• 2024/5/19 22:08

2024年マイアミGP レビュー

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 アメリカでのF1人気が高まる中、今年もマイアミでは華やかなグランプリウィークエンドが展開された。今回はスプリントレース後に話題になった「タイムペナルティ問題」および「ノリスの初優勝」に焦点を当てて、週末を振り返ってみよう。

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1. タイムペナルティ問題の解決法

 今回はスプリントレースにて、またしてもタイムペナルティを抱えたマグヌッセンがハミルトンの前にとどまり、コース外に押し出すなどをしてレース展開に多大なる影響を与えた。

 最近の出来事から、ショートカットなどのコース外走行によるポジションゲインに関して、「速やかにポジションを戻すべき」という話題にとどまりがちだが、タイムペナルティを持ったドライバーが他車の前に居座ってレース展開を左右するケースはこのパターンにとどまらない。ジャンプスタートやピットレーンでのスピード違反、押し出し、接触など様々なケースがあり、何れのケースでもタイムペナルティを持ったドライバーが後続車を押さえてしまったり、逆に後続車を5秒以上引き離して、本来成立していないオーバーテイクを成立させてしまったりと、ここ数年あらゆるレース文脈において議論されてきたことだ。

 したがって、限定的なシチュエーションを扱うものではなく、「(ペナルティを抱えた)本来いないはずのドライバーがレースの趨勢に影響を及ぼすこと」を問題視し、その影響をゼロに近づけることが急務である。

1.1. 提案

 ここで、筆者が提案するのは、「タイムペナルティを抱えたドライバーの後方から速いマシンが迫ってきている場合はブルーフラッグを振る」というものだ。タイムペナルティを抱えたドライバー(以下「当該車両」)は、本来後続者たちのレースに影響を与えるべきでないという意味では、周回遅れと同じような存在とも言える。したがって、後ろにいるマシンが当該車両の影響を受けそうなら、当該車両は速やかに道を譲るルールがあっても理にかなっているはずだ。

 ただし、誤解がないようにしておきたいのは、後方車に道を譲ることそのものはペナルティ消化にはならないということだ。ペナルティはこれまで通り、次のピットストップ時に5~10秒静止すること、もしくはレース後のタイムへ加算されることによってのみ、それを受けたことになる。ブルーフラッグは、当該車両をレースに影響がある場所から排除するための手段に過ぎないことを強調しておこう。

 そして、万が一ブルーフラッグを振っても一定時間以上譲らないようであれば、ドライブスルーを課せば良い。

 ただし、この案の弱点は、ペナルティを持ったドライバーが速い場合に、違反によるポジションアップ(ジャンプスタートやコース外からの追い抜きなど)によって不当に順位を上げられてしまう問題(コース外から抜いて5秒ペナルティを貰っても、5秒以上引き離してフィニッシュすれば、本来無かったはずのオーバーテイクで順位を勝ち得たことになる)には対処しきれないことだ。しかし、これについては、今季から5秒でなく10秒ペナルティが主に課されるようになったことで、多少の問題の軽減はできているという擁護は可能だろう。

1.2. 反論と代替案

 さて、いつものように、このアイディアに対する反論や代替案も考えていこう。

※筆者がX上で呟いた際にいただいたご意見の数々も参考にしている。数々のリプライに対し、ここに感謝の意を表する。

(1)何をもって「速そう」と定義するか

 現在、周回遅れに対するブルーフラッグを振る基準として、「1.2秒以内に迫ったら」というものがある。これを適用して、「一定時間(1周など)以上、後方車が当該車両の1.2秒以内につけていたら」とするのは一つの選択肢だろう。あるいは「DRS区間2つ以上連続でDRS圏内に入っていたら」などにしても良いかもしれない。

(2)シンプルにドライブスルーの方が良いのではないか

 ドライブスルーはシンプルであり、現在抱えている問題は一掃できる。しかし「重すぎる」という問題点もある。

 サーキットによってピット通過のロスタイムは異なり、一部のサーキットでは20秒以上になってしまう。確かにそれに相当するような、悪質・危険なドライビングもある。しかし一方で、5秒ペナルティで済むような軽い違反(10-0ではないインシデント、グリッドポジションの微細な違いなど)もあり、程度は千差万別だ。それらに対して、最も軽いペナルティがドライブスルーという状況は望ましくない、と筆者は考える。やはり軽微な違反に対する5秒や10秒のタイムペナルティはあって然るべきだ。

(3)強制的スピードダウンでも良いのではないか?

 一定時間VSCデルタを適用したり、スピードリミッターを効かせるなど様々な方法論があるだろうが、何にせよ、安全性を担保できるか、という点に疑問が生じる。特にモナコのような市街地では難しいだろう。ただし「このラップは1分40秒以上で帰ってくること」のようなペナルティなら、ドライバーがトラック上の状況を判断して、安全に減速できるかもしれない。例えばモナコならば、ヌーベルシケインをカットしてスローダウンするのは、現在の周回遅れもよくやっていることだ。これは筆者の提案と実質的に近いかもしれない。この方法は、前述した「違反によるポジションアップからペナルティタイム以上の差を広げて不当に順位を上げられてしまう問題」に対処できる点でアドバンテージがある。安全面の課題をクリアしていけば、非常に良い選択肢だと言えるだろう。

(4)Moto GPのようにロングラップを導入するのも良いのではないか?

 F1マシンはバイクより遥かに幅が広く、分岐と合流に関する安全性もかなり大きなチャレンジとなると考えられる。一部のサーキット(アブダビやバーレーンなど)では可能かもしれないが、モナコやアゼルバイジャンのようなトラックでは難しいだろう。これに対し、「ペナルティシケイン」を設置するというアイディアもあり、それならば可能になることもあり得るが、分岐と合流の安全性については、クリアするべき課題が多いかもしれない。

(5)指定位置に行くように指示する方法も良いのではないか?

 これは例えば「2周以内にペレスの3秒後ろにまわってください」というような指示だ。これは機能するかもしれない。ただし、基準となるものがラップタイムのような絶対的なものではなく、ライバルの位置という相対的なものであるため、例えば上記の例では、「ペレスがスローダウンした場合にどこに戻れば良いのか?」「それについて再検討している間に2周経ってしまったらどうするのか?」という小さな問題はあるだろう。だが、この方法も、ペナルティタイムを稼いでしまう問題をクリアできており、有力な一手かもしれない。

1.3. 結論

 このように、様々な視点から見てみても、「タイムペナルティを抱えたマシンが後続車を押さえ込まないようにブルーフラッグ」「タイムペナルティはそれはそれでピットやレース後に消化する」という方法が、現状ではシンプルで実現しやすいというのが筆者の見解だ。一方で、強制的スローダウンペナルティや指定位置への移動ペナルティも、安全面の課題をクリアしたり、オペレーション面を上手くやれば非常に有効な選択肢と言えるだろう。

2. ノリスの初優勝

 これまで15回の表彰台を獲得し、幾度となく優勝を視界に捉えながらも、あと一歩及ばない状況が続いていたノリス。しかし今回はSCが味方し、めでたく初優勝となった。

 先に行ったレースペース分析では、ノリスのペースはフェルスタッペンの0.1秒落ち程度だった。昨年サンパウロGPでも同様の差であり、複数回ここまでのペースを示せば、幸運が転がり込んでくる確率が上がるのはある意味自然なことだ。

 さて、ここで、仮にSC・VSCが無かった場合、どうなっていたのか考えてみよう。以下に実際のレースのペースグラフを示す。

図1 ノリスとフェルスタッペンのレースペース

 ノリスは第1スティントの前半にペレスの後方でタイヤを温存しており、前が開けた途端に一気にペースアップ。フェルスタッペンが23周目に新品ハードタイヤに履き替えてからも、ノリスのペースの方が0.3秒ほど勝っていた。

 仮にVSC・SCが無く、ノリスが30周目まで引っ張っていたとすると、ノリスはフェルスタッペンとの差を12秒に広げてピットイン。23秒のロスと考えると、11秒後方に戻ったことになる。

 さて、実際のレースでのノリスは、第2スティントでは、フェルスタッペンより(レーシングスピードで)5周分新しいタイヤで、平均0.27秒速いペースで周回していた。よって30周目に入ってフェルスタッペンより7周新しいタイヤに履き替えれば、(フェルスタッペンのデグラデーションを0.07[s/lap]として)0.27+0.07×2≒0.4秒速かったと想定できる。

 よって11秒差を詰めるのには28周かかった計算で、ちょうど1周足りなかったことになる。

 一方、ノリスが35周目まで引っ張っていた場合は、フェルスタッペンの9秒後ろでコースに戻り、1周0.8秒ずつ追い上げて、12周(47周目)で追いついていたことになる。勿論、そこまでハイペースをキープして引っ張れるかという問題、さらに24周目から35周目までの間、フェルスタッペンがずっとノリスに劣るペースを続けたかという問題があるため、この数字は流石に楽観的かもしれない。しかし、SCが無くても、終盤に向けて手に汗握る展開になっていた可能性は非常に高かったと言えるだろう。そして、ノリスがそれを制して劇的な初優勝を遂げていた世界線も、十分に考えられるということだ。

3. 次戦は聖地イモラ 

 さて、次は多くの歴史を持つイモラを舞台とするエミリア・ロマーニャGPだ。非常にチャレンジングでドライバーズサーキットとしても評判が高く、トップドライバーたちがどんな走りを見せるのか、非常に興味深い。一昨年はウェットレース、昨年は洪水の影響で中止となってしまったが、今年こそはグラウンドエフェクトカーによるドライレースを見てみたい。

 一方で、ホームストレートでのDRSを使ったオーバーテイクは出来るものの、それ以外の個所ではかなりのペース差があっても抜きづらいのがイモラの特徴だ。最終リバッツァさえ速く走れば、基本的には抜かれないだろう。したがって、その特性を利用した戦略も可能となってくるため、セットアップも含めた戦略面の駆け引きが興味深いゲームになってくることを予期しつつ、末筆としたい。

Writer: Takumi

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