• 2026/6/15 23:49

バルセロナ・カタルーニャGPレビュー

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総合力が問われるバルセロナ。ここで競争力を発揮した者がシーズンを制するとも言われる重要な一戦だ。今回もデータを交えながら分析的視点でレースを振り返っていこう。

1. 四つ巴の優勝争い

今回のレースが非常に面白かったのは、優勝争いが四つ巴で展開されたことだ。図1-1にラッセル、ハミルトン、アントネッリ、ノリスのギャップグラフを、図1-2にペースグラフを示す。

図1-1 ラッセル、ハミルトン、アントネッリ、ノリスのギャップグラフ
図1-2 ラッセル、ハミルトン、アントネッリ、ノリスのペースグラフ

まず前提として押さえておきたいのは、今回はデグラデーションが大きく、アンダーカットが有効であったことだ。ラッセルで見ると、第1スティントの0.22[s/lap]、第2スティントでも0.12[s/lap]のデグラデーションがあった。単純計算すれば、第1スティントでは10周走れば2秒後方のドライバーにアンダーカットされる、第2スティントでも20周未満でそうなる状況だった。

さて、第1スティントでは、ラッセルがミディアムタイヤで後続を引き離しにかかる。そしてソフトタイヤのハミルトンに対し3.3秒のリードを築いた11周目で、ハミルトンが先にピットへ。前述のとおり1周遅れるごとに2秒前後追いつかれるため、ラッセルも当然のごとく翌周ピットへ向かった。

そしてさらに翌周ノリスがピットへ。この時点での両者の差は2.2秒であり、これはアントネッリへのアンダーカットとして機能する可能性があった。しかしペースグラフを見ると、アントネッリはスティント終盤にペースを上げており、インラップも4者の中で最も速い。このことから、このピットストップ前の勝負所に向けてタイヤをセーブしていたことが読み取れる。これによってアントネッリはアンダーカットを阻止した。
ただし、マクラーレンの戦略にはやや疑問符が残る。本気でアンダーカットを狙うなら、ハミルトンが入ったのを見て、同時に入れるべきだった。そうすれば翌周ハミルトンをカバーするためにラッセルを入れざるを得ず、アントネッリは1周待たされ、ノリスは2周かけて確実にアントネッリを仕留めることができたはずだ。

そして順位変動なく迎えた第2スティント。ここで興味深かったのは、タイヤが1周古いにも関わらずハミルトンがラッセルの2秒前後で食い下がったことだ。そしてハミルトンは27周目にピットへ向かい、3ストップ戦略へ。ここからは見えない敵との戦いになる。

また2ストップ勢では、アントネッリはラッセルより2周(0.2秒相当)、ノリスは1周(0.1秒相当)新しいタイヤを履いていたが、両者ともラッセルより0.3秒ほど速く、この時点で彼らもまた優勝候補の一角であることが明確になった。
しかしスティント終盤になると、メルセデス勢がペースアップ。ペースグラフの示すように、アントネッリに至っては28周目からペースを上げてラッセルを仕留めに掛かった。ラッセルも32周目からペースを上げている。
マクラーレン&ノリス陣営の狙いは、アンダーカットを仕掛け、翌周にラッセルを入れざるを得ないメルセデスの事情(チーム内では前を走っている方が優先)を突いて、2周後に入るアントネッリを逆転しようというものだったはずだ。だがこのペースアップにより、アントネッリとノリスの差は34周目で4.7秒となり、そこでノリスのピットインを迎え、アントネッリの再度の速いインラップもあり、メルセデス勢はポジションをキープすることに成功した。
またメルセデス勢は33周目にバトル状態となったが、35周目付近では、チームからアントネッリに対し、バトルによってタイムを失うのではなくノリスとのギャップを広げることを考えるように無線が飛んだ。これも賢明な判断である。

しかしここでアロンソがストップ。VSCが導入され、ピットストップロスが12秒程度となる。3回目のストップを控えてラッセルの16秒前を走っていたハミルトンにとっては朗報だ。この間にピットストップを済ませ、勝利をほぼ確定させた。

一方の2ストップ勢は、アントネッリがラッセルの1.5秒ほど後方、ノリスも真後ろでレースを進める。そして52周目にはラッセルにペースアップの指示が出され、54周目から2周速いタイムを刻んだが、すぐに戻っており、維持できる巡航ペースはそれまでのものが限界であったものと思われる。

そしてラッセルとの差を保ってタイヤを温存していたアントネッリが、終盤ペースアップ。60周目の最終区間で一気に背後に迫り、61周目に入るホームストレートで並びかける。ラッセルも厳しい幅寄せを行うが、アントネッリがインから抜き去った。
アントネッリのセクター3の走り方は独特だ。ターン10で外側一杯までコース幅を使い、ターン12ではエイペックスにつかずにアウト側のラインを走行していた。これはラッセルのタービュランス(後方乱気流)の影響を抑える上でも有効であり、こうしたラインどりの個性は印象的であった。

その後トラブルでリタイアすることにはなるが、予選こそラッセルに先行されたものの、レースペースでは明確に上回り、オーバーテイクも決めたことは、今後タイトルを争う上で非常に重要になってくるだろう。

そしてレースはハミルトンの独走、2ストップ勢は結局ラッセル、ノリスの順での表彰台となった。ノリスの第3スティントは、第2スティント同様、後半でタイヤが厳しくなってしまっており、メルセデス勢の争いの間隙をつくにはあと一歩であった。

2. Ifの世界

さて、ここからはVSCが入らなかった場合に、ハミルトンとメルセデス勢がどうなっていたのかを見てみよう。まずはハミルトンとラッセルの39周目以降のギャップの推移をシミュレーションしたものを図2に示す。

図2 ハミルトンとラッセルのギャップ推移シミュレーション

先に行ったレースペース分析では、同条件でハミルトンがラッセルより0.3秒速いことが示されている(ハードに限ればそれ以上かもしれないが、本シミュレーションでは保守的にこれを採用)。

ハミルトンのピットストップを46周目とすると、まずそこまではラッセルの方が1.0秒ほど速く、その差が10秒程度になったところでハミルトンのストップを迎える。そしてラッセルの13秒ほど後方に復帰したハミルトンは、ラッセルより1.5秒ほど速く走り、単純計算で56周目付近で追いついていた計算になる。流石にこれだけのペース差があればオーバーテイクは堅い。ノリスやアントネッリを交わすのにもさほど時間はかからず、多少はタイムロスするにしても、かなり余裕を持って優勝していたことに変わりはないだろう。

ちなみにメルセデスが早い段階でアントネッリを前に出していた場合、アントネッリはラッセルの4秒ほど前でフィニッシュしていた計算なので、ハミルトンの余裕は多少削ぎ落とすことができるが、それでも優位は揺らがない。そもそも実際にはアントネッリに5秒ペナルティが出ていたはずで、あり得ない世界線だ。

このように、今回はVSCという幸運はあったが、実際にはVSCが無くてもハミルトンの完勝レースだった。総合力が問われるバルセロナでフェラーリがこのパフォーマンスを見せたことで、今後のシーズンの行方が分からなくなってきた。
ハミルトンはアントネッリを41ポイント差で追っており、メルセデスとフェラーリの今後のアップデート競争次第では、ハミルトンの8度目のタイトルの可能性も十分にあり得る。
一方でラッセルは、予選でこそアントネッリに0.319秒の差をつけたが、レースでは逆転を許してしまった。このサーキットはフロントタイヤへの負荷が大きく、スティントが進むとアンダーステアが強くなっていく。よって、それを前提としたセットアップ(新品でオーバー傾向)が必要で、アントネッリ陣営の方がその点で今回も良い仕事をした。メルセデス内では、スピード面で優位な方が50ポイントのリードを握っており、ラッセルにとっては厳しい戦いが続く。

3. チャレンジングなトラック

来年からスパと交互の隔年開催が予定されているバルセロナ。だが、筆者は今回のレースを見て、やはり毎年F1に必要なトラックであると痛感した。

今年のエネルギーマネジメントレースにおいても、やはりバルセロナでのオーバーテイクは難しい。それは超高速の最終コーナーを前車のタービュランスを受けながら接近した状態で駆け抜け、立ち上がりのスピードも乗せていかなければ、ターン1での勝負に持ち込めないからだ。

F1の醍醐味はこうした高速コーナーにある。タイヤのオフセットが1周、ペース差でもコンマ2~3秒しかないアントネッリがラッセルを抜きにかかるために、最終コーナーで限界ギリギリのコーナリングを繰り広げるオンボード映像は、「これぞF1」とも言うべきものであった。F1を象徴するスパは勿論のこと、このバルセロナも隔年開催にするのはあまりにも勿体無い。F1が心技体の究極を競うスポーツであり続けることを切に願う。

4. 次戦への展望

次戦はオーストリア、レッドブル・リンクだ。コース前半はストップアンドゴー、後半は中高速コーナリング区間となっており、トラック全域にわたって高低差が激しい。1周は短いが、ブレーキング、トラクション、縁石の使い方、そして中高速域での安定性が凝縮された、見た目以上に総合力を問うサーキットである。

バルセロナではフェラーリとハミルトンが完勝し、メルセデス内での争いは再び激化、マクラーレンが追うという展開になったが、レッドブル・リンクではその図式が再現されるのか、あるいは今回苦戦したレッドブルやルクレール、ピアストリらの復調はあるのか。至る所で見どころの多い一戦になりそうだ。


インタラクティブグラフ

ご自身の視点でさらにデータを深掘りしたい方向けに、操作可能なグラフを用意した。

このツールでは、**「ペースグラフ」と「ギャップグラフ」**の二種類が利用でき、ボタン操作で見たいドライバーだけを自由に選んで表示できる。

特にラップタイムグラフには、レース状況を理解しやすくするための工夫が施されている。

  • 塗りつぶしの点:前が空いている状態(クリアエア)でのラップを示す。
  • 白抜きの点:前のマシンの影響下(ダーティエア:前方2秒以内)にあるラップを示す。

この色分けによって、各ドライバーがどのような状況でそのタイムを記録したのかが一目で把握できる。

また、グラフ右上のボタンからは、画像のダウンロードやグラフの拡大・縮小(ズーム)も可能だ。分析の補助として、ぜひご活用いただきたい。

Race Lap Time Interactive Graph

Lap Times

Drivers:

Gap to Leader

Takumi, ピトゥナ