• 2024/11/21 15:21

2024年オーストラリアGP レビュー

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 中東での2連戦を終え、F1は1996年から開催が続けられているメルボルンへとやってきた。今回はフェルスタッペンがリタイアしたこともあり、普段とは違った顔ぶれの上位争いとなり、中団勢でも激しいレースが繰り広げられた。今回もデータを交えながら、ポイント毎にフォーカスして振り返っていこう。

サーキットデータ

F1公式 レースハイライト

Pirelli公式 各ドライバーのタイヤ戦略

初心者のためのF1用語集

各チームの決勝後のプレスリリース

1. フェラーリvsマクラーレン

 まず、図1にサインツ、ルクレール、ノリスのレースペースを示す。

図1 サインツ、ルクレール、ノリスのレースペース

 ノリスは序盤こそ2番手でサインツについて行ったが、ダーティエアの影響か、途中からはタイムを落としてしまった。

 サインツは8~10周目にペースアップしており、デグラデーションの大きさからもハードプッシュしていたことが想像できる。ここで築いたギャップにより、サインツは1回目のピットストップを遅らせることができ、第2スティント以降もライバルよりも新しいタイヤで余裕を持って戦うことができた。

 一方、2位争いも緊迫したものになった。

 ルクレールの後ろには同じタイヤ履歴のピアストリがいたが、その後方にいるノリスのタイヤは5周新しく、デグラデーションを0.07[s/lap](タイム推移が横ばいの場合)とすると、0.35秒のアドバンテージに相当する。実際ノリスのペースはルクレールを上回り、その差が1.2秒まで詰まったところで、フェラーリはルクレールをピットに入れた。これはアンダーカットを未然に防ぐための判断だろう。

 こうなれば、ノリスは引っ張って第3スティントでタイヤのオフセットを作って抜きに行くしかないが、結果的に最終スティントが18周と短くなってしまう非効率的な戦略となってしまった。対するルクレールはスティント序盤でタイヤを労り、徐々にペースアップして完璧な逃げのレースを見せた。

 これにより、フェラーリは2022年バーレーンGP以来の1-2フィニッシュを飾った。

2. 隠れたMVPたち

 今回は、画面上から見えてくる印象だけでは気づきにくい「MVP」たちがいた。詳細は先に行ったレースペース分析をご覧いただくとして、本記事ではザウバー勢とRB勢について掘り下げてみよう。最初に分析の総合結果を示す。タイヤ、燃料、ダーティエアやプッシュのインセンティブなどあらゆる文脈を考慮に入れた数値である。

参考:レースペース分析

図2 各車のレースペース分析

2.1. ザウバー勢の健闘

 まずはザウバー勢のレースペースをルクレールとの比較の形で示す。

図3 ボッタス、ジョウ、ルクレールのレースペース

 第2スティントでは、タイヤの差を換算すると、ボッタスがルクレールの0.8秒落ちのペースを見せた。これはラッセルと互角の数値だ。第3スティントでもその差は1.2秒(角田やアルボンらと互角)であり、ブルーフラッグの中でタイヤの状態をベストに保つのは難しかったことを考慮すれば、かなりの出来だ。

 ジョウのペースも悪くなく、ザウバー勢は揃ってレースペースの良さが目立った。それだけにピットストップの問題が悔やまれるが、今後中団勢を大きく掻き回す存在になってくれば非常に面白い。

2.2. RB勢の好走と課題

 今回見事にQ3に進出し、予選8番手を獲得した角田。一方のリカルドはQ1で敗退したが、これはトラックリミット違反によるもので、当該ラップは角田の0.110秒遅れだった(トラックリミット違反による明確なアドバンテージはデータ上は確認できなかった)。それでも予選では角田がリカルドに対して優勢を築いていることは、最近の傾向として明らかになってきたと言えるだろう。

 だが、レースではこれが逆転した。バーレーンでもリカルドのペースは角田と互角か僅差で勝る程度だったが、今回も角田を0.2秒ほど上回り、ストロールを上回る速さを見せた。その速さは、似たような戦略を採ったアルボンと比較すると目に見えて分かりやすいだろう(図4)。

図4 リカルドとアルボンのレースペース

 リカルドについては、まともなグリッドから出ていれば6位も可能だっただけに、「勿体なかった」としか言いようがない。速さはレースで結果を手にするための手段に過ぎない。週末全体をミスなくまとめ上げて結果に繋げることの重要性は、本人がよく理解しているはずだ。今後数戦でその本来の力を見せることができるかが、今後のキャリアの分かれ目になるかもしれない。

 一方、角田は週末を完璧に組み立てて7位を獲得した。ただし、レースペースではまだ僚友から学べる部分もあり、今年1年は非常に有意義な期間になる可能性がある。

 さて、来年のレッドブルのセカンドシートの候補について考えてみよう。当サイトで行った歴代ドライバーの競争力分析では、予選では「リカルド(2020年までを基準)が最速、角田(2022年まで)が0.1秒、ペレスが0.2秒差」で続いていた。そしてレースペースでは「リカルドが最速、角田とペレスが0.3秒差」となっていた。

※参考
歴代ドライバーの競争力分析(予選)
歴代ドライバーの競争力分析(レースペース)

 まだ3戦を終えた段階ではあるが、ひとまず今年のRB内の力関係を、「予選で角田が0.1秒」、「レースでリカルドが0.2秒」上回っているという読み方を前提としよう。すると、予選に関しては、リカルドが本来の力より0.2秒劣るパフォーマンスしか発揮できていないか、そのうちの一部は角田の成長か、あるいは両方だろう。逆にレースペースでは、リカルドは既に全盛期に近い力を取り戻しており、角田が2022年と比して0.1秒の前進を遂げたと見るのが自然かもしれない。

 となれば、現状の力関係は、予選では「角田が最速、リカルドが0.1秒、ペレスが0.1秒差」あたりで、レースでは「リカルドが最速、角田が0.2秒差、ペレスが0.3秒差」となっている可能性が、筆者にとっては最も自然であるように映る。

 レッドブルのドライバー人選はマルコの一声によって決まる部分も大きいと思われ、データ分析の視点とは異なる判断に結びつく場合もありそうだが、現状では「ペレスで現状維持するメリット」「角田とリカルドが接近していること」などが絡み合い、かなり難しい判断と言えるだろう。

 ただし、筆者は以前から、レースで速いルクレールと予選で接近するサインツのバランスを何度か危惧しており、やはりエースドライバーを据えるならば、予選でエースの前に立つ可能性が低く、レースでエースと同等のペースで走れるドライバーの方が、レースはしやすい。その点ではリカルドは上記の計算だとフェルスタッペンから予選で0.3秒遅く、レースペースでは0.1秒差でついていけるため、戦略上の「扱いやすさ」では都合が良い印象がある。レッドブルが2人目のドライバーに何を求めるか?今後数ヶ月の興味の的となりそうだ。

3. アロンソの奇策は認められず

 今回は、57周目にアロンソがラッセルのクラッシュの遠因となる「潜在的に危険な走行」を行ったとしてペナルティを受けた。

 まずラッセルは53周目からアロンソのDRS圏内に入り、4周新しいタイヤでオーバーテイクを狙っていた。最大の抜きどころは、ターン6の立ち上がりから続く全開区間を抜けてターン9,10、あるいはそこでブロックラインを取らせて、ターン11で狙うやり方だと思われた。したがってターン6からの立ち上がりでのタイム差とスピード差が重要であることは大前提だ。

 54周目以降の両者のバトルを見ると、ターン6を抜けた時点で0.6秒強の差だとギリギリ守り切れるという状態が続いていた。しかし、57周目のターン6手前ではその差が0.4秒台になっており、アロンソとしては「何か」をしなければ抜かれるのは避けられない状況だった。

 そこでアロンソは奇策に出た。図5にテレメトリデータを示す。

図5 アロンソの走行データ(created with F1-Tempo

 コーナーの遥か手前で減速し、最高速のポイントでは前の周より40[km/h]も遅い。

 基本的な戦術としては、ラッセルを引きつけて乱気流を浴びせた上に、スロットルを踏むタイミングを狂わせることで、ターン6からの立ち上がりで突き放そうとしたと考えられる。

 アロンソを擁護する側の論理としては、「ラッセルが回避しなければ追突していたわけではないため、格別危険というわけではない」という主張は考えられるだろう。これまでも2021年のアブダビGPにおけるペレス、前戦サウジアラビアGPにおけるマグヌッセンなど、本来全開で走るべき区間で減速して後続を手玉にとるやり方は、F1のゲームのポピュラーな一部分となっている。DRS獲得のための意図的な減速も含めるならば、2013年のカナダGPにおけるアロンソvsハミルトン、2021年のサウジアラビアGPのフェルスタッペンvsハミルトン、2022年のフェルスタッペンvsルクレール、2023年アブダビGPのアロンソvsハミルトンなど数え上げればキリがない。これらもスチュワードが問題にしている「いかなる時も、車は必要以上に遅く、不規則に、または潜在的に危険な方法で運転してはならない」に触れる点では本質的に同じものだろう。これらはF1のレースの一部であり、今更ペナルティが出るのは一貫性に欠ける。また、「ペナルティは結果(consequences)に関係なく行為そのものに与えられる」という原則に則れば、今回クラッシュが生じたことも、裁定に影響を与えてはならない。

 一方で、スチュワードを擁護する側の論理としては、文書にもあるように「高速区間」であったことだ。しかもサウジアラビアの最終コーナー手前やアブダビのターン5手前とは異なり、ラインが1本しかない区間でもあった。よって、そこでの減速は過去の事例よりも危険であるという論理は通るだろう。他にもモナコのセクター1の上り坂やスパのオールージュなども、それに当たるかもしれない。

 それに対してアロンソは、ラッセルとの距離はコントロール下にあったと反駁(反論)することもできるだろう。その証拠が一度ブレーキを離して再加速していることだ。これにより、ラッセルに回避行動を取らせるような事態は回避しており、安全性に配慮した上での戦術的駆け引きであることが伺える。ラインが一本しかないことが根拠になり得るのは、回避行動が必要になる場合のみであり、それを避けている以上問題ないという論理だ。

 ただし、アロンソはあくまで「ターン6からの脱出速度を高めるために進入速度を落とした」と説明しており、その点にスチュワードが納得しないのも理解はできる。

 このように、ディベートの仕方次第でどちらにでも転び得る案件であり、ちょっとした要因で逆の結果もあり得たのではないかと思わせるレベルだ。そうした曖昧なものに一つの決定を下しスポーツとして成立させるためにスチュワードがいる。したがって彼らの決定は尊重すべきであり、これ以上の抗議を行わないアストンマーティンの判断も賢明と言えるだろう。

4. まとめと次戦への展望

 次は世界屈指のチャレンジングな高速サーキット”Suzuka”だ。ジェッダやメルボルンも高速コーナー群がフィーチャされたトラックだったが、鈴鹿のS字セクションやデグナーはまた大きく異なる特性を持っている。シーズン序盤で総合力が問われる鈴鹿でのデータを採れることには、マシン開発の観点で非常に意義があり、我々ファンにとっても各チームの実力を見極める上で、これ以上ない舞台となるだろう。

Writer: Takumi