F1サーカスはシンガポールGPを終え、次戦USGPまで4週間のブレイクを迎えることとなった。本投稿では、ここまでの18戦について、データに基づいた振り返りを行い、残り6戦で何が起きるか可能な範囲で予測してみたい。
1. トップ3チームの現状
現在ドライバーズチャンピオンシップをリードしているのはフェルスタッペンだ。しかしレッドブルはマシンに問題を抱えており、マクラーレン、フェラーリに次ぐ3番目、場合によってはメルセデスにその座すら奪われかねない状況となっている。その中でノリスがフェルスタッペンまで52ポイント差まで迫り、ルクレールも86ポイント差で追っている。
ここでトップ3チームの予選ペースとレースペースの変遷を見てみよう。以下は予選および決勝において競争力があった方のドライバーを基準としてレースペース比較を行なったものだ。
※予選はドライコンディションの同一セッション内での比較に限定。レースペース分析はタイヤ、燃料、レース上の文脈(クリアエア・ダーティエア・プッシュする必要性の有無)を考慮した。定量的に比較可能な場合のみを扱っているため、速かった方のドライバーのペースを数値化できなかったケース(アゼルバイジャンGPのペレスなど)もある点にご注意いただきたい。
マクラーレンは、序盤こそ出遅れたが、マイアミGP付近でレッドブルに追いつくと、ハンガリー、ベルギーGP付近で明確にレッドブルを上回り始め、その優勢を続けている。特にレースペースは安定した速さがあり、これだと例え予選やスタートで前に出られることがあっても、オランダGPのようにレースのどこかで逆転する展開に持ち込みやすいだろう。
一方で、フェラーリは、レースペースこそ直近の数レースで強さを見せているが、マクラーレンには及んでおらず、さらに予選は確実にネックだ。特にラスト6戦で、予選の重要性が高まるスプリントレースが3回あるのは、このような特性を持つフェラーリにとっては美味しい話ではない。よって現実的には、フェルスタッペンとノリスの2人によるタイトル争いと言えそうだ。
また、各チームのドライバー間の力関係についても把握しておこう。以下にトップ3チーム内のチームメイト同士のペース比較を示す。各グランプリでのペース面での勝敗とタイム差、および勝敗と引き分けの数、平均タイム差を記した。
表1 レッドブル勢の比較(予選)
表2 レッドブル勢の比較(レースペース)
表3 マクラーレン勢の比較(予選)
表4 マクラーレン勢の比較(レースペース)
表5 フェラーリ勢の比較(予選)
表6 フェラーリ勢の比較(レースペース)
フェルスタッペンは予選、レース共にペレスを全く相手にしていない。一方で、ノリスもピアストリには完勝状態だ。
ここで問題なのは、ここ最近のマクラーレンとレッドブルの予選での差の中央値が0.2秒弱で、これはノリスとピアストリの差とほぼ同じということだ。即ち、このままの力関係が継続すると、予選ではフェルスタッペンとピアストリが接近戦を繰り広げることになる。また、レースペースでもマクラーレンのリードが0.3秒、ノリスとピアストリの差が0.2秒となっており、非常に接近している。フェルスタッペンとしては、ノリスに勝てない時でも、ピアストリとの接戦に持ち込めた時に勝ち続けることが重要になってくるかもしれない。
また、フェラーリ勢も、サインツは予選ではルクレールに肉薄するが、レースペースではかなり離される傾向にある。そもそもフェラーリが予選を苦手としていることを考えると、フェルスタッペンとしては予選で前に出ておき、ルクレールに抜かれることはあってもサインツには勝てるという状況が多く発生するのではないだろうか。
ここまでを踏まえると、フェルスタッペンは3番手チームのエースと言えども、単純計算で5位が期待値というわけでもないことが分かるだろう。ピアストリやルクレールに勝てれば、ノリスに次ぐ2位も可能であり、両者に負けても4位には入りやすいかもしれない状況だ。
2. チャンピオンシップの展望
さて、以上を踏まえてチャンピオンシップの行方を考えてみよう。
1.項で見た通り、フェルスタッペンが獲得できるポイントの期待値の平均は、2~4位で15ポイント程度と考えるのが妥当と考えられる。すると、ノリスとしては、残り6戦で4勝と2位2回、そしてスプリントレース全勝で、追いつける計算だ。
こう考えると、ノリスには取りこぼしが許されず、まだフェルスタッペンに有利な状況にも見えるかもしれないが、現在のマクラーレンの競争力を鑑みれば、上記のような快進撃を見せる可能性も決して低くはないだろう。
ノリスにとっての不安要素の一つは、スタートだろう。シンガポールGPではポールから見事なスタートを見せたが、その前の数戦ではスタートでポジションを落とし、ハンガリーGPやイタリアGPでは勝機を逃す大きな要因となってしまった。
また、リタイアは何としても避けなければならない。前述の条件を前提とするなら、フェルスタッペンにとってのリタイアは15ポイントの損失でしかないが、ノリスにとっては25ポイントの損失になる。シンガポールでは何度か壁にヒットするシーンがあったが、残り6戦、特に市街地のラスベガスGPでは慎重なアプローチが必要かもしれない。
一方、フェルスタッペンとしては、メルセデス勢に負けてしまうと厳しい展開になる。メルセデスもサーキット次第ではレッドブルを上回る力を見せているため、ここもチャンピオンシップの行方を大きく左右するファクターになり得るだろう。
3. まとめ
いかがだっただろうか?筆者は、以上を総じて五分五分、またはややフェルスタッペンの有利と見るが、この辺りは個人の見方次第だろう。
総じて言えば、現状の勢力図が続けば、ノリスが6戦のうちの多くを手中に収める可能性は高いものの、フェルスタッペンの状況も決して絶望的とは言えず、ピアストリやルクレールとのバトルに打ち勝って行くことでダメージを最小限に食い止め、4度目のタイトルを獲得する可能性は十分にある。
とはいえ、これはここ最近の傾向を前提としたものであり、トップ4チーム、あるいはアストンマーティンあたりのアップデート次第でゲームが大きく変わる可能性もある。ここ数年で最も接近したエキサイティングなチャンピオン争いに目が離せない6レースになりそうだ。
Takumi
次回予告
次回はここまでの18戦における、各チーム内のチームメイト比較を行う予定。