2026年オーストリアGPのラップタイムをもとに、各車のレースペースを分析した。
単純にスティント平均を並べるだけでは、レースペースの実態は見えにくい。タイヤのコンパウンド、タイヤ年齢、燃料搭載量、路面改善、ダーティエア、ピットイン・アウトラップ、異常ラップ、さらにレース展開によるペースコントロールまで考慮する必要がある。
本稿では、燃料補正を1周あたり0.033秒として、各スティントのラップ推移から「同じ条件で走った場合の持続可能なペース」を推定した。短いスティントで攻めた速さをそのまま長いスティントへ持ち込むことはせず、逆にロングスティントでタイヤを守った走りを単純に遅いとも扱っていない。
結論から言えば、このレースの最速候補はフェルスタッペンとアントネッリである。ラッセルがごく僅差で続き、ハミルトン、ピアストリ、ルクレールが次のグループを形成した。ノリスとハジャーはその少し後ろで、両者はかなり近い。
推定レースペース
基準はフェルスタッペンを0.0秒/lapとした推定ペース差である。
数値は小数点第1位までに丸めている。0.1秒未満の差は、レース展開や補正方法によって入れ替わり得る程度の差と考えたい。


分析の基準
今回の比較基準は、標準的な2ストップ戦略を想定した。
具体的には、新品C4で18周相当、新品C3で24周相当を2本走る条件を基準とした。つまり、C4とC3を組み合わせたレース全体の持続可能ペースを評価している。
この基準を採用した理由は、オーストリアGPの上位勢のレースが、実質的にC4とC3を中心に組み立てられていたためである。C5も一部のドライバーが使用したが、短い攻撃スティント、終盤の特殊状況、交通処理、あるいは戦略上の都合を強く受けており、レース全体の基礎ペースを測る主軸にはしにくい。C5のラップは補助材料として扱い、最終的な標準ペースの基準には入れていない。
重要なのは、スティント平均をそのまま比較しないことだ。15周程度の短いスティントでタイヤを使い切るように走れば、当然ラップタイムは良く見える。一方、25周以上を見据えて序盤を抑えれば、序盤の平均は悪く見える。両者をそのまま比べても、公平なレースペース比較にはならない。
そのため、本稿では各スティントのラップ推移を見て、基準スティント長に置き換えた場合の持続可能ペースを推定している。
燃料補正
フューエルエフェクトは1周あたり0.033秒とした。
レースが進むほど燃料は減り、同じタイヤ、同じ路面、同じ走行条件なら後半の方が自然に速くなる。したがって、序盤の1分12秒台と終盤の1分10秒台をそのまま比較することはできない。
各ラップには、周回数に応じて燃料が軽くなった分を戻す補正を加えた。これにより、序盤と終盤のラップを同一燃料条件に近づけて比較している。
除外したラップ
この分析では、全ラップを機械的に平均へ入れていない。
まず、1周目は除外した。スタート直後は隊列、ポジション争い、タイヤ温度、接触回避などの要素が強すぎるため、通常のレースペースとは性質が異なる。
ピットインラップとピットアウトラップも除外した。インラップにはピット入口への減速が含まれ、アウトラップにはタイヤのウォームアップが含まれる。これらを通常ラップと同じ扱いにすることはできない。
また、全体的にラップタイムが乱れている区間も評価から外した。特にVSC導入時のL24〜26、L52〜53は、複数のドライバーで大きなタイムロスが見られ、個々のドライバーの純粋なペースを示しているとは言いにくい。
さらに、各スティント内で孤立して大きく跳ねたラップも慎重に扱った。1周だけ急に1秒以上落ち、その前後のラップでは元のペースに戻っている場合、それは通常のデグラデーションではなく、トラフィック、ミス、エネルギーマネジメント、周回遅れ、バトルなどの影響である可能性が高い。
こうしたラップをそのまま平均に入れると、特定のドライバーを不当に遅く評価してしまう。逆に、トウやERS放出によって一時的に速すぎるラップも、持続可能ペースとしては過大評価になるため、必要に応じて低重みで扱った。
ダーティエアの扱い
ダーティエアは、単純に「前車の後ろだから除外」とはしていない。
前車の後ろにいても、ギャップが徐々に開いていく展開であれば、そのドライバーはほぼ自分のペースを出し切っていたと考えられる。この場合、多少のダーティエアを含んでいても、ペース評価の材料として残す。
一方で、1秒以内に詰まり続け、抜こうとしてタイヤを使い、その後にペースが落ちている場合は注意が必要である。このケースでは、後半の落ち込みを単純なデグラデーションや車の遅さと見ると誤る。
スティント終盤に前車へ追いついた場合も、状況を分けて考える必要がある。追いついたのが最後の数周であれば、それ以前のラップはかなり信頼できる。しかし、追いついた後に長く詰まり続けた場合、その後のラップは本来のペースを反映していない可能性が高い。
また、あえて前車と距離を置いてタイヤを守り、前車がいなくなってからペースを上げる走りもある。この場合、前半の抑えたペースと後半の速いペースはセットで見るべきであり、前半だけを「遅い」と評価するのは適切ではない。
トップ3:フェルスタッペン、アントネッリ、ラッセル
トップ3は非常に接戦だった。
第2スティントではフェルスタッペンが強い。L28〜42のラッセルとの比較では、単発で落ちたラップを除いてもフェルスタッペンの方が良い。しかもフェルスタッペンのタイヤの方がやや古い条件であるため、タイヤ年齢を揃えると差はやや広がる。
アントネッリとの比較では、L30〜48の同一周回平均だけを見るとアントネッリがかなり速く見える。しかしこの区間では、アントネッリのタイヤがフェルスタッペンより新しい。タイヤ年齢を補正すると、第2スティントの純粋なC3ペースではフェルスタッペンが僅かに上回る。
一方、第3スティントではアントネッリとラッセルの内容が良い。L54〜69の生タイムではアントネッリが最も速いが、ここでもタイヤ年齢の差が大きい。ラッセルは早めに第3スティントへ入っており、比較時点ではタイヤが古い。タイヤ年齢を揃えると、ラッセルとアントネッリはほぼ同等、フェルスタッペンがごく僅かに下という見方もできる。ただし、後にこの段階ではフェルスタッペンのリアアクスルに問題が生じていたことが分かり、この部分でのフェルスタッペンのペース不足は全体の分析に含めないこととした。
C4ではラッセルが良い。フェルスタッペンも強く、アントネッリも大きくは離されていない。アントネッリはスティント中にいくつか乱れたラップがあるが、通常ラップの並びを見る限り、C4でもトップ勢と十分に戦えている。
総合すると、フェルスタッペンとアントネッリはほぼ互角である。フェルスタッペンは第2スティントのC3で最も強く、アントネッリは終盤のC3で非常に強い。ラッセルはC4と終盤の補正後ペースで高く評価できるが、レース全体では2人に対してごく僅かに遅れる。
ハミルトン、ピアストリ、ルクレール
第2グループはハミルトン、ピアストリ、ルクレールの3人である。
ピアストリはC3で安定していた。大きな乱れが比較的少なく、スティント全体の評価はしやすい。トップ3には届かないものの、上位第2グループの中心に置ける内容だった。
ハミルトンは、短いC4スティントでも良いラップを刻んでいる。C3でも単発のロスを除けばルクレールやピアストリに近い。トラフィックや戦略の影響を受けた区間があり、評価の信頼度はピアストリほど高くないが、基礎ペースはかなり良い。
ルクレールは、単発のロスによって平均が悪く見えやすいレースだった。通常ラップだけを見ると、C4でもC3でも上位第2グループに入る。C5スティントは標準ペースの主材料にはしにくいが、補助的に見ても一発の速さは十分にあった。
この3人はかなり近い。数値上は全員+0.3秒/lapで並ぶが、安定性ではピアストリ、ピークではルクレール、総合的なまとまりではハミルトンという見方もできる。いずれにしても、ノリスとハジャーのグループよりは一段上と判断した。
ノリスとハジャー
第2スティントのノリスは悪くない。ピアストリと比べても大きく遅れておらず、タイヤ年齢の差を考慮しても、上位第2グループに近いペースを示している。少なくとも、このスティントだけでノリスを低く見る理由はない。
一方、第3スティントではハジャーとの関係が重要になる。ノリスは新しいタイヤでハジャーに追いついたが、圧倒的なペース差で処理するところまでは行かなかった。
ハジャーはレース全体を通じて非常に安定していた。トップ勢や上位第2グループには届かないが、中団上位からは明確に抜けている。ノリスとハジャーはほぼ同格で、僅かにノリスを前に置くのが自然である。
中団:リンドブラッド以下
中団ではリンドブラッドが最も良かった。
リンドブラッドはスティント全体のまとまりが良く、大きな乱れも比較的少ない。トップ8からは明確に離れるが、中団の中では上位に位置する。
ローソンはリンドブラッドに近い。スティント単位では同等に見える部分もあるが、後半の伸びやトラフィックの影響を踏まえると、リンドブラッドを僅かに上に置いた。
ボルトレトはC4では良い内容を見せた。終盤C3はやや荒れたが、良いラップだけを拾えば中団上位に近い。ただし、持続可能ペースとしては+1.3秒/lap前後が妥当である。
ヒュルケンベルグはボルトレトに近い。終盤の通常ラップは悪くなく、スティント全体としても中団中位の力はある。ガスリーもC3基準ではヒュルケンベルグ近辺だが、交通影響がやや大きく、信頼度は少し下がる。
コラピントは+1.7秒/lap前後。第1スティントは前車の影響を受けて見えづらいが、全体としては中団下位の位置づけである。
オコンとベアマンは近い。オコンは単発で大きく落ちたラップをそのまま含めるとかなり悪く見えるが、通常ラップの水準ではベアマンより僅かに良い。ベアマンも大きく離されているわけではなく、両者の差は小さい。
アルボンは終盤に大きく崩れた。その全てを実力値とは見ないが、通常ラップだけを拾っても基礎ペースは苦しい。今回の分析対象内では下位に置く。
参考扱いのドライバー
アロンソ、ストロール、サインツ、ペレス、ボッタスは、メインの表には含めていない。
アロンソとストロールは、標準的なC3基準へ換算するための材料が不足している。C4やC5の特殊なスティントだけから、レース全体の持続可能ペースを推定するには不確実性が大きい。
サインツは23周でレースを終えており、標準2ストップ換算に耐えるだけのデータがない。ペレスは4周、ボッタスは2周のみで、定量的なレースペース評価は不可能である。
これらのドライバーに無理に数値を付けると、表面上は分析らしく見えても、実態としては信頼できない推定になってしまう。そのため、本稿では参考扱いとした。
まとめ
2026年オーストリアGPのレースペースは、フェルスタッペンが最速でアントネッリが僅差で続き、さらにラッセルも僅差という構図だった。
フェルスタッペンは第2スティントのC3で非常に強く、アントネッリは終盤のC3で高いペースを示した。ラッセルはC4の良さと終盤の補正後ペースで高く評価できるが、レース全体では僅かに届かない。
その後ろでは、ハミルトン、ピアストリ、ルクレールが第2グループを形成する。3人の差は小さく、いずれも+0.3秒/lap前後の範囲に収まる。
ノリスとハジャーはその少し後ろ。ノリスは第2スティントではかなり良かったが、第3スティントで新しいタイヤを活かし切ったとまでは言えない。ハジャーは安定感が高く、ノリスとほぼ同格のレースペースだった。
中団ではリンドブラッドが頭ひとつ前に出ており、ローソン、ボルトレト、ヒュルケンベルグ、ガスリーが続く。オコン、ベアマン、アルボンは下位グループとなった。
このレースは、単純平均だけでは見誤りやすい要素が多かった。タイヤ年齢、異常ラップ、ダーティエア、レース終盤のペースコントロールを分けて考えることで、ようやく各車の実力値に近いペース差が見えてくる。
インタラクティブグラフ
ご自身の視点でさらにデータを深掘りしたい方向けに、操作可能なグラフを用意した。
このツールでは、**「ペースグラフ」と「ギャップグラフ」**の二種類が利用でき、ボタン操作で見たいドライバーだけを自由に選んで表示できる。
特にラップタイムグラフには、レース状況を理解しやすくするための工夫が施されている。
- 塗りつぶしの点:前が空いている状態(クリアエア)でのラップを示す。
- 白抜きの点:前のマシンの影響下(ダーティエア:前方2秒以内)にあるラップを示す。
この色分けによって、各ドライバーがどのような状況でそのタイムを記録したのかが一目で把握できる。
また、グラフ右上のボタンからは、画像のダウンロードやグラフの拡大・縮小(ズーム)も可能だ。分析の補助として、ぜひご活用いただきたい。
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