Part3では中団最上位のアルピーヌとマクラーレンに焦点を当てた。今回はアルファロメオ、アストンマーティン、ハース、アルファタウリ、ウィリアムズの5チームに着目していこう。
シーズンレビュー(1)
シーズンレビュー(2)
シーズンレビュー(3)
1. チームメイト比較
1.1. ボッタスvsジョウ
まずはそれぞれのチームメイト比較を見ていこう。最初はアルファロメオ勢だ。
注1:予選はドライコンディションのみを扱い、両者が揃って走った最終セッションでクリアラップを走れたもののみを比較した。
注2:レースペースは燃料、タイヤを加味した地力のペースを算出。クリア・ダーティエア、全力を出す必要性などのレース文脈も可能な限り考慮した。
表1-1 ボッタスとジョウの予選比較
表1-2 ボッタスとジョウのレースペース比較
予選、レースペース共にボッタスが完勝している。この辺りは5年にわたってハミルトンのチームメイトを務めた実力者として当然の出来と言えるだろう。予選でもアゼルバイジャンの一発が大きく響いており、これを除けば平均も0.268秒と大きな差になる。
当サイトの歴代ドライバーの分析を前提とすれば、現時点ではジョウはトップクラスのルクレールやフェルスタッペンらから0.6~0.7秒落ちということになり、来季以降の飛躍が今後のキャリアの鍵となるだろう。
1.2. ベッテルvsストロール
続いてはアストンマーティン勢を見ていこう。なお、開幕2戦のヒュルケンベルグvsストロールは割愛した。
表2-1 ベッテルとストロールの予選比較
表2-2 ベッテルとストロールのレースペース比較
勝敗差を見るとややベッテルが優勢と見ることもできるが、予選・決勝ともにほぼ互角と捉えて良いだろう。
ストロールの実力はやや未知数なところがあるが、フォースインディア時代のペレスの0.2秒落ちと言う数字を前述の歴代分析に当てはめれば、トップクラスから0.6~0.7秒落ち程度と考えられ、本来のベッテルならば0.4~0.5秒差をつけているのが自然だ。ちなみに昨年はベッテルが0.1秒ほど上回った。
これをストロールが成長したと見るべきか、ベッテルが力を落としたと見るべきかは意見が割れるところだろう。ただし、ベッテルが対ルクレールで2019年から2020年にかけて0.1秒ほど競争力を落としているのは確かで、2019年以降ベッテルが0.1秒ずつ落としている可能性もある。
ただし、この点は現時点で憶測するよりも、来季以降のアロンソvsストロールの関係で明らかになるだろう。アロンソがストロールに予選で0.5秒、レースペースで0.6秒の差をつければ、ベッテルがキャリア終盤で力を落としていたことになり、ストロールがアロンソの0.1~0.2秒落ちで走れれば、ストロールが成長した証となる。
1.1. シューマッハvsマグヌッセン
続いてはハース勢だ。
表3-1 シューマッハとマグヌッセンの予選比較
表3-2 シューマッハとマグヌッセンのレースペース比較
昨年はマゼピンに圧勝したシューマッハ。しかし確固たる実力を持ったマグヌッセンをチームメイトに迎えると、開幕から僚友に対する遅れが目立ってしまった。
とはいえ、マグヌッセンは前述の歴代分析でも上位に位置するドライバーだ。ライコネンと互角だったグロージャンと互角だったのだからそれも当然で、一発のスピードは全盛期のベッテルやロズベルグに匹敵する。
そのマグヌッセンから予選・決勝ともに0.1秒落ち程度で走れているシューマッハは悪いドライバーではない。歴代分析に当てはめても下手をすればペレスより上で、後任のヒュルケンベルグとも大差ない。
ただし、予算制限のある中で度々大きなクラッシュを演じてしまうのは、チームにとっても悩みの種だったのかもしれない。来季以降の動向は不透明だが、F2チャンピオンの前にその才能を開花させる道が待っていることを祈ろう。
1.1. ガスリーvs角田
続いてアルファタウリ勢について見ていこう。
表4-1 ガスリーと角田の予選比較
表4-2 ガスリーと角田のレースペース比較
予選に関しては、開幕戦で大差がついた以外は互角と言って良いだろう。またレースペースはガスリーが優勢ではあったが、差はハンガリーGP以外では小さい。
ガスリーは歴代分析で、予選ではアロンソやハミルトンと互角という結論が出ており、レースで特に力を落とすというイメージもない。となると、レースペースでガスリーから0.1秒落ちで走れる角田もマグヌッセンと同じくベッテルやロズベルグ相当と考えて良いだろう。純粋なペース的には既にペレスよりも上の可能性が高い。
角田の未来を考える上で、レッドブルのエースとしてチャンピオンを狙うことを考えるのであれば、フェルスタッペンを越えるためにあと0.2~0.3秒は欲しい所だが、昨年から今年にかけての伸びが大きい(0.3~0.4秒)だけに、来季以降の伸び代も大いに期待できるだろう。
1.1. アルボンvsラティフィ
最後にウィリアムズ勢だ。イタリアGPでのデ・フリースvsラティフィは割愛する。
表5-1 アルボンとラティフィの予選比較
表5-2 アルボンとラティフィのレースペース比較
チームメイト間で最も大きな差がついたのがこのチームだ。昨年はラッセルに対して予選で0.3秒、レースペースで0.2秒差をつけられていたラティフィだが、今季はアルボンにより大きな差で敗れてしまった。アルボンがラッセルを大差で破る歴代ダントツの最速ドライバーとも考えにくく、ラティフィとしては、リカルド同様に力を発揮しきれないシーズンだったと考えた方が良いだろう。
2. チーム間の力関係
続いて中団グループ全体の力関係をアルピーヌとの比較という形で振り返ってみよう。表6-1に予選、表6−2にレースペースを示す。
注3:予選はドライコンディションのみを扱い、両チームの上位のドライバー同士を両者が揃って走った最終セッションにて比較した。
注4:レースペースは燃料、タイヤを加味した地力のペースを算出。クリア・ダーティエア、全力を出す必要性などのレース文脈も可能な限り考慮した。
表6-1 中団チームの予選でのアルピーヌとの差の平均
表6-2 中団チームのレースペースでのアルピーヌとの差の平均
Part3で述べた通り、マクラーレンは予選でアルピーヌを上回ったが、レースペースではやや劣勢となった。
またアルファロメオは、苦戦した中盤〜後半戦でレースペースが算出不能のレースが多かったことがプラスに影響しての数字ではあるが、それでもかなり競争力があったことが見てとれる。ドライバーの力として、アロンソはレースペースでボッタスより0.3~0.4秒は速いと思われ、それを踏まえると今季レースペース最速のマシンはアルファロメオだった可能性すらあるだろう。
また、アストンマーティンとハースは似たような競争力だが、前述の「ベッテルが力を落としたかストロールが成長したか問題」が不明なため、マシン自体の力をどう見るべきかは微妙な所だ。
そしてアルファタウリは予選から決勝にかけて力を落とす傾向があると言えそうだ。オーバーテイクの難易度が下がった今季のマシンでは、昨年までとは予選と決勝の比重の置き方を変える必要がある。もう少し予選を落としてでも決勝ペースを重視していれば、戦略面でも選択肢が増え、コンストラクターズランキング6位も可能だったのではないだろうか?
また、ウィリアムズはややレースペースに比重を置いた1年だったと言えるだろう。ただし中団グループは上位勢と比べてDRSトレインが発生しやすいため、自力でのポイント獲得を増やすには予選でのあと一歩が必要といった所かもしれない。
そしてアルピーヌに話を戻せば、アルファロメオ、アストンマーティン、ハース、ウィリアムズとの力関係は予選と決勝でバランス変化は無いと言って良いだろう。このことからアルピーヌ(主にアロンソ)が特別レースペース重視型だったわけではなく、バランスの取り方としては多数派で、マクラーレンとアルファタウリ、ドライバーで言えばオコンが相対的に予選を重視するアプローチを採ったと考えることができるだろう。
また、レッドブルとの比較では、アルピーヌが予選で1.1秒落ち、レースペースで1.2秒落ちとなっており、依然としてトップグループと中団の間には大きな差があることも確認できた。
3. 来季に向けた展望
末筆ながら、来季の展望について軽く触れておこう。
来季も何チームかが優れたマシンを作ってくるだろう。しかし絶対的なマシン性能が全てではないことも、一連のレビューで確認した。
Part1で振り返った通り、各チームには「コンマ数秒を削り取るエース」がおり、これらのドライバーが力を発揮できるか否かがチームの競争力を左右する重要なファクターとなる。レッドブルにとってはフェルスタッペンであり、フェラーリはルクレール、メルセデスはハミルトン、マクラーレンはノリス、そして来季のアストンマーティンにとってはアロンソといった辺りだ。
また予選とレースペース、どちらにどれだけ比重を置くのか?という問題は、レース展開や戦略とも絡んで結果を大きく左右しうることも重要だ。
マシン性能、セットアップ、ドライバー、戦略、天候…、種々の要因が絡み合い、現代のテクノロジーをもってしても無数の最適解が存在して、それらがトータルパッケージとしてトラック上でぶつかり合う。それがF1の醍醐味だろう。
2023年開幕戦は中東バーレーンGP。2月23日のフリー走行1をもって開幕する。
Writer: Takumi