• 2024/11/21 17:41

2019年ハンガリーGPレビュー 〜抜けぬなら…〜

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 今回は1ストップのフェルスタッペンを2ストップのハミルトンが逆転した2019年のハンガリーGPを振り返ってみよう。「抜けないハンガロリンク」で冴え渡った「抜くための一手」に着目する。

 まずは図1にハミルトンとフェルスタッペンのレースペースを示す。

図1 ハミルトンとフェルスタッペンのレースペース

1. 抜けないならオフセットを作る

 ポールからスタートしたフェルスタッペンは首位をキープ。一方のハミルトンは3番グリッドからスタートで2番手へと上がる。第1スティントではハミルトンがフェルスタッペンの2秒以内にとどまり、前が開ければハミルトンの方が速そうであることが伺えた。

 そして25周目にフェルスタッペンが入ると、案の定ハミルトンがペースアップしていることがグラフから読み取れる。ここで地力のペースは(同条件では)ハミルトンの方が速いということが明確になった。

 そして流石にオーバーカットこそできないものの、ここでハミルトンはフェルスタッペンに対して6周分のタイヤのオフセットを作り、第2スティントを優位に進めることとなった。

 しかし第2スティント、序盤こそハイペースでフェルスタッペンに追いついたハミルトンだったが、34周目にフェルスタッペンに追いつくと、そこからはタイヤのアドバンテージを持ってしても抜けない状態となった。

※ちなみにスティント全体を見渡すと、フェルスタッペンのスティント序盤のペースは抑え気味だ。1ストップのためタイヤを労わっていたのだろう。したがってスティント序盤でのハミルトンの追いついてくるスピードを、額面通り2台のポテンシャルの差とは思わない方が良いだろう。

2. それでも抜けないなら…

 さて、抜けないメルセデス陣営はここで次の一手を打つ。48周目にハミルトンをピットへ。ミディアムタイヤへと交換したのだ。

 第2スティントでのペースを見れば、フェルスタッペンのデグラデーションは0.03[s/lap]程度であり、23周新しいハミルトンのタイヤには0.7秒のアドバンテージがあることになる。ここにハミルトンの地力のスピードとミディアムタイヤのグリップのアドバンテージを上乗せすれば、より大きなペース差となってオーバーテイクを狙えるだろうという戦略だ。

 また、この時3番手のルクレールまで40秒の差があり、ハミルトンにとってはピットに入ることで失うポジションが無かったのが幸いした。フェラーリ2台がピットストップウィンドウ内(20秒程度)にいた場合はこの戦略は採りづらかっただろう。

 ここからのハミルトンはスティント序盤に抑え気味に入って、57周目からスパートをかけている。ここでのフェルスタッペンとのペース差は1秒以上だ。

 対するフェルスタッペンも途中までは19秒台で応戦している。しかし60周目を過ぎるとタイヤが大きくタレてしまい万事急須。67周目のターン1でハミルトンが首位に立ち、大逆転勝利を飾った。

 ちなみに、レッドブルが先手を打って47周目に2ストップに切り替えていた場合は、ハミルトンに追いつけていなかっただろう。これは地力のペースで劣っており、且つハミルトンが31周目に入っているため、タイヤの差も16周分とそこまで大きくならないからだ。レッドブルとしては他に打つ手は無かっただろう。

 ハンガロリンクは抜けないサーキットとして知られているが、だからこそ「その特性を利用して前に留まりたい側」と「戦略を駆使して逆転を試みる側」の駆け引きが見られることがある。今回のレースや1998年のシューマッハの3ストップなどがその代表的な例で、意外と面白いレースの多いサーキットだ。

Writer: Takumi