。こちらも「コース外からの追い抜き」として10秒ペナルティが課された。
これらの動きは「ペナルティを避ける」ことを目的とした場合、強引すぎたことは裁定からも明らかだ。しかし「チャンピオンを獲る」ことを目的とした場合、見え方は180度変わってくる。
1.2. 押し出しがなかった場合のノリスのレース展開
図1にサインツ、ノリス、フェルスタッペンのレースペースを示す。
第1スティントではサインツが後続を大きく引き離した。しかしノリスがクリアエアを得た第2スティントでは、サインツよりも2周古いタイヤであるにも関わらず、ノリスがサインツを明確に上回るペースで追い上げたことがわかる。
先に行ったレースペース分析では、タイヤの差を換算すると、ノリスはサインツを同条件で0.3秒上回っていたことが分かっている。これだけのペース差があると、アンダーカットに行こうが、逆にピットストップを遅らせて、タイヤの履歴の差を活かして抜きに行く戦略であろうが、逆転できていた可能性が高い。
ミディアムタイヤでどの程度競争力があったか未知の部分こそあるが、基本的にはノリスが優勝していた可能性は、かなり高そうだと言えるだろう。
1.3. 押し出しがなかった場合のフェルスタッペンのレース展開
逆にフェルスタッペンは、押し出しがなかった場合に何番手でフィニッシュしていただろうか?これを考えるために、図2にハミルトン、フェルスタッペンのレースペースを示す。
まず、フェルスタッペンのペナルティがなかった場合、メルセデスチームはフェルスタッペンを捕えるためにハミルトンを前に出したと考えられるため、この場合ハミルトンは終始クリアエアで走ることになる。
そして、ハミルトンは47周目付近からラッセルのダーティエアの影響を受け始め、66周目までで、(クリアエアでのペースを控えめに1:20.6と見積もっても)1周あたり0.5秒程度ロスしている。すなわち20周で10秒のロスだ。それでいながら、ハミルトンがペースを緩める直前の69周目の時点で、フェルスタッペンに14秒差をつけている。つまりラッセルがいなければ、その差は24秒差になっていたはずだ。
となると、フェルスタッペンのペナルティが無くても、69周目時点でハミルトンがフェルスタッペンの4秒前という計算になる。少なくともその5周ほど前には追いついていただろう。そしてグラフからもペース差は明らかで、オーバーテイクも実現していた可能性が高い。
すなわちフェルスタッペンは、5位でフィニッシュしていた可能性が高い。
1.4. フェルスタッペンの戦略は機能した
すなわちフェルスタッペンの押し出しがなかった場合、ノリスは25ポイント、フェルスタッペンは10ポイントを獲得し、差は15ポイント縮まっていたと考えられる。しかし、現実にはフェルスタッペンがノリスの勝機を奪い、ノリスは10ポイントしか縮めることができなかった。フェルスタッペンがそこまで計算していたか否かは不明だが、少なくともフェルスタッペンの押し出しは「チャンピオンを獲得する」という目的においてはプラスに機能した。
「ペナルティを貰ってもライバルに損をさせた方が得をする」という状況は、スポーツとしては好ましくない。よってFIAとしても何らかの策を講じる必要があるだろう。とはいえ、ペナルティはその行為に対して課されるものであり、同じ押し出しでも「チャンピオンシップの状況を踏まえて」などの理由でドライブスルーにするわけにもいかない。考えられるなら「スポーツマンシップに反する行為」や「潜在的な危険なドライビング」などだろうか。
一方で、これがポイントリーダーの優位性だという側面もある。シーズン序盤からコツコツとポイントを積み重ねてきた者に与えられる特権である。ノリスとしては点差を縮めなくてはならない中で、両者リタイアとなればフェルスタッペンにとっては勝利に等しい。したがって、ノリスはバトル時に引かざるを得ない。これは、本質的にポイントを積み重ねるゲームであるF1世界選手権の一部として捉えるしかないだろう。その上で、マクラーレンとノリスがどんな戦法を繰り出してくるか、そこが興味の湧く所だ。
2. 苦しいレッドブル
前戦USGPでは、フェルスタッペンがフェラーリ勢に0.5秒の差をつけられた。それでもノリスに対しては0.1秒の遅れ、ピアストリよりは速く、メルセデス勢には差をつけており、明確に3番手チームの座は確保していた。
しかし、今回メキシコGPでは、フェルスタッペンがミディアムタイヤで最速のサインツの0.7秒落ち、ハードタイヤでもノリスに0.8秒差をつけられ、ハミルトンにも0.4秒上回られてしまった。ピアストリが上位からスタートし、ラッセルがフロントウィングを壊していなければ、と考えると、尚更状況の深刻さが伝わるだろう。
USGP前のコラムにおいて、筆者はチャンピオンシップの展望について、「レッドブルは3番手チームながらも、フェルスタッペンはサインツとピアストリとは戦える」とし、終盤戦の1戦あたりの獲得ポイントの期待値を15としたが、現在の競争力だとそれも厳しくなってくる。特にサインツの好調は本物のようなので、レッドブル&フェルスタッペン陣営としては頭が痛いところかもしれない。
とはいえ、ここ2戦はフェルスタッペンが予選で上位につけることに成功している。今後もスタートでノリスの近くにつければ、1項で論じたような戦法も含めた何らかの抵抗ができそうだ。
3. ノリスはどう動くべきか?
さて、ノリスの立場になって考えてみると、現状で打つ手は非常に少ない。予選でポールを獲り、スタートを決め、フェルスタッペンが近くにいる際には出来るだけインを開けないようにすることぐらいだ。それでもインに飛び込まれてしまった際はUSGPのケースではなく、今回のようにエイペックスを先に通過することで、確実にフェルスタッペンにペナルティが下るようにすることだ。
また、ここ2戦はフェラーリの競争力が向上しており、スタートでフェルスタッペンとの間に複数のマシンを入れることができる希望が出てきている。とはいえ、ノリスとしては自力でできることが限られているというのが現状だ。
4. 次戦はインテルラゴス
次戦インテルラゴスも、レッドブルにとって相性が悪いと思われるトラックだ。マクラーレンはどこでも速いと思われ、セットアップを外さない限りは、優位な立場にくると思われる。
昨年もアロンソとペレスのデッドヒートに注目が集まったように、基本的にはバトルがしやすいトラックであり、レースペースとドライバーのバトルスキルの重要性が高いレースになるだろう。
また、インフィールドでは何をしても抜けず、ターン1とターン4で非常に抜きやすいという極端な特性を持ったトラックでもある。したがって、タイトル争いをする上では、チームメイトを使ってインフィールドでライバルを押さえ込むような戦略もやりやすくなってくる。この辺りにも注目して伝統の一戦を心待ちにしたい。
Takumi