• 2024/4/25 10:16

2006年 ブラジルGPレビュー 【炎の追い上げで去る皇帝と老練な走りの若き王者】

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 このシリーズでは、現在FIAでラップタイムが公開されている最古の年2006年からのレースを振り返ってみよう。今回はミハエル・シューマッハの引退レースにして、アロンソの2年連続タイトル決定の地となったブラジルGPをお届けしよう。

 なお、最初に1. レースのあらすじ、次に2. 詳細な分析、記事末尾に3. まとめを記した。あらすじまとめのみで概要が分かるようになっているので、詳細分析は読み飛ばしていただいても問題ない。

目次

  1. レースのあらすじ
  2. 詳細なレース分析
  3. まとめ

1. レースのあらすじ

 予選ではマッサがポール。アロンソはアロンソは4番手、シューマッハはQ3でのマシントラブルによりノータイム、10番手に沈んだ。

 レースは1周目のロズベルグのクラッシュで早くもセーフティカー導入となるが、再開されるとマッサが先頭で大逃げを打つ。そしてセーフティカー明けでラルフを抜いたシューマッハはフィジケラの背後に。9周目のターン1でアウトから交わした。

 しかし、この時シューマッハのリアタイヤとフィジケラのフロントウィングは僅かに接触。シューマッハのタイヤはパンクし、スロー走行でピットへ。これによりシューマッハはマッサから70秒遅れの最下位に転落してしまう。

 しかし、ここからシューマッハは大量の燃料を搭載しているにも関わらず、圧倒的なペースで追い上げ。37周目にハイドフェルド、42周目にクビサ、47周目に2度目のピットストップを終えると、51周目にはバリチェロを交わし、再度フィジケラの背後に迫った。

 ストレートスピードの速いルノー相手に苦戦したが、63周目のターン1でインに飛び込む素振りを見せたシューマッハに対して、フィジケラはブレーキングでミス。オーバーシュートしてしまい、シューマッハがこれを抜き去った。

 次なる獲物は、2007年からシューマッハに代わってフェラーリドライバーとなるライコネン。68周目のターン1でサイドバイサイドになるが、ライコネンはインを巧みにブロック。ここではライコネンが踏ん張り4位を死守した。

 そして69周目のターン1でもライコネンはインをブロック。しかしシューマッハはブレーキングでさらにイン側に飛び込みライコネンを抜き去った。そして、これがフェラーリでの現役生活最後のオーバーテイクとなった。

 そこからのシューマッハは全セクターを全体ベストで揃え、ファステストラップを叩き出し、観客を大いに沸かせ4位でチェッカーを受けた。

 一方のアロンソは、トゥルーリの後退により序盤からライコネンの後方3番手でレースを進めると、ライコネンの5周後にピットストップを行い、悠々逆転。その後はペースをコントロールし、最小限のリスクで2位を確保。ドライバーズチャンピオン獲得のみならず、ルノーのコンストラクターズチャンピオン獲得にも貢献した。

 また、このレースではスーパーアグリの佐藤琢磨に注目が集まった。予選こそ20番手だったが、レースでは優れたペースを見せ、なんとトロロッソやレッドブルを逆転しクビサの6秒後方、トップと同一周回の10位でフィニッシュした。

2. 詳細なレース分析

2.1 シューマッハ炎の追い上げ

 今回のシューマッハのレースペースは別格だった。図1に4位を争ったライコネンとの比較を、図2にアロンソとの比較を示す。

画像1を拡大表示

Fig.1 シューマッハとライコネンのレースペース

画像2を拡大表示

Fig.2 アロンソとシューマッハのレースペース

 シューマッハは序盤、ライコネンより26周分も重い状態にも関わらず、0.2秒ほど速いペースを刻んでいる。フューエルエフェクト0.06[s/lap]とタイヤのデグラデーション0.01[s/lap]を考慮すると、実力的には1.7秒程度も速かった。

 アロンソとの比較においても、互いに全開で走っていた序盤で比較すると、燃料搭載量やタイヤの状態を考慮した地力のペースでは1.4秒前後の差をつけていた。また、グラフは割愛するが、マッサに対しても0.8秒のアドバンテージがあった。

 上位勢がピットストップ後はやや差が詰まったが、ライコネンに1.1秒、アロンソに1.0秒と依然として大きなペース差があった。差が詰まったのは路面コンディションの影響だろう。

 また最終スティントでも、ライコネンの大きめのデグラデーションを加味してスティント全体を評価すると、両者の差は1.2秒程と非常に大きな差があった。これだけのペースがあれば後続勢を続々とオーバーテイクし上位進出してきたことも頷ける。

2.2 守りのレースの達人アロンソ

 今回のアロンソは、第1スティントで重い状態でライコネンに食らいついてピットストップ前のペースアップで逆転すると、その後はバトンから2位を守り切れるだけの最小限のペースで走り切り、見事2年連続チャンピオンを獲得した。

 アロンソの強みはこうしたリスクマネジメントだ。シューマッハが時に攻め過ぎてしまうのに対し、アロンソは2位の時は2位を獲れる最小限の走り、5位の時ですが5位を獲れる最小限の走りに徹し、2006年シーズンをほぼノーミスで走り切った。これが年間ポイント獲得数という観点で大きな強みとなった形だ。

2.3 来シーズンに繋がるスーパーアグリ&佐藤琢磨の力走

 今回のレースの中団勢で台風の目となったのは間違いなくスーパーアグリの佐藤琢磨だろう。

 佐藤は第1スティントではリウィッツィの後方に捕まっていたが、早めのピットストップを行ってクリーンエアを得ると、軽い状態のリウィッツィより速いペースで走行。逆転すると、その後のペースは目を見張るものがあった。クビサ、佐藤、スピードのレースペースを図3に示す。

画像3を拡大表示

Fig.3 クビサ、佐藤、スピードのレースペース

 佐藤のペースはクビサすら大きく上回っており、燃料搭載量やタイヤのデグラデーションを加味した地力のペースでは、クビサを0.3秒、スピードを1.2秒上回っていた。またグラフは割愛するが、第2スティントではライコネンと互角のペースだった。

 予選で20番手だったことから、レースに振ったセットアップだったことは想像できるが、それでも開幕戦からの軌跡を振り返れば、大躍進という言葉には収まりきらないほどの活躍だったことは明白だ。

3. まとめ

3.1 レースレビューのまとめ

 以下にブラジルGPレビューのまとめを記す。

(1) 両者万全の状態、燃料搭載量やタイヤを同条件とすると、シューマッハはライコネンやアロンソといったライバル勢より1秒以上速く、チームメイトのマッサに対しても大差をつけていた。

(2) 佐藤は、燃料搭載量やタイヤを同条件とすると、ライコネンと互角、クビサを0.3秒ほど上回るペースだった。序盤のライバルだったトロロッソのスピードに対しては1.2秒もの大差をつけていた。

3.2 上位勢の勢力図

 上位勢のレースペースを、デグラデーションやフューエルエフェクトを考慮して分析すると、以下のようになった。

Table1 上位勢のレースペース

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 シューマッハのスティント割りが他と異なるため、路面コンディションの影響が微妙になったが、各スティントを平均してレース全体の評価値として最も妥当な数値を割り出すことができた。

 今回もシューマッハがマッサに、アロンソはフィジケラに大差をつけ、王者2人がマシンパフォーマンスを存分に引き出していることが分かる。史上稀に見るハイレベルな争いとなった2006年シーズンもこれにて閉幕。次回はシーズンレビューをお届けしよう。