2023年エミリア・ロマーニャGPがキャンセルされた。F1公式YouTubeは2005年に同イモラサーキットで開催されたサンマリノGPを配信し、週末の観戦予定が無くなってしまったF1ファンに向けた良きプレゼントとなった。当サイトでもこの2005年サンマリノGPを取り上げ、データを交えて振り返りを行っていこう。
※フューエルエフェクトは0.10[s/lap]とした。
まず図1にアロンソとシューマッハのギャップグラフ、図2に両者のレースペースを示す。
1. 圧巻のペースを生み出したシューマッハの”強さ”
図1に着目すると、レース前半はトゥルーリを先頭とするトレインの中で大きく離されていったシューマッハが、前が開けた途端に驚異的なペースで追い上げていることが改めて確認できる。
図2を見ても、第2スティントのシューマッハはアロンソより1.7秒ほど速かったことが分かる。そして、7周分燃料が重い状態だったことも加味すると、その差は2.4秒もの大差になる。
ただし、シューマッハが前からスタートしてクリアエアで走行し続けていた場合、ここまでのペースを発揮していたかというと筆者は懐疑的だ。アロンソのデグラデーションを0.10[s/lap]と読めば、シューマッハがトラフィックに引っかかっていた23周目までに、アロンソのタイヤには2.3秒相当の劣化が生じていたはずだ。
一方シューマッハは、トラフィックの中で本来の自身のペースより遅い状態で走ることでタイヤを労われていた可能性が高い。タイヤ無交換レギュレーションでは大きな利点だ。
第2スティントを見る限り、シューマッハのデグラデーションは単独走行でもそもそも小さく、0.03[s/lap]程度だ。これがレース前半のスローペースによって0.01[s/lap]になっていれば、23周での劣化は0.2秒分、0.02[s/lap]としても0.4秒分となる。即ち、先ほど2.3秒相当の劣化と計算したアロンソとのタイヤの差は、2.0秒前後あったと考えられ(ならば地力の差は0.4秒前後)、レース後半でのペース差はレーストータルでの実力差以上のものとなって表れていた可能性は高そうだ。
ちなみに映像で見ても、レース前半でのシューマッハは前方のラルフに対して殆ど攻める気配がない。一方で、アロンソに対してはパッケージの限界を引き出して仕掛けに行っている。この辺りからもシューマッハのメリハリの効いたレースぶりが伺える。
シューマッハは卓越したレースクラフトによって後半の圧倒的ペースを作り出したとも表現できるだろう。遅いマシンに引っかかった際は、「抜けるなら抜く」「抜けないならタイヤマネジメントに徹する」が重要だ。前のマシンを抜こうとタイヤを酷使してしまえば、その後せっかくクリアエアを得てもペースを発揮できない。しかし、今回のシューマッハのように忍耐強くタイヤをマネジメントすれば、クリアエア獲得後に本来のペースを超えるペースを発揮できる。
今回のシューマッハは、純粋な速さのみならず、メリハリの効いたレースクラフトでもその強さを示したと言えるだろう。
2. アロンソ圧巻のディフェンス
今回のアロンソにとって1つ目のポイントは、2回目のピットストップで前をキープできたことだろう。
図2に着目すると、アロンソはピットストップ前にかなりペースを上げている。さらにピットストップ後も20周分と重めの燃料を積んだにも関わらず、第2スティントの順行ペースと変わらないスピードで飛ばしている。タイヤ無交換レギュレーションで、ピットストップの度にタイムが落ちていくことを鑑みれば、かなりの猛プッシュ状態だったと推測でき、その中でのタイムの安定性にも脱帽だ。
ここで0.3~0.4秒ほど遅ければシューマッハに逆転を許していた可能性もあり、ここでのプッシュは勝利を手繰り寄せた一つの鍵だったと考えられる。
そして2つ目のポイントは、何といってもコース上でのデェフェンスだ。
シューマッハの前に出てからは、前述のプッシュ状態から一転、1秒近くペースを落としての走行となっている。これによって前方の周回遅れに追いついた際に隙が生まれるリスクを防いだのだ。
この時代は現在ほどブルーフラッグのルールが厳格ではなく、ラップタイムからもバックマーカーによる影響がより顕著に見られる時代だ。それは図2のシューマッハの38,39周目にも見られ、バトンがシューマッハに交わされたシーンもまた象徴的なものだ。だからこそアロンソの戦術は勝利に向けた最適解だった。
シューマッハも執拗にラインを変えて何度かチャンスを作ったが、アロンソのディフェンスは完璧で、逆転には至らなかった。
F1の全歴史上でもトップクラスの腕を持つ2人の王者が互いの力を出し切ったレースであり、18年の時が過ぎても色褪せない至高の激闘に感謝しつつ末筆としよう。
Writer: Takumi