• 2024/11/21 18:03

2023年ラスベガスGPレビュー 〜SCが生んだ波乱とルクレールの見事な逆転劇〜

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 近年のアメリカでのF1人気の向上を受けて実現したラスベガスGP。華やかなラスベガス・ストリップを舞台に行われたイベントは、ショーとしての要素が非常に印象的である一方で、F1が本来持つスポーツとしての側面との両立という観点では少々の疑問を呈する声も上がっていた。

 しかし、その歴史的な舞台で繰り広げられたのは、まさに世界のトップに君臨するドライバーたちの非常に高度なバトルだった。結果としてF1のエンターテインメントとしての一面と共に、ピュアなスポーツとしての一面も強く印象付けることに成功したGPだったと言えるのではないだろうか?

 今回はそんなラスベガスGPをデータを交えて振り返ってみよう。

サーキットデータ

F1公式 レースハイライト

Pirelli公式 各ドライバーのタイヤ戦略

初心者のためのF1用語集

1. 不運に抗い殊勲の2位

 今回のレースでは、26周目に展開されたセーフティカー(SC)がなければ、ルクレールの優勝が濃厚だったと言えるだろう。SCの出動は彼にとって不運だったが、それでも非常に印象深いレースを展開したルクレールの走りに注目したい。

 図1にレッドブル勢とルクレールのレースペースを示す。

図1 フェルスタッペン、ルクレール、ペレスのレースペース

 まずはオープニングラップ、ターン1ではルクレールが前。しかしブレーキを遅らせたフェルスタッペンがイン側から並びかけ、ルクレールを押し出した。これにはルクレールも無線で抗議。スチュワードはフェルスタッペンに5秒ペナルティを課した。

 ちなみにこの件に関しては、F1公式からレース後のプレスカンファレンスで談笑する2人の動画が出ている。カート時代に2人が接触した時の思い出についても語っており、実に微笑ましい。

F1公式X動画

 これによりフェルスタッペンは、5秒以上の差をつけてピットストップを迎える必要に迫られたが、ルクレールとの差を広げることができず、逆に追いつかれる形となった。スティント終盤にはフェルスタッペンのタイヤが崖を迎えていたことは図1からも明らかだ。

 ルクレールは、フェルスタッペンのピットインを待たずに16周目にオーバーテイク。その後もペースを維持し、フェルスタッペンより5周長くタイヤを持たせた。FP2から読み取れたルクレールのロングランペースの優位は、決勝レースでもそのまま表れた。

参考:FP2ロングラン分析

 1回目のピットストップを終えてトップでコースに復帰したルクレールは、フェルスタッペンやラッセルより新しいタイヤで第2スティントを戦うことができた。これにより勝利はほぼ手中に収めたかのように見えた。

 しかし、レースの流れは25周目に一変。ラッセルとフェルスタッペンがターン12で接触し、パーツが散乱してセーフティカーが出動した。ここでペレスにとって大きなチャンスが訪れ、2番手でコースに復帰する。フェルスタッペンもピットインし、新品のハードタイヤに交換。

 対してルクレール陣営はステイアウトを選択。5周古いタイヤで守り切ることを選んだ。もしここで入ってしまうと、ペレスの後方2番手から逆転を狙う展開となってしまう。オーバーテイクが容易なサーキットとは言え、レッドブル相手に同じ履歴のタイヤでオーバーテイクを試みるよりも、トラックポジションを重視しようという判断は常識的かつ真っ当なものだろう。

 しかし、セーフティカー後の再開時にペレスが攻勢をかけ、32周目にルクレールをストレートで交わす。このコンディションでは、ルクレールの5周古いタイヤは単なるデグラデーション以上に、SC中の熱の失われやすさと再開時の熱の入りにくさによるグレイニングで不利になった。

 しかしラスベガス・ストリップ・サーキットは特殊なトラックで、トゥとDRSを使ってライバルについていくことができる。これによりルクレールに反撃のチャンスが出てきた。35周目にはペレスを抜き返すと、37周目にはフェルスタッペンに交わされるものの、数周にわたって執拗に追い回した。ここでDRSを使い続けたことでペレスに対する防戦が少し楽になったのは間違いない。

 しかし43周目のターン12でルクレールが僅かにミス。オーバーシュートしてしまう。これによりペレスが2番手へ。しかしそこからルクレールは、ペレスのDRS圏外であるにも関わらず一気にペースを上げ、46周目には自力でDRS圏内へと戻ってきた。トゥの影響もあったとは思われるが、おそらく直前の3周で守りに徹していた走りを、攻めのモードへと切り替えたのだろう。

 そしてクライマックスは最終ラップに待っていた。ターン12からバックストレートでルクレールがペレスのスリップストリームに入り、ターン14のブレーキングでインに飛び込む。このレースでのルクレールの特徴的なレイトブレーキングが再び炸裂した。ルクレールはそのままコントロールラインまでの全開区間を駆け抜け、優勝したフェルスタッペンに次ぐ2番手でチェッカーを受けた。

2. 最終ラップの逆転劇

2.1. ルクレールのスーパームーブか?ペレスの判断ミスか

 さて、ここからはさらに的を絞って、最終ラップのルクレールとペレスのバトルに焦点を当ててみよう。

 このオーバーテイクは、ルクレールがバトルにおける勝負師としての強烈なキャラクターと、それを成功に結びつけるスキルを併せ持つドライバーであることを、改めて実証した瞬間だった。

 その一方で、ペレスの判断には疑問符をつけざるを得ない。

 35周目にもルクレールがペレスを同じ形でオーバーテイクしているが、この時バックストレートに立ち上がってきた際の両者の差は、0.794秒だった。そして、最終ラップでの同じ場所での差は、それより小さい0.758秒差だったのだ。この状況でルクレールが仕掛けてこない可能性は限りなくゼロに等しかった。これは判断ミスと言えるだろう。

 しかし、筆者はペレスが前戦での苦い経験から「学びすぎた」可能性があると考えている。

 前戦インテルラゴスでは、最終ラップのターン1でブロックラインを取ってしまったが故に、立ち上がりが遅れてターン4でアロンソに仕留められてしまった。トップアスリートならば、あれほどのバトルの末にファイナルラップでポディウムを失った経験をすれば、この2週間は「あの時どうすべきだったか?」を考えるのは自然なことだろう。何度も反芻すらしていたかもしれない。

 そして今回のファイナルラップ。インテルラゴスと同じくハードブレーキングからの左右左コーナーを抜けてコントロールラインまでの長い全開区間。ブロックラインを取って立ち上がりが厳しくなれば、チェッカー目前で抜かれる可能性もある。その状況でこの2週間考え続けてきたことと、35周目に起きたこと、どちらが無意識下での判断に影響を及ぼすだろうか?そうした観点では、今回のペレスの動きは擁護可能なものだろう。

 ここで、後者の情報にアップデートできるドライバーが、フェルスタッペンやアロンソ、ハミルトンといった超一流の王者たちなのだろう。ペレスが次のステップへと向上するためには、こうした部分も課題となってくるのかもしれない。

2.2. 知性が光るルクレール

 さて、ルクレールに話を戻そう。

 ルクレールの賢さが光るのは、直前の49周目で全く仕掛ける素振りを見せなかったことだ。これにより、ペレスがファイナルラップでの警戒を緩める結果となった。

 仮にルクレールが49周目にインを伺う素振りを見せれば、ペレスはファイナルラップでもっと警戒し、ブロックラインを取っていたかもしれない。その場合でも、ルクレールの頭の中には、まさに前戦のアロンソのようにクロスラインを仕掛けて、コントロールラインまでに抜く構図は描いていたかもしれないが、今回のレースではターン14でインを奪った方が有利だった。

 したがって、49周目にペレスの警戒心を煽る不要な動きをしなかったこと、そして最終ラップのセクター1,2で確実にペレスを追走し、前周よりも0.1秒接近した状態でバックストレートに入れたこと、この2つがルクレールが2位を大きく手繰り寄せる要因となったと言えるだろう。

 今回、ルクレールは運、つまり「コントロール不可能で再現性のない要素」により勝利を逃したが、彼の能力を疑う者は関係者やファンの中にほとんどいないだろう。確かに予選Q3の失敗や43周目のミスなど、伸び代はまだある。しかし、これからのチャンピオン争いの経験を経て、このドライバーがどれほどの大スターになるのかを見るのは、非常に興味深い。これからの10年を楽しみにしつつ末筆としよう。

Writer: Takumi