• 2024/11/21 18:07

2022年オランダGPレビュー(1) 〜久々のレッドブルvsメルセデス〜

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 レッドブルvsフェラーリの構図で進み、メルセデスが遅れを取ってきた2022年シーズン。しかし今回は予選からメルセデスが速さを見せ、レースでは2ストップのレッドブルに対して1ストップで優勝争いを演じた。

 非常にハイレベルなレースとなったオランダGPについて、今回もグラフを交えて分析的視点で振り返ってみよう。

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1. メルセデスの1ストップは成功したか?

 結果的にはVSCとセーフティカー(以下SC)によって実現しなかったものの、レッドブルとフェルスタッペンは2ストップ戦略を採用し、メルセデスとハミルトンは1ストップ戦略で勝負に出た。ここでは彼らの素の実力差を導出するとともに、VSC・SCがなかった場合にどういう展開になっていたのか考えてみよう。

 まず図1にフェルスタッペン、ハミルトンのレースペースを示す。

図1 フェルスタッペン、ハミルトンのレースペース

 さて、まず着目するのは、両者ミディアムタイヤ(以下ミディアム)でクリアラップを取れている20~26周目だ。ここではフェルスタッペンがハミルトンを平均0.61秒上回っている。フューエルエフェクトを0.06[s/lap]とし、ハミルトンのラップタイムが横ばいであると見なせば、デグラデーションも0.06[s/lap]である。よってハミルトンのタイヤが18周古いことは、0.06×18=1.1秒程度の不利に相当すると考えれば良い。したがって、純粋な実力ではハミルトンが0.5秒ほど上回っていたと考えられる。

 一方、ハミルトンがハードタイヤ(以下ハード)に履き替えてからの31~47周目の部分についても見てみよう。両者クリアラップの部分で比較すると、ハミルトンが平均0.61秒上回っている。フェルスタッペンのタイヤは11周古く、デグラデーションは0.06[s/lap]程度だ。こちらも同様の計算を行うとミディアムのフェルスタッペンはハードのハミルトンより0.1秒ほど速かったことになる。

 ただし、「抑えめに走るスティント前半」と「タイヤを使い切る走りをするスティント後半」を比べるのは禁物だ。よってひとまずミディアムとハードの間に有意な差が無いと考えよう。レッドブルは48周目にフェルスタッペンにハードを履かせており、このことからミディアムに大きなアドバンテージがあったとは考えにくいからだ。

 するとスティント後半のハミルトンは前半のフェルスタッペンを0.5秒、後半のフェルスタッペンは前半のハミルトンを0.1秒上回っていたと言え、平均を取れば、トータルでハミルトンが0.2秒上回っていたということになる。

 さて、VSCが入る直前にはフェルスタッペンが14秒リードしていた。ここでVSCが入らず、フェルスタッペンがピットストップを行なった場合、グリーンフラッグ下で21秒のロス、つまりハミルトンの7秒後方で戻ることになる。

 ここでフェルスタッペンが新品のハードもしくはミディアムに交換すると、その時点でハミルトンのタイヤは19周分古くなっているため、デグラデーションを0.06[s/lap]として1.1秒ぶんの履歴の差がある。そこから2人の純粋なペース差の0.2秒を差し引けば、フェルスタッペンが0.9秒のペース差で追い上げていくことが導出される。

 よって8周(56周目)でハミルトンに追いついていた計算になり、すぐに楽々オーバーテイクしていたことが想像できる。

 また、例えフェルスタッペンにとって最も不利な「ハミルトンの0.5秒落ち」という20~26周目の数値を採用したとしても、フェルスタッペンは終盤で0.6秒のペース差で追い上げていき、60周目に追いついた計算になる。この場合でもオーバーテイクは比較的簡単だろう。

 VSC・SCが無くても、フェルスタッペンが悠々トップチェッカーを受けていたと結論づけて良さそうだ。

※1
20周近い差のため、計算上の誤差が±0.1秒近く生じやすい状態ではある。

2. ハミルトンをステイアウトさせた正当性

 さて、ここからは実際の展開に沿って見ていこう。

 48周目のVSC時にミディアムに履き替えたハミルトンだったが、SCが導入された56周目にはステイアウト。これによって先頭には躍り出たものの、8周新しいソフトタイヤのフェルスタッペンにあっさり交わされてしまい、ハミルトンからはチームに対する非常に強い不満の無線が飛んだ。

 このメルセデスの戦略について考える上でのポイントは、「56周目にフェルスタッペン同様にソフトに履き替えた場合に勝機があったか否か」だろう。

 前項で計算した「同じタイヤでハミルトンはフェルスタッペンより0.2秒速い」を前提とするならば、0.2秒のペース差でストレートラインで勝るレッドブルに乗るフェルスタッペンを抜けると考えるのは、あまりにも非現実的だ。

 よってソフトに換えていたら優勝の可能性はほぼゼロになっていた。よってレーシングスピードで5周しか走っていないミディアムタイヤならば、デグラデーション0.06[s/lap]とした場合に0.3秒しか劣化しておらず、それで中古のソフトを履くフェルスタッペンを抑え切ろうというのは決して悪いトライではない。

 イギリスGPではフェラーリが終盤のSC時にルクレールをステイアウトさせたが、あの時はルクレールが新品ソフトに換えた場合、ハードでステイアウトしたハミルトンを抜くのは現実的だった上に、ソフトに換えたライバルたちに抜かれて大量失点するリスクがあった。にも関わらずステイアウトしたことが問題だったわけだが、今回のハミルトンのステイアウトには「それ以外の方法では優勝の可能性がない」というメリットがあったため、メルセデスの判断は正しかったと言えそうだ。

 ちなみに、57周目に全車がピットロードを通過した際にハミルトンのタイヤを交換するという策もありそうに見えたが、フェルスタッペンが3.4秒後ろにつけており、発進と加速を含めると前で戻るのは不可能だったと考えられる。

 この後Part2では、13番手から6位まで追い上げたアロンソのレースを詳細に分析する予定だ。

おまけ

 1.項の2つの計算結果「20~26周目ではミディアム同士でハミルトンが0.5秒速い」「31~47周目ではミディアムのフェルスタッペンがハードのハミルトンより0.1秒速い」についてもう少し掘り下げよう。本文中では大まかにハードとミディアムが同等として計算したが、その妥当性については疑いの目を持つのも有意義と思われる。

 そこで違う角度からも見てみよう。注目するのはペレスだ。

 図2にフェルスタッペンとペレスのレースペースを示す。

図2 フェルスタッペンとペレスのレースペース

 ペレスは第2スティントでフェルスタッペンの0.3秒落ち、タイヤの差を換算するとペレスが0.1秒ほど上回っている。また第3スティント(51~55周目)はやや短すぎる嫌いもあるが、フェルスタッペンが0.5秒ほど速く、タイヤの差を換算すると2人は同等と言える。トータルで今回のフェルスタッペンとペレスのレースペースには大差は無かったということになる。

 次にハミルトンとペレスを比較しよう。

図3 ハミルトンとペレスのレースペース

 ペレスがハードタイヤに履き替えてから(42~46周目)のクリアラップでは、大まかに見てペレスが0.2秒ほど上回っていそうだ。

 さて、フェルスタッペンとペレスの素の力が同等の場合、ペレスの8周後の48周目にフェルスタッペンがハードに履き替えれば、フューエルエフェクトの分で0.06×8≒0.5秒ほどペレスよりも速いタイムを出せるはずだ。となればハミルトンを0.7秒ほど上回ることになる。

 これは本文中で導出した0.9秒という数値と0.2秒のズレがある。ただし、ここでもペレスとハミルトンの履歴の差は11周ある。すなわちハミルトンはスティント中盤に入っている一方で、ペレスは序盤の段階だ。よってペレスにとってやや不利な数値を前提としており、それはフェルスタッペンにとっても同様だ。するとこの0.2秒というズレが頷けるものになってくる。

 となると、ミディアムとハードが同等という話は、若干の誤差の可能性は許容しつつも、かなり妥当な数値に見えてくる。

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Writer: Takumi