2026年バルセロナ・カタルーニャGPのラップタイムをもとに、各車のレースペースを同条件換算で比較した。
ここでの目的は、生のスティント平均を並べることではない。燃料搭載量、路面改善、タイヤコンパウンド、タイヤのデグラデーション、交通状況、ダーティエア、バトル、クルージングなどを考慮したうえで、「その車が自分のペースで走れていた場合、レース全体としてどの程度の速さだったか」を推定することである。
結論から言えば、最速候補はハミルトン。ただし、アントネッリ、ノリス、ラッセルの3人は非常に近く、特にアントネッリとノリスは前走車の影響を受けていた時間が長いため、表面上のラップタイム以上に評価すべき内容だった。フェルスタッペン、ルクレール、ピアストリがその次のグループに入り、ハジャーはトップ7のすぐ後ろにかなり近い位置にいる。
レースペース推定結果
数値は、ハミルトンを基準にした推定レースペース差である。
単位は秒/周。プラスが大きいほど遅い。
| 順位 | ドライバー | 推定差 | 信頼度 | コメント |
|---|---|---|---|---|
| 1 | ルイス・ハミルトン | +0.0 | A- | C3とC4が強く、C2でも上位水準。総合最速候補 |
| 2 | キミ・アントネッリ | +0.2 | B+ | C2ではラッセル以上の内容。 |
| 3 | ランド・ノリス | +0.3 | B+ | C2の持続ペースが非常に良い。 |
| 3 | ジョージ・ラッセル | +0.3 | B+ | C3序盤は良いが、C2ではアントネッリ/ノリスに優位とは言いにくい |
| 5 | マックス・フェルスタッペン | +0.5 | B | C3/C4は強い。C2ロングの材料が短く、やや不確実性あり |
| 6 | シャルル・ルクレール | +0.6 | B | C2/C3ともに良好。ただしトップ4にはわずかに届かない |
| 7 | オスカー・ピアストリ | +0.7 | B | 安定しているが、ノリス比では明確に一段落ちる |
| 8 | アイザック・ハジャー | +0.9 | B | トップ7直後。フェルスタッペンと0.4秒差 |
| 9 | リアム・ローソン | +2.0 | B- | C3が良く、C2も大崩れしない。中団第2グループ先頭候補 |
| 10 | ピエール・ガスリー | +2.1 | B- | C2はローソンらと近い。 |
| 10 | フランコ・コラピント | +2.1 | B- | C2は良い。C4序盤は詰まり気味で評価が難しい |
| 10 | アルビッド・リンドブラッド | +2.1 | B | C2ロングは中団第2グループでかなり良い。C3がやや弱い |
| 13 | ニコ・ヒュルケンベルグ | +2.2 | C | データは短いが、ペース自体はローソン周辺に近い可能性 |
| 14 | カルロス・サインツ | +2.7 | B- | C2とC4は比較的安定。ただし上の中団グループとは差がある |
| 15 | オリバー・ベアマン | +2.8 | C+ | C4は悪くないが、C2/C3ではやや重い |
| 16 | エステバン・オコン | +3.1 | C+ | C3は悪くないが、C2で大きく失っている |
| 17 | セルジオ・ペレス | +3.8 | C | 全体的にペースが伸びなかった |

分析から除外したのは、アレクサンダー・アルボン、ガブリエル・ボルトレート、フェルナンド・アロンソ、バルテリ・ボッタス、ランス・ストロールである。アルボンはマシンに問題があったことが報告されており、ボルトレートのマシンにはダメージがあった。アロンソは使えるコンパウンドの幅が狭く、ボッタスとストロールはサンプルが少なすぎる。
分析の基準条件
今回の比較基準は、以下の3要素を合成したものとした。
- C2新品・22周持続ペース:60%
- C3新品・14周持続ペース:25%
- C4新品・10周スプリントペース:15%
バルセロナのこのレースでは、C2が主役だった。ロングスティントでの持続力、タイヤマネジメント、後半のペース維持を評価するには、C2を最も重く見る必要がある。
一方で、C3やC4を完全に除外するのも適切ではない。実際にレースでは、C3やC4で重要なスティントを走ったドライバーがいる。たとえばフェルスタッペンやハミルトンはC4/C3側の内容がかなり良く、ラッセルも柔らかい側のコンパウンドでは強い走りを見せている。レース全体の力関係を見るなら、C2だけではなく、C3とC4も一定の重みで含める必要がある。
ただし、C4をC2と同じ重みで扱うことはできない。C4は短いスティントで使われやすく、攻撃的に走ったラップや、逆に交通に潰されたラップの影響を受けやすい。そこで今回はC4を「新品10周スプリントペース」として扱い、重みは15%に抑えた。これにより、C4で良かったドライバーを適切に拾いつつ、短い攻撃スティントを過大評価しない形にした。
補正の考え方
まず、全ラップを同じ燃料搭載量に近づけるため、燃料補正を行った。今回のフューエルエフェクトは、1周あたり0.041秒とした。
基準は35周目相当である。レース序盤のラップは燃料が重いため、35周目相当に直すと速く補正される。逆にレース終盤のラップは燃料が軽いため、35周目相当に直すと遅く補正される。
さらに、路面改善も軽く補正した。同一ドライバー、同一コンパウンドの複数スティントを比較すると、燃料だけでは説明しきれない路面改善が見える。今回はその影響を1周あたり約0.01秒強として扱った。燃料補正に比べれば小さいが、終盤スティントを過大評価しないためには無視できない。
そのうえで、各スティントについてラップタイムとタイヤ年齢の関係を見た。単純平均ではなく、「このスティント形状なら、基準長さまで走った場合にどの程度の持続可能ペースになるか」を推定している。短いスティントで序盤から飛ばした速さを、そのまま22周のC2基準に持ち込むことはしていない。
除外したラップ
以下のラップは、原則としてペース評価から外した。
- 1周目
- ピットインラップ、アウトラップ
- 明確なミスや大幅なタイムロスがあるラップ
- 周回遅れ処理やブルーフラッグの影響が大きいラップ
- 前後の流れから明らかに浮いている異常ラップ
- 強いバトルでタイヤを使いすぎた、またはラップタイムが崩れた周
- 終盤に明確なクルージングへ入ったと判断できる周
ただし、すべてのダーティエアラップを機械的に除外したわけではない。ここが重要である。
たとえば、前車の後ろにいても、あえて少し距離を置いてタイヤを守り、後半にペースを上げた場合、そのスティント全体は「自分のペースを出せていた」と見なせることがある。逆に、1秒以内で抜こうとしてタイヤを傷め、その後にペースが落ちた場合は、そのスティント後半を本来のペースとして扱うべきではない。
つまり、ダーティエアの有無だけではなく、その影響で本来のペースがどの程度隠れたのか、あるいはタイヤマネジメントの一部として成立していたのかを判断している。
ダーティエアとトラフィック状況の扱い
各車の累積タイムから、コントロールライン通過時点の前後ギャップを計算した。これにより、各ラップで前走車にどれだけ近かったか、どのタイミングでクリアエアになったか、逆に前車へ追いついてペースが抑えられたかを確認している。
ただし、コントロールライン上のギャップだけではすべてを説明できない。同じ周の中で抜きつ抜かれつがあった場合、順位変動はライン上のギャップに完全には反映されない。そのため、ラップタイムの急落や急上昇、前後ラップとの連続性も併せて見た。
上位勢の分析
ハミルトン
ハミルトンは総合最速候補である。
C4の序盤、C3のミドルスティント、C2の終盤のいずれも高水準だった。特にC3では明確に強く、レース全体の基準にC3を25%含めた場合、ハミルトンの優位が見えやすい。
終盤C2については、状況によってはリード管理やペースコントロールの可能性もある。しかし、それを踏まえても、通常ラップの水準は非常に高い。今回の基準では、ハミルトンを最速と見るのが最も自然である。
アントネッリ
アントネッリは、今回最も注意深く評価すべきドライバーの一人だった。
ラップタイムの単純比較だけでは、ラッセルよりわずかに下に見える可能性がある。しかし、実際にはラッセルが比較的クリアエアで走れていた時間が長い一方、アントネッリは前走車の影響を受ける場面が多かった。
特に16〜29周目付近のC2比較では、タイヤ年齢差を補正してもアントネッリはラッセルと同等、あるいはわずかに上と見てよい内容だった。さらに第3スティントでも、ラッセルの後ろで走りながら同等以上のペースを示している。
総合評価ではハミルトンのすぐ後ろに位置すると考えられる。
ノリス
ノリスはC2の持続ペースが非常に良かった。
第2スティント、第3スティントともに、前走車との位置関係でペースが抑えられた可能性がある。それでも補正後のC2ペースは上位水準で、ラッセルと同等以上に評価できる余地がある。
C3ではハミルトンやラッセルほど強くは見えないが、レース全体の60%を占めるC2評価が高い。したがって、ノリスはアントネッリ、ラッセルとほぼ同格のグループに入る。
ラッセル
ラッセルは序盤のC3が良かった。ここだけを見れば、上位勢の中でもかなり強い。
一方で、C2ではアントネッリやノリスに対して明確な優位は見えない。むしろ、クリアエアに近い条件で走れていたことを考えると、C2の内容はやや物足りない。特にアントネッリに接近され、終盤には前に出られている点は重い。
したがって、ラッセルはトップ4グループには入るが、2番手確定とは言えない。アントネッリ、ノリスとほぼ同格、文脈込みではやや下に見るのが妥当だろう。
フェルスタッペン、ルクレール、ピアストリ
フェルスタッペンはC3とC4が強い。特にC3ではかなり良いペースを示している。
ただし、C2の評価が難しい。C2で使える材料は比較的短く、22周持続ペースに変換するには不確実性が大きい。短いC2区間だけなら非常に速く見えるが、それをそのままロングスティント能力として扱うことはできない。
ルクレールはC2、C3ともに悪くないが、ハミルトン、アントネッリ、ノリス、ラッセルのトップ4にはわずかに届かない。ペースの山はあるものの、総合的な持続ペースでは第2グループである。
ピアストリは安定しているが、ノリスとの差は明確だった。C2でもC3でもノリスに対して少しずつ遅れている。
ハジャー
ハジャーはフェルスタッペンやピアストリのすぐ後ろでハミルトン比+0.9秒とした。
中団第2グループ
ローソン、ガスリー、コラピント、リンドブラッドは非常に近い。
ローソンはC3が良く、C2でも大崩れしない。派手な速さはないが、総合バランスが良い。
ガスリーはC2でローソンと近い。トラフィックの影響を受けた周があり、単純平均では少し過小評価される可能性がある。
コラピントはC2が良い。特に中盤のC2では、このグループの中で上位に見える場面もある。一方で、終盤ロングでやや落ちるため、22周持続換算では少し丸まる。C4序盤は前走車に近く、C4能力を低く見すぎないよう注意が必要である。
リンドブラッドはC2ロングが良い。C2だけならこのグループの先頭に置いてもおかしくない。ただし、C3がそこまで強くなく、C4の材料も乏しいため、3コンパウンド総合ではローソン、ガスリー、コラピントとほぼ同列となる。
ヒュルケンベルグはデータが短い。C4とC2の内容だけ見ればこのグループに近い可能性はあるが、レース後半の比較材料がないため信頼度は下げた。
後方グループ
サインツ、ボルトレート、ベアマンは中団第2グループから少し離れる。
サインツはC2とC4が比較的安定しているが、上の4人には届かない。ベアマンはC4では悪くないが、C2/C3でやや苦しい。
オコンはC3では悪くないが、C2で大きく失っている。
まとめ
最終的な見立ては以下である。
ハミルトンが最速候補。
アントネッリ、ノリス、ラッセルがそのすぐ後ろで、3人の差は小さい。
フェルスタッペン、ルクレール、ピアストリが第2グループ。
ハジャーはその直後で、中団勢からは明確に抜けている。
ローソン、ガスリー、コラピント、リンドブラッドが中団第2グループを形成する。
このレースは、単純なラップタイム表だけでは本当の勢力図を読み違えやすい。燃料、路面、タイヤ、スティント長、交通、クルージングを重ねて見ていくことで、ようやく各車の本来のレースペースが見えてくる。
インタラクティブグラフ
ご自身の視点でさらにデータを深掘りしたい方向けに、操作可能なグラフを用意した。
このツールでは、**「ペースグラフ」と「ギャップグラフ」**の二種類が利用でき、ボタン操作で見たいドライバーだけを自由に選んで表示できる。
特にラップタイムグラフには、レース状況を理解しやすくするための工夫が施されている。
- 塗りつぶしの点:前が空いている状態(クリアエア)でのラップを示す。
- 白抜きの点:前のマシンの影響下(ダーティエア:前方2秒以内)にあるラップを示す。
この色分けによって、各ドライバーがどのような状況でそのタイムを記録したのかが一目で把握できる。
また、グラフ右上のボタンからは、画像のダウンロードやグラフの拡大・縮小(ズーム)も可能だ。分析の補助として、ぜひご活用いただきたい。
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