• 2024/12/13 02:08

2022年イギリスGP レビューと分析

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 イギリスGPを終え、レース映像とラップタイムからレースを振り返っていこう。

初心者向けF1用語集はこちら

各ドライバーの使用タイヤはこちらのピレリ公式より

1. 上位勢の勢力図は?

 チャレンジングな高速コーナーを多く有するシルバーストーン。「マシンが速くなければ絶対に速く走れないサーキット」とも言われ、ここでの各マシンの力関係は非常に重要な意味を持つ。

 まずは図1にルクレール、サインツ、ハミルトンのレースペースを示す。

図1 ルクレール、サインツ、ハミルトンのレースペース

 フェラーリ内のチームメイト比較は、第2スティントの両者クリアエアの部分で行うことができる。27,28周目と32~38周目の平均でルクレールの方が0.52秒上回っているが、サインツのタイヤが5周古いことを考慮する必要がある。

 グラフの傾きからタイムの上がり幅は0.04[s/lap]程度であるため、フューエルエフェクトを0.07[s/lap]とすると、タイヤのデグラデーションは引き算で0.03[s/lap]と算出できる。よってサインツのタイヤは0.03×5=0.15秒だけ不利な状態だったということになる。したがって同条件では0.52-0.15=0.37[s]、約0.4秒ほどルクレールの方が速かったということが分かる。

 そしてハミルトンの第2スティントは周回数が少ないため精度にやや疑問符がつくが、ルクレールを0.04秒ほど上回っており、先ほどと同様にルクレールのタイヤが8周古いことを、デグラデーション0.02[s/lap]で考慮すると、実力的にはがルクレールが0.1秒ほど上回っていたと言える。

 また第1スティントのペースから、ハミルトンはサインツよりも0.2秒速かったことも分かる。

 次にペレス、ノリスらも見てみよう。

図2 ハミルトン、ペレス、ノリスのレースペース

 またハミルトンの第1スティントは、ペレスより7~10周目、22~33周目の平均で0.26秒ほど速い。ハミルトンのタイヤが2周古いことを、デグラデーション0.02[s/lap]で考慮すると、実力的にはハミルトンが0.3秒ほど上回っていたと言える。

 ちなみにノリスは第1スティントでハミルトンの1.3秒落ちだ。グラフは割愛したがアロンソもノリスとイーブンペースで走っている。

 ここまでをまとめると、レースペースの勢力図は表1のようになる。

表1 ミディアムタイヤでのレースペース

表2 ハードでのレースペース

 第1スティント(ミディアム)のルクレールは、サインツに対する攻勢から考えてもハードでの0.4秒のアドバンテージを変わらず持っていたと考えられる。そうなると表1ではハミルトンの0.2秒上にルクレールが来ることになる。

 また展開から考えて、フェルスタッペンが第1スティント(ミディアム)でサインツより速かったのは間違いない。自力で抜くまでには至らなかった点を考えると、おそらくルクレールに近いポテンシャルだったのではないだろうか?

 よって3強の中でルクレール、フェルスタッペン、ハミルトンが接近したパフォーマンスを見せたと言えるだろう。ルクレールのダメージを考慮するとまだ「フェラーリ>レッドブル>メルセデス」と言えるかもしれないが、特にメルセデスが大きく差を詰めてきたことで、今後のスリリングな3強バトルが期待できそうだ。

 またルクレールとフェルスタッペンは、それぞれセーフティカーとデブリの不運に見舞われはしたものの、やはりパフォーマンス面ではチームメイトに明確な差をつけており、少し違う次元にいることが再確認できたレースだった。

2. フェラーリの判断はあれで良いか?

 レース前半、ハミルトンが追い上げてくる中でサインツとルクレールを入れ替えなかったフェラーリ。しかしこれはレースとはどうあるべきか?というチームの哲学の問題なので、その是非について論じるのは適切ではないと判断する。

 一方で、セーフティカー導入時の判断はどうだっただろうか?ルクレールをステイアウトさせたことについてビノットは「ピットに入れれば、ハミルトンの後ろになっていた。そして彼は新しいハードタイヤを履いており、ステイアウトしただろう。」と振り返る。

 確かにハミルトンがピットに入ったのは33周目で、SC導入のたった6周前だ。よってハミルトンにはステイアウトの選択肢があったのは確かで、新品ソフトで6周しか差がないハードを抜けるかと言われれば不安になるのは理解できないことはない。

 だが、ルクレールがピットイン、ハミルトンがステイアウトで後ろになっても、2位は安泰だ。フェルスタッペンが中団に沈む中では御の字だろう。またハミルトンをオーバーテイクできたかは未知数と前述したが、それがレースだ。ルクレールの腕に託して2番手で送り出すのは、今年の抜きやすいマシン特性も味方して決して悪くない選択肢と考えられる。

 逆に実際にフェラーリが採ったステイアウトの選択にはリスクが伴う。再スタート時のウォームアップ特性とその後のソフトタイヤのペースが圧倒的に優勢ならば(実際そうだった)、ハミルトンどころか後続のペレス、ノリス、アロンソにすらやられかねない展開だった。そしてそのような防戦一方の接近したバトルでは接触のリスクもより高まる。

 今回のフェラーリは、フェルスタッペンが中団に沈む中で「最低でも2位、うまくやれば1位」よりも「うまく行けば1位、行かなければどこまで順位を落とすか分からない」を選択してしまった。タイトルを争う立場としては相応しくないハイリスクな戦術を展開してしまったというのが筆者の見方だ。

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Writer: Takumi

※中団以降のレースペース分析は後日追って行う