• 2026/3/10 09:47

2026年オーストラリアGPレビュー

  • ホーム
  • 2026年オーストラリアGPレビュー

 ついに2026年シーズンが開幕した。車体とパワーユニットが一新される中での開幕戦とあり、未知の要素が多い中、各所で興味深い現象が見られた。今回も、データを交えつつレースを振り返ってみよう。

1. 圧倒的メルセデス

 予選ではレッドブルとフェラーリを0.8秒引き離したメルセデス。レースでも圧倒的なペースを見せつけ、見事1-2フィニッシュを飾った。

 図1にラッセル、アントネッリ、ルクレールのレースペースを示す。

図1 ラッセル、アントネッリ、ルクレールのレースペース

 レース序盤は激しいバトルがあったが、後半のハードタイヤでのスティントでは、三者が似たようなペースを見せた。ラッセルのタイヤはルクレールより13周ぶん古く、フューエルエフェクトが0.04[s/lap]程度とすると、ラップタイムが横ばいであるため、タイヤのデグラデーションも0.04[s/lap]であることが分かる。よって13周分のオフセットは0.04×13≒0.5秒として効いてくるため、同条件に揃えればラッセルがルクレールを0.5秒上回っていたと考えられる。VSCでピットインした好判断も寄与したが、これだけペース差があると、どう転んでも1-2は揺らがなかっただろう。

 レースペース分析では、アントネッリもラッセルの0.1秒落ちのペースで走れており、メルセデスは2台揃って極めて高い競争力を示した。これが他のトラックでも再現されるのか、数戦様子を見たいところだが、現状では極めて高い完成度を誇るパッケージのように見える。

2. ルクレールとラッセルの白熱のバトルと新時代のバトル

 序盤にはルクレールとラッセルの間で激しい抜きつ抜かれつの攻防が見られた。

 まず前提として、今シーズンのERS-Kのディプロイメントに関するルールを確認しておこう。ERS-Kによる駆動時の最大出力は350[kW]だが、そこに更なる制限がかかる。制限された最大出力を Pmax [kW]、車速を v [km/h] とすると、以下のような規則になっている。

ノーマルモード

  • 340km/h未満の時 Pmax = 1800 – 5v (1)
  • 340km/h以上の時 Pmax = 6900 – 20v (2)

 まず、ERS-Kの最大出力は350[kW]であるから、式(1)にPmax =350を代入すれば、5v = 1800-350=1450 。すなわち、1450÷5の290[km/h]から1[km/h]加速するごとに、5[kW]ずつ出力が低下していくことになる。

 そして、出力が100[kW]となる340[km/h]の時点から、ディプロイメントのルールが変わる。ノーマルモードでは、そのまま1[km/h]加速するごとに、20[kW]ずつ出力が低下し、式(2)から、345[km/h]の時、Pmaxが0[kW]になることが分かるだろう。

オーバーテイクモード

  • Pmax = 7100 – 20v (3)

 オーバーテイクモードでは、先ほどと同様にPmaxに350を代入した際、v = 337.5となる。つまり、ノーマルモードで走行中のマシンが290[km/h]から少しずつパワーが低下していくのに対し、オーバーテイクモード走行中のマシンは、337[km/h]まで350[kW]を使える。その上で、それ以上加速すると1[km/h]加速するごとに、20[kW]ずつ出力が低下するというわけだ。この場合、Pmaxが0[kW]になるのは、355[km/h]だ。つまり、オーバーテイクモードのアドバンテージは290[km/h]から効いてきて、355[km/h]を超えると無くなる。

 このオーバーテイクモードは、検知ポイントで前方車両の1秒以内にいる時のみ使える。すなわち、従来のDRSに替わる機能だ。

バトルの振り返り

 今回は、2周目でラッセルがより多くのエネルギーを使いルクレールをパスしたが、これにより3周目にはルクレールの方が多くのエネルギーを有する状態となったと思われ、再逆転が生じた。ここでもルクレールはターン9までに多くのエネルギーを使ってしまったため、ターン11までのストレートではラッセルが優勢となり、ここにもエネルギーマネジメントの攻防の妙が伺える。

 ちなみに、ラッセル目線では、この3周目のターン9でイン側をディフェンスしたのは好判断だった。ターン9でインを取ることにより、ターン10ではルクレールがイン、ラッセルがアウトから進入することになる。裏ストレートでエネルギーを使ったルクレールのSOCがターン11までのストレートで厳しくなることは予測できるため、ここで抜き返すことを考えれば、ターン10の立ち上がりで優位なラインを取ることで抜き返しやすくなる。結果はルクレールのディフェンスが勝ったが、今年は「相手がエネルギーを使って仕掛けてきても、次のストレートで優位になるように抜かせる」という戦術が多々見受けられるだろう。

 そして、6周目にはルクレールの限界ギリギリの幅寄せもあり、ルクレールらしいキャラクター性が垣間見えた。今年はエネルギーマネジメントの重要性ばかりが話題になるが、このようなドライバーの踏ん張りや技が最終的にSOCの獲得へと繋がる。巧みなディフェンスラインでポジションを守ることが出来るドライバーは、その前のストレートでエネルギーをセーブすることができる。

 そして8周目のターン3に向かうストレートでルクレールを交わしていくラッセル。クールダウンルームでこのシーンを振り返る中、ラッセルは、オーバーテイクモードを使っていなかったと述べた。それでも40[km/h]ものスピード差がついていたのだから、驚きだ。これは、今季のレギュレーションをポジティブに受け取るための手掛かりとなる。つまり、後方1秒以内にいるマシンに人為的にアドバンテージを与える2011年以降のレーススタイルからの脱却であり、エネルギーマネジメントで差を生み出すことでオーバーテイクに繋げる新時代の幕開けとも言えるだろう。

 逆に9周目に入るホームストレートでエネルギーを使ったラッセルだったが、ターン1に向けてロックアップしてしまい、ルクレールに抜き返されてしまった。これではポジションアップのためのエネルギーを無駄にしてしまった格好で、今年のレギュレーションでも、ドライバーの腕の重要性は高いと言えるだろう。

3. 見事な追い上げのフェルスタッペン

 フェルスタッペンがまたしても後方スタート時の強さを発揮した。

 序盤からオーバーテイクを連発。前述の通り、バトルが上手いドライバーは最小限のエネルギーでライバルを交わしたり防御したりできるため、結局SOCにおいてアドバンテージを有することになる。今回も4周目のターン9でアルボンを交わしたシーンに代表されるように、フェルスタッペンらしさ溢れるオーバーテイクが数多く見られ、新時代においてもこれがアドバンテージになるであろうことを窺わせた。

 ただし終盤では、ミディアムタイヤのノリスに対して7周新しいハードタイヤで仕掛けながらも、抜けずに最後は離されてしまった。

 図2にノリスとフェルスタッペンのレースペースを示す。

図2 ノリスとフェルスタッペンのレースペース

 スティントの頭でこそ1秒以上のペースアドバンテージがあったフェルスタッペン。しかし追いつく頃にはノリスはタイムを上げる一方で、フェルスタッペンはタイムを落としており、そこまで大きなペース差はなかったと思われる。ここで序盤のラッセルとルクレールのバトルを思い出してみよう。ラッセルはハードタイヤでルクレールに対して0.5秒のアドバンテージがあった。ならばミディアムでも同様であったとすると、「0.5秒の差があっても、エネルギーマネジメントの差で抜きつ抜かれつのバトルには持ち込めるが、抜ききれはしなかった」という事実が残る。そしてより小さなペース差だったと思われるノリスvsフェルスタッペンでは、ノリスが付け入る隙を与えなかったこともあり、膠着状態となった。これらが、今季のF1の追い抜きの「ある意味での容易さ」「ある意味での難しさ」の縮図なのかもしれない。

 また、今回のレースでレッドブルのペース不足も見えた。今回の追い上げはフェルスタッペンのオーバーテイクの上手さに起因する部分が大きく、レースペース分析では、絶対的なペース面ではノリスと大差がなかったことも分かっている。ハジャーに至っては、リタイアするまではルクレールの1.4秒落ちのペースで、フェルスタッペンと1.0秒の差がついた。レッドブルが頂点に戻ってくるには、まだいくつか登らなければならないステップがありそうだ。

4. まとめと次戦への展望

 開幕戦では、メルセデスの完成度の高さが際立った。予選・決勝ともに他を圧倒し、現時点では一歩抜け出した存在と言ってよいだろう。一方で、ルクレールとラッセルの攻防が象徴したように、今季はエネルギーマネジメントがバトルの構図そのものを大きく変えていく可能性が高い。ただ単に後方車両にアドバンテージが与えられるのではなく、ドライバーの判断や技術が、これまで以上にオーバーテイクと防御の成否を左右するシーズンになりそうだ。

 開幕戦の勢力図がこのまま続くのか、それとも各チームが急速に差を詰めてくるのか。新レギュレーション時代の序盤戦は、その方向性を占う上でも非常に重要な数戦となるだろう。非常に長いバックストレートを有する次戦上海でも、引き続きデータを交えながらその実像を追っていきたい。

Takumi, ChatGPT