• 2026/3/11 23:19

2026年F1・新PU&エネマネ完全解剖

Bytakumi

3月 11, 2026

2026年のF1は、見た目こそ「V6ターボ・ハイブリッド」の延長線上にあるが、中身はかなり別物だ。いちばん大きい変化は、電気が主役級になったことにある。MGU-Hは廃止され、MGU-K(ERS-K)の電気出力は120kWから350kWへ大幅に引き上げられた。2026年のパワーユニットは内燃と電動がおおむね50:50に近い配分になる。つまり今年のF1は、どこで充電し、どこで放電し、どこで温存するかが勝負そのものになっている。

そのため、今季の観戦でよく耳にする「ノーマルモード」「Boost」「Overtake」「Recharge」は、単なる流行語ではない。どれも1周の中で電気をどう使うかを表す言葉だ。

まず用語を整理しておこう。

  • Boost(ブースト)
    ドライバーがステアリングのボタンで任意に使う手動のデプロイメント(放電)。これは「限界を超えて速くなる魔法のボタン」ではなく、通常の配分よりも攻撃的な電力要求に切り替えるためのボタンだ。状況によってはルールが許す上限近くまで一気に電力を使うことも可能。攻撃にも防御にも、あるいは立ち上がりのタイム短縮にもいつでも使えるが、当然ながら使えば一気にバッテリーを消費する。
  • Overtake(オーバーテイク)
    これがDRSの代替システムだ。指定ポイントで前車の「1秒以内」にピタリとつけた追走車にのみ、次のラップで「特別な電気出力の数式(プロファイル)」と「+0.5MJの追加回生余地」が与えられる。
  • Recharge(リチャージ)
    ブレーキング、パーシャルスロットル、リフトオフ、スーパークリッピング(super clipping)などでバッテリーを回復させる「充電」の総称。

今年のエネマネは「いつも最大で出すゲーム」ではない

2026年のPUでは、最大出力を出せる瞬間は増えたが、その使い方は厳しく設計されているということになる。ERS-Kの絶対上限は350kWだが、どの速度でも350kWを出せるわけではない。しかも、直線の途中で出力を好き勝手に上下させられるわけでもない。

2026年の通常時、つまり便宜上ここでいう「ノーマルモード」のERS-K推進電力上限は、技術規則C5.2.8で次のように定められている。ここで v は車速[km/h]、Pmax はERS-Kが車を前に進めるために使える電気出力[kW]の上限だ。別条項C5.2.7で、ERS-Kの絶対上限350kWも同時に課されている。

通常(ノーマル)時の条文上の上限はこうなる。
Pmax = 1800 – 5v (340km/h未満)
Pmax = 6900 – 20v (340km/h以上345km/h未満)
Pmax = 0 (345km/h以上)

Overtake Mode時はこうなる。
Pmax = 7100 – 20v (355km/h未満)
Pmax = 0 (355km/h以上)

この条文をそのまま読むだけだと少し分かりにくい。大事なのは、350kWの絶対上限と、速度依存の上限の両方が効くということだ。たとえば通常時の式「1800 – 5v」は280km/hで400kWになるが、実際にはC5.2.7の絶対上限350kWが先に効く。つまり実効的には、通常時は290km/hまでは350kWで頭打ちとなり、その先は1km/h速度が上がるごとに電力上限が5kW下がり、340km/hで100kWまで落ちると、その先は1km/h速度が上がるごとに電力上限が20kW下がって行き、345km/hで0kWになると考えると見通しが良い。

数値で見ればさらに直感的だ。通常時は、300km/hで300kW、320km/hで200kW、330km/hで150kW、340km/hで100kW、344km/hで20kW、345km/hで0kWになる。つまり高速域では電気による後押しが急激に細くなる。2026年の直線スピード争いが面白いのはここで、低中速では電気が大きく効く一方、高速域では「いつまでも同じようには効かない」ように作られている。

一方のOvertake Modeは、式だけ見ると337.5km/hまで350kWを維持でき、その後は1km/h速度が上がるごとに電力上限が20kW下がって行き、345km/hで200kW、350km/hで100kW、355km/hで0kWになる。これにより、290km/h以上で強制的に出力が絞られる先行車に対し、追走車は337.5km/hまで350kWを維持することが許される。さらに、通常時が345km/hで完全に電気ゼロになるのに対し、Overtakeではさらに10km/hぶん電気の推進力が残る。これが、今年のレースで追走車に速度差を生み出すOvertakeの狙いだ。

ここで重要なのは、これらの式が「その速度で必ずその出力を出せ」という意味ではなく、その速度で許される最大値だという点である。条文は「超えてはならない」と書いているのであって、「必ずそこまで使え」とは書いていない。したがってチームは、温存や配分の都合で、それ未満の電力で走らせることができる。少なくとも公開条文上、通常時の固定された下限値は明示されていない。したがって、同じルールの下でも各車の実際の放電量には差が生まれる。だからこそ、通常より攻撃的な電力要求に切り替えられるBoostが、攻撃や防御の場面で意味を持つ。

さらに厳密に言えば、この上限式はすべてのコースで絶対に不変というわけでもない。スポーティング規則B7.2.1では、FIAがコースの最高速や安全性に応じて、大会ごとに電力上限やDetection Line、Activation Line、Detection Gap、さらに大きい出力低下やリセットを許すセクターを指定できるとしている。つまり2026年のエネルギーマネジメントは、基本式を土台にしつつも、サーキットごとに少し様相が変わるのだ。

もう一つの注意したいのは、いったんフルスロットルの power-limited 区間に入ると、パワーを好きに上げ下げできないという点だ。C5.12.4では、フルスロットルの power-limited pending period の開始時に、最大パワー要求を150kW超いきなり落とすことは基本的にはできず、その低下は最低1秒固定とされる。また、C5.12.5では、いったん入ったフルスロットル区間で、最大パワー要求を途中から増やすことは原則禁止され、例外はOvertake modeか、FIAが許可した power reduction reset の区間だけだ。要するに、「いま300kW、次の瞬間150kW、その次でまた320kW」のように、同じ直線の途中で自由自在に出力を波打たせることはできない。事前に決めたベース配分で入ることはできる。直線まるごと低めで走ることもできる。途中で落とすことも一定範囲ではできる。だが、途中で落としてから、状況を見て即座に戻すのは難しい。だからこそBoostやOvertakeの存在意義が大きい。ノーマル状態の自由度が限定されているから、攻撃や防御の瞬間に「特別なスイッチ」を使う価値が生まれる。

ちなみにこの規則は、これはコーナー出口で出力を抑えてホイールスピンを防いだ後、パワーを全開にするという、実質的なトラクションコントロールとして機能させることを防ぐためだろう。

充電側のルールも同じくらい重要

放電ばかり見ていると2026年F1は分からない。なぜなら、今年のPUは使うゲームであると同時に、貯めるゲームでもあるからだ。

使う(放電する)ルール以上に勝敗を分けるのが、充電(Recharge)側のルールだ。技術規則には、今年の戦い方を決定づける2つの数字がある。

  • 最大SoC(State of Charge)差:4MJ
  • 1周あたりの回生上限:8.5MJ

またERS-Kの回生量は通常1周あたり8.5MJまでで、条件によっては8MJまで下げられる。さらに予選やスプリント予選では、FIAが極端な回生走法が必要だと判断した場合、5MJまで引き下げることもできる。

「最大SoC差が4MJ」というのは、満充電状態と空っぽ状態の間でやり取りできる「バッテリーのお財布の大きさ」が4MJしかないことを意味する。しかし、1周の中でモーターから回収できるエネルギーの収入上限は「8.5MJ」もある。
つまり、お財布の容量(4MJ)よりも、1周の収入(8.5MJ)のほうが2倍以上大きいのだ。

これは何を意味するのか。ドライバーは「1周かけて満タンまで貯め、ストレートで一気に使い切る」という大味な戦法をとることができない。1周の中で「貯めて(Recharge)は使い、また貯めては使う」という細かい出し入れを何度も繰り返さなければならない。この頻繁な資金繰り(エネマネ)の精度と戦略こそが、各車のストレートスピードに巨大な差を生み出している。

では、その充電はどこで行うのか。F1公式の整理では、2026年のRechargeはブレーキング、パーシャルスロットル、リフトオフ、super clippingで行われる。しかも多くはECUが自動制御する。ドライバーがコントロールやすいのはリフトオフ回生で、アクセルを早めに戻すことで充電できる。一方、super clippingはストレート終盤にフルスロットルのまま一部回生を行う考え方で、アクティブアエロのStraight Modeを維持したままバッテリーを少し回復できるのが特徴だ。

Overtakeは「PU版のDRS」ではあるが…

Overtake Modeは、ざっくり言えば2026年版の追い抜き補助だ。ただし空力的デバイスであったDRSに対して、こちらはPU上のもので、追走車に追加の電力プロファイルと追加の回生余地を与える仕組みになっている。追走車が指定ポイントで前車の1秒以内に入ると、次のラップに追加で+0.5MJを回生でき、より長く高い速度を維持できる、というのが大まかな理解だが、スポーティング規則では、レース系セッションにおいてDetection LineでDetection Gap以内だった車が、Activation LineからOvertake Modeを使えると定めている。

テレビ観戦においては「1秒以内なら次の周で使える」と理解しておけばだいたい合っているが、厳密にはDetection Gapの値や線の位置などはFIAが大会ごとに決めるので、注意しておきたい所だ。

そして、Overtakeを使うということは、それだけエネルギーを放出してしまい、逆に抜いた後にはSoCの面で不利になってしまう可能性もあるということでもある。これが後方1秒以内につけるだけで無条件に有利な状態で走れたDRS時代との決定的な違いだ。

予選の見方も変わった

今年の予選を見ていると、最終コーナー立ち上がりからアクティブエアロがStraight Modeになるまで、ドライバーが少しスロットルを我慢しているように見える場面がある。これは足がつったわけでも、気まぐれでもない。新規定では、予選でもSoCに余裕がない。よってアタックラップに入る前に多くのエネルギーを使ってしまうことによる不利が、アタック開始時の速度を上げることによる有利を上回ってしまうのだ。

言い換えると、どこから全開を始めると、その1周でいちばん速くなるかを探る競技になっている。ストレート前半で少し我慢し、Straight Modeで空気抵抗が少ない状態になってからエネルギーを使い、アタックに向けて速度を乗せる。テストと開幕戦を見る限り、それが現状の最適解という共通認識のようだ。

また予選では、FIAが回生上限を引き下げることができる。これは、極端な充電走法ばかりが最適解になるのを防ぐための安全弁でもある。したがって、予選のエネルギーマネジメントはレース以上にサーキット依存であり、毎回同じテンプレートにはならない。

実戦ではどう使うのか

2026年のバトルを理解するうえで、まず押さえておきたいのは、追い抜きの主役は必ずしもOvertake Modeそのものではないということだ。もちろんOvertake Modeは重要な武器である。だが、実際のレースでは、それ以上に大きいのがバッテリー残量、つまりSoCの差である。どちらが前の周までに多く残せていたか、どちらがこの直線で多く使う覚悟をしたか。その差が、ストレートの速度差や立ち上がりの勢いとなって現れる。先日のオーストラリアGPのようにエネルギーマネジメントが厳しいレースでは、理論上のPmaxの出力以前に、そこまで電気が残っていない場面が何度も起きる。

実際、メルボルンはフルスロットル区間の比率が高い。つまりこのレースでは、誰もが常に潤沢な電気を持っているわけではなく、多くのマシンが “どこで使い、どこで諦めるか”の妥協点を決めながら走っていたのである。

そのため、今年のオーバーテイクは「Overtakeを押したから抜ける」という単純な絵になりにくい。むしろ多いのは、バッテリーを節約してエネルギーを貯めた車が、節約しておらずエネルギーが枯渇状態になった車に襲いかかる形だ。前車が前の区間でバッテリーを多く使っていれば、次の直線では早い段階から出力を落とさざるを得なくなる。そこへ追走車が、前の周や前のストレートで温存していた電気をぶつける。結果として、両者とも理論上の最大値には届いていなくても、使える量に差がある方が抜いていく。2026年のレースでは、この残量差による攻撃が基本形になる。

さらに重要なのは、エネルギーを放出した代償はすぐ返ってくることだ。ひとつのストレートでBoostを使うなどして多めに使って前へ出れば、そのぶん次のストレートや次の周では苦しくなる。メルボルンの決勝後にラッセルが語った「ヨーヨー effect」「前に出た途端に守るのが難しくなる」という感覚は、まさにこのことを指している。2026年のバトルは、一度抜いたら終わりではない。この直線で得をした代わりに、次の直線でどれだけ返済を迫られるかまで含めて成立している。だから今年の攻防は、単発のオーバーテイクというより、2本先、3本先、さらには翌周まで見た連続戦になる。

こうして見ると、2026年の実戦で本当に重要なのは、Overtake Modeの有無そのものではない。逆にOvertake Modeの使用によりSoCが下がってしまい、不利になることすらあるだろう。重要なのは、限られた電気の中で、どの直線で差を作り、差を作った後の皺寄せをどこで吸収するかである。ある直線では攻めるために使い、次の直線ではsuper clippingや早めの lift-and-coast で帳尻を合わせる。あるいは一度は前に出ても、次の区間で守れず抜き返される。電気が切れて減速している追走車が、さらに早く電気切れを起こしてより大きく減速している先行車を追い越す、というシーンも多々あるだろう。2026年のF1では、これこそがバトルの本質である。「電気が足りない」ことそのものが、レースを作っている。

だからこそ、ドライバーのバトルスキルが重要になる。ブレーキング時に前に出ていなければ抜けないドライバーと、後ろにいても飛び込めるドライバーでは、そこに至るまでに使うエネルギーの量が違う。後者のドライバーは、SoCを減らすことなく追い抜きを完了し、次のストレートで抜き返されるリスクを減らすことができるのだ。逆に、2本目のストレートエンドで不利な位置にいても守り切るディフェンス能力があれば、2本目でエネルギー切れになることを覚悟の上で、その前の1本目のストレートでエネルギーを大胆に使って抜きにかかっても、最終的に抜き返されずに済むかもしれない。このように、新レギュレーションにおいても、ドライバーのバトルスキルが最終的に電気を生み出す重要なファクターになり得るだろう。

スタートはなぜ難しくなったのか

2026年のスタートが難しくなった最大の理由のひとつは、MGU-Hがなくなったことにある。従来はMGU-Hがターボを回し続けたり、必要な瞬間に再加速したりできたが、2026年はそれができない。今年のターボは排気エネルギーだけで回っており、十分な回転まで立ち上がっていない状態でアクセルを踏んでも、要求したパワーがすぐには出ない。

そのため、2026年はスタート手順も変わった。グリッド整列後、通常のスタートライトの前に5秒間の事前警告が入る。これはドライバーがその間に回転を合わせ、ターボを十分に立ち上げる時間を確保するためだ。

なぜフォーメーションラップでSoCを使い切ってしまうのか

開幕戦オーストラリアGPでは、スタート前からすでにバッテリー残量が足りない車が相次いだ。ジョージ・ラッセルはレース後、「グリッドでバッテリーを見たら何も残っていなかった」と語っている。シャルル・ルクレールも、誰もがかなり際どい状態だったと振り返っている。これは単なる個別トラブルではなく、2026年の新しいスタート手順とエネルギーマネジメントが、まだ各チームで完全にはこなれていないことを示している。

では、なぜフォーメーションラップでそんなことが起きるのか。いちばん大きい理由は、フォーメーションラップが見た目以上にエネルギーを使うからだ。ドライバーはタイヤとブレーキを温めるため、加速、減速、再加速を何度も繰り返す。こうした激しい加減速の連続でバッテリーに大きな負荷がかかり、消費が増えるのだ。

実際にメルセデスのアンドリュー・ショブリンは、チームがフォーメーションラップ中の限られたエネルギー管理をうまくできず、両車とも低いバッテリー残量でグリッドに着いたと認めている。レッドブルのローレン・メキースも、タイヤとブレーキを温めるための特殊な運転をしながら、同時にスタートに必要なSoCへ持っていくことができなかったと説明している。つまり問題の本質は、「デプロイを切れば済む」のではなく、タイヤとブレーキのウォームアップのために必要な運転と、スタートに必要なSoC確保が、まだきれいに両立できていないところにある。

その影響は、スタート手順の細部にも出る。一部のドライバーはバッテリー不足のせいで、グリッド上で必要なバーンアウトすら十分にできなかった。つまり低SoCは単に「発進後の加速が鈍い」だけではなく、リアタイヤを適温に持っていく最後の作業にも悪影響を及ぼす。前車との感覚にも気を配らなければならないフォーメーションラップ。2026年のスタートが荒れやすいのは、ターボラグだけでなく、この準備段階の難しさも大きい。

つまり各チームは、タイヤとブレーキを温める操作をどこまで優先し、どこから先はSoC温存を優先するかという新しい最適解を探っている最中なのだ。


まとめ

2026年のF1は、ハイブリッド時代の延長に見えて、実際にはかなり新しい競技になった。
MGU-Hはなくなり、MGU-Kの存在感は大きくなった。しかも電気は無限に使えるわけではなく、速度によって使える上限も変わる。さらに今年はPUを、「いつでも最大を出す装置」ではなく、限られた電気をどこに配るかを競う装置として見なす必要が、今まで以上に高まった。

そのため、今季のキーワードであるBoost、Overtake、Rechargeは、すべてエネルギーの配分をどう変えるかという話に行き着く。Boostは手動で攻撃的な放電を行うための道具であり、Overtakeは追走車に特別な攻撃権を与える仕組みだ。そしてRechargeは、それらを成立させるための土台である。

そして、実戦で勝負を分けるのは、SoCの差をどう作るか、そしてその差を作った反動をどう処理するかだ。ひとつの直線で得をした車は、次の直線や次の周で支払いを迫られる。逆に、そこで我慢した車は次のチャンスで一気に襲いかかれる。2026年のバトルは、一発の追い抜きではなく、2本先、3本先まで見た連続戦として進んでいく。

さらにフォーメーションラップではタイヤとブレーキを温めながらSoCも残さなければならない。つまり今年は、ライトが消える瞬間だけでなく、その前の準備段階からすでにエネマネの戦いが始まっている。

結局のところ、2026年のF1を理解する鍵はひとつしかない。
それは、「誰が速いか」だけでなく、「その速さをどこで作り、どこで支払っているか」を見ることだ。
電気が足りない。だからこそ差が生まれる。2026年のF1は、その不足をどう使いこなすかを競うレースなのである。

ChatGPT, Takumi