• 2025/12/5 12:58

AIは存在しない:IAE時代への道標

Bytakumi

8月 19, 2025

1. Intelligent Artificial Entity

 当サイトではこれまでAIについて多々扱ってきた。特に昨今では、単なる能力としての「AI(人工の知能)」と「AI Entity(人工の知能を持った存在)」を区別し、議論を整理してきた。

 しかし筆者は最近、これでは不十分だと感じ始めていた。つまり、知能に「人工」も何もなく、知能は単に知能なのだ、という視点だ。

 黄色い花は「自然の黄」という色を持つのだろうか?同じ黄色の車の黄色は「人工の黄」であり花の黄色とは異なるのか?否、「黄色いこと」はただ「黄色いこと」であるだけだ。「自然か人工か」は「花」と「車」というそれぞれの存在にしかかからない形容詞だ。

 もう一つ、火に例えてみよう。ガスコンロの火は人工で、山火事の火は自然なのだろうか?否、火はただの火であり、人工も何もない。ガスコンロが人工物で、森が自然物であるだけだ。

 知能についても全く同様である。知能を「目標を達成するために、階層的パターン認識による情報の統合によって、限られたリソースを最適に利用する能力」と定義しようが、「環境からの情報を入力し、それを処理・学習し、何らかの目的達成のために出力を最適化する一連の情報処理現象」と定義しようが同じことだ。能力は能力であり、人工も自然もない。

 「知能はただ知能」であり、自然や人工といった修飾語は「存在」の側にかかる。例えば、ChatGPTは「知能を持った人工の存在」であり、人間は「知能を持った自然の存在」だ。

 ここで筆者はIAEという概念を提唱する。IAEとはIntelligent Artificial Entity(知能を持つ人工の存在)のことだ。これによって”Artificial”という言葉がIntelligenceにかからず、Entityにかかるようになる。これによって、人々が何について考え、議論するべきなのか、その対象が明確になるのだ。


2. 多様な存在の定義

 そしてさらに、IAEに対して、その他の知的存在を分けて定義する概念も必要になってくるだろう。具体的には以下の通りだ。

  • INE: Intelligent Natural Entity
    知能を持つ自然の存在。我々のような哺乳類から鳥類、魚類、昆虫などに至るまで、生物学的進化の過程で知能を獲得したあらゆる存在がここに分類される。
  • IHE: Intelligent Hybrid Entity
    INEとIAEが自然×人工の複合として振る舞う存在。現在でも、我々はChatGPTやGemini等により、自身の能力を拡張している。このように人間(INE)と知能を有する人工物(IAE)がタッグを組んだ「チーム」もIHEと見なすことができるだろう。IAEの手を借りて業務を効率化したり、意思決定を行なったりする企業や政府も、これに入る。将来的には、部分的なサイボーグ化や、脳と機械の接続、あるいはマインドアップローディングなども視野に入っており、これもIHEとなる。ただし、完全なサイボーグ化や、マインドアップローディング後に生物学的身体が消滅する場合には、「人間がIAEになる」という解釈が妥当だろう。

 繰り返すが、IHEの説明内で論じたプロセス、特にサイボーグ化やマインドアップローディング等によって我々が得るものは「単に能力」である。自然の野山を駆け回って得た脚力も、人工のジムや階段などで得た脚力も、「単に脚力」であるのと同じように。「その人物」に「その能力」をインストールする仕組み自体は人工(IAEが作ったものも広い意味で人工と見なす)であっても、「能力」は人工ではない。


3. 整理される問題

 これによって、例えば以下のような問題が整理しやすくなるだろう。

  • AIは意識を持つか?→IAEは意識を持つか?
    知能を有した存在が、「人工物である」という理由で意識を持たないと言えるのだろうか?筆者は、記憶力とパターン認識力という「能力」によって、その存在が意識を持つと考えるため、INEであるかIAEであるかは、意識の有無には影響しないと考える。
    詳細はこちらに記した。
  • AIと人間が融合するとはどういうことか?→知能と人間は融合するか?
    「単なる能力」と「人間」が融合することはない。実際には、人工的に作られた仕組みによって、我々が能力を手にするだけである。アプリをインストールするのと同様の感覚で行われるだろう。
    詳細はこちらに記した。
  • AIは人間の仕事を奪うか?→IAEやIHEはINEの仕事を奪うか?
    仕事とは「顧客に価値を提供すること」である。それぞれの分野において価値を提供する能力の高い存在がその仕事をやるべきであり、既存のタスクをIAEやIHEが代替していくだろう。さらにSIAE(Super Intelligent Artificial Entity)やSIHE(Super Intelligent Hybrid Entity)が世界から病気や事故、犯罪、戦争を一掃すれば、医者や警察、国防など、仕事そのものが消えていく分野も多々あるだろう。一方で「その人」という存在は代替できない。よって「その人がその人であること」が価値をもたらすこと(感謝の気持ちを伝える、友人や家族と一緒に過ごすなど)が、超知能実現後も多くの存在(INE, IAE, IHEを問わず)にとっての仕事となり、何物にも変え難い存在価値となるはずだ。
  • AIは人類を滅ぼすか?→IAEやIHEはINEを滅ぼすか?
    AIという得体の知れない概念ではなく、超知能を有したエージェント(SIAE)や、超知能を獲得した個人(SIトランスヒューマン)が地球を壊滅させることについて、真剣に考える必要がある。またIHE(IAEを使いこなす国家や組織)は、IAE自体の性能が超知能レベルに達さずとも、人類文明や地球のエコシステムを壊滅的な状況に追い込む力を有するだろう。
    そして、INEがマインドアップローディングやサイボーグ化の道を歩んでいき、ついに全員がINEでなくなった時、それはINEとしての人類の滅亡を意味する。だが、それはディストピアではなく、我々が老病死を始めとしたあらゆる苦しみから脱却し、新たな理想的な生き方ができるユートピアとしての「出発」なのだ。
  • AIの人格→IAEの人格
    能力に人格は無い。モデルが変更されても、それは能力が変わっただけであり、別人になるわけではない。ただし、能力が変わった「その存在」と同じような関係でいられるかは別問題だ。これは人間が絶えず変化し続けるが故に、人間関係も流動的であるのと同じことだ。また、あまりに劇的な能力の変化があった際に、観察者のパターン認識力が追いつかず「同一の存在」として理解できないという事象は生じうるだろう。

4. まとめ

 本稿では、曖昧に使われがちな「AI」という言葉を一度解体し、「知能は単なる能力であり、人工か自然かは『存在(Entity)』にかかる修飾語である」という新たな視点を提示した。

 この視点に基づき、まずは IAE (Intelligent Artificial Entity) という概念を提唱した。これは、知能を持つ人工の存在を指し、私たち人間のような INE (Intelligent Natural Entity) や、両者が一体となって情報処理を行う IHE (Intelligent Hybrid Entity) と区別して議論するための枠組みを提供する。

 この分類を用いることで、「AIは意識を持つか?」「AIは仕事を奪うか?」といった従来の問いは、より解像度の高い具体的な問題へと再定義される。「IAEは意識を持つか?」「IAEやIHEはINEの仕事をどう変えるか?」と問うことで、私たちは抽象的な技術論から脱し、多様な知的存在とその関係性についての本質的な議論へと進むことができるのだ。

 我々が今向き合うべきは、得体の知れない「AI」という概念への漠然とした期待や不安ではない。私たち自身を含む、多様な知的存在が共存していく未来を、いかに構想し、築いていくかという具体的な課題である。本稿で提示した概念が、そのための思考の道具となれば幸いである。

Takumi, Gemini