F1はその人気が高まっているアメリカへとやってきた。前戦カタールGPでフェルスタッペンのタイトル獲得が決定したが、F1に消化試合はない。今回は、高速S字セクションや複合コーナー、ロングストレートなど見どころ満載のCOTAで繰り広げられたバトルの数々を、分析的視点で振り返ってみよう。
1. フェルスタッペンの戦略
予選ではトラックリミット違反によりタイム抹消となってしまったフェルスタッペン。これにより決勝では6番グリッドからスタートとなってしまったが、第1スティントでは5周目にサインツ、11周目にルクレールを交わして3番手に浮上した。ここからの展開を分析するため、フェルスタッペン、ハミルトン、ノリスのレースペースを図1に示す。
筆者にとって最も意外だったのは、フェルスタッペンが16周目に真っ先にピットインしたことだ。筆者はフェルスタッペンが第1スティントを引っ張り、そこで作ったオフセットを活かして第2スティント以降でノリスとハミルトンを仕留める展開を予想していた。同じように考えていた視聴者も多かったのではないだろうか。
この戦略について考えてみよう。
1.1. 先に入るデメリット
まず先に入ることのデメリットは以下の2つだ。
・ハミルトンとの4.3秒差は翌周反応されるとアンダーカットできない距離。
・第2スティントをライバルより古いタイヤで戦わなくてはならない。
結果的にはハミルトン陣営が第1スティントを引っ張る選択を採ったが、もし17周目に入られていた場合、フェルスタッペンは自分より1周分新しいタイヤ(0.07秒相当)を履くライバル2人を抜かなければならなかった。そもそも今回のハミルトンはノリスよりペースが良く、コース上で抜くにはかなり手強かったと考えられる。また、ハミルトンがノリスに追いつきDRSトレインとなれば、フェルスタッペンにとって更に厳しい展開となっていただろう。
ちなみにハミルトン陣営が第1スティントを引っ張ったのは、ノリスと同じ周に入ってしまうと勝機がないと考えたのだろう。ならばフェルスタッペンに順位を開け渡してでも、ノリスに対してオフセットを作る方を重視するのは理解できる。実際にハミルトンはここでノリスの3周後に入り、第2スティントもさらに1周引っ張ることで、第3スティントを4周新しいタイヤで戦い、ノリスを仕留めることに成功している。
1.2. 先に入るメリット
続いてメリットについては、以下の3点が考えられる。
・ノリスのハードタイヤでの周回数を増やすことができる。
・不利な第1スティントを早く終わらせられる。
・ハミルトンがステイアウトした場合はアンダーカットできる。
ホーナーはレース後のコメントで、第2スティントでミディアムタイヤを選択したのは、ノリスが後半2スティントをハードタイヤで走るしかなかったことを考慮してのことであったと語った。この発言は、レッドブルがミディアムタイヤの方が優れたタイヤであると考えていることを示唆している。ならばノリスにはハードタイヤで走る第2,3スティントを長くしてもらう方が都合が良い。したがって、早めにアンダーカットを仕掛け、翌周に反応してもらうことでこれを達成したと考えられるのが一点だ。
そして2点目は、フェルスタッペンの第1スティント終盤のペースは決して良くなかったということだ。図1を確認すると、12周目にクリアエアを得てからのペースはハミルトンと互角だ。第2スティント以降のペースは、タイヤデグラデーションとフューエルエフェクトを考慮するとハミルトンより0.2秒速いため、これは本来の力を出しきれていない。これは、序盤にフェラーリ勢の後方でダーティエアを受けつつ、彼らを抜いてこなければならなかったことにより、タイヤの劣化が進んだことが要因だと考えられる。
したがって、この不利なタイヤでスティントを引っ張っても前2台との差を詰められず、第2スティントをかなり後方で開始することになる。これを避けたのは賢明な判断だっただろう。
そして3点目は現実に起きたことだ。前述の通り、ハミルトン陣営はフェルスタッペンから順位を守ることよりもノリス相手を抜くことを優先した。これがフェルスタッペンを楽にした。レッドブルとしてはこのメルセデスの動きを読んでいた可能性もある。
このように、16周目でのピットストップにはメリットもデメリットもあり、ライバルの出方次第ではどちらに転んでもおかしくなかったが、レッドブルとしてはこの時点で出来る最善の策であったことは確かだろう。
1.3. ifの世界
ただし、フェルスタッペンが勝負の第2スティントでノリスを抜けたのは、ある意味ノリスのミスに起因する部分もあるだろう。図1を確認すると、ノリスは25周目にターン11でロックアップし、そこから2周に渡って本来のペースに戻らなかった(ロックアップでタイヤがオーバーヒートした可能性が考えられる)ことが分かる。
これにより、本来0.2~0.3秒程度であったはずの2人のペース差が、0.7秒もの大差になってしまい、28周目にフェルスタッペンがノリスをオーバーテイクした。
すなわち、ノリスがミスをしていなければ、フェルスタッペンの16周目ピットの戦略は、デメリットの2点目「第2スティントをライバルより古いタイヤで戦わなくてはならない」が決定打となり、ノリスを抜きあぐねる展開となっていたかもしれない。
今回は様々な因子が絡み合い、誰が勝ってもおかしくない展開だった。前述の通り、今回のような展開ではベストな戦略を採っても必ず負の側面が付きまとう。その中でハミルトン陣営の選択、ノリスの僅かなミス、そしてフェルスタッペンの完璧な走りが勝利を手繰り寄せた。
2. フェラーリ勢の戦略
今回のレースではルクレールの後退も一つの注目点となってしまった。ルクレールは第1スティントではサインツの前を走っていたが、1ストップ戦略を採用。50周目にサインツに交わされてしまった。
図2にフューエルエフェクトとデグラデーションを共に0.07[s/lap]とした場合の1ストッパーと2ストッパーのシミュレーションギャップグラフを、図3にルクレールとサインツの実際のレースペースを示す。
図2を見ると、両者がレースを通じてクリーンに走る前提では1ストップと2ストップはほぼ互角だ。
しかし、実際のレースでは全てがクリーンに進むわけではない。一つはトラフィックの問題、もう一つはタイヤのドロップオフの問題だ。
トラフィックは2ストッパーにとって不利な要素だが、COTAはタイヤの差があれば比較的簡単に抜けるサーキットで、その際のタイムロスも極めて小さい。したがって今回はこの点は2ストッパーに有利だった。
一方で図3を見ると、ルクレールの第1スティント終盤は無視できないタイヤのドロップオフが見られ、ここで2秒ほどタイムを失ってしまった。
ただし、これだけでは最終的にサインツの8秒後ろになってしまったことを説明できない。そこで先に行ったレースペース分析の結果を参照すると、ハードタイヤに履き替えてからのルクレールのペースはサインツよりも0.1秒ほど遅い。このスローペースが終盤の厳しい展開に繋がってしまった。
この0.1秒の差が、ルクレール自身のパフォーマンスによるものか、タイヤを33周持たせるためのマネジメントによるものかは現時点では不明だが、レッドブルが最初から2ストップだけを前提としていたことを鑑みれば、フェラーリが後者を過小評価してしまった可能性は否めない。
とはいえ、今回の1ストップ戦略は頭ごなしに非難できるものでもないことも確かだろう。さらにサインツとルクレールで戦略を分けており、トラフィックが問題になった場合はルクレールが、タイヤが問題になった場合はサインツが4位を獲得できるようになっており、ある程度まともなチーム運営になってきていると言える。
ドライバー2人の実力は10チーム中最高レベルで揃っており、来年以降ここにマシンの競争力とチーム力が加われば、一気にレッドブルのライバルとして面白い存在になってくるだろう。
Writer: Takumi